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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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ポーカー

「~♪」


鼻歌とは上機嫌なもんだ。一見するとどこまでも正統派の清楚なお嬢様に見えたのだが、実はいつもこんな感じだったのだろうか。あまりそこいらの女の子と変わらんな。


「ってか、姿そのままだったら姫だってバレバレじゃないのか。」


街中だと言うのに普通にドレス姿だし、そりゃあすぐに見つかるだろう。


「大丈夫大丈夫。みんないつもの事だと思って何にも言わないもん。はーい。」


……俺が知らないだけでこのお転婆っぷりは誰もが知るところだったらしいな。……のんきに挨拶なんか交わしている。そう考えると兵士もそこまでガチで追いかけているわけではなかったのかもしれない。


「で、結局街を見て回って終わりなのか?」


「うん。異常なし。それが分かればいいの。」


兵士達の追手を交わしながら俺たち二人は夜の街を闊歩し続ける。……夜だと言うのにあまり下品なイメージは無いな。単に賑やかな雰囲気だ。……俺はどっちかと言えば下品な方が好きなんだが。


「上に立つものとしては、街の治安がしっかりしてるかどうか確かめる必要があるの。」


「自分自身の目で、か。」


「それに、そうする事で市民の味方なんだな、って思わせられるでしょ?偉いからって上で胡坐ばっかりかいてるといつのまにか不満がたくさんたまっちゃう。下がしっかりしてない国はすぐに傾いちゃうのよ。」


……可愛らしい見た目に反してリアリストだ。しかもなかなか腹黒そうだ。こういうのを敵に回したくないタイプと言うのだ。


「いつもは一人で周ってんのか?」


「あんまり雁首揃えて歩くのもそれはそれで威圧しちゃうでしょ?」


最低限護衛ぐらいは付けるべきだとは思うがな。まあ、よその国の事だ。もういいか。


「ところでシド様、今日は一人なの?あのシノって子は?」


「あいつは長期休暇中だ。まあすぐに戻ってくる。」


「そうなんだ。てっきり、もうあの子に飽きちゃったのかと思った。」


……その言葉には少し棘があったように感じる。


「シド様、女癖悪そうだもん。次の新しい子を探してるんだと思ってたけど違うんだ。」


「……素直な感想だな。まあ、間違ってない。」


歯に衣着せぬ言い方だが俺はそっちの方がしっくりくる。変に勘違いされるよりずっといい。


「あの子のほほんとしてて何考えてるかよく分からない感じ。正直シド様とはあまり反りが合わなそうだけれど。」


「結局のところ何が言いたいんだ?」


「あの子と一緒に居ても良いことなさそう、って思っただけ。」


「……」


「私の見立て、結構当たるんだから。」


「……気に留めとこう。」


「あの子に飽きたら他の女の子いくらでもあてがってあげてもいいからね。」


……ずいぶんフランクな口調になったもんだ。……そしてこの挑発するような物言いは恐らく、ワザとだ。


俺から何らかの反応を得ようとしているのだろう。


……


ぴーん!!


「なら今すぐあてがってくれ。」


「え?今すぐ?……いいけど……」


「よし、決定だな。取り消し無しだぞ。」


……ぐふふ。毒を喰らわば皿までだろうが。というわけで俺は王女の手を取り宿屋へと直行する。


……


「いきなり王女を宿屋に連れ込むのはどうかと思うけど。店の人も目を白黒させていたわ。」


「そっちのペースに巻き込まれるのはあんまり好きじゃない。俺のやり方で行かせてもらうさ。」


「変な噂が立つのはごめんよ。」


「それを決めるのは国民だろうが。ここまで来た時点である程度の覚悟はしてるんだろうな。」


「……この国のトップ相手に、何をするつもりですか?シ・ド・様?」


「やる事なんて、決まってるだろうが。」


「……」


「ゲームをするぞ!!」


「……」


「……」


「何をするの?」


「そうだな。んじゃ上品にポーカーと行くか。互いの持ちコインは100枚という事にしよう。一度にベット出来る最大は20枚だ。いいな。」


俺は手慣れた手つきでカードをシャッフルし、チップを出す。


「……」


俺の何を測っているのか知らんが俺は俺でやらせてもらうとしよう。


「ほら。」


スッと相手に5枚、こちらにも5枚カードを配る。


「……」


向こうはカードを一瞥する。相変わらず笑顔は崩さない。ポーカーフェイスは得意なのだろう。


俺の手は……ペアが一枚か。まあ、こんなとこだろうな。定石ならペアを残して三枚チェンジだな。ストレートを狙うには手がバラバラだし。


「んじゃあそっちがまずは俺が親だ。手始めにまずは三枚だ。」


「じゃあ、レイズ七枚追加。」


「……ほう。コールだ。」


いきなり跳ね上げてきたか。結構いい手と見える。


「何枚交換する?」


「ふふ。五枚。」


「……」


俺は五枚のカードを差し出す。


……初手で何らかの役が完成する確率ははっきり言って低い。せいぜい1ペア、良くてたまたま3カードが良い所だ。……五枚交換か。


「なら俺も五枚交換だ。」


これで捨てられたカードは10枚。無論相手の捨てカードは分からないが、これでほぼほぼ運の勝負になる。


……


「ベット。15枚だ。」


「んー。コール。」

「ベット。20枚だ。」


「コール。」


……



結局最大枚数までコインを賭け合う。後は互いの手札を開き強かった方がコインを総取りする。


「じゃあオープンだな。」


「じゃあはい。」


……俺の手はスリーカード。向こうの手は……


「フラッシュか。」


……初戦は俺の負けだ。


「ふふ、勝っちゃった。」


「ええい、まだまだ勝負は始まったばかりだ。次行くぞ次。」


……


「はい、フルハウス。」


「ぬお……」


「私の勝ちー!」


……なんでだ。今日はいやについてない日だ……結局10戦して勝ったのは2回……それも張りが少ない時だからあんまりプラスにもなってないし……


「つ、次だ……あ。」


……コインが、尽きた。


「あ、おしまい?」


「む……むむむ……」


完敗だった。……つーか強いな……単純に強運だ。流石に王族だって事なのだろうか。


「わーい!!ご褒美ご褒美!」


「ご褒美?」


「シド様、ラズリードの兵士になってくれない?もちろんいい地位を用意させてもらうわ。」


……


「そういうのめんどくさい。」


「えー。」


「誰かに使われるのが嫌だから冒険者をやっているのだ。」


「そうなんだ。残念。」


「……で、何か分かったのか?」


「?」


「……流石に何の意味も無くここまで遊びに付き合うはずないだろうが。なんか企みがあるに違いない。」


「……それは、シド様も同じなんじゃないかしら?だからポーカーなんでしょ?ポーカーって言うのはその人の性格を見極めるのに有効的だもの。」


……別にそんなつもりはないが、まあ確かにポーカーと言うゲームにそういう素養があるのは確かだろう。ある程度ゲームを重ねる事でその人間の打ち筋を知ることが出来る。ひいてはその人間の内面が映し出されるのだ。


「でもそれも互いに本気でやっていた場合の話だ。」


「私は本気だったもん。ちょっと本気出し過ぎちゃったかも。」


「本気出したら運気もコントロールできるって言いたいのか?」


「もちろん。だって私は王女だもん。たくさん居る人の中から王女としての役割を担う為にこの世に生まれた。その時点で私はとんでもない確率の賭けに勝利しているの。加えてこの美貌にこの知性。ここまで兼ね備えた才色兼備な王女なんてそうそう居ないんだから。」


……笑い飛ばすところではないようだ。ただ言っている事は過激ではあるが基本的には間違っていない。


「変わった王女も居たもんだな。」


「変わった冒険者は数多くいても、変わった王女は私ぐらいなものでしょ?だからすごくレアなの。」


……時計を見ると日が変わっていた。


「そうだ。ついでだから一つ頼みがあるんだが。」


「頼みを聞くのはシド様の方じゃないの?私が勝ったんだから。」


「それはまた違う話だ。なんか良い剣無いか?」


「剣?シド様剣が欲しいの?」


「強い俺には最強の剣が良く似合うんだ。」


「あんまり私は剣の事とかよく分からないけど、この国で一番の剣って言ったらグラムが使ってるオールスレイトか、リンカスターのアスカラシュじゃないかしら。どうしてもって言うならあげてもいいけど、シド様がラズリードに来てくれたらね。」


「だから行かないっての。」


それにリンカスターの剣は使ったがもう一つなのだ。


「オールスレイトってのはどんな剣なんだ。」


「どんな剣って言われても、どんな剣なのかしら。二本で一つの剣とかって言ってたけどよく分からなかったわ。それにグラムは極端な話どんな剣を使っても強いもの。」


ようは双剣とかそんなところなんだろうか。……なんか違うな。俺に似合うパワフルな感じが足らない気がする。


「もしかしてシド様、剣を探しにラズリードに来たの?」


「まあ、ついでにな。メインは80点以上の可愛い女の子探しだ。はっはっは!!」


「じゃあ私は?」


「お前はぶっちぎりだな。だいぶ格が違う。」


「わあ嬉しい!」


……まあ、性格までそうだとは言ってない。


「……私は、この国が大切。この国が大好き。だからこの国を守るためならどんなことだってするわ。」


……裏を返すならばそれは、他の国など知った事ではない。そう言っているように聞こえた。


「だからシド様、もしこの国が危なくなったら助けに来てね?」


「……どうかな。」


「私が勝ったんだから、一個くらい言う事聞いて欲しいな。」


……表情こそ笑っているが、何だろうこの威圧される感じは。……あまり愉快じゃない。


「このままだと、きっといつか戦争が起こるわ。ヤシャマやクノッサル辺りと……仕方ない事だけどね。」


「分かってんなら止めりゃいい。」


「向こうは止まらないわ。だからって無抵抗だったらどうなるか分かるでしょ?だから戦うの。まだその時じゃないけどね。その時が来たら容赦はしないんだから。」


「……なるほど、俺の事を他の国のスパイだと思ってるわけだ。」


「そんな事半分くらいしか思ってないんだから。」


「半分も、って感じだがな。そのくだけた口調も相手を安心させて口を滑りやすくさせるためってとこなのか?」


「流石にそこまで計算づくじゃないわ。それにシド様はスパイにしては適当過ぎるもん。もしこれでスパイだったら運が悪かったと思うしかないわ。」


「……それにしちゃ結構用心してるじゃないか。上に誰か潜んでるだろ?」


「びっくり!!メリアムルー!!ばれちゃってるからもう下りてきていいわよー!」


「失礼します。」


天井の一部が外れてそこから女が下りてくる……


「シド様がもしフィータ様に手を出そうとしたらすぐさま手を打とうと待機していました。」


「……物騒な事言うな。美人が言うセリフじゃないぞ。」


「でもシド様結構勘が鋭いのねー。」


「ふっふ。美人センサーに引っかかったのだ!」


というかこれはもはや長年の感覚と言うやつだ。このメリアムルと言う女はおそらくかなりの手練れだろう。気配を消すという事に関して言えばほぼ完璧だった。……けどその完璧さが逆に不自然さを醸し出す場合もある。それを感じ取っただけだ。けどこれはどうにかして習得できる物じゃ無い。俺だって他人にやり方を教えるなんて無理だ。なんとなくとしか言えない。


「フィータ様、流石に夜も更けて参りました。そろそろお帰りになりましょう。」


「えー……もうちょっとだけシド様の事知りたかったのに。」


「一朝一夕に分かるほど単純な男じゃないっての。」


「ふふ、でもやっぱりシド様は面白そうな人。ちょっとおかしなぐらいが退屈しなくて面白いんだもの。」


「そう思うのは結構だがあんまり面と向かって言わない方がいいぞ。」


「正直なのが私の良い所なの。」


「フィータ様。」


「ちぇー……じゃあねシド様。ごきげんよう。」


ひらりとドレスを優雅にたなびかせると二人は出て行った。


……


なんだか試されてるみたいでシャクだったな。けどまあ美人だから許そう。相手が美人なら大抵の事は許すのだ。


しっかし、見た目はほぼパーフェクトなのに一皮剥いたらいい性格してるぜ……


何て言うか良く言えば自信家だし、悪く言えば傲慢だ。けど王女ってのはあんなもんなのかもしれない。あれぐらいじゃないと国を支えて行く事なんてできないか。


戦争がどうとか言ってたが、いつ来るかも分からないそんなものに脅えてもしょうがない。一年後や十年後の心配より俺は明日の楽しい一日の事を考えた方がいいと思う。


「つーわけで、寝るか。」


遊んだトランプをそのままに俺はベッドに入る。

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