嬉しいのと恥ずかしいのとええと、そのあの、ええとその……
トボトボ……
「大丈夫ですよー。きっと次に会った時には元通りのシドさんとシノさんになってますからー。」
……というより、私はシド様が喜んでくれると思ってやった事が逆に何か不機嫌にさせてしまった事が、嫌だった。……あれだけ一緒に居ながら、何をしたらシド様が喜んでくれるのか私は未だに分かっていないのだ。リーナさんには気を遣わせてしまうし……なんか自分に対して嫌悪感。……はぁ。
「おお!!リーナさんにシノちゃん!やっほー!!」
「あ、エルニさんですよー。」
「剣の情報は見つかりましたか?私もみんなに聞いて回ってるんですけど、やっぱりみんな知らないみたいで。……シノちゃん、なんだか元気ない?……何か困りごととか?」
「……くすんくすん。」
「えええ!!シノちゃん、もしかして泣いてるの!!?な、何があったの?」
……口で言っただけなのに必要以上に心配させてしまった。……ふざけてる場合じゃない。エルニさんに悪い。
「いえ、泣いては、いませんでした。ただ、シド様をちょっと……怒らせてしまって……」
「?シドさんが?そうなんだー……でも、だったら仲直りしなくちゃ駄目だよ。二人共いつもすごく仲がいいんだもん。すぐ元の二人に戻れるよ。それに、二人が喧嘩なんてしてたら私も嫌だもん。」
「……そんなに、私達仲がいいように見えますか?」
……出会う人は大体私とシド様が仲がいいと言う。……だけど、私にはそんな自信が無い。……シド様が私にどんな感情を持ってくれているのか、それがプラスの感情なのか……自分ではそんなふうに思えない。
「出会って間もないけど、二人みたいにお互いの事信頼し合ってるような関係、憧れちゃうよ!」
「うふふ、そうですねー。ほんとの信頼関係って、口に出さなくても伝わるものですよー。シノさんには、シドさんの気持ち、伝わりませんか?」
……シド様の、気持ち。……薄情と思われるだろうけど、あんまり考えたことが無い。だって、いくら考えたところでそれが真実かと言われると違う事の方が多いに違いない。……例えば私の理想を言うなら、シド様が私の事を少しでも大切に思ってくれているのなら、それが私の理想だ。何にもない私なんかの事をそんな風に思ってくれるなんてまさに出来過ぎた理想だ。……理想は、理想なのだ。シド様の隣に居るべき人物は、本当は私ではないのだといつも思う。もっと相応しい人が……そう考えるといつ愛想を尽かされるのかと不安になることもあるが、あえて見ないフリをしている。……そんなこと考えただけで、悲しくなってくるから……
「一緒に、シドさんの所に行こうよ。話し合えばすぐに仲直りできるよ、きっと。」
「うん、そうですよー。」
……二人は私のためにシド様を探してくれることになった。……また、甘えてばっかりだ。
・・・・・・・・・
「ん?一人か?」
「……またお前か。エルニと遭遇するよりお前と遭遇してばっかだな……」
「苛立っているようだが、剣の情報はまだ見つからないようだな。」
「そんな事もういいっての。」
「?……そういえば、聞きたい事があったんだが、お前とあの二人は、どういう関係なのだ?」
「……狙ってんのか?」
「単純に気になっただけだ。他意はない。お前のように見境なく女性にアプローチをかけられるほど器用じゃないのでな。」
「ふん。リーナは依頼を受けた先でちょっとな。シノは、あいつは……あいつは。あいつは俺のもんだ。」
「お前のもの、か。……あの子の事、よく見ていてやるんだな。……表情にはあまり出さないが、不安をたくさん抱えているようだ。」
……同じ様な事、前にも言われたな。……カラマに言われた気がする。……言われなくても、分かってる。
「……そんなに、俺があいつをよく見てないって思うのか。」
「……いいや、その逆だ。……よく見過ぎていて、近くばかり見てしまっているからたまには全体を見渡してやるといい。そう言っているんだ。」
軽く笑いながらそんな事を言いのけてきやがる。
「お前があの子をとても大切にしているのは、よく分かる。あの子の事、好きなのか?」
「好きとか嫌いとかガキかお前は。」
「あのリーナと言う女に聞かせてもらった。身を張って自分達を護ってくれたと。……大した事じゃないか。正直だらしない男だと思っていたが、見る目が変わった。」
褒めてるつもりなんだろうが男から褒められても気色悪いわ。
「エルニに手を出そうかとしているのかと思った時にはとんでもない奴が依頼を受けたもんだと思っていたが……少し安心した。お前は見た目よりいい奴のようだ。大切な人の為に自らの身を呈して護る事が出来る事が羨ましい。お前のような奴は嫌いじゃない。……友人としてならお前とはうまくやっていけそうな気がする。」
「げー……男が友人とかキモいっての……俺は可愛い子にしか興味ないんだよ。」
「……俺もお前ほどまっすぐだったら、良かったんだがな……」
「まっすぐになればいいだろうが。」
「ふっ……ほんとにな。」
……自虐的な笑みを浮かべたと思ったらそれから黙っちまった。変な野郎だ。
「あ、スクリムー!!シドさーん!!」
「ん?エルニか。何かあったのか?」
「うん。」
「……いっ……!!」
エルニと、リーナと……シノが居た。……気まずい。
「……」
「……」
「じゃあ私達は、天使の落し物がどうなってるか見に行きましょうかー。」
「そうですね!スクリムも行こうー!」
「……そうだな。」
……空気を察してかなんか知らんが二人っきりにされちまった。……こういうのこっ恥ずかしくて耐えられん。
「……」
「……」
「……」
「……」
沈黙最長記録更新かもしれん。……ああ、くそくそくそ。
「シド様……すみません……」
「あ、あ?」
「私は、馬鹿ですし、シド様のお役にたてるような事も出来ません。……それに、シド様を怒らせてしまったのも、どうしてなのか分かりません。……すみません。」
「……誰が、悪いんだ。」
「……私です。私が全部……」
……
ぽこん。
「あいた……」
「……アホ。大間違いだっての。……つーか。怒ってない。……だから、ほら……行くぞ。」
「……シド様。」
「……だー!!こうなったら一日中ゲームすんぞ!!」
「……分かりました。」
……ったく、案の定な事で悩んでやがった。……んなこと悩まなくていいようにゲームに誘うぐらいしか思いつかんが……ええい、それでいいんだそれで。
二人で夜までゲームをして、そのまま寝た。
・・・・・・・・・
「むくり。」
……最後どっちが勝ったんだったっけ。……いつの間にかシャットダウンしていたようだ。ゲームが広がりっぱなしだ。……シド様もまだ寝ている。
「……じー。」
……寝顔をじっと見つめる。……シド様だ。
……結局シド様は私の事を許してくれたようだった。……だけど、やっぱり根本的な解決にはなっていない。……願いの杖を見ながら私は思う。私にしか出来ない何かを欲しいと。……それが何なのかはまだわからないけど。……願いの杖以上に忘れかけてるけれどレベル特典もまだ使っていない。久々にあの騒がしい人でも呼んでみようか。……いや、うるさいからやめよう。
「……」
「あ、シド様。おはようございます。」
いつの間にか目が開いていた。気がつかなかった。
「……近いな。」
「……おはようのちゅーでもしようかと。」
「……するか?」
「え、え?……その……初めてなので優しく……もじもじ……」
「……目瞑れ。」
「……」
私は言われるがままに、目を閉じる。……心臓が、バクバクしている。……おどけておちゃらける流れのつもりだったのに……もしかして本当に……あわわわ……シド様の事は……好きか嫌いかで言うならもちろん好きな方だし……それにたくさんお世話になってるしだからだから……ううぅぅぅ……
「……目、開けろ」
あれ、またシド様が視界に映る。
「……開けました。」
「……じゃあもっかい瞑れ。」
「……ぱち。」
また消えた。
「……」
「……まつ毛長いな。」
「よく言われます。てれ。」
多分甘い流れは終わった。いつもの雰囲気だ。ホッとした様な……拍子抜けした様な。
「……」
……え?
……今、唇に、何か触れた。……ほんとに、一瞬だけど。……何かが。
「もういいぞ。目開けて。」
……自分の指で唇に触れてみる。……同じような違うような……
「……ちゅー……しましたか?」
「……さあな。」
……指だったのかもしれない。目を瞑ってたからそうだって言う確証なんてない。……だけどドキドキしているのは紛れもなく事実だ。私の中では、つまりそういう事らしい……
「……」
「……」
「///」
「……よし、起きるか。」
「……あなた……って呼んだ方がいいでしょうか?」
「……今まで通りの呼び方にしろ。」
……結構こんなあっさりさっくり重大イベントを消化してしまったかもしれない今日この頃、私は平静を保っていられるだろうか……
・・・・・・・・・
「あ、おはようございますー。二人とも、仲直りできましたかー?」
「……元々喧嘩してないっての。」
「ぽー……」
「うふふ、良かったですね。?シノさん、熱でもあるんですか?なんだか顔が赤いような……」
「いえ、大丈夫です。ええそれはもう、いつでも大丈夫です。」
いけないいけない平常心平常心……むー……
「そう言えば知ってますかー?この近くに盗賊団がうろうろしているらしいんですよ。」
「盗賊団?また時代錯誤な連中が……」
「それが、結構凶悪な人達みたいで、近隣の町にも大きな被害を出しているみたいなんですよー……怖いですよねー……」
「ふーん。」
「無茶だ!!エルニがやる事じゃない!」
他愛もない世間話を繰り広げていると突然大きな声が響く。……スクリムさんの声だった。
「……なんか言い争いしてるぞ。」
「行ってみましょうかー?」
……
「だって、困ってる人達が居るのに!」
「そりゃあそうだけど、俺達にどうこう出来る事じゃない!……分かってくれ。」
「……でも……」
「あのー……どうかしたんですかー?」
「……最近この近くで盗賊が暴れまわっているんだが、エルニが盗賊を退治しようと言いだしているんだ。……奴らはとにかく数が多い。……そんなところに向かっていったところで返り討ちにあうだけだ!」
「だけど、それでも行かなきゃ……みんな、きっと困ってるよ。……こうしている間にも、どんどんたくさんの人が苦しんでるかもしれないんだよ。」
エルニさんが言う事はもちろん分かる。……だけど現実的にどうかと言われると多分難しいに違いない。スクリムさんだって出来る事なら喜んで手伝いたいはずだ。それでも止めるという事は……つまりそういう事だ。
「……悪い事をしてるなら、懲らしめないと。」
「懲らしめて、どうするつもりだ。」
「……話し合うよ。」
「……殺せばいい。そうすれば……」
「ダメだよ。同じ人間同士だもん。分かるまで話すつもり。」
……それは、あまりにも理想、夢想、空想……なのだ。……誰もが夢見るが、誰も叶えることが出来ない。そんな願いはいつも嘲笑われ、踏みにじられてきた。
「……せめて、二日、待ってくれ。……それまでに、準備を整える。」
「……」
そんな待っていられない。……エルニさんの顔はそう語っていた。
「今そいつらはどこに居るんだ?」
「……何日か前に近くにあるカイガという町に現れたとは聞いている。今どこに居るのかは……」
「ふふん。どうせやる事も無いしな。俺がその盗賊共をどうにかしてやる。」
「そ……そんな!き、危険ですよ!?」
「それを言ったらエルニだって同じだろうが。危険なのに今行こうとしてるんだぞ。」
「そ……それは……」
「盗賊の百人や二百人俺の相手じゃない。暇つぶしにぶっ潰してきてやる。」
「……本気で言っているのか?」
「言っとくがな。今の俺は無敵モードだ。はっはっは!」
……いつにもましてイケイケなシド様だ。……さっきのが影響しているんだろうか……また思い出す……///
「盗賊達がどれだけ強いかは分かりませんけどー……呪術の徒よりは手強くないでしょうし、私もお手伝いしますよー。乗りかかった船ですからー。人助けですよ人助けー。」
「で、でも……皆さんを危険な目には……」
「大丈夫だっての。心配すんな。はっはっは!!」
こんな上機嫌なシド様を誰が止められるだろうか。……でも、エルニさんでなくても盗賊団なんて見過ごしてはいけない事は分かる。……止める理由は無い。
「行きましょう。シド様。」
「おう。」
「……ならカイガに向かうといい。……つい数日前の話だ。何か情報が得られるかもしれない。ただ、盗賊団を甘く見るな。奴らはどんな汚い手でも使うだろう。……少しでも危険を感じたらすぐに戻れ。」
「スクリム……」
「……俺達が行くより、戦い慣れしている方がまだマシだ。……一対一ぐらいならともかく、集団相手で勝てるほど俺達は強くはない。……情けない話だがな。」
「ま、ふんぞり返ってここで待ってろ。俺は一騎当千だからな。おっし。とりあえずカイガに行くぞ。」
私達は次なる町へと向かう。……心配そうに見つめるエルニさんの視線を背に受けて……




