微精霊に誘われて
「あーよく寝た。気分爽快だな。」
「ふわぁ……」
両脇の2人もしばらくすると起きてきた。あいつの事を心配して眠れないんじゃないかなんてちょっと思ったが意外に大丈夫だったな。子守唄を唄ったり聞いたりして心が少し落ち着いたのか、あるいは意外とそれはそれと分別付けられるタイプなのか。けど普段の動向を見ているとそうは思えない。
「じゃあぼちぼち行くか。」
適当に飯を済ませると荷物をまとめて洞穴から出て行く。
「わぁ……凄いのです……」
「一面、銀世界ですね……」
太陽の光が反射してか、一面の銀世界が広がっていた。あんな惨状を引き起こしたと言うのに、確かに言葉を失う程度には綺麗な物だった。だがこの雪の下にどれだけの魔物が埋まっているのかを考えると結構グロイ。……またムードを考えてくださいとか言われそうだから口にはしないが。
「ここはどの辺りなんだろうな。」
「……少なくとも雪崩に遭った場所よりは下ですかね。」
「まあ、上に向かっては進まないだろうな。」
「シドさん私達の事助けてくれたなら覚えてないのですか?」
「……分からんな。暗かったし。」
……ただ、うっすらとした記憶にはなるが、そんなには転げ落ちたような感覚ではなかった気がする。どちらかと言うと俺達は雪に押しつぶされたようなイメージだった。もしゴロゴロと転がっていたなら雪では無く、例えば岩場などにぶつかってそれがダメージになるような事になっていた可能性も考えると、それはまだマシな方だったか。
敢えて何度も言ってしまうが、自分達の上に乗っかった大量の雪を溶かしてしまう程の発熱が起こったのだろうと考えるとこの石は十分にお守りと言える程の力を持っていると思う。ある程度命の危険が無くなった所まで雪を溶かした、って感じなのだろうな。精霊の力ってのも侮れないもんだ。
「エイルくんも、元々私達の居た場所の近くに居るかもしれません。」
「ここまで運んどいた俺が言うが、元居た場所なんてもう全く分からんぞ。」
雪なんかで地形や景色だって変ってるのに分かるはずが無かった。
「手がかりはありませんね……」
「……?」
突然何かの音が聞こえてきたのか、ソーラは誰も居ない方向へ首だけを傾かせる。
「何だ?」
「……微精霊、なのです。」
「微精霊、ですか?」
「確か精霊の小っちゃいバージョンみたいな奴だろ。」
「そうなのです。今までは気配を感じなかったのですが、もしかしたら、静かになったから見えるようになったのかも知れないのです。微精霊は魔力の力が強い所、そして静かな所にいるのです。」
「雪崩で魔物共も全滅したろうし、確かに静かではあるな。」
「……私には見えません。」
「心配するな。流石に俺にも見えん。」
「ここです。ここに居るのです。可愛らしいのです。」
……2人で目を凝らしてみるが、流石に見えない。ここらが精霊術師とそうでない人間の差と言う所か。
「んお?そうだ。それが見えるって事は、精霊の居る場所も近いって事じゃねえのか?」
「……精霊さんの居る場所、知ってるのですか?……そんなに近いって程じゃないけど、案内できるって言ってくれてるのです。」
「なら渡りに船だな。さっさと行くとしよう。」
「待ってください。エイルくんを探さないと……」
「いいんじゃねえのか後からで。どうせ魔物も居ねえし安全だろ。」
「でも、一人ぼっちでは……きっと、寂しいと思います。」
寂しいねぇ……あいつがそんな感傷に浸る奴とは思えないがなぁ……つーか男は孤独でなんぼみたいな感じあると思うが。
「?エイル君って言うのは私達の仲間なのです。……。……本当ですか!?」
またどうやら微精霊とやらと会話を交わしている様子だが、俺達からすると1人で驚いているだけにしか見えない。確かに何にも見えないし精霊も見えない奴からしたらちょっと特殊な奴に見えてしまうだろうな。
「エイル君の事知ってるかもしれないって言ってるのです!」
「本当ですか?」
「ここから少し離れてるけど、私たち以外に人の気配を感じるって言ってるのです。」
「シド様、行きましょう。」
「あいつじゃないかもしれんぞ。」
「それならその時です。」
「雪に埋もれてるかもしれないって言ってるのです。」
本当かよ……適当に作ってないか、それ。
「行きましょう。すすす。」
「あっ、おいっ!……あいつら、急に眼の色変えやがって……」
あの二人、結構仲間意識が強い。鬱陶しいとはいえ、それなりに旅をしていて愛着みたいなのが湧いて来たのかも知れない。俺からすればいつまで経っても色目を使って女をたぶらかそうとするガキなんだが……
勝手に進んじまってる物は仕方がない。俺は2人の後を追いかけて行く形になった。これであいつじゃなかったらとりあえずその場に居た人間が誰であっても思い切りぶん殴ってやる。美人だったらぜひとも助けよう。
……
「まだ着かんのか?」
「……こっちですか?」
一応最短ルートで進んではいるんだろうが、思ったよりも距離がある。あいつどこまで転がって行きやがったんだ、ドジめ。
「それにしても微精霊とは、凄いですね。」
「えっへんなのです。」
「だてに精霊が名前は付いてるわけじゃないって事か。」
こういう力も精霊術の一端だとするなら確かに有能だ。魔法ってのは、得意とする分野の物しか扱う事は難しいが、精霊術ってのは精霊と会話したり、契約する事でその力を行使したりと多様性が目立つ。
ただそれらを扱うためには実際に精霊の所へ行かないといけないのが手間と言えば手間か。契約だってめんどくさいやり方をしてくる奴も居たしな……
「にしても、どうして居場所まで分かるんだ?」
「精霊さんは、気配に敏感なのです。私達人間と違って、形が非常に希薄な精霊さんは、私達に感じられない程微弱な気配でも分かっちゃうのです。賑やかじゃない所が嫌いなのは、その場所に揺蕩う魔力が人や魔物の流れによって乱されたり、騒音によって周囲の気配がかき乱されてしまうからなのです。」
「ふーん。けど、別に体が無いなら別に気配なんか感じられなくても特に問題ないんじゃないのか?」
「シドさんだって男の人がいっぱい居る部屋には居たくないのです。それと一緒なのです。」
「……納得だ。」
住みやすい所に居たいって事か。
「……この辺りなのです。命の鼓動が聞こえると言ってるのです。」
「もっと詳しく分からんのか?」
「ここまで近すぎると逆に音が大きすぎて位置が特定できないと言ってるのです。」
「……じゃあ適当に雪をほじくるか。」
何も手掛かりが無いよりははるかにましだが、俺にしてみればめんどくさいのは変わらない。適当に足で雪をかき分けて行く。たまたま踏みつぶしたりしたら面白いんだがなぁ。それは不慮の事故だ。俺には過失はない。
「よいしょ、よいしょ。」
あいつは懇切丁寧に手で雪をかき分けてるし。こんなもん大雑把でいいんだ。つーかこの辺りに居て姿が見えないって事は、未だにあいつ雪の中に埋まってるって事か?
「あー!!」
突然ソーラの高音がこっちにまで響いてくる。どうやら何か見つかったようだ。俺もシノも声のした方向へと近寄って行く。
「見つかったのか?」
「こんな場所に、お花が咲いているのです!!」
「……」
確かに咲いていた。……だから、何?
「こんな雪に埋もれていても、必死に頑張っているんですね……」
「お花さんは偉いのです。」
「……」
まあ確かに雪崩の後のこんな場所に咲いてるのは凄いかもしれんが……だから、何?
「命の神秘なのです。」
「お花さん、これからも力強く生きてください。」
「……」
そしてそのままなし崩しに捜索は再開される。
……
え、これで終わりか?なんか二人で勝手にほっこりして用が済んだら勝手に解散していきやがった。
……まるで俺の方が必死にあいつを探していたみたいでちょっと腹が立つ。……見つけたら一発殴ると決めていたが、増量して三発くらい殴ってやることにした。
……
「あっ……シド様っ……!!!」
再び声がする。今度はシノの差し迫った感じの声だったが……まさかさっきと同じパターンをするんじゃないかと思うと行くのが躊躇われる。ええい、天丼は止めろ天丼は。
「……居たのか。」
どうやら本当だった。シノが雪を払っていくと同時に久しぶりにあいつの姿が見えてくる。
「エイル君、目を閉じたままなのです……」
「起きてくださいエイルくん……!」
シノは体をゆするが、どうした事か奴は何のリアクションも無く微動だにしない。
「……こんな所で死んじゃダメです、エイルくん……」
このままでは泣き出しそうな勢いだ。だがそれもやむを得ない事ではある。何故なら旅をしていくなかで彼女らは少なくない愛情を抱いていてしまっていたからである。愛する人がこんな形で命を失ってしまえばその悲しみが溢れて涙となるのは至極当然の事。そんな彼女達がせめてしてあげられる事……それは、もう居なくなってしまった彼の体を抱擁するぐらいしかなかった。2人はその温もりでせめて彼の魂が救われるようにと……
「って……何勝手に人の心の台詞を乗っ取ってんだ!!」
俺は無防備な横っ腹に思い切り蹴りをかました!
「あああっっッ!!!い、痛……いたたたた!!ちょ……何考えてるんですかッ!!」
「てめえが一番よく分かってるだろうが!!いいからさっさと立ち上がってきやがれ!!」
「す……すぐって言っても、こ、腰が……いたた……」
「エイルくん……無事、なんですか……?」
「無事なのです……!!」
「い、いえ……決して今この瞬間無事ではありませんけど……いたた……」
大体微精霊が命の鼓動を感じると言っていたなら死んでいるはずが無かった。それを忘れてしまう程に2人はショックだったのかも知れないが……
「ったく、死んだふりなんかしやがって。趣味悪いぞ。」
「エイル君……ごめんなさいなのです。」
「いたた……え?何がですか?」
「……私が勢いに任せて力を使っちゃったから……こんな事になっちゃったのです……」
「……」
「……いえ、私が油断したからエイルくんが庇ってくれました。だから、本当はソーラが悪いんじゃなくて、私が一番……」
「シノは悪くないのです!私がもっと落ち着いてれば……」
2人は互いに自分が悪いのだと互いを弁護している。
「2人とも、悪くなんてないですよ。」
「え……?」
スッと体を起こして奴は立ち上がる。
「だって、みんなこうやって無事でいるんなら、誰が悪いも何もないじゃないですか。誰か迷惑した人なんているんですか?」
「エイルくん……長い間独りぼっちに……」
「いやあ、たまにぐっすり眠るといいものですね。疲れが吹き飛びましたよ。」
「エイルくん、私を庇って傷を……」
「これですか?大したことないですよ。むしろシノさんを庇って出来た傷なら大切なものです。僕にとっての思い出です。」
「……」
「誰も迷惑してないなら、罪の意識なんて感じる必要ないじゃないですか。僕は何にも迷惑してませんし、現にこうして見つけてもらえて嬉しい限りです。シノさんとソーラさんは何か迷惑してますか?」
「……」
「ならいいじゃないですか。ね、シドさん?」
無論、こいつの語った言葉が2人を気遣ったものである事は誰の目にも明らかだった。そして最後に俺に向かって言葉を投げかけてくる。ようは俺がこの湿った空気を最後にまとめろって言いたいのだ。
……俺はゆっくりとそちらへと歩み寄る。
「……」
「……」
そのしれっとした顔目がけて俺は目にも留まらぬ速さで右フックを振り抜くッ!!
「痛っッッーーーー!!!な、何でこの流れで殴るんです!」
「出会い頭に三発ぐらいぶん殴ってやるって決めてたからに決まってんだろうが!!二発目ッ!!!」
「なんで勝手にそんな横暴な決め事してるんですかッ!!痛ッ!」
「てめえなんかを探すのにこっちがどんだけ時間を無駄にしたと思ってんだ!!何が誰も迷惑してないだ!俺が一番てめえに迷惑してんだ!勝手にのこのこついてきやがってからに!!」
「そんなのただの難癖じゃないですか!!あ、痛ッ!!」
「サービスでもう一発くれてやる!!」
「そんなサービスいりませんよ……!痛たたたッ!!」
とりあえず気のすむまで殴打を繰り返す。これでいつもの空気に戻るだろう。
「……シドさんとエイル君、仲良いのです。」
「……無事で、良かった。」
「お、シノさんもソーラさんものんきに見てないで……僕これでも怪我人なんですけど……痛ッ!!」
ったく、2人を慰める尻拭いまで俺にさせるとか本当にふてえ野郎だ。




