俺の剣はどこに
「シドさん!お元気でしたか?」
美人に似合う明るい笑顔をリンカスターは浮かべる。うむ。美人はやっぱり笑顔が一番だ。時刻は既に18時。話通り夕方に尋ねてみたのだ。
「怪我の方はもう大丈夫そうだな。」
「ええ。ですが治療中はまともに鍛錬できませんでしたからね。遅れを取り戻している最中です。」
「相変わらず真面目だな。」
「それしか出来ないですから。」
……そういえばふと思い出した。
「カラリーサ達はどうしたんだ?」
「カラリーサさん達ですか?セフシアさんの怪我が完治したら皆さん旅立ってしまいましたよ。十日ぐらい前でしょうか。」
ぐぅぅ……目の保養タイムが……
「あの、シノさんはどちらに?今はご一緒ではないのですか?」
……みんな決まってそれを言う。なんかうまい返し方は無いだろうか。それだけ友達が多いって事か。あいついつのまにかしれっと誰とでも仲良くなってる気がするな。
「ちょっと怪我してな。今治療中だ。……すぐ治る。」
リンカスターには変に誤魔化さない方がいいかもしれない。ただ少しオブラートには包むが。
「……そうなんですか。心配ですね……今度お見舞いに行きますね。」
「そうか。」
「それで、今日はどうかしたのですか?ホーミンから何か用事があると言っていたとは聞いているのですが……」
「ああ。実はちょっと良い剣を探してるんだが、なんか心当たりないかと思ってな。」
「良い剣について……ですか?そうですね……」
リンカスターは腕組みをして考える。
「リンカスターが使ってるそれは国から貰ったんだよな?」
「ええ。聖剣アスカラシュ。厳密には隊長へと送られたこの剣を私に譲ってくれたというのが正しいですね。ですが流石にこの剣を差し上げるわけには……」
「大丈夫だ。俺にはちょっとそのキラキラした剣は似合わんしな。その剣はリンカスターみたいな美人が使ってこそだ。」
「……シドさん。ちょっと恥ずかしいです……///」
リンカスターはあんまり色恋沙汰に疎いのか結構初心な所がある。こんなセリフ一発で顔を赤らめる程度には。……じゃなくて……
「他の剣はこの国にはないのか?」
「他の剣……」
神妙な顔つきで思案している。
「……シドさんがわざわざ訪ねてくるぐらいです。並大抵の剣ではそのお眼鏡にはきっと適わないと見ましたが。」
「そうだな。……最強の剣が欲しい。」
誇張でもなんでもない。最強の剣。ちょっとその響きはガキ臭いがリンカスターは笑わずに真剣に考えてくれているようだった。
「……シドさんの使ってらっしゃった剣は結構重い剣でしたよね。以前の剣よりも重たい方が良いですか?それとも軽い方が?」
「……どっちかを犠牲に、か。まあそうだよな……」
「私のアスカラシュではシドさんには軽すぎたのではありませんか?」
……その剣がいまいちな理由はそれもあった。
自分で言うのもなんだが俺の剣技は剛の力が占める部分が多い。力で叩き付けて粉砕すると言う感じだ。リンカスターの戦い方は相手の攻撃に柔軟に対応しながら戦う華麗な感じなので俺とは結構正反対だったりする。その剣を最大限に生かせるのはリンカスターの様な柔の力で戦う者なのだ。だから俺に合った剣とは言い難かった。
「そうだな。振り回しやすいが力が100%伝わると言うかと言われるとそうではないな。……重いなら重い方がいいが……」
……なんかこう、もっと根本的に何か違う何かが必要なのだ。リンカスターに伝わるだろうか……
「常識にとらわれない、そんな剣はないか。」
「例えば、どのような?」
「……振り回しやすいのに重い剣とか。」
……そんなものはあるのだろうか。おかしい事を言っている自覚はあるのだが、重い剣ならいくらでもあるのだ。だがただ重いだけの剣では最強足りえない。ならば常識を超えた何かを持ち得る剣ならば……
「……人の手によって生み出された剣は、人の常識を超える事は無いと思います。常識外れの剣を求めるならば、それ以外の方法が必要になるかと思います。」
「……そうか。」
始めから分かっていたが、そんな奇想天外な剣などそうそう存在しないのだ。
「そうなると、宝箱とかから見つけるとかか。」
「シドさんはもう長い事冒険者をやってらっしゃると聞いています。その長い旅の中でも最強の剣には未だ出会えていないのですね。」
「……洞窟にある武器ってのは悪くは無いんだが数多くある内から自分の手に合う物が手に入る確率って言うと相当に低いんだ。」
死ぬまでにはもしかしたら見つかるかもしれないが、そんなチンタラしてられない。シノ達の所に戻った時には新しい剣が手に入っていて欲しい。
「……!そういえば一つ、思い出したことがあります。」
「ん?」
「ゴーバス城で近々闘技大会が開かれるという話を聞きました。そしてその大会で優勝した者には優勝者に相応しい武器を与えると言う話だったと思います。」
「ほう。優勝者に武器か。」
「ゴーバス王国はラズリードに並ぶほどの大国です。それがシドさんのお眼鏡に適うかどうかは分かりませんが、もしかしたら求めているような剣が手に入るかも知れません。」
「たしかにな。その大会ってのはいつ頃なんだ?」
「たしか、二週間ほど先だったと思いましたね。ゴーバスに居る友人から教えてもらった情報なので確かだと思います。」
リンカスターの友人か。なんか知らんが真面目そうな気がする。……!!美人の匂いもする気がするぞ。
「ゴーバスはラズリードと同盟関係にありますし、安全な国です。シドさんなら心配はないと思いますけど。」
「なるほど。分かった。ならゴーバスに行ってみるとするかな。」
「もし何か困った事などあったら、私の友人の元を訪ねてみてください。リアンと言ってゴーバスで魔法の研究をしています。私の知り合いだと言ってくださればきっと歓迎してくれると思います。」
「む……何か、すっごい悪い気がするぞ。」
そこまで世話になってもいいものなのだろうか。リンカスターはどうしてそこまで俺に献身的なのだろうか?よくよく考えればこんなわけの分からない相談にも親身になってくれるのはどうしてなのだ?
「シドさんは、私の恩人ですから。受けた恩は真摯に返さなければいけないと思っています。」
「まあ恩人だな。はっはっは!!」
「はい。」
……その真っ直ぐな笑顔が今は少し痛い。別にただ助けただけだし、身も蓋も無い言い方だが下心満載だったのにな。
結局リンカスターの中では俺が恩人になってしまったわけだが俺からするとその反動がどこかで来るのが怖いのだ。本当の俺を知ったらリンカスターは俺から離れるだろう。……ま、いいけどな。そこまでの付き合いだっただけの話だ。
「最初は、シドさんの事を、軽薄な人だなって思っていましたよ。いきなりナンパされて、何かと思いました。」
「ときめいたのか?」
「全然ときめきませんでしたよ。呆れました。せっかくカッコよかったのに自分で台無しにしてましたよ?ふふ。」
……第一印象はあんまりよくなかったらしいな。まあ、あの頃は確かに本当に好き放題やっていた頃だ。あの頃の俺を好きだっていう奴はそれはそれでちょっとおかしいかもしれない。
「……でも、おぶってくれた時。なんだかすごく落ち着いたんです。暖かい背中……昔、お父さんにあんな風にしてもらったなって。」
「そ、そうか……」
……
……いい想い出みたいになっているようだがその時の俺は確か胸の感触をただ味わっていただけのはず……ぐぐぐ……心が痛むぞ……
「それに、ラミさんから聞きましたよ。……結局シドさん、あの子からの報酬を受け取らないで返してあげたんですよね。」
「……ガキが用意するような報酬、貰わなくてもあんまり変わらん。」
「そうですね。今思えば、あの魔物を相手にするのにあの報酬は妥当ではなかったかもしれませんね。……でも私は報酬なんてどうでもよかった。ただ目の前で困って泣いている子を助けてあげたい、そう思いました。」
「助けたじゃないか。」
「……いいえ。あの子を助けたのは、シドさんです。私は……」
「リンカスターがあの依頼を受けてなかったら俺だってあそこに行かなかった。お前が受けたから俺が駆けつけてあの魔物を倒した。だからリンカスターが助けたんだ。」
「……」
彼女は俺の言葉を聞いて、微笑んだ。……ちょっとはそれで救われるだろうか。俺の言った事は真実だ。何の間違いも無い。
「……その話を聞いたとき、思ったんです。この人は、口で言っているよりもずっと心の優しい人なんだって。きっと恥ずかしがり屋だから本当の気持ちを隠すために変な事ばっかり言っているんだって。……ふふふ、ちょっと言い過ぎましたね。昔の事ですから、水に流してください。」
そのはにかむ顔に胸が少し、変な感じになる。
……アホか俺は。その気持ちを無視する。
「あー……うむ……しかし、今思えばリンカスターにあれほどの傷を負わせるとはあいつは一体なんだったんだろうな。」
ちょっとばつが悪そうに俺は少し話題を変える。
「……あの魔物なんですが、実は私はあの時初めて見ました。ラミさんから聞いていた話では洞窟に住みついたグワザを討伐してほしいと言う話でした。ですがあの姿は……今思い出しても恐ろしいです。シドさんが駆けつけてくれなかったら今こうして話す事も出来ていなかったでしょうね……」
あの時は流れで一気に倒してしまったが、確かにあれはグワザとは似ても似つかない姿だった。一切の可愛げなどありはしない猛り狂う野生の猛獣そのものだった。体長も通常のグワザの二倍はあったろう。……俺も初めて見た。あの時はまだ見ぬ魔物だったのだと思っただけだったが、今の俺には一つ思い当ることがあった。
グワザの毛の色は一般的には茶色なのだが、あのグワザの毛は真っ黒だった。
……思い出すのはあの真っ黒なデンプシー。……そして結晶によって魔物に変えられてしまったあの二人の姿も真っ黒だった。
……もしかしたらあの頃すでにあの結晶を使って誰かがあのグワザを狂暴化させたのかもしれない。
あいつの話を思い出す。確かアイツが作ろうとした魔結晶とやらは人が触れる事によってその体と一体化して魔物の力を体に宿すとか言っていたはずだ。ならもしかしたらあのグワザやデンプシーは元々人だったのかもしれない。……たとえそうだとしても俺は容赦なんてしないが。
でもちょっと違和感も否めない。
あの二人が変貌した魔物の強さはとてつもなかった。……情けない話だがあの時の俺が真っ向から向かっても勝つことは難しかっただろう。だがグワザやデンプシーは強いと言っても倒せないほどではなかった。まあ不意打ち気味ではあったがあっさり倒すことが出来たわけだし。
こういう仮説はどうだろう。グワザは高い攻撃力を有する魔物だ。だからその攻撃力は強化された。だからこそリンカスターが重傷を負った。だが防御力に関してはそこまで変化していなかった。デンプシーはその強靭な体が強化された。……あの二人は、分からん。ただあの二人は弱点が次々となくなっていき、結局こっちの打つ手が無くなっていってしまった。……そこにどんな法則を見いだせるのか。現状では何も思いつかなかった。
今後もあの黒い体の魔物が現れる事はあるのだろうか。
……どんな奴が来ようともそれに負けないだけの力がやっぱり必要だな。
俺は気持ちを新たに次なる場所へと行き先を定める。
「よし、そしたらゴーバスに行くとするかな。次にあんな奴が現れてもまたスパッと倒せるような剣を持って帰って来るからな。」
「はい。シドさんの新しい剣。楽しみにしていますね。」
「疲れてるとこ長々突き合わせて悪かったな。」
いつの間にやら一時間近く時間が経ってしまっていた。
「いいえ。気にしないでください。……私も、シドさんとお話しするの、好きですから。」
……分からんぞ。分からんが。なんか桃色の空気が出ている気がする。……このムードは。あれだ……ダメだ。
「……ん、じゃあな。」
「……はい。お気をつけて。」
このままじゃいたたまれない空気になるのは目に見えていた。……俺はさらっとその場を立ち去る事にした。……くそ、リンカスターの前だとなんか生真面目になっちまうと言うか……これはこれで向こうのペースみたいなもんだもんなクソ……
……
「……」
シドが去った後、誰も居なくなった虚空を見つめながら彼女はぽーっとしていた……
「あー、ちょっといいかな?」
「は、はい!なんでしょうか隊長っ!!」
こっちはこっちで空気を読んで二人の会話に乱入しないで居た事かれこれ30分、立ち聞きをするのは彼的にマナーに反するという事もあって耳を塞いではいた。
「今日の訓練の事について話をしようかと思っていたんだけれど……」
「……」
「……大丈夫かな?」
「は、はい!それはもちろんっ!!」
何があったかは分からないけれど、その顔が赤みを帯びているのが彼にはありありとわかったのだった。




