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一 魔天使の墜ち方。

世界の汚れ仕事を担うのは誰か。

この世界は実に退屈だ。暇つぶしにもならないほどに。だからこそ、俺はこの世界が何かのミニゲームではないのかと思っている。

人生とはゲームであり、今ある命はチュートリアルやミニゲームの為に用意されたもの。そう考えてしまうほどにこの世界に価値はなく、意味はない。


【魔天使】魔術を使用し、人や怪物を殺す言わば殺し屋の様な仕事。人を天国へと連れていくことから魔天使と呼ばれているが、汚れ仕事であり、周りからは【堕天】とも呼ばれる。


俺に名前はない。名前は必要のない情報であり、殺しをする上で武器にもならない。

【魔天使】は職業としての階級が極めて低い。上からの事には逆らえず、切り離される時はすぐに処分される。


この世界に降り立って何十年、何百年生きたかも忘れた。

俺はただ武器を持ち、人を殺し、時にはやべぇ怪物と戦い。そうして、貰えた少ない報酬で生活を立てていた。

人生は退屈なものだ。スキップボタンがあるならすぐにでも押すだろう。


今日もまた仕事が入る。ある闇組織の幹部の抹殺。そして、情報の収集だ。

俺は魔具を背中に掛け、狭いダクトの中で様子を伺う。

この街は狂っている。全てが違法建築であり、煙突から漏れ続ける有害ガス。外にむきだしになった謎の螺旋階段。どこを見渡しても裏路地の様な光景、それが天まで続いている。


ターゲットについて深く調べるのは魔天使としての定石だ。

人間の肉体にトナカイの頭部。幹部へは三年で昇格…。親のコネを使ったのだろう。よくある話だ、この世界にはクズだらけ。だから俺が”天国”に送ってやるのさ。


…ダクトはやはり埃だらけで嫌いだ。服が汚れて仕方がない。

狙うはターゲットが1人になった時、隙を晒した時だ。

部下と話していたターゲットが別の部屋に移動し、孤立する。俺はその隙を見逃さず、すぐにダクトから出て、魔具の剣を構える。


俺が魔術を使用してターゲットを殺そうとした時、ターゲットはこちらに振り向き、驚いた様子で後退りしながら、助けを乞う。

「悪いな。」

俺は静かにそういい残し、魔力を込め、魔術を放つ。

          《天の慈悲(ヘヴンズ・マーシー)


その瞬間俺の体から白いオーラが溢れ出る。そのオーラにターゲットは焦りを見せるかと思えば、不敵に笑いターゲットは静かに顔を下げ、指を銃の形にしながら顔を上げる。

「バン。」

俺は視界が暗転し、意識を失った。




……意識を失っていた俺は、大きな騒音で目を覚ました。

「「「うぉぉぉおおおお!!!」」」

起きると同時に起きるものすごい歓声。俺はリングの真ん中に立っており、周りにいるのは組織の下っ端。そして、正面に鎮座する仮面をつけた人(?)はこの組織の頭であろう。

歓声が止むと同時に、正面の人が仮面を外す。それは正真正銘の人間であった。

(珍しいな…二十代ぐらいの男に見えるが。)

俺は武器が没収されている事に気づき、魔術がいつでも使えるように警戒する。

「こんにちは少年よ。私は君にいくつかの質問をしたい。いいかね?」

この多対一の状況を迫られている上で反発するのは分が悪すぎる。俺は素直に首を縦に振る。

「まず、この建物の周辺には高度な結界術を張ってある。私が直々にね。ただ、君が入ったことを感知できなかった。何故だ?」

…答えは単純だ。魔天使は戦闘を強いられる仕事な以上、就く時に上の者から魔術が付与される。その魔術に結界無効があったのだろうが、ここは魔天使だということを隠さなければならない。普通に自身の魔術とでも言っておくか。

「これは俺が自分自身に付与した結界無効の魔術だ。確かに強い結界であったが、こちらもそれ相応の魔力を消費して成した技だ。」

俺がそう言い返すと男は顎に手を当て頷く。

「なるほどな。ま、不自然な点はないか。」

油断ならない状況だ。一挙一動が死につながる。本気を出したら逃げれるかもだが、あまりやりたくないな…。

「なら次だ。お前はどういう目的でここに忍び込んだ。なんせ我が幹部ボンドのことを襲った様じゃないか…。」

「詳しい理由は言えない。ただ、俺は明確な殺意と計画をして、この組織に忍び込んだ。これは嘘ではない。」

男は赤い目をこちらに向けてから、また足を組み頷く。

「ふむ、これも嘘ではない様だな。」

男は体を前に出し、俺に提案をしてくる。

「お前の選択は今三つだ。私の魔術を受け、この組織に一生立ち寄れずら、この組織に一生関わることのできなくなる《契約書》を成立させるか。今から強引に逃げ出すか。」

そして、男は大きく口を開け叫ぶ。

「我々仮面団名物!!!リングコロシアムで生き残るかだ!!!」

「「「うぉぉぉおおおおお!!!」」」

大きな歓声と共に沸き上がった下っ端達。俺をリングで眠らせてたのはこれをやらせる前提か。

「生き残ったらしっかりと命は残してくれるんだよな?」

「勿論だ。なんなら《契約書》を書こうか?君が主導権で。」

ふむ、記憶を無くすのは論外として、強引突破もほぼ不可能。なら、これは一択だろうな。

俺は男に向かって指をさし、口を開く。

「いいぜ、そのゲーム受けてやる。」


『マッチング成立だ〜!!!』

その瞬間スピーカーから大きな声が発され、会場は大いな盛り上がりを見せる。

リングに数人と数体の人と怪物が入り、リングは狭苦しくなる。

「その大きさは流石に狭いか。」

座る男が指を鳴らすと、辺りは暗闇に包まれ、リングが伸びていく。

(高度な結界魔術…相手にしたくないな。)

そんなことより、今は目の前の敵に注意しなければならない。

そうそう、【魔天使】が【堕天】と呼ばれる理由はもう一つある。天使とは白く、美しく尊い者。ただ、魔天使はどうだろうか。


           《漆黒の歓喜(ブラック・ラプチャー)


俺は自らの魔術を最大に開放する。

《漆黒の歓喜》……【魔天使】のみが習得できる魔術であり、全身に纏う黒いオーラと天使とは似つかわしくない、悪魔的羽と顔。この専用魔術が【堕天】と呼ばれる理由でもある。


「さぁ、始めようか。再戦(リベンジマッチ)だ。」

俺は虚無から黒刀を取り出し、無造作に振るう。単純な話だ。コイツらに負けなければいい。今までと変わらない。

体に他人の血がつく人生を送って来た俺は、何人殺そうと何も思わないさ。


【魔天使】は天使らしく。【堕天】なら悪魔らしく行こうじゃないか!!!


「お前ら全員!闇に!呑まれろ!!!」

叫びながら刀に力を注ぎ、全力で振りかぶる。

剣先から出た黒い魔力の斬撃が、周囲の人間達を一掃する。ただ、1人だけ怪物が生き残っていた。


『暗闇ニ…救イノ手…ハナク。アルノ…ハ絶望ト…終末ダケダ。』

目が一つの怪物は呪文のように唱える。と同時に、怪物の周りに幾つもの手が現れる。

全て形や年季は違い、子供の様な手もあれば、老人のような手もある。


『集エ…戦士ドモヨ』

怪物の指示と共に、手は一つに集合し、いずれ大きな手となる。


「多いのが利点なのに、一つになっちまったら本末転倒ってやつだぞ。」

集まった手はやがて一つの拳となり、はるか上から猛スピードでこちらに向かって落ちてくる。

ただ、俺は刀を握り、自身の魔力を全力で注ぎ込む。

そして、足に力を込め、高く飛び上がり、その刀で大きな手を両断した。

『マサカ…我ガ拳ガ敗レルトハ…!!!』

怪物は少量の手で俺に向かって攻撃してくるが、俺はそれを難なくいなし、本体に接近する。

「山の名のもとで堕ちろ。」

俺は怪物の胴体に刀を振り、二つに斬り下ろす。

敵が全て消滅したと同時に、結界は解かれた。


「パチパチパチ…よくやりましたね。」

真ん中の椅子に座った男がこちらに向かって拍手をする。

どうやら俺の勝利は予想外であり、観客席は全員黙り込んでいる。

「俺は《契約書》通り全員倒した。帰っていいよな?」

俺は後ろ側にある大きな門に親指を向け、男に言う。

「あぁ、貴様の戦いぶり、感心したぞ。」

その言葉を聞き、俺は刀をしまい男に背を向ける……と、同時にすぐさま振り返り、遠くに鎮座する男に斬りかかる。あまりに早い出来事に誰も目を追えていなかった。この場の2人を除いては。


「お前の《契約書》には、お前からの攻撃は全て罰則に値すると記されていた!俺の攻撃を対策しなかったのが穴だな。」

俺は自身の白い髪を靡かせ、刀を止められたのに冷や汗をかく。

「……確かに、お前は何の目的かは分からないが、素直に帰るほど単純では無いな……。」

男は刀を防いでいるのとは逆の手で観客の部下に指示を送る。


「私はお前に干渉はできない。ただ、他はどうかな。」

周りの者は皆武器を持ち、俺に向けて走って来ている。

「…今日は逃げるしかないな。ただ、次は無いと思えよ。」

「お前に次があるなら、肝に銘じておくよ。」

部下たちが俺に襲いかかる。ところを俺はお得意の悪魔の様な翼で、大きく飛び上がり避けきる。そして、天井に拳をぶつけ、その穴から逃走する。


後ろから追ってくる部下たちを入り組んだ廊下で撒きながら、ある倉庫に入った。

「ハァ。ここまできたら大丈夫だろ。」

俺は魔術で小さな光を生み、倉庫の中を探索する。


「ぅっ…うっ……ぐすん。」


俺は聞き間違えか疑う声を聞く。

それは完全に女の子の泣き声であったが、俺は聞き間違えかと思い、スルーしようとする。ただ、耳に聞こえてくるすすり泣きに、俺は仕方がなく確認しに向かう。


俺が倉庫の奥に来たところで、声の本人に出会う。

赤い尖ったツノ。長くて綺麗な髪。そして、少女の容姿にも関わらず、放つあまりにも莫大な魔力…!


「……マジか。」

ここの依頼には情報の抜き取りがあった。それはある悪魔の子についての情報。この組織が悪魔の子を収監していると聞いたが……。この状況はマジか。


「…えっと〜。大丈夫?」

俺がその少女に向けて優しく喋りかけると、一瞬こちらを向き、また泣き出す。

「悪魔……グスッ……怖い…!」

俺はその瞬間今の自身の姿に気づく。そりゃあ誰でも怯えるわけだ。

俺はすぐさま魔術を解き、また話しかける。

「君があの悪魔の子か?」

少女は少し間を空けたあと、次はしっかりと顔を見ていった。

「悪魔の子じゃ無い……。アリス……私はアリス……。」

アリスはこちらを覗き込み、目をこすりながら立ち上がる。

「貴方の名前は?」

…名前…俺に名前はない。え、名前…?うーん、名前名前…。

「うーん。ルミエル?とでも。」

俺がそういうとアリスは何度もラミエルと繰り返して唱える。

「ルミエル!良い名前だ!よし、ルミエル!一緒に逃げるぞ!」

アリスはそう言った瞬間。身長が徐々に伸びていき、俺を追い越した。

「ルミエル!俺の手を待て!!」

俺は何が起きているか理解が追いつかないが、危機的状況なので言われるがまま手を握る。


「光を制し、闇に抗い、天を求める儚く強き者よ。今ここで、その決意と力を記したまえ!!」

そうアリスが叫ぶと同時にあたりは光に包まれた。

「ルミエル!しっかりと掴んでー!!!!」

アリスが大きな声で叫ぶ。と、同時に視界も光に包まれていき……!!!




はるか上空で飛んでいた。

「お、落ちるーー!!!!」

俺ではなく、なぜかアリスがものすごい声で叫ぶ。

俺はすぐさま翼を出し、アリスを背中に乗せ、ゆっくりと降下する。

あまりにも怒涛な展開に俺は倒れ込むと、アリスは驚いた様な顔でコチラを見つめる。

「ルミエル…その翼…【堕天】なの?」

アリスはいつの間にか少女の姿に戻っており、立ってこちらに手を差し伸べる。


「私は天使の使い【天制者】。光を司るものよ。よろしく。」

俺は差し出された手を掴み、起き上がってから目を見つめて言う。

「俺は殺し屋の【魔天使】。通常【堕天】だ。以後よろしく。」

光と闇。完全に対立した勢力のペアが誕生した。





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