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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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孤高なる者

「とっととその手を薄汚い手を離しな。」


「あッ……ぐっ……」


「状況を考えろ馬鹿が。こっちに要求できるような身分じゃねえだろうが。……しかし、てめえがライラックだったとはなぁ……名うての冒険者だとは聞いてはいたが、なかなか上玉じゃねえか。」


「てめえみてえな三下にんな事言われても全然響かねえな。」


かつて各地で暴れまわっていた盗賊団のアジトの壊滅任務。報酬も良かったのもあったが、あまりにも目に余る程の被害を出し続ける集団が気に食わなかったライラックはこの依頼を受けた。


彼女達にとって盗賊など何の相手にもならなかったが、数だけは多く、一瞬の隙を突かれてフォニカが捕えられてしまう。


こうなってしまったのにも理由があり、フォニカは魔物と戦う事に関しては抵抗は無いのだが、どうしても対人相手となると少しだけ躊躇してしまう時があった。それを案じて今回はフォニカを置いて行こうとライラックは考えたのだが、自分も役に立ちたいという彼女の意思を尊重して連れて行く事にしたのだが、それが裏目に出てしまったのだった。


「ら、ライラック……あっ……ぐっ……」


「フォニカ!」


男の太い腕が今にもフォニカの首をねじ切らんばかりの勢いで締め上げる。意識が途切れるかそうでないかの境目に彼女は居た。


「けっ、こんだけ雁首揃えても勝てねえからって人質とは、みっともねえ奴らだぜ。」


「シドの言う通りだね。……フォニカにこれ以上何かする様なら……流石の僕も、キレるよ。」


「はははッ!!威勢のいいガキ共だが……おらよッ!!」


「ああッ……!!!」


「っ……」


更に一層フォニカの首を締め上げる。苦悶に歪む表情に彼らは身動きが取れない。


「だよなぁ。お友達がだーいじだもんなぁ?仲良しごっこでこんなとこに遊び半分で来るからこういう事になるんだぜ?」


「……フォニカを離しな。」


「交渉できる立場じゃねえって言っただろうが……?」


「何がお望みだ?金かい?」


「体……っと言いたいとこだが……こんだけ仲間を殺されたんだ。てめえの首をよこせ。じゃねえと気が収まらねえんだよこっちはッ!!」


「首ね。はいよ。さっさと持ってきな。」


軽くそう答えるとライラックは男の元へ少しずつ歩み寄り、そして、背を向ける。


「……あぁ?」


「……なんだ?これでも襲うつもりが起こらないのか?しゃあない意気地なしだ。」


怪訝そうな顔を浮かべる男に対して更に両手を組んで頭の後ろへと持っていく。完全に無防備な背中だった。


「……」


「……どうした、首、欲しいんだろ?さっさと持って行けよ。それともブルって手も出せないか?」


「……なるほどなぁ。凄腕の冒険者と言えども、ガキがそんなに大事ってわけか。拍子抜けだぜ。冒険者ってのは……何があっても自分だけは生き残るもんだろ?間違っても他人の為に自分の命を犠牲にするなんてやるもんじゃねえ。」


「それは自分の命の方が大事な場合だ。フォニカはこれから、幸せになって行くんだ。これまで辛かった分だけ。いいやそれ以上に。いい友達に恵まれて、いい男を見つけて、可愛い子供を作って、みんなの笑顔に包まれて人生を終えるんだ。アタシの人生なんかよりよっぽど大事なのさ。」


「ライラック……!!」


当のフォニカは意識が朦朧としていて言葉の端々しか聞き取る事が出来なかったが、それでも自分の大切な人物が危険である事だけは分かった。


「……へっ、そんな無意味な繋がり持っちまったせいでこの様とは笑えるなぁ。せいぜい後悔しろや。」


「後悔なんて、するはずねえだろうが。こんなアタシに似つかわしくない時間をくれたガキ共に思うところはたくさんあれど、そこにマイナスな感覚は1つだってありゃしない。」


「ライラック!!」


「……」


そして、彼女の背中から胸に向かって刃が突き立てられる。


「ッ……」


目の前で見ているシド達からもそれははっきりと見えた。胸を、刺し貫いて刃の切っ先が血に塗れて不気味に光る。


「へっ。」


「……」


だが、ライラックは表情をピクリともさせない。ただ凛と立ち尽くす。そして、口を開く。


「……さっさとフォニカを離せ。」


「ふざけんじゃねえよ?てめえ1人の命なんかでスッキリするはずねえだろうが!ガキ共も全員皆殺しに決まってんだよ!!」


罵声を浴びせながら胸に突き立てた剣をグリグリとねじ込む。


「ッ……」


子供には目を背けたくなる凄惨な状況。それは一番精神力が強いであろうシドでもそうだった。


それでもライラックは、動じない。


「フォニカを……とっとと離しやがれクズが!!!」


そしてとうとう彼女は反撃に出る。近距離まで近寄って来た男の位置を捉えた彼女は男の顔面目がけて裏拳を叩き込む。


「ぐ……が……はッ……!!!」


どんな人間でも顔面を鍛える事は困難。渾身の力と怒りを込めた鉄拳は男を思い切り吹き飛ばす。


「フォニカ!とっととこっち来い!」


シドは叫ぶ。男と一緒に倒れこんだフォニカだったが、どうにかこうにかシド達の所へと戻ろうと走る。


「てめえッ!!」


だが、周りの盗賊達がそれを許さない、急ぎフォニカを捕らえようとする。


「……!!」


が、そんな遅れ出た動作よりも早くオルテナが大地を蹴ってフォニカの元へと向かっていた。


そして、彼女に危害を加えようとする盗賊共に両手で必殺の一撃を加える。


「な……ん……」


呆気なく倒れる盗賊。


「……フォニカ、大丈夫?」


「お、オルテナ……ライラックが……ライラックが……!!」


彼女は取り乱しながら泣き叫ぶ。


「……フォニカ。」


「ら、ライラック……」


しかし、そんな彼女に優しく優しくライラックは語りかける。大丈夫、心配するなと言わんばかりに。


「……最後まで、優しいアンタで居てくれて安心したよ。その優しさ、大切にしな。」


そして、その言葉が、最後となった。


彼女は、力無く、倒れこんだ。


「ライラックッ!!!!」


「ちっ……クソがッ!!おい!さっさとこいつらをぶっ殺すぞ!!」


「だね。……シド、全滅させよう。」


「んなもん当たり前だ!!」


もはや自分達を遮るものが無くなったシド達はただ盗賊達を殲滅する。


「……このクソガキ共がぁ!!」


「私達をそう呼んでいいのは……ライラックだけッ!!!」


オルテナもまた、フォニカを守りながら戦う。


「……ライラック……」


フォニカは、現実を直視する。


……


ライラックは、自分を守る為に戦った。そして、今、倒れている。


大切なライラックを誰が傷つけた。


……そんなの考えるまでも無かった。


……そして、フォニカが無意識のうちに自らにかけていたリミッターが、外れる。


……


「……マグマ……エルプション!!!!!」


彼女はこれまでにない力で魔力を解き放つ。空間が揺れる。大地が軋む。


「な、なんだ!!!」


「フォニカが……やってるのこれ?!」


「っ……お前ら、ここから離れるぞ!!」


動乱の中でシドは2人にそう叫ぶ。


「けど、フォニカをここに置いては……!!」


「いいから早くしろ!!」


ただ事ではない事態に声を荒げるシド。その鬼気迫る声に2人は従い、その場所を急いで離れる。


……


「こ、このガキかッ!!!死にやがれ!!」


1人残されるフォニカに向けて盗賊が刃を振り下ろすが、それは途中で遮られる。


……刃が、溶ける。


「ひッ……な、なんだッ……」


フォニカを中心として、高熱源が発生し始める。次第に周囲の全てを包み込む。


「あ……熱いッ……!!な、こ、ここから出なくちゃ死……死んじまうッ!!!」


「あ……アアああぁアアアアアアッ!!!!!!」


慌てふためく盗賊達だがもう遅かった。その場に居た盗賊達は、やがて跡形も無く、溶けて消し炭と化した。


……


「……ライ……ラック……」


全てが終わった時、フォニカは意識を失いその場に倒れこんだ。すると自然に周囲の熱も収まり、洞窟は何事も無かったかのような形を取り戻したのだった。


彼女の魔力は憎むべき者も愛した者も全てを巻き込んで焼き尽くした。


……


……


「……治まったか?」


ただがむしゃらに逃げ続けたシド達。途中であの地鳴りのような物が消えたので足を止める。


「……さっきのは一体……」


「……戻ってみようよ。フォニカが……」


オルテナの言う事がもっともだと感じた2人は再び来た道を戻る。そして、先ほどの場所へと舞い戻る。


「……な、何があったんだ、これ。」


入って飛び込んできた光景はただフォニカが倒れているだけだった。


「フォニカ!大丈夫!?フォニカ!」


オルテナはとにかくフォニカの元に駆け寄り声をかける。だが、なかなか彼女は目を覚まさなかった。


「……シド、ちょっといいかい。」


少し離れた所で、ジハードはシドに語りかける。


「……」


「……そこらに散らばっている消し炭のような物なんだけど、僕にはどうしても……」


「あいつらだろ。」


「……やっぱり、そうなんだろうね。」


それらがさっきまで戦っていた相手のなれの果てなのだと2人は悟る。


「……それじゃあもしかしてライラックも……」


「……」


……もはやどれがどれだか分かりはしないが状況から言えばライラックの体も同じように消し炭になったと考えるのが妥当だった。


「フォニカ?」


「……オル……テナ……?」


「フォニカ!良かった!目が覚めて!無事!?元気!?喋れる!?」


「……今喋ってたろ。」


「……どうやら、フォニカは無事みたいだね。」


少なくとも彼女の無事を確認できた事にオルテナは喜んだ。


だが……


「……オルテナ……私、私っ……」


「ふぉ、フォニカ……」


フォニカは泣きだす。彼女には自分が何をやってしまったのかの記憶があった。


「……私、魔法を暴走させて……みんな……溶けてなくなっちゃって……!」


「……」


「ライラックも……私が……殺しちゃったっ……うっ……」


「……」


断片的ながらも、3人は彼女が何を言わんとしているかは分かった。


「……フォニカ……違うよ。ライラックを殺したのは、あいつらだよ。……フォニカは殺してなんかない。……絶対、そうなんだから……」


自分の思っている気持ちごと、オルテナはフォニカを抱きしめる。そして、一緒に涙を流す。


「……」


「……くそっ……」


4人がそれぞれ心を落ち着けるまでにはそれなりの時間がかかった。


……そして、その場を後にする。


……


「ここなら高いから色んな所が見えるよね。……きっと私達がどこに居ても、ライラックも見てくれるよね。……ライラック……寂しく……ないよね。」


とある山の頂付近に4人はライラックの墓を建てた。


「ライラックの体……焼いちゃった……ごめんねライラック……」


「ま、まあ、火葬だと思えばいいんじゃないかな。ライラックも安らかに天国に行けたと思うよ?」


「……そっか。……うん、そうだね。ありがとうジハード。……きっと、ライラック天国でも幸せだよね。」


「どうせあの世でも酒飲んだりしてんだろうからな。まあ、幸せな人生だったろうよ。」


口々にライラックの話をすると、本当に自由な人物だったのだと4人の間に彼女との思い出がよみがえってくる。


「……さて、どうしようか、私達。」


「……」


4人はまだ子供。だから行く道を指し示してくれていたのはライラックだった。しかしもう彼女は居ない。


「みんな……一緒……だよね。」


オルテナは、そう問いかける。これからも4人ずっと一緒だと。


「悪いが俺は一緒には行かん。」


だが、そんな問いかけにシドはそう答えると皆に背を向ける。


「……!……シド、どうして……?」


「一緒に居る理由がもう無くなったからだよ。……つーか、別にこれまでだって俺は一緒に居るつもりも無かったしな。あいつにむりやり引っ張り回されてついて行ってただけだ。」


「シド……」


「けどそんなあいつも居なくなった事だし、俺は俺の好きにする。だからお前らもお前らの好きにすればいいだろ?」


「シド……そんなのやだよ!……私達、ずっと一緒だったのに……」


「その前は、ずっと独りだったろ?ただそれに戻るだけだ。……それが嫌ならお前らは一緒に居ればいい。」


「……」


「そうだこれ、お前らに渡しといてやる。」


後ろに向かってシドはそれを放り投げる。


「……これ、ライラックの財布……?」


「あの戦いの前に大酒飲んでたろ?そん時に預かってたんだよ。そんなのぐらいしか形見の物ねえからな。墓に備えるなり自分達で使うなり好きにしろ。んじゃあな。」


そんなあっけない一言を告げて、シドは去っていく。


結局シドはそれから1人で行動する事になる。ソロの冒険者として。


……


財布に気付いたのはあの次の日だった。


あの野郎に一緒に酒に付き合わされた時に金を払っといてくれと渡されてそのまま返しそびれてしまったのである。……あんにゃろうのせいでこの歳でも酒はガンガンイケるようになってしまった。


「こんなもんが形見の品とは……あいつらしいな。どれどれ、どんぐらい入ってんのかなと……」


あいつはいつも大量の金を持ち歩いていた。使いたい時に不便しないぐらいの金を。


……だが、財布の中に入っていた金以外の物に俺の意識は持って行かれた。


「……イヤリング……」


……無造作に入れられている金と違って、ただ1つ大切そうにそれが布にくるまれていた。


……


……


「こ……このガキ……!!」


1人になった俺は、今とあるアジトに居る。


かつてまだ複数人で居た頃に辛酸を味わわされた盗賊達の元締めの所へと。


「てめえ。俺が誰だか分かってんのか……?」


「知るかよ。」


興味も無かった。


ただ確かなのは、今目の前に居る野郎が、あの盗賊共の親玉だという事。それだけ分かっていれば十分だった。


「……てめえらこのクソガキをぶっ殺せ!」


……あれから何度も言われたものだ。


しらみつぶしにアジトを探しては潰し、探しては潰しの繰り返し。


何人殺しただろうか。……ふっ、4ケタは軽いか。目指せ5ケタって感じだな。はっはっは。


「死ねやあああッ!!!」


「……弱えな。」


……あっけなく、命は散って行く。どうしてこんなにも相手の力量も分からないほど弱いのか。


気が付けば残ったのは親玉だけだった。


「ば……馬鹿な……こんなガキ1人にっ……俺が……」


「……その様でよく頭なんかやってるな。」


「……俺が……負けるかあああああッッ!!!!!」


逆上した頭はいきり立ってシドに襲い掛かるが、相手ではなかった。軽々と受け止めて見せる。


「……軽いな。」


「……ぐっ……ぐおおおおッッ!!!!」


「……こんな雑魚のそのまた部下の雑魚にあいつがやられたんだと思うと、情けなくなってくる。」


「……て……てめえ、何の話してやがる!!!」


「こっちの話だ。てめえには関係ねえよ。」


「勝手にやって来て……何ほざいてやがんだあああああッッ!!!」


「勝手にやって来て……だと?」


その言葉を受けて、シドは怒りをあらわにする。内側から溢れる殺気が盗賊の頭を圧倒する。


「ひ……」


「……てめえらのおかげでこっちはいい迷惑だぜ。俺はあんな場所どうでも良かったがな……あんな場所でも大切にしてた奴らが居るんだよ。それを好き放題荒らしまわってくれやがって……!!」


「う……うおおおおッッ!!!」


「死にやがれ……クソがッ!!!!」


鬼の形相を浮かべながら力の限りシドは敵を切り裂く。


「……けっ。」


……こうして、ただ1人の活躍によって盗賊団は崩壊した。


しかし、シドはそれを誰にも打ち明ける事も無かった。そんな事に意味など無いと思っていたから。


それゆえシドの名が広まる事も無く、ただ、盗賊団崩壊という事実だけが歴史に刻まれた。


……


「大切な物なんかがあるから、死んじまうんじゃねえか。……俺よりも強かったくせに、何だよあの死にざまは。情けねえ。」


なにも守る物など無くなったシドを止められる物など無かった。盗賊団と言えどもである。


「……俺は死なねえ。何があっても、生き残ってやる。」


そして彼も、次第に歳を重ねていき、いつしかいっぱしの大人へと変わる。


子供の頃よりもずっと自由を手に入れた彼はやりたい放題遊びたい放題の日々を送る。


女好きのシドなどと言う呼び方はまさに見た通りのものだった。


そんな彼の元に、1人の女性が現れて彼の道は少しずつ変わって行くのだが、それは今始まった事では無い。


既に時は過ぎ去り、これは過去の出来事。


もう変わる事も無いし、戻る事も無い日々。


ただ、それだけの話である。

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