物事の最初は散策
「ゴーバスか。」
リンカスターから話を聞いてより次の日、俺はすぐさまゴーバスへと旅立った。そして今ゴーバスの城下町へと足を踏み入れているところである。
何度か依頼の中でここに来ることはあった。この国はラズリードと並ぶ強豪国。三大大国の一つに数えられる国だ。……とリンカスターが言っていた。ちなみにこの国はラズリードに比べると魔法研究が進んでいるらしく、研究施設の規模も凄まじく高レベルの魔法の使い手なども何人も抱えているらしい。
魔法大国アンフォームの次に並び立つのがこのゴーバス王国なのである。
……と、入り口で配っていた街案内の地図に書いてあった。……まあ自分達で好き勝手言うのは自由だしな。
「さてと、とりあえず城にでも行ってみるとするか。」
闘技大会とやらの詳しい話を聞きに行く。
……
「闘技大会はどこでやるんだ?」
城の前の門番が暇そうだったから聞いてみる事にした。なんで門番って男ばっかりなんだ。
「闘技大会へのエントリーですか?それでしたらあちらに見えます建物へと足を運んでみてください。」
……ここからでも見えるデカい建物。地図でも確認してみるが、どうやらあれが闘技場らしいな。言われた通り闘技場へと向かう。
「おい、ここが闘技場か?」
「ええ、そうですよ。」
「闘技大会とやらにエントリーしに来た。」
「ああ、そうですか。分かりました。ではこちらにお名前を……はい、結構です。シド様ですね。受付をさせていただきました。では大会の当日にまたこちらへとお集まりください。」
あっさり終わった。これでいいらしい。
……さて、後13日もあるんだが、何をしたもんか。
「そうだ!リンカスターの友達とやらの所へ行ってみるとするか!……ぐふふ……」
俺はいつも通り宿を抑えてから再び街へと繰り出す。……地図で確認したところ魔法研究所と言う施設があるようだった。たぶんそこだろう。地図を見ながら俺はその建物がある方向へと進んでいく。
……ふーん。なんか変な建物だな。魔法ばっかり研究してるとセンスが悪くなるのかもしれない。
「ようこそ。本日はどのようなご用ですか?」
受付と思わしき女が寄ってくる。ここで口説いてもいいんだがとりあえずは後にするか。
「リアンって奴に会いに来たんだが。」
「はい?リアン様ですか?……ええと、失礼ですがあなたはどちら様でしょうか?」
「俺はシドだ。一度聞いたら忘れない名前だろう。」
「……少々お待ちください。」
何やら手元の端末を弄って何やらやっている。
「……あの、セキュリティ上の問題がありますので身分をしっかり確認させていただくのと、リアン様ご本人からの承認が必要なのですが……」
「本人からの承認って何だ。」
「まずあなたの御身分を確認させていただいた後に、リアン様へとあなたが尋ねられたことをお伝えしますのでそこでリアン様が了承していただいたらその時初めてご案内いたしますという事です。」
「……めんどくさい。」
「セキュリティ上の問題ですので。万が一危険な方をご案内したとなっては責任問題になってしまいますので。」
……かー。なんてーかお役所みたいな施設だな。
「身分って言ってもな。俺は冒険者なんだが。」
「冒険者の方ですか……それは困りましたね。」
自由気ままな旅人が身分なんか証明できるものか。
「……一応リアン様に尋ねられた事をお伝えは致します。それでいかがでしょうか?」
「……じゃあそれでいいや。」
何か急にめんどくさくなってきた。いちいち説明済んのも面倒だしただ会うだけでなんでこんなに手間暇かけなくちゃいけないんだ。そこまでする必要が無い。
適当に受付に頼むと施設からさっさと出て行く。
プラプラと歩きながら街を眺める。……ついでに気分はあんまり良くは無い。悪いって程でもないが。
考えてみりゃあリンカスターは美人だけど友達まで美人とも限らねえしな。それに運命があるならば何もしなくてもそのうち出会うに違いない。とりあえず夜ぐらいまではこの街を堪能するとするか。
……と思ってはみたものの、娯楽的な施設はあんまりない。ラズリードはいろんなものがごった煮になった賑やかな街だったがここは頭に自信のありそうな如何にもな奴らが好きそうな街並みだった。オシャレと言えなくもないが正直俺には殺風景だ。
……
更にしばらく歩いて中心部から少し離れた場所に着く。
「お、この辺は露店みたいのが出てるな。まだこっちの方がマシか。」
「こんなの買ってくのは結構だけど、そんなもの何の役にも立たないぜ?」
「ご心配ありがとうございます!きっと役に立ててみせます!ではこれがお金です!それではまた!」
「……」
元気そうな女が何だかわからない物を買って俺の脇を走り去っていった。……店の奴は呆れた顔でそれを見つめる。
「なんだこれ。」
「ん?ああ、見てくかい?」
……鉱石や結晶か。まあ主な用途としてはこれを利用して物を作る事だ。無論希少な物はそれだけ値段が張るがこの店にあるものはそこまで珍しい物は無い。
「兄ちゃんは冒険者か?」
「んなとこだ。」
店の奴ってのはなんでこんな気安い喋り方なのかね。
「もうすぐこの街で闘技大会があるのは知ってるか?」
「一応な。」
「もしかして参加しに来たのか?」
「質問ばっかすんな。うっさいぞ。」
「まあそういうなよ。俺だって一日中ここに居るのも暇なんだって。適度に誰かとコミュニケーション取らなきゃ死んじまうよ。たまに来る客だってさっきみたいに変な奴だしさ。」
「さっきの奴は何買って行ったんだ?」
「あれはエメルナ鉱石だな。……けどこのご時世に何の役に立つやらな。」
エメルナ鉱石。昔はその鉱石に魔法力をしみこませる事でその鉱石の性質を変える事が出来るとかで重宝していたはずだ。だが、様々な用途に使える一方、性質を変えた事に対する効果はあまり高くない。あくまで現在の話ではあるが。当時は凄かったのだ。時代の流れだから仕方ない事だが。
今は用途が限られているが高い効果を発揮できる鉱石などは幾らでもあるはずだ。……確かに時代錯誤な代物ではある。
「あの女はちょっとアホと言うか、ピントがずれてるって言うかな。この街ではちょっとした変わり者だな。こっちは金を払ってくれれば文句は無いんだが、ガラクタを売りつけてるみたいのもちょっと気が引けるしなあ……」
「もしかしてあの女リアンって名前か?」
「リアン?いいや、そんな名前じゃねえな。……なんだったか忘れちまった。俺もあんまり詳しくはないんでな。」
……違うか。もしかしたらと思ったが運命的な出会いではなかったらしい。
「それで、何を買う?」
「何も買わん。」
……俺は店を後にした。
……
そうだ。この街に住んでるんだろうから街の奴らに聞けばよかったのだ。
「おい、そこのガキ。」
「なんだオッサン!」
「……殺すぞ。」
「いい年したオッサンが大人気ねえぞ!」
「……そ、そんな事言うのやめようよ。」
「何ビビってんだよ!そんなんだから舐められるんだぞ!?」
……いかにもなクソガキと前髪を垂らし過ぎて目が隠れてるガキがあーだこーだ言っている。……聞く相手を間違えたか。
「ふん。」
ゴチン。
「っ……痛ってぇぇぇ!!大人が子供に暴力振るうなよな!!」
「ふん。ざまあみろ。」
「あ……あ……」
もう一人の大人しそうなガキが次は自分の番だと脅えている……ように見える。……くそっ。
「……やんねえよ。」
「……ほっ……」
一息ついたのもつかの間。ガキが突然ワーキャー騒ぎ出した!
「助けてー!!変なオッサンに襲われる!!」
「あっ!!てめ!!」
甲高い声でキーキー喚きやがる!うるさいんだっての!!
「どうしたの?」
「このオッサンが俺の事をいきなり殴りつけてきたんだ!!見てよこのコブ!」
げっ……なんか来たぞ……あっ。でも、美人だぞ。眼鏡をかけた理知的な感じがいいぞ。
「見せて?本当ね、酷いことをするわ……(ジロッ)」
「そんな眉間にしわを寄せたら可愛い顔が台無しだぞ。」
「……子供達に謝ってください。」
「なんでやねん。」
「いいですか?あなたは子供の頭を叩いたんですよ?……可哀そうに……」
「痛え……痛てぇよぉぉ……」
「大丈夫だ、子供はそんなやわじゃない。」
「謝れない男の人って、最低ですよ。」
……えらい突っかかって来るな……
「じゃあ謝ったら君が俺とデートすると言うのはどうだ。」
「死んでも嫌です。誰かあなたとなんて。話をすり替えないでください。」
「謝れって言うのはそっちの要求だろうが。ならその要求を呑むための条件をこっちが提示してもおかしくないだろう。」
「要求じゃないです。悪い事をしたら謝るのは当然の事です。」
「悪いったってそんなのそっちから見た話の事だろうが。俺にとっては別に大したことじゃない。」
「口の減らない男の人ってすごくみっともなくてカッコ悪いですよ。あなた、きっとモテないですね?」
「……」
「……」
美人にそう言われるのは異常にテンションが下がる。
「オッサンが黙った!!オッサンの負けだー!!」
「……」
美人と言えど、その視線は痛い。求めているのは100%謝罪の言葉だろう……
……
「……逃げるが……勝ちだー!!!!!!」
「あー!!逃げたー!!オッサン逃げた!!」
「黙れクソガキが!!ばーかばーか!!ぺっぺっぺっ!!」
撤退しながら罵声と唾スペシャルをお見舞いしてやる!!どうだ!!俺の勝ちだ!はっはっは!!パーフェクト勝利!!
機嫌がよくなった俺はルンルン気分で次の相手へと聞き込みを行う。
「なあ、リアンと言う美人の女を知らないか?」
もう美人かどうか分からないが美人だろう。そうに違いない。よくよく考えれば名前からにじみ出るオーラが美人だ。
「リアンさん?リアンさんならたまに街を歩いているけれど、大体は魔法研究所に居るんじゃないでしょうか?」
「ほうほうなるほど。それはともかくとして君、可愛いな。今日俺と遊ばないか?」
「ちょ……ちょっとそういうのはお断りします……そそくさ。」
……
割とシノと出逢う前はこんなもんだったな。まあ分かっていてやっている部分もある。本当だぞ……半分ワザとだ。逆にこれで寄ってくるような女は尻軽だろうし。
さて……そうこうしているうちに陽が傾いてきた。今日はもう休むとしようか。
とりあえず宿へと向かいチェックインを済ませて部屋に入る。……あー落ち着く。ベッドでゴロゴロするのは何とも言えず素晴らしい心地だ。
寝ながら天井を見上げてみる。……おや、この宿の天井は少し変わっている。変な模様が付いている。何かと思ったが、風呂から上がった後電気を消すとその模様の正体が分かった。
「……ふーん。」
……まるで満面の星空がそのまま天井に映し出されたかのような光景がそこには広がっていた。どんな仕組みになっているのか知らないが……なかなかどうして見れたもんだ。
……あいつが目を覚ましたらこの宿に連れてきてやってもいいかもしれない。わあ、星ですね。とか言いそうだな。
……頭の中でシノの声を思い出す。シノの歌う子守唄を思い出す……
……想像の中の歌と実際の歌はやっぱり違うな。臨場感的な物が違うのだろうか。よく分からないが、何故かシノが隣で歌う子守唄は……なんていうかその、よく眠れる。うん。
……再びあの子守唄が聞ける日はそう遠くない。それまでは少しの間辛抱だ。そう自分に言い聞かせて今日と言う一日を終える。……明日は何をするかな。そんなことを思いながら。
……
「ただいまなのですー!!」
「お帰りなさい。遅くまでどこを歩いていたの?」
「精霊術に必要なあれこれを探してずっと街を探し回っていたらこんな時間になっちゃったのです。」
「ふふ、ならよかったわ。」
「はい!これでもう準備はほぼ整ったのです!」
「完成するといいわね。」
「なのです!」
慈悲深い微笑みでリアンは少女に微笑みかける。魔法と言う分野の研究を行うこの国においてこの少女が異端扱いされているという事を理解してはいる。
だが一人の人間として、ともに暮らす家族として応援してあげたい気持ちは何にも負ける事なく強かったのだった。
少女達にとって積み重ねてきた日々の一日一日。そしてそこにまた一つ一日が積み重なる。それが実を結ぶ日はもうすぐそこまでやってきていた。




