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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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ズンズン行こう

「霊峰メルタレム。ご存知ですか?」


「いや、知らんな。」


「読んで字の如く、その場所には精霊が存在している……とされている山です。」


「されている、ねえ。実際にその精霊とやらを見たやつは居ないのか?」


聞いてると結構曖昧な話だ。行って見て何も無いってのはあんまり好きじゃないんだがな。


「いえ、居ますよ。……極々少数ではあると思いますけど。さっきもお話ししたように、精霊術と言う分野を研究している人や、実際に精霊術師なんて人間は私が知る限りではほとんど存在しません。」


「その精霊術ってのは何が出来るんだ?」


「一般的にはその精霊の力を貸し与えてもらってそれを行使することが出来るという事が出来るはずです。その力と言うのもその精霊によって異なるでしょうけれど。」


「魔法とは何が違うんだ。」


「魔法はスキルレベルによって使用できるかどうか決まります。だから後天的に魔法を使えるようになることは基本的にはありませんが、精霊術は契約を交わす事で後天的にも魔法を使用できるようになる点が違います。」


「ふーん。それは便利だな。何も使えないよりはいざと言うときに使える方がいいだろうし、何なら一緒に俺も契約させてもらおうか。」


「……昔は皆そうでした。精霊術を研究する事によって人間の可能性はさらに広がっていくものだと信じていました。」


それがどうして廃れてしまったのか。


「もちろん精霊術にも無視できない問題点があります。まず第一に、これが一番の大きな問題なのですが、そもそも精霊術師になる事の出来る人物はかなり限られていると言いますか……長い年月をかけてその分野の鍛錬を行わなくてはなりません。その効率の悪さですね。そして才能の無い人は一生を費やしても一番基本的な精霊との契約すら行うことは出来ないでしょう。……例えば私みたいな人は。」


「お前は精霊術師じゃないのか。」


「……以前は目指していたこともありましたけれどね。今はただの研究者です。才能があるのはソーラの方です。」


冒険の為の準備という事で他の部屋で荷造りをしているそうだが、あいつにそんな才能がね……


「もう一つ、精霊との契約を結ぶことへの危険性です。……強い力を行使するためには強い精霊との契約が必要になってきますが……その最中に命を落とすというケースが当時は多くあったようです。……有能であれば有能なほど危険な目に晒され、鍛え上げられた素晴らしい精霊術師たちから命を失くしていく。……そんなものを深く研究してもあまり意味が無い。だからそれからと言うもの精霊術を研究していた人たちは魔法研究へと方向転換していって今に至るのだと言われています。……表向きは……」


最後の一言を言ったら顔に影が差した。……何かキナ臭い歴史でもあるのだろう。……そこまで深入りはしまい。


「そしたらこれから行く場所も危険だって事か?」


「いえ、危険度で言うならばとても危険度は低い場所です。精霊術師が一番初めに契約すると言われている精霊が存在するところなのです。魔物も生息してはいると思うけれど、冒険者のあなたならきっと難なく倒してくれると思っています。」


「ふふん。いい見立てだ。確かに俺ならそんじょそこらの奴なんて相手じゃない。」


「……だからお願いしますね。……分かっていると思うけれど、ソーラが危険な目にあいそうだと判断したらすぐに戻ってきてくださいね。」


「危険……ね。分かってる。」


ちょっとぐらいの危険も顧みずに契約なんて出来るもんかと思ったのだが、一応了承する。守るなんてのは当たり前の話だ。誰に言われるまでも無い。


「つーか依頼所とかには頼まなかったのか?それかリンカスターとかに。」


あいつなら何も言わずに手伝ってくれそうなもんだ。


「完治してからならともかくあの子もちょっと前まで重傷を負っていました。もし治ったらお願いしようかとも思っていたけれど、あの子にはあの子のやる事があると思うから、あまりそれを邪魔したくないって言う気持ちもありますし……依頼所に頼むことは考えたけれど……」


「何だ、何で口ごもるんだ。」


「……ソーラを一人で行かせるのが、ちょっと心配だから、あまり知らない人に任せるのは気が引けちゃうんですよ。」


「……過保護って言うんじゃないのか?あいついくつだよ。」


「私は18になります!」


「おわっ!!」


突然耳元から大声がいきなり会話になだれ込んでくる!……その背にしょったリュックに荷物がたっぷり入っているようだ。


「お待たせしましたシドさん!こっちの準備は万事オッケーです!」


「準備できたのね。……それじゃあ悪いんだけれども、お願いします。」


やむなく会話は中断され、俺たち二人は施設を後にする。


……


ゴーバスの城下町から歩く事一時間半、俺達は霊峰メルタレムの麓へと足を運んでいた。


「それでですね、この間あった話なんですけど、リアンと一緒に精霊の歴史について書かれた文献を図書館に探しに行ったんですけどなんとこれまでいくら探しても見つからなかった本があってですね!しかもその本に書いてある事ったら今まで明らかになっていなかったブラックボックス的な所を紐解くための材料となる事柄が事細かに記されていてもう気持ちがキュンキュンしてピピーン!って感じだったのですよ!」


「……そうか。」


……歩いている間ずっとこれだ。……途中から相槌をうつぐらいしか出来なくなってきているんだがこいつはこれで会話しているつもりになっているのだろうか。……現れた魔物と戦っている間だけはこの話が遮られるから戦っている方が精神的には楽なのかもしれない……


既に気持ちの面で疲労していたが、仕方ないので坂道へと足を踏み出す。


……


「わー!シドさんこれって何ですか?」


「ただの宝箱じゃねえか。どれ……大したもの入ってねえな。」


「これが宝箱……なんだかワクワクするのです。」


「……それは何よりだ。」


生まれたてか。ってぐらいに何にでも興味津々なその少女はずんずんと山道を進んでいく。


「お前は精霊術師なんだよな?」


「そうです!卵の中の卵ですけど!将来は大きな鶏になるのです!」


いや、精霊術師だろ……


「けどまだ契約はしてないわけだ。」


「契約できるぐらいになったのはついこの間なのです。じゃあここでクイズです!精霊術師には何が一番大切なのでしょうか!」


「何が一番大切って……何か契約の為のアイテムとかじゃねえのか?」


「それは五番ぐらいですかね。私が思うに一番大切なのは、心ですよ。」


「心?」


「はい!心です!!」


「……」


「……」


「解説は無しか!」


「それが真理なのです!それ以上深く掘り下げる事は私の頭のキャパシティではまだ無理な領域です!」


「……」


「ちなみに2~4番は順番に力!資金力!運です!」


「……そうか。」


……いかん。こいつのペースに合わせると一気に疲れる。いつも全力疾走させられているようなもんだ。あっという間にばてちまう……


「リアンとはずっと一緒に居るのか?」


「ずっと……いえ、私は元々研究施設の実験体でした!元々身寄りのなかった私は魔法研究所に拾われて色々な実験の為にあそこにいたのです!……あ、一応言っておきますけどそんなに酷い実験じゃないですよ。ちゃんと食べるものも寝る場所も与えてもらいましたし。」


……明るい見た目に反して結構重そうな過去だ。


「……でもそんなある時の事です!突然リアンが私の事を引き取ってくれたんです!後から知ったのですが、人一人を引き取るのってものすごいお金がかかるんです。」


引き取るってのはその人間の面倒を一緒見るっていう事と大体同じだ。……きっと何か思うところがあったのだろう。もっともそんなのは本人しか知らぬことだろうが。


「なんでそんな事してくれたのか分からないけど、とにかく嬉しくて、だからリアンの事は大好きです。リアンの為になる事ならなんだってします!」


「それが精霊術師なのか?」


「いえ、それは施設にあった絵本を読んだ頃からずっと精霊術師に憧れていたからです!精霊術師リムルっていう絵本なんですけど、精霊術師のリムルって女の子が動物達と旅をしながら各地の精霊たちと心を交わしていきながら精霊術師にとって終着点と言われているゼロノークへと旅をするって言う絵本なんです!」


「ふーん。」


「ちなみに全20巻です!」


「……ふーん。」


「今度読みますか?」


「俺はいい。」


憧れってのはなれる素質のある奴にとっては頑張るための希望だが、そうでない奴にとっては一生自分を苦しめる枷になりかねん厄介なもんだ。


「リアンが私を引き取ってくれた時に言ってくれたんです。私には精霊術師の才能があるって。だからその力を更に伸ばしてリアンの力になるのが私の夢です!」


「才能ね。どうやってそんなの分かるんだ?まだ契約はした事ないんだろ?」


「シドさんにはここに何か見えますか?」


「ここって言われてもな……」


何もない空間を指さしている。


「ここには精霊と言わないまでも極々微小な微精霊が居るんですよ。あ、行っちゃった。」


空に向かって視線を泳がせる。……なるほど、それが見えるかどうかが才能の有る無しってわけだ。


「ちなみにここにはどんな精霊が居るんだ?」


「リムルって言う精霊さんが居るみたいですよ。」


「……は?リムルってお前が読んだ絵本の主人公じゃないのか?」


「そうですね。同じ名前ですね。だからきっとその絵本を描いた人はその精霊さんから名前を頂いてその主人公の名前にしたんだと思います。」


「……まあ、フィクションだもんな。」


「私も有名になれば絵本を描いてもらえるでしょうか!?」


「そしたら俺も出してもらいたいもんだ。」


「そうですね!お供のシドさんと言う事で!」


……俺はわき役か。ま、楽しそうだからいいか。


「さて、そろそろ中腹ぐらいまで来たか。その精霊が居る場所にはあとどれくらいだ?」


「ちょっと待ってください……」


目を瞑って真剣な顔をしてなにやら集中している。……鼻がぶつかるぐらいの位置まで顔を近づけてみようか。


……


「……分かりました!もうす……きゃあ!!ななななななんですか!なんでそんな近くに!」


目を開いた瞬間に驚いて体を後方へとのけぞらせた。期待を裏切らない良いリアクションだ。


「いや、目を瞑っている奴を見るとついな。」


「そういうのは私じゃない人にやってください!書き書き……」


「あ?」


ポケットから手記的なものを取り出すとペンを走らせて何か書いている。


「帰ったらこの事をリアンに言い付けちゃいますからね!」


……そう来たか。


「悪い悪い。ちょっとした悪戯心だ。それで、あとどれぐらいなんだ?」


「もう……ええとですね、微精霊さんのお導きによりますともう少し登った所に洞穴があるらしいのですけどその先に居るのではないかと言う事ですね。」


「そっか。んじゃもうちっと行くとするか。」


「はい!行きましょう!」


……


この山には大した魔物は現れない。さほど苦戦する事もなさそうだな。


「あ!あれ、貝ですよ!」


「ああ、触んなよ。多分カチカチ貝モドキだ。触ったりしようとしたら手を噛みつかれるからな。」


「もしかして魔物なんですか!?」


「そういう事だ。……おらっ!」


「ギー!!」


一発かましてやるとパックリ割れた。


「わぁほんとですね!中に黒い魔物が。」


「ま、知ってれば大した奴じゃない。」


「あ、何か光ってますよ。」


「お?……珍しいな。光珠じゃねえか。モドキのくせに。」


「光珠ですか?」


「本物のカチカチ貝の中にはこういうのが入ってるんだ。これを集めてアクセサリーとかに加工したり出来る。モドキに入ってるのは珍しい。」


「ははぁ……なんだか、綺麗ですねー……」


ウットリした顔で俺の手の上の光珠を見ている。やっぱり女って事だな。


「……ほら、やるよ。」


「え!いいんですか?」


「ああ、別に俺はいらんしな。これくらいなら持って行ってもかさばらんだろう?」


「……はい!ありがたく頂きます!!えへへ。大切にしますね、これ。」


これくらいで喜ぶなら安いもんだ。締まりのない笑顔しちゃってまあ。


「お、あれか?」


「多分そうです!きっとあの洞穴の中に精霊さんが居るはずです!」


人の手が加わっているような大穴がぽっかりと開いていた。いったいどれくらい昔からこれがあるのか知らないが、俺たち二人は吸い込まれるようにそこに足を踏み入れて行った。

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