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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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劣勢を覆すには

「なんだ……あの大きさは……」


ラズリード王は、震える。


もはやラズリードからそれを見る事が出来てしまった。それほどまでに、ゴームは巨大化した。まるで、山のように……


ラズリードの民衆は恐怖に包まれていた。……こちらへ、向かってくるそれに。


「巨人って……あんなデカかったのかよ!」


「こ、こっちに……向かってくるわ……」


「に!逃げろぉぉぉ!」


……その混乱を制すように、一人の女性が現れる。


「ベ…ベティクス様、お、俺達は、どうしたら……あの巨人は、こっちに……」


「私達が、必ず、守ります。」


ただ一言、決意を込めた一言を、伝える。


みんな、知っていた。彼女がただ気休めでそんな事を言う人物ではないと。


「……難しいかもしれませんが、こんな時だからこそ、冷静になりましょう。皆さんは、いつでもすぐに避難できるように準備を行いましょう。そのための時間は、私達が命をかけてでも作ります……」


その意志は、紛れもなく本物だと、誰もが知っている。……今やらなくてはいけない事、それを自覚しなくてはいけない時なのだ。自分達の生きる時間を作るために、今この瞬間戦っている人達がいる。それに、報いなければいけない。


民衆は落ち着きを取り戻し、己が為す事を始めた。


……


「どうやら以前の戦いは、小手調べだったようですね。あれほどの大物とは。」


「……我々も向かうべきだったかもしれませぬな。」


「ぐわっっはああはっっはっ!!」


「ここは俺達が守るからグラム達は存分に戦ってこい!!だ、そうですよ。」


「……一刻も早く、向かいましょう。みんな、先んじてあの巨人を食い止めてくれているに違いない。」


「……行きましょうぞ。我ら第一軍、準備完了しております故。」


強者との戦いを常に望んでいる。だが、それ以前に、大切な人達に、この国に仇なす者は、問答無用で許すつもりはない。


魔物だろうが、巨人だろうが、ただでは済まさない。


それが、流儀だ。


・・・・・・・・・


……みんな、シド様に続いて、巨人へ、立ち向かっている。私も……私もッ……


「よっ、シノちゃん。無事でなにより。」


……エアスト、さん。……と、大きな、鳥さんだ。


「二人でこのまま、空のデートってのはどうよ。んでそのまま、駆け落ちとしゃれこまない?」


「ちょっと前にも誘われました。」


……でも、今度のは、何か違う。言葉の裏にある何かを感じる。


「……倒せるって、思ってる?」


「……シド様が、あんなヤツに俺が負けるわけないって、言ってました。」


「たっはっは!……つくづくヤベー奴だなぁ。」


……


「シノちゃんはどうすんのさ。」


「……お側に、います。……たとえ、何の役に立たないって言われても。それが……今の私の小さな小さな、一生懸命なので……」


……


「笑いますか?」


「……笑わねえよ。偉いじゃんか。……アイツにはもったいないぐらいいい子じゃんか。……シノちゃんの勇気に、一つ俺が、手を貸そうと思って、来たのさ。」


・・・・・・・・・


「うおッらぁぁッ!……ちっ、流石に……しぶてぇッッ!」


間違いなくダメージは蓄積しているはずだが、まだゴームの足は止まらない……


「シドさんッ!ご無事でッ!」


「おおッ!!病み上がりで……無理すんなよッ!!」


「ふふ、お気遣い……ありがとうッございますッ!やああッッッ!」


傷は増えるが、まだ痛みを感じさせるレベルではない……ならば……


リンカスターは、意識を集中して……己の最大の一撃を解き放つッ!


「聖光のッ……一閃をッ……はあああッッッッッッ!!!」


その斬撃は一層深くゴームの踵を切り進む!その一撃が、遂に足を止めさせる事に成功するッ!


「いいぃぃぃああぁぁ……あああアァァァァ!!!」


もはやまともな思考能力は無くとも痛みだけは失われない。


では次にとる行動は?……外敵の排除、行く手を阻むモノを破壊する。


「いぎぃぃぁァァァああァァッッ!!!」


……大衆へと向けられていた矛先が、自分達へと向かう。元よりその覚悟ではあったが、いざ対峙するにあたってその破壊力は計り知れないものだと知る……


地上より50mの地点から見下ろせば、小さな点の粒。ゴームはそれを狙い、足を振り下ろす……


「だっ……だめだ……くぶっ……」


「ひっ……ひぁぁっ!!……ぎっ……」


悲鳴と共に次々に搔き消える命。一人、時には二人、瞬く間に魂の灯火が消えていく。


残された側の者達にも受難は続く。


「ち……あ、足が……」


その巨体が足踏みをする度に大地は激しく揺れる。……中規模クラスの地震のそれと相違ないレベルのものを引き起こす。立っていられない者や、次の行動を起こすのを阻害される者が後を絶たない。


「いい加減にッッ……してくださいッッ!!」


リンカスターは更なる追撃を左足に仕掛けるッ。剣はしっかりとその足を捕らえる。……だが、激昂するゴームには、もはやその程度の攻撃を意に介さない程のものでしかない。


「ウァァあぁぁッッっっッ!!!」


……いや、むしろ、リンカスターにとっては己の身へと返ってくる一撃となってしまう。


ゴームはその左足を思い切り振り回し、辺り一面の人間達はなす術なく吹き飛ばされるしかない。その重量で地面に、岩場に叩きつけられ……最悪は激突死に至る。


「ぐッッ……あああっっ!!!!!……あ……かはっ……う……っく……」


……リンカスターも、その毒牙の餌食になることを避けられない……遥か後方へと吹き飛ばされ、その全身が打ち付けられる。


「こ……こんにゃろおおおがぁぁぁッッッ!!!……くそっ……くそがッ!!!」


……


「やってくれたね……彼女でなく、僕を狙って欲しかったのにね……これじゃ本当にお飾りじゃないか……」


シンクレスはその身を震わせる……彼にしては珍しく表面に現れるほどの強烈な怒りが生まれていた。


「……巨人の足を止めなくてはいけないけれど、それで自分達がやられてしまってもダメだよねぇ……さて、せっかく彼女が作ってくれたこの機会……活かさなくちゃ、彼女に合わせる顔がない。」


……次の一手が、次の会心の一撃が必要なのだ。あと一押し……強力な。あの憎き巨体を亡き者にする……


・・・・・・・・・


「……リンカスターさん……しっかり……目を……」


苦痛に顔を歪ませている……ように見える。外傷も酷いが、内傷は更に大きい……よく見ると肩や足が、脱力していて、力が入っていないようだ。……折れてる、かもしれない。……このままここに放って置き続ければ、それこそ命に支障をきたすに違いない。


……そんな風に思いながら、それでも見ているしかできない私の元に、カラリーサさんが走って駆け付ける。


「はぁっ……はぁ……今ッ……回復を……」


……そう言って魔法をかけるとすぐさま乱れていた呼吸は少しずつおとなしくなっていく。……痛みが和らいでいるのが傍から見ても分かる。……無論すぐさま立ち上がり再度戦うなんてことは出来ないだろうけれど……


……私は、どうして、助けに、なれないのか。


……誰かを助けるためには、それに応じた力が必要だ。


敵を倒す力や、誰かを癒す力。それ以外にも多くの力が必要だ。そして、それを手に入れるためには、努力しなくてはならない。……みんながみんな、この世界を一生懸命生きた証、それが力なのだ。


……私に力はない。……私は未だ、一生懸命生きることが、出来ていないのだ。……分かってる。分かってる。情けない自分の事を私が一番分かってる。……そして、今はそれを悔やんでいる時ではないのだ。


「シ……シノ……さん……」


「……はい。」


喋るのも辛いだろうに、それでも彼女は、手に持ったそれを、私に手渡す。


「こ……こちらを……」


「……これは……」


ランカスターさんがいつも携えている。……とても、立派な剣……


「本当なら……この身が、尽き果てるまで、私は……私が、戦いたいのですが……情けない事に……体がもう、言う事を聞いてくれません……うっ……うっ……!!こんな、情けない事ッ……」


……情けないなんて事、あるはずがない。……無念に涙を浮かべるほどに、全力で戦ったその姿を、私は知っている。……その真摯な彼女の姿を、私は、直視できない……こんなに輝く人に向き合うだけの事を、私が出来ていない。


「……この人は私が見ているから……貴方は、貴方のやる事を、やってきてください……このままでは、どっちにしても私達は全滅してしまう。」


「……私は、どう、すれば、いいのでしょう……私には、何をする力もありません……」


「……泣き言は、この戦いが終わったら、いくらでもできます。……今そんな事を思っている場合ではない。……それは、貴方が……いえ……シノさんが一番分かっているはずです。」


「……」


「……貴方を見ていて思っていました。貴方はいつも立ち止まっている。……何かを決めることを、避けている。曖昧に誤魔化してその場を凌いでいるんだと、そんな風に思ったのですが……もっと何か違う。決断することを怖がっている。それは、きっと自分に対する自信の無さ……自己の否定……失ってしまう事への恐怖……何も知らないくせに、なんて思ってしまっていたらすみません。……今のは私が貴方を見ていて勝手に思ったことです。」


……


「今は、ただ、前に進みましょう。……全力で。……そうしなくては、未来はきっと掴めません。みんな、がむしゃらにやれる事をやっていきましょう。……貴方の精一杯、見せてくれますか?」


……


「……はい。」


……立ちすくむ私の為にカラリーサさんは言葉を紡いでくれた。……そんな人に、私はただ一言しか、返せなかった。……本当は、一言で、言い尽くせないほどの気持ちがあったけど……それを言葉に出来るほど私は、成長していないのだ。


・・・・・・・・・


「シド様ー……シド様ー……」


「ん……?おお……らぁぁぁぁ!!!」


捨て際に一撃をくれてやり、シドはシノの元へと駆け寄る。


……未だ攻撃は続く、だが、その手は徐々に少なくなり、いずれはまた進攻を開始するだろう……


「っつーか何でてめえが居るんだ。」


「……シノちゃんを口説きにさ。」


「……殺すぞ。」


「……巨人と言っても、多分人と変わらないと思うんだわ。心臓を突かれれば多分死ぬ。」


「……けど心臓は、多分狙えねえ。」


ゴームが巨大化する前、シドはゴームの心臓めがけて剣を打ち込んだ。……だが、シドには手応えを覚える感触はなかった。……思うに肉を掻き分けて心臓まで到達されるにはあまりにも深い場所にあるに違いない。……それ用の巨大な武器か何かを投擲出来れば話は別かもしれないが……現状では不可能だ。


「後は、ゴームが昔傷つけられたって言う傷をピンポイントで狙う……」


「んなもん……分かってたらてめえが教えてるはずだろうが。……今からそれをしらみつぶしに探すなんて不可能だ。」


「……よなぁ……」


「足を集中攻撃しても……あまり効かないのでしょうか。」


……巨大化する直前には相当弱っているように見えたのが巨大化したとたん何も無かったかのように……うん?


……間違いなくアイツは弱ってる。あれだけ攻撃を受けて無事なはずがない。けど巨大化してからは効いてるような素振りが減った……


「デカくなったせいで、あの野郎の感覚が鈍くなってるんじゃないか?痛みに鈍感になってるって事だ。」


「……だからすぐには大きくなんないのかね。そういうデメリットもあるから。痛みを感じないのとダメージを受けないのは別問題だしな。……いずれは足へのダメージが蓄積して動けなくなるかも知れんね。」


……けどそんな悠長に待ってなんかいられるか。


「感覚が鈍い……感覚か。」


一つ思いつく。だが……出来るのか?……分からない。心臓まで到達しなかったように、同じくそこまでいかない可能性も十分にある……第一そこまで行く手段も……


「で、その鳥はなんなんだ?」


「俺の親友よ。俺と同じで可愛い子には目が無いんよ。」


「……んな紹介させるために連れて来させたわけじゃねぇだろが。」


「……分の悪い賭けを持ってきた。多分チャンスは、一回じゃねえかな。……これが俺が協力出来る限界。……言っとくけど、もう何も勿体ぶってないからな。……これでダメなら俺も、おしまいだわ。」


「……てめえなんてどうだっていい。あのデカブツは、絶対にぶっ殺す。」


……交渉、成立だ。

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