遂に活路は開かれる
指し示されたその絶望でも希望でも無く困惑の道標に俺達はどう反応したら良いか分からなかった。
「(上?上ってなんだよ。)」
それでも棒は今も尚天井を指したまま制止している。
「……これってまさか……天国に居るって……そう言う事じゃ……」
「……んなわけあるか。第一、天国なんてもんねえよ。」
あったとして上じゃないだろう。安直すぎる。
「じゃあ……どう言う事なの?フォニカ……上に、空に……居るの?」
「……あれじゃねえか。空を飛ぶ魔法とか覚えて、楽しく空を飛んでる最中とか。」
「今、夜だけど……」
「……夜だって飛びたい時はあるだろう。」
「……」
「……」
超適当な相槌を打つ。無論、最悪な事は考えたくないから問題をほったらかしにしようとしている意図もある。
「一回、帰ってもいい……?ちょっと、気持ちを整理したいかな……」
「……おう。」
幸い、オルテナもこの意味不明な結果に絶望する事は無かった。ただ面食らってどうしたらいいのか分からず混乱しているだけ。だが、この結果が良いかどうかは果たして全く分からない。
「上ってなんだよ……」
部屋で一人になっても俺はそう呟く。このどちらとも言えない答えに文句を垂れる。
……
翌日、すぐさま俺は棒切れを持ってアイテム鑑定の店に行った。
「おい、ちょっとこいつについて聞きたいんだが。」
「おっ、四方八棒か。レアだな。けど、これ一回使ってるからもう何の効果も無いただの棒だな。」
「む、使用済みとそうで無いとはどうやって分かるんだ?」
「輝き方だな。まだ使って無いのと見比べれば一目瞭然だが、素人には無理だ。まぁ熟練の技って事だ。ははは。」
朗らかに笑っている。って、そんな事はいい。
「こいつの説明書にはそいつの居る方向に倒れるって書いてあった。」
「そいつって事は探してるのは人だな。なら信頼度は25%、まぁ当たらない確率の方が高いし、いっそ逆に指されなかった方を探すのも……」
「……上を指し示す事も、あるのか?」
「……上?」
男は言葉を聞いて、明らかになんじゃそれと言う目をする。
「棒を倒したら、クルッと回転して上を示したんだ。」
「……マジかい?普通じゃあり得ないような動きだ。」
「俺は勝手に四方のどこか向けて倒れるもんだと思ってた。だけど例えばハズレの25%を引いて……そうやって上を示す事も有り得るのか?」
「……ふーむ、上ね……」
男は唸る。答えに迷うと言う事はやはりこれがイレギュラーな事だと判断して間違いない。
「先に釘を刺しておくが……そいつがもうこの世に居ない……天国に居るから上を指してるなんて事じゃねえんだろうな。」
「……天国なんてもの、信じてるのかい?」
「……死んだ後、幸せな場所に行けるかもしれないなんて甘えた気持ちが、生への執着心を妨げる。むしろ人間は死んだら必ず地獄に落ちると考えて生きた方が良い。そうすりゃみんな死を全力で回避するだろ。」
「面白い死生観してるな。その考え方、今度から俺も使わせてもらおう。」
どうでもいい講釈をしてしまったと我ながら馬鹿馬鹿しく思う。
「アンタの認識で間違ってないさ、棒はその相手が居る方かそうで無い方に倒れる。そして……俺自身も一つ認識に誤りがあったようだ。」
「どういう事だ。」
俺が尋ねると男は紙とペンを取り出してみせた。
「そもそも横にしか倒れないって、厳密にはおかしい話だと思わないか?自分が居る場所と相手の間に高低差が無いとも限らない。なのに倒れる時は必ず水平になる。」
「確かにそれは……俺が高い建物の、5階とかに居る時に、探してる相手が地上に居る場合どうなるかって話だな。」
「ちなみにそれぐらいの場合なら普通に平行に倒れるはずだ。そこぐらいまでは検証されている。けど今回みたいに上を向いたケースを考慮して考えると……俺の推測はこうだ。」
「……何だこの図は。」
俺と……何やら恐らく美女らしきものを書いているであろう絵を見せられた。
「アンタはこの相手を探している。そしてそこまでを線で繋ぐとこうなる。地上同士なら当然横に真っ直ぐな線を引ける。この場合なら何の問題も無いだろう。」
「そうだな。これは普通のパターンだ。」
「じゃあ次、今アンタが言ったみたいに……そうだな。この場合、探している相手が高い場所に居るとしよう。そして線を引く。」
野郎は下手くそな建物を書いて、その中に美女が居ると仮定して線を引く。
「この場合だと……それでも普通に横に倒れるんだよな。」
「そう。それは恐らくだけど、この線を引いた時の角度によって決まるんだと思う。」
「角度?」
「地上同士に居る場合を起点として、今引いた線の角度はざっと見て15度や20度ってところだろう。そのぐらいだと棒の判断としてはほぼほぼ平行線上に相手が居ると判断して真横を向く。」
そして……男は俺の頭上に空を描いて、そこに美女を出現させる。
「さて、この場合のアンタと探している相手の角度は……?」
「……かなり90度に近いな。」
「その相手が居る場所によって若干角度は異なるけど、空ってのはアンタがどう思ってるか分からないけど相当に高い。山の上より更に上だからね。だからこれは俺の仮説だ。アンタから探してる相手までの方向がこの図で言う所の45度以上だと、杖は平行線上では無く、上を指し示す。横と示すよりは上に居ると説明する方がより正確だからだ。」
「……」
案外分かりやすい説明をされて、すぐ理解出来た。つまり空に居るかどうかは別として、フォニカがとても高い場所に居るなら棒が上を向く事もあると言う事が言いたいのだ。
「……同じ建物内に居て、俺が下のフロアに居て探してる奴が上のフロアに居たら……」
「その場合、多分上を示すんだろうね。なるほど、このケース、初めてかもしれないよ。アイテム史に残る例だ。」
「……何で今までその程度の事が分からなかったんだ。」
「言ってもレアアイテムだし、そんなすぐ近くにあるであろうもの探そうとしなかったからじゃないかね。それに基本横に倒れるのが常識だったから、それを信じる人だってあんまり居なかった。使った数少ない人達の探し物はそんな頭の上にあるようなものじゃなかったんだろうね。もし探し物が上にあったとて75%の人はその方向に辿り着けない。色々合わさった結果さ。」
自分と対象のものを線で結んだ時の角度か……こいつの推測が合っていれば何となく理解は出来る。
「自信はあるよ。てかそれでほぼほぼ間違いないさ。気になるなら、確か妖精を引き連れてたろ?妖精なら俺より更にアイテムについて詳しいはずさ。そして更に言わせてもらうなら、多分アンタは25%の確率の方を引き当ててる。」
「どういう事だ。」
「これまで数多く使用されど、上を指し示したなんてケースは一度たりとも確認されてない。でたらめな所を指し示す場合にそのパターンが存在したとしてそれが出ない確率はあまりにも低い。だったらこう考えるべきさ。外れを引いた場合に上を示すパターンは無いって。」
そもそも外れの75%を引いた時、その方向ではない場所をランダムに選択してそちらに向くという概念。けどその中に……上を向くパターンは無い……
「……確定って事か。」
「イエス。世にも珍しいね。その何者かは、アンタが使った場所から線で引いて相当な角度の場所に居るって事さ。」
「……大体分かって来た。」
だが、そうなって来ると空の上に居るという推測は必ずしも正しいわけでは無い事にもなる。
「ここから一番近い山のてっぺんにもしそいつが居たとして、そいつと俺を繋いだ角度が45度以上なら棒は上を向くんだな。」
「恐らくね。けど、その条件を満たす場所、決して多く無いと思うよ。45度ってのは結構な角度だ。地に足がつくような場所じゃそうそう無理だ。」
……じゃあ、やっぱり空の上に?いや、でも空の上に居る理由も方法もまるで分からん……
「……上を指すパターン、思いつかねえ。」
俺の頭の上にフォニカが居るケース……
「ははーん、アンタにしては珍しい。いや、もしかしたらあまりに当たり前過ぎて見落としてるんじゃないかい?」
何やらバカにしたような面で俺に何か言って来る。ムカつくなこいつ。男だから尚更に。
「空にだって大陸はあるじゃないか。」
「空に大陸なんてあるはず……あ……」
空にある大陸。
「禁忌の……楽園……」
確かにそれは存在していた。何故それが存在するのか、何故空に浮いているのか考える事すらどうでも良いからと気にも留めなかったその存在。
「冒険者なら何度だって見てるはずさ。どんな理屈で浮いてそして動いているのか分からないあの謎の大陸を。もしあそこに居るってんなら四方八棒が上を指し示す可能性は十分にあるんじゃないかい?」
完全に、盲点だった。けれどその存在さえ思い出せればむしろそれ以外考えられなかった。
「(フォニカは……禁忌の楽園に居る……!)」
そして、同時にこれでもう一つ、大事な事が確定する。
「……最後に確認だ。もし探してるもんがこの世に存在してない場合、棒は倒れない……上を向くって事は、そこにそいつが居るって事で良いんだな。」
「ああ。それは保証しよう。実際存在しないものを探そうとしてどの方向にも倒れなかったってのは何度も確認されてる。」
フォニカは……生きている。あの棒は正常に動いており、間違いなく……この世に存在しているのだ……!!
「おや?なんだか嬉しそうな顔してるんじゃないか?」
「……ほっとけ。」
顔に出る程、俺はその事実を聞いてホッとしていた。そして、あいつに胸を張ってこの事を報せる事が出来る。
「……ちなみに、もし真下に探してる相手が居たら、どうなるんだ?」
「真下?」
そして心にゆとりの出来た俺は、最後に素朴な疑問を尋ねた。
「同じ建物の2階に俺が居て、相手が1階に居たら、そいつは俺の真下に居る事になる。その場合……どうなるんだ?」
「……」
真下を向くのは対象が無い場合、けど、対象が真下にあったら……?
「……どうなるんだろうね。考えた事無かったよ。ははは。今度手に入れたら是非そのシチュエーションで使ってみてくれよ。」
む、こいつら、意外とアイテムについて知らないな。
「この世の中にどれだけたくさんのアイテムがあると思ってるんだよ。名前と大まかな効果を知ってるだけでも大したものだと思って欲しいもんだ。一個一個そこまで掘り下げて知らないよ。」
「けど、ここに来た甲斐は十分過ぎる程あった。一応礼言っとくぜ。ありがとよ。」
最上の結果を手にした俺が向かった先はもちろん言うまでも無い。オルテナの所だ。
「じゃあ……フォニカ……生きてるんだね……!」
「ほぼ間違いねえよ。あの棒が指し示した方向は正しい。」
「……」
それを告げ、真実を知ったオルテナは目で分かる程に安堵の喜びと……
「良かった……っ……フォニカ……生きてて……本当に……!」
そして、涙を零す。
「泣くのはまだ早いだろ。あいつと逢った時用にとっとけよ。」
「うんっ……うん……!!」
一つ……こんな俺でも、ちょっとはオルテナを縛り付ける悲しみを断ち切ってやる事が出来たのかもしれないと思えた。
「さて、こうなると一気に進展したな。」
探す場所の目安はかなり絞れた。地上に居る確率が極めて薄い以上、もはや禁忌の楽園は最有力候補と言ってもいい。
「(……けど、どうやって行けばいいんだろうな。)」
……行く必要が出てきた矢先、まずは行く方法から探さなければならない。
「(まぁ、そこは大した問題じゃないだろう。俺は超超超一流最強冒険者だ。)」
ひとまず目先に待ち構えている色々な事をある程度片付けてから、本腰を入れて禁忌の楽園に行く方法を探そう。それこそゴーバスの闘技大会とやらももうじきだし、その前にあいつが帰って来るのもある。
「(あいつに相談してみるのもいいかも知れない。地味に色々な事を知ってるし。)」
ある意味俺の一番の相談役とも言える奴が戻って来てから先へ進むとしよう。よし、決定。




