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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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うにゃうにゃした何か

魔物領のとある屋敷での一幕


「ひぃひぃ。エルワーレ様。」


「なぁに?」


「ゴームが居なくなったのに続いてエアスト様も居なくなったみたいですぜ。」


「そうなの?」


「多分、あの変なゲートが原因じゃないかって言う専らの噂で。」


「ふぅん。そうなの。」


……ま、そうだろう。あんな巨体が跡形もなく消えた。しかも魔物領ではその後見つかっていないという事はあのゲートはどこかの場所へと転移させるゲート。行先は……人間領?……面白い。


……まあエアストはともかく、ゴームはもうこっちへは戻って来れなくなった。……あんな残念な頭だけど力だけは厄介だったし……向こうへ行って正解かも。人間達の領地を血の海にするのもそれはそれで悪くないし、よしんばゴームがやられるような事が起こったなら……それってすっごくラッキー。あ、そうしよう。


「そのゲート、近づくの禁止。って、看板出しておいて?」


「へい?近づくの禁止ですか?」


「ワタシの……命令、だから。って、大きく書いといて?」


「わかりやした。近づくの禁止ですね。じゃあ行ってきますぜ。」


……これで向こうへ魔物が行く事は無くなる。やられてほしい相手にわざわざ援軍を送ることないものね……あんななりでもザナだし、そうそうやられはしないだろうけど……万が一やられてくれたなら……


「その時はあの謎のゲートに感謝しなくちゃね?」


・・・・・・・・・


……B6へと降りては来たものの、モンスターの姿は、見当たらなかった。


……代わりに大量の死体はいくらでもあったけど……流石に気分が悪い。


「……」


「うわー……これ、グロいねー……ってか、そもそもここって何なの?人が住んでたみたいだけど?」


「……」


この場所の成り立ちや有り様を伝えるには、正直言葉が足りない。誰も納得のいくような事を言える者は居ない。


「聞かない方が良かった?じゃあ今の無し~。で、魔物達の発生源となりそうなところに心当たりとかあるの?」


「……ここには男性が暮らしていました。……もし、彼らが何かを企んで、その結果、この惨状を招いたのかもしれない……と、思ったりもしたのですが、流石に死者にすべて罪をかぶせるのも、気が引けますね……」


「いいんですよ。あんな奴ら、あの世でもせいぜい苦しむといいんですッ。」


「……貴様は、何か心当たりはないのか?短い期間とはいえここで過ごしていたんだ。」


「あー?あいつらが何してても興味ないっての。」


「……それもそうか。聞くだけ無駄だった。」


「手分けして探しますか?」


「そうしましょう。一応敵が出てくるかもしれません。私達四人とシノさん達は三人になってしまいますが、このフロアを探索しましょう。」


……


「ふーん。なんか複雑そうな場所ねここ。上はボロボロながらもなんとなく人が住んでたんだろうなって感じだったけど、ここはそもそもが貧しそうな佇まいと言うか。上とここに人が住んでたんだとしたら、ここには奴隷でも住んでたのかしら?」


「別にここだけがそういうわけじゃないだろう。弱い奴は強い奴に良いように使われる。刃向う事も出来ない奴らには当然の場所だ。」


「でもさっきの話だとシドもここに居たんでしょ?」


「飽きたから出てきた。」


「そうなの?シノ。」


「……まあだいぶ噛み砕けばそうとも言えるかもしれません……」


半分彼女達の容赦で見逃してもらったようなものだけど……


「……歩けど歩けど、死体ばかりですね……」


ここの人達の事は良く分からないけど……流石に可哀そうだった。何もわからないまま苦痛を感じながら死んでしまったのだろうか……


私が死んでも、誰かがこんな風に思ってくれるんだろうか。


……正直そんな風には思ってほしくはない。最近は誰にも見つからずにひっそり死ぬというのも悪くないかと思ってきたところだ。カッコよく言えば自然に還るのだ。……別にカッコよくないか。


シド様は、まああんまりいつもと変わらないだろうけど、もし1%でも悲しいと思わせてしまったら、それはそれで結構嫌だ。別にシド様に限ったことではない。……自分が死ぬことで誰かがもしかしたらほんの少しでも悲しい想いをするのだとしたら、自分自身の未練が残る。かといってその未練を晴らすことは一生できなくなる。未練などあの世に持ち込みたくないのだ。


そう思うなら、生き続けるのが、正解なのだ。


……分かっている。自ら死を選ぶという事がどれだけ愚かしい事なのか。おそらくは人が行うあらゆる行動の中でも一番最低のものだろう。……私は死ぬための免罪符を欲しているだけなのかもしれない。


もう一人で生きていくことが出来ないから、死を選ぶための理由を探し求めている。


その理由として家族の元へと行きたいというのが大部分を占める。……まあ、死んだから本当に逢えるのかなんて分かりはしない事だけど。そういう意味でも前向きな死なのではなく、もしかしたらという程度の何もすがるものが無い者が最後に行きつく、それしか手段がないから死ぬ、という典型的なものだ。


「……」


「てい。」


「……いたた。」


「何かアホなこと考えてるな。」


「……いえ、実はシド様好みの女性になるためにはどうすればいいのかを考えていまして……てれてれ。」


「……」


「///」


「ったく……暗いことばっか考えてんじゃない。」


……渾身の嘘のつもりだったのに……この人には、私が後ろ向きなことを考えているように映ったようだ。……事実その通りではあるけれど。


「そう、見えますか?」


「いいか?楽しいこと考えてたらそんな顔しねえだろう?」


多分楽しい時も悲しい時もいつも大体同じ顔してるらしいんだけれど……ちょっとは違うのだろうか。


「まあ、シド様は、いつも楽しそうです。」


「お前ももうちょっと楽しそうな顔しろ。こんな風に。」


……シド様が両手で私のほっぺを押し上げる……


「……笑えてますか?これ。」


「最初は無理やりでいいだろうが。」


「……」


「暗い事なんていくらだって思いつくんだよ。考えたってキリも無い。だからそんなこと考える隙間もないくらい楽しい事だけ考えてろ。」


……ふふ。


「シド様は、いつもそうなんですか?」


「当たり前だろうが。これから出会うであろう俺を取り巻く可愛い子達の事考えたら他の事なんてどうでも良くなってくるぐらい明るい未来しか思い浮かばん。」


「……じゃあ、私もこれから出会う男の人の事考えたらいいですか?」


「それは駄目だ。お前は俺以外の男の事は考えるな。」


「……ズルいです。」


「お前がこれから出会う男の中で俺以上の奴なんて現れない。だから考える必要なんてない。はっはっは。」


「……そう、かも、しれませんね。」


本当に、どこからそんな自信がわいてくるのか。……だけど、もし、そうだったらいいかもしれない。なんて思ったら、自然と、微笑みがこぼれた気がした。自分ではどれぐらい笑ったのか分からないけれど、シド様も満足そうな顔だったから、良しとしよう。


「……なんか二人でいちゃいちゃしてるけど……ちゃんと探してるのよね……?」


「おお、今閃いた。きっと向こうに違いない!」


ビシッと勢いよく指差した先には、一つの扉があった。


「何あそこ?」


「確かゴミ置き場だ。」


「……魔物を探してるんだけど……」


「一見居そうも無い所からあいつらは湧いてくるのだ。アホだからな。俺達の常識など通用しない。」


「シドも別の意味でとびきりアホだと思うけど。……ゴミ置き場~……?汚そう。」


「冒険者が何気にしてんだ。」


「ま、そりゃそうか。じゃ、行ってみようか。」


ドアをくぐるとそこは……想像以上にゴミ置き場だ……ガラクタしか見当たらないけれど。


「生活ゴミとかおっきなゴミとか一緒くただね~……」


「?……あの、あっちの方に、何か見えるような……」


「ん……ああ、あの角っこの方?……なんか、見えるね。」


隅も隅の端っこの方に不思議な空間とでもいうのだろうか……そんなものが見える。近づいてみると……なんだろうこれ。


「この機械から、変な……うにゃうにゃが出てますね。」


「なんだろうね、このうにゃうにゃ。」


その場所に手を触れてみるのだが……別に何も起こらない。なんなんだろう、関係ないのかな。


「一応、あの人達呼んでみる?これが原因かどうかわからないけど、なんだか分かるかも知れないし。」


「ああ……じゃあ頼む。」


「?オッケー。ちょっと待ってて。」


……どうしたんだろう、シド様、ちょっと神妙な顔つきをしている。……もしかして、心当たりがあるとか……なんちゃって。


……


「これがその……うにゃうにゃか。」


「確かに……うにゃうにゃですね……」


「触っても大丈夫なの?このうにゃうにゃ。」


「うにゃうにゃ、うにゃうにゃ……」


「心当たりはない感じかな?……じゃあ違うのかなこれ。ただのうにゃうにゃ発生装置なだけ?」


「なにぶんこの装置自体がだいぶ古ぼけてしまっていますしね……もしかしたらクリミナ様達の時代のアイテムだったのかもしれませんが……」


彼女達が知る由もないが、もうこのゲートより魔物が現れる事は無い。


「使い方が分からないのに弄るのもちょっと怖い感じもするし……」


どうしたものだろう……


「こうしちまえばいい。」


シド様は剣を抜き、思い切り装置を叩き割る。……装置は、完全に機能を停止し、うにゃうにゃも消え失せた。


「ちょッ!!何してんのあんた!?」


「これがぶっ壊れて、それであいつ等が出てこなくなったらこれの仕業だったって事だろうが。」


「そりゃあそうかもしれないけど……」


「他に怪しいものが無いんなら、これしか考えられないだろうが。お前らの目だって節穴じゃないだろうが。」


「……」


「男共はどうだっていいが、俺の大切な女の子たちをぶっ殺したこんな機械、一秒だって見てたくない。」


「……」


それはまさしくその通りだった。惨劇の元凶がこれだとするならばこんなものは二度と存在してはいけない。


……あの顔つきは、この大量の命を奪った物を憎む顔だったのかもしれない。……内心怒り心頭だったのだろう。


「……これで、良いのかもしれません。……今回ばかりは……貴方の言う事も間違っていないかもしれません。」


「あんな、うにゃうにゃが、皆を……」


「もしかすると、あのうにゃうにゃは魔物領に繋がっていたという事は考えられませんか?」


「でも、触っても何にも起こらなかったけど?」


「……一方通行で、向こうからは来れるけれどこっちからは行けないとか?」


「かもしれませんね……もし奴らがあのうにゃうにゃを通ってきたのならば、これを使って返すことも出来るかと思ったのですが、こちらからは行けないようでしたし……」


「壊すのちょっと早まったんじゃないの?もしかしたらどうにかあいつらも戻せたかも……」


「いえ……これでいいのでしょう。どのみちあそこまで古びていてはまともな操作など受け付けるかどうか分かりませんし。」


「片道、もしかしたら、あいつらの、作戦、とか。」


「……初めから、あいつらが手引きしていたという事も、有り得るか。この装置を使えば大陸を分かつ裂け目を無視して人間領へ乗り込める。そしてあの巨人や大量の魔物を送り込んできた……まあ、何故途中でそれが止まったのかは分からないが……」


考えど、考えど、空想の域を出ない。実際当たっていたり間違っていたりなのだが、とりあえずはやるべきことはやった。


「あいつら全員ぶっ殺してやらなくちゃ気が済まねえ。」


「……今回ばかりは同じ意見ですね。私達も、だいぶ借りを返してやらなくてはなりませんッ……」


「んじゃあ……とりあえず地上へ戻ろっか。……そういやあの鎧とまた戦わなくちゃならないんだよね……憂鬱……」


確信を得ることは出来なかったが、騒動の元凶となった物を破壊したシド達は、決意を新たに次なる最大の標的、巨人ゴームへと向かう。


・・・・・・・・・


「(あいつらのせいみたいな流れになって一安心だ……。それにまあ、これで少しは俺を見る目も変わるだろう。あぶねえあぶねえ……あれ俺が蹴っ飛ばした変な機械じゃねえか……つーかあんなとこにそんなもん置いとくんじゃねえっての!!ちくしょう!!よくよく考えたら腹立ってくる。元はと言えば魔物共がやって来なければ良かった話じゃねえか。んなくだらねえ事で女の子たちの命が……あああああ!!!!!とにかく巨人とかいう奴、俺に迷惑かけるわ女の子達は殺すは……許しておけねえ。……絶対にぶっ殺す……)」

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