最終回③:氷の皇帝は、夜になると独占欲を隠さない
盛大な結婚式と、夜遅くまで続いた披露宴がようやく幕を閉じた。
賑やかな喧騒から離れた、皇帝の私室。
パチパチと暖炉の火が爆ぜる静かな部屋で、私はドレスから着替え、薄手の柔らかい寝衣に身を包んでベッドの端に腰掛けていた。
「──お疲れ様、エレイン。疲れただろう」
背後からかけられた声と同時に、ふわりと大きな影が私を包み込む。
シルクの部屋着に着替えたガイウス様が、私の後ろからそっと抱きつくり、その逞しい腕を私の腰に回した。
「ガイウス様……っ」
「……もう『様』はいらないと、昼間も言ったはずだが?」
耳元で囁かれた低く甘い声に、背中がゾクゾクと震える。
昼間の凛々しい皇帝陛下の姿はどこへやら、今の彼は、まるでお気に入りの玩具を片時も離したくない子供のように、私に全身で甘えていた。
「あ……ガイウス、……その、本当に、私があなたの妻に、帝国の皇妃になったのですね」
「まだ実感が湧かないか? なら、何度でも分からせてあげよう」
ガイウスは私の肩口に顔を埋め、 絹糸のような私の髪に、そして白く細い首筋に、優しく、だけど深い独占欲を込めて何度も唇を押し当てていく。
「ウォーカー公爵家での君の扱いや、あの無能な王太子の寝言を聞いた時、私は世界を滅ぼしてやろうかと本気で思った」
「まあ……」
「だが、今こうして君が私の腕の中にいる。……エレイン、君をあの国から救い出したのは、帝国のためでも、聖女の力が欲しかったからでもない。私が、私個人が、君を自分のものにしたかったからだ」
出会ったあの雨の夜から、ずっと秘められていた彼の本音。
冷徹皇帝と恐れられる彼が、私一人のために、これほどまでに熱く、狂おしいほどの愛を注いでくれている。
「私も……あなたに拾われて、愛されて、本当に幸せです。ガイウス」
私が彼の腕の中で振り返り、その緋色の瞳をじっと見つめて微笑むと、ガイウスの呼吸が不意に止まった。
次の瞬間、彼の瞳に大人の男としての、危険で、だけど愛おしい「熱」が灯る。
「……エレイン、それは私を誘っていると受け取っていいのか?」
「えっ、あ、そういうわけでは──んっ」
言いかけるよりも早く、私の唇は、彼の熱い唇によって塞がれた。
昼間の大聖堂での誓いのキスとは違う、深く、 奪い去るような、情熱的な口づけ。
頭が真っ白になり、息が詰まりそうになる私を、ガイウスは優しくベッドへと押し倒す。
横たわる私の髪を愛おしそうに梳きながら、彼は私の額、頬、そしてもう一度唇に、 宝物を慈しむようにキスを重ねた。
「一生、君を離さない。明日からも、その次の人生も、君が呆れるくらいに愛し、甘やかし続けよう。……愛している、私の可愛い皇妃」
「私も、愛しています……ガイウス」
暖炉の柔らかな光が、お互いを求め合う二人の影を大きく壁に映し出す。
かつて凍える雨の中にすべてを捨てられた少女は、今、世界で一番熱い愛の巣の中で、 永遠の幸せを手に入れたのだった。




