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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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たまには歓迎してもいいんじゃないか

「おーい。」


「あら……確か昨日いらっしゃった……シド様、でしたか?」


「おうそうだ。」


夜通し考えたが昨日はアプローチの仕方が悪かった。確かにいきなり知らない奴が訪ねてきても怪しまれるだけだった。


「実は昨日伝え忘れていたことがあった。リアンって奴に言付けと言うかリンカスターからの紹介だと伝えて欲しい。」


「?かしこまりました。」


不思議そうな顔をして端末を操作している。……これで多分うまくいくだろう。


「……お伝えいたしました。もしご連絡があれば……少々お待ちを……承認が下りました。リアン様のお部屋へとお連れ致しますが、よろしいでしょうか?」


おお!!効果覿面だな!やっぱり権力やコネは利用するものだ!


「ああ、もちろんだ。案内してくれ。」


「では、こちらに……」


……


右を見ても左を見ても、なんだか分からない部屋が並ぶ。


「ここはどういう場所なんだ?魔法研究所って言うぐらいだから研究する施設なんだろうが。」


「その通りです。既存の魔法であったり、新たな魔法体系であったり、様々な分野の研究を日夜行っています。」


「そういう場所って普通に入って大丈夫なのか?」


「ここは一般公開が許されている区画ですので問題ありません。それ以外の場所は施設の者で無いと立ち入ることは禁止されています。」


……夜な夜な怪しい研究でも進めていそうだな。


「リアンってのはどこに居るんだ?」


「研究員の皆さんのお部屋がある区画がございまして、現在は自室におられるという事です。……着きました。こちらですね。」


多くのドアが並ぶ中、一つのドアの前に案内された。


「それでは私はここで失礼させていただきます。ごゆっくり。」


「おう、すまんな。」


深く頭を下げると案内役の女は去って行った。……おいおい、事がうまく運び過ぎじゃないか?個室だって?そんなのもう運命的なルートしか見えないだろうが。


とりあえずドアをノックしてみる。


「はい。」


ドア越しにスピーカーから声が聞こえる。


「リンカスターの紹介で来たんだが。」


「シドさんですね。お話は聞いています。どうぞ入ってください。あまり片付いてはいませんが……」


そう答えるとドアがスライドして部屋への口が開く。そしてその部屋の主であろう女性が……


「……」


「……」


……ああ、運命だ。これは運命に違いない。


「……あなた、まさか……あなたが……?」


「ああ。そうだ。」


「……」


昨日言い争いしていた時の目だ。あれに加えて驚きの表情も加わっている。


「おし、入るぞ。」


「……待ちなさい。許可しません。」


「なんでだ。承認したんだろ?」


「……顔までは確認してませんでしたから。」


「一回言った事を引っ込めるのは無しだぞ。」


「……帰ってください。今すぐに。」


「俺とデートしてくれるなら今すぐに帰ってもいいぞ。」


「……あなた、ほんとにリンカスターの知り合いなんですか?」


「めっちゃ知り合いだぞ。」


「……」


……やってしまった。そんな気持ちが表情にありありと見えていた。……暫しの沈黙の後、頭の中でどんな会議が繰り広げられたのか知る由もないが、結局は折れた。


「……どうぞ、一応あがってください……」


「おう、邪魔するぞ。」


「……ほんとに邪魔ですね……」


嫌味を言われるがそんなのどこ吹く風だ。ふーん、綺麗な部屋だ。よく片付いている。


「お、ぬいぐるみがある。」


「……あまり人の部屋を舐め回すように見るのは失礼ですよ。」


ったく、いつまで俺の事を警戒しているんだ。


「……先に言っておきますけど変な行動なんて絶対に取らない方がいいですから。」


「変な行動だ?」


「私が信号を発すれば一分もしないうちに警備の方々がここに来ますから。そうなったらもうあなたの命は無いと思ってください。」


「脅迫じゃねえか。」


「暴漢相手にルールなんて必要ありませんから。」


……暴漢じゃないっての。まだ何もしてないだろうが。……まだ。


仕方なくと言った感じに向こうもクッションに腰かけ、ため息を一つ零す。


「……手紙で時折聞いていました。シドと言う方に命を助けて頂いたと。そして、国の危機までも救って頂いたと。本当に素敵な方だと。私もあんな風になりたいと。」


「照れるじゃないか。」


「……あの子がそんなに憧れるなんてさぞかし素晴らしい男性なのだろうと思っていました。……ですが実際はこんな人だったなんて……」


「想像よりずっといい男だったろ。」


「想像よりずっと最低な人でした。」


「ストレートなのは嫌いじゃないぞ。」


「……あの子はとてもいい子です。私にとっては親友です。……だからもうあまりあの子に近づかないでくれませんか。」


どんだけ印象悪いんだよ。そこまで言うか。


「何があったか詳しくは知りませんが、あなたを見て、おそらくあの子が抱いている憧れは何らかの勘違いだと確信しました。これ以上彼女を惑わせて悪い道へと引き込むのはやめてください。あの子には幸せになって欲しいんです。あの子にはシンクレスさんみたいに非の打ちどころがないような素敵な男性がお似合いなんです。」


……シンクレスって誰だ?


「……訪ねてきた相手にいきなり説教とは、大したもんだ。」


「私だってよほどの事が無ければこんな事言いたくはありません。……子供を苛めてあげく謝りもしないで逃げていくような事でもしない限りは。」


「……まあ、確かにお前が言ってる事は一般的に間違ってないだろう。けどお前が言ってるのはお前の意見だ。リンカスター自身の意見じゃないだろう。」


「親友が危ない道へと逸れようとしているのを見て何もせず見過ごす真似なんてできません。」


「……ま、いいさ。分かった分かった。」


リンカスターを2回りくらい生真面目にして融通効かなくなった感じだな。


「……それで、あなたはここに何をしに来たのですか?」


「リンカスターが何か困ったことがあったらここを訪ねろって言ってたんで来てみた。」


「困った事、ですか?」


「ああ、目の前の美人が俺を目の仇みたいに思っているのがどうにも困ってな。何とかしてほしいもんだ。」


「……他をあたってください。私にはどうすることも出来ません。」


ガードが固い女だ。……これで美人じゃなかったら正直キツイな。


「良い剣を探しに来たんだ。」


「剣?私はただの研究者ですけど?武器屋でも訪ねた方がいいんじゃないですか?」


「それじゃダメだからわざわざここまで来てるんだろうが。」


「そう言われても剣に心当たりなんてありませんよ。私では何の力にもなれません。」


「もうすぐこの街で闘技大会が開かれるんだってな。それで優勝したらいい武器を貰えるって事らしいからここまでやって来たんだ。」


「ああ、なるほど。確かに優勝して貰える武器は相当な物でしょうね。……でも、あなたが優勝なんて出来るんですか?」


「余裕だ。俺に勝てる奴なんて居ない。」


「だったら良い剣なんて必要ないじゃないですか。」


……比喩だっての。それぐらい強いってことが言いたかったのだが、もしかしてマジにとらえてるのかこいつは。


「強い剣があればもっと俺は強くなれる。強さを求めるのはおかしなことじゃないだろう?」


「……その強さで、何をするかが大事だと思いますけどね。いくら強くてもだらしない人がカッコ悪い事に使うんならどうしようもないなって思います。」


「強ければ正義だ。」


「そんな人はいつか本当の正義に討たれます。」


……口の減らん奴だな。俺もそれなりだがこいつもなかなか……


「大会は毎年開催されていますが、いつも最後に残るのは私達ゴーバスの国の方です。それだけ強い方々が出場する大会でぽっと出のあなたが優勝するなんて事はまずありえないと思います。」


「ありえない、か。使うのは好きだが使われるのは好きじゃない言葉だな。」


どこのどいつが可能性なんてものを決めてんのか知らないが何故そんな事が言えるのか。俺の何を知ってそんな確信を持てるのか。


「……そうですね、私も、その言葉を使われるのはあまり好きじゃないですね……」


なんだ、急に同調したかと思ったら押し黙っちまった。


「……」


「……お前は何の研究してんだ?やっぱ魔法なのか?」


「表向きにはそうですね……」


「本当は違うのか?」


「いえ……確かに魔法とは、ほんの少しベクトルが異なりますが……魔力を素とする分野には違いありませんね。」


「……」


「他に何か御用はありますか?」


「……いや、真面目な用はもうない。」


「……それじゃあ、もう帰っていただきたいんですけど。」


……どうやらほんとに嫌われてるようだ。まあ当然っちゃ当然か。……仕方ない。もう帰るとしよう。……そう思った矢先の事だった。台風の様な少女が現れたのは。


「ただいまなのです!!……ありゃ?お客様ですか?男の方なんて珍しいのです。」


「ソーラ……お帰りなさい。」

 

……!!運命の出会いパート2がやって来た!こいつはあれだ。昨日露店ですれ違った奴だ。


「なるほど、こっちは可愛い系ってわけだ。」


「?何を言っているのかよく分からないのですけれど褒められているのですか?」


「この人に関わるのはよした方がいいわ。良いことなんてきっとないわ。」


「そんなことあるもんか。逆に俺と一緒に居ると幸せ満開ウルトラハッピーだぞ?」


「そんな幸せオーラな方なのですか!始めましてこんにちは!私はソーラと言うのです!どうぞよろしくお願いします。ぶんぶん!!」


いきなり握手をせがまれてはブンブンされる。……見た通り元気そうな奴だった。……ちょっとエルニに似てるかも知れんな……


「俺はシドだ。よろしくな。」


「はいー!この素敵な出会いに感謝感激雨あられなのです!」


「……」


恨めしそうな目で俺を見ている。……知らん。


「……あなた、冒険者なんですよね……?」


「ん?まあな。」


「……大会に出るって言ってたけど、大会はまだしばらく先ですよね。それまで何もやることが無いならソーラの手助けをしてくれないですか?」


「手助けだぁ?」


「手助けですか!!」


「……ええ、手助けです。もし達成してくれたなら個人的にお礼をさせていただきます。」


「お……お礼とは。」


「物理的なお礼ですのであしからず。」


くぎを刺された。


「もしかして……」


「ええ、そうよ。」


二人の間で何らかのコンタクトが行われた。もちろん外部の人間である俺にはそれが何であるか知る由もない。それが終わると俺の方に向き直り話を続ける。


「さっき少しお話ししましたね。私が本当にメインで行っている研究。それは、精霊術です。」


「……精霊術?」


「あまり聞きなれない分野でしょうね。それもそのはず、現代においてこの分野の研究を進めている人間はほとんど居ないですから。」


「そもそも精霊って、なんだ?」


「……魔力の集合体と言う言い方が一番分かりやすいかと思います。そしてその集合体が意思を持った者と言うのが私の見解です。」


「……よく分からん。」


「とにかく私はその研究を秘密裏に行っています。そしてソーラも。」


「はい!私は精霊術師を目指しています!いつかはそれはそれは立派な精霊術師に!」


……魔法ってのも仕組みに関しては結構オカルトだと思っているが精霊術師?……流石によく分からん分野の話になって来たな。


「……で?結局のところ何を手伝えばいいんだ?」


「精霊との契約。その手伝いをお願いしたいのです。」


「契約って、なんだよ。」


「その精霊と心を通わせ、その力を貸してもらう事です。」


「……まあ、どうせ暇だから別に構わんが、どうすればいいんだ?」


「まず契約の為にとある場所へと赴かなくてはならないのですが、その護衛をお願いしたいのです。」


「お願いしたいのです!!」


えらいキラキラした目で懇願されている。……無下にはできないか。


……


こうして大会が始まるまでの暇つぶしと言うわけでもないが、俺はとある山へと登る事になった。


……


「ちなみにですが、私は同行することが出来ませんので、ソーラの事、くれぐれもよろしくお願いします。」


「お前は来ないのかよ!?」


「……自慢じゃありませんが戦闘はからっきしダメなので、ついて行っても足手まといになりかねませんから……」


そう言うわけで自動的に二人旅になる事が決定した……


「不束者ですがどうぞよろしくお願いするのです!!」


……このテンションの相手を一人で務めるのかと思うと……今からドッと疲れた……


でもまあ、いいか。可愛さはまあ十分だし、待望の二人旅ってもんだ。堪能させてもらうとしよう。……ぐふふ。

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