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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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変わってないから、変える必要も無い

随分といい女になったというごく普通に浮かぶであろう感情よりも先に、出会ってしまった事を幸と取るのか、それともオルテナにとって不運だったと考えるのか、そんな葛藤から言葉も出なかった。


「やっぱり二人共知り合いだったんだね。」


「話には聞いてたから何となく想像はしてたけど……実際は話以上にカッコいい人が出て来たなぁ……」


「本当に男の人かと思っちゃった。あ、ごめんなさい……!それって言うのは王子様みたいにカッコいいからっていう意味で……」


「う、ううん。大丈夫、気にしないで?むしろ、私自身がそのつもりでそういう格好をしているだけだから。それなりに誤解させちゃうのは仕方ないよ。」


こんな俺達がどうにか再びの会話に踏み出すには、第三者の介入がどうしても必要だった。


「……何はともあれ、一旦帰って依頼完了の報告をしねえとな。」


話を逸らし、本来するべきである言葉を出さずに遠回しに持っていこうとする。


「流石にこれでマクスドラウは出ないよね。出たら……どうしよう。」


「この魔物が言ってた感じだと……大丈夫そうな気がするけど……でも、魔物にも兄弟って居るんだね。初めて聞いたかも。」


「私達には関係無いよ。さ、ラミさんの所に戻ろうよ。オルテナさんも……一緒に行く……よね?」


「あ……うぅ……わ、私は……どう、しよう……」


「……ここまで来て、フラッとどこか行くのは流石に無しだろ。俺達はこれからエイスの町に帰る。せめて少しぐらい付き合えよ。」


「……」


悩むのも分からないでも無いが、結局少し長めの間をおいて、ようやくオルテナは小さく頷き、同行する事を決めたのだった。


……


「そういやオルテナ姉ちゃんとはどういう関係なの?」


「ガキがどうでも良い事に興味持ってんじゃねえよ。まさかオルテナに色目使おうとでも思ってんじゃねえだろうな。」


「あのさ……女の人の事を知るイコール色目じゃないって……俺をシドの兄ちゃんと同じに考えないでくれよな……単純に気になるじゃん、普通。まぁ別に話したくないとかなら良いけどさ。」


「話したくない。」


「じゃあしょうがないね。へへっ、でも会えて良かったじゃん。ちょいと予想外の敵との戦いはあったけど結果オーライだね。」


「危ない所でもあったじゃねえか。」


「やっぱり俺もそうだけど、あんまり大量の敵に取り囲まれるとちょっと身動き取れなくなっちゃうんだよね。もし俺一人であんな事になったらとりあえず一目散に逃げてたけど、みんな一緒に戦ってたからどうにかなって良かったよ。」


力の足りなさはまぁともかくとしても、一人だったら逃げるってのはしっかりした考えだと認めてはやらないでも無かった。逃げるは立派な戦略の一つであり、決して恥ずべき事ではない。それをしっかり理解出来ているかどうかがこれまた冒険者としての格の違いだろう。


「オルテナ……さんは、パンチやキックで戦うんだね。あんな大きな魔物を勢いよく吹き飛ばせるなんて凄いパワーだね。」


「う、うん。ありがとう。でも、ケイさんのビームも凄いよ。使える人なんて初めて見たもの。」


「ちなみにちなみに、最初からさん付けじゃなくて普通に呼んじゃって良かったり?」


「……うん。オルテナで大丈夫だよ。もし呼び慣れなかったらケイさんも。」


「いぇい!やったぜー!やっぱり見た目がイケメンだと心もイケメンだねー!」


当たり前のように俺が絡まなければ向こうは上手く打ち解けられている。そういう意味でも、少し出会うタイミングは……いや、たとえどのタイミングでもこうなったか。早いか遅いかだけの違いでしかない……


「シノ姉ちゃんもきっと喜ぶだろうね。」


「……確かにな。」


……とりあえず、次に切り出す言葉が無かった時にはシノの名前を出して会話を始めてみよう。


……


「マクスドラウは……2体居たの?」


「その魔物、言葉を話せるぐらいの高レベルだったんだけど、兄弟だったって自分で言ってたんだ。」


「依頼は1体だけだったけど、それじゃあそのもう1体も倒してくれたのね……大変だったでしょう。報酬の方は依頼所の方からも少し上乗せしておくわね。こんなお金ぐらいでしか返してあげられないけれど……」


「ありがとうラミさん!でもみんな無事だったし大丈夫だよ!」


「それに、思いがけず探し人も見つかったしね。」


「それが、あなたね?」


自分の事が話題に出て、自己紹介をすべく為か一歩前に歩み出るオルテナ。


「初めまして、私はオルテナと言います。各地を渡り歩く、冒険者をしています。」


そしてもうこういった挨拶は慣れっこなのか、初対面の相手でも物怖じする事無く振る舞ってみせる。


「ごめんなさい。まだ私とあなたは会った事が無かったわよね。初めまして、私はこの依頼所を任されているラミよ。冒険者なら、このエイスの町に来た時はいつでも立ち寄ってくれて構わないわよ。歓迎するわ。」


「はい、お気遣いありがとうございます。その際には是非。」


さて、あらかた事が片付くにつれ、いよいよその時間が訪れつつあった。


「とりあえずはゆっくりしていってね。好きな飲み物を頼んでちょうだい、口に合うかは分からないけれど。」


「メニューをお持ち致しやした。」


そしてシレっとシーデルが傍らに。


「ありがとう。何が良いかな、みんなは何を?」


「オレンジジュースにするよ!」


「あ、私も!」


「私は……たまには野菜ジュースにしよっかなぁ。


「そ、それじゃあ……し、シドは……な、何にするの?」


オルテナの性格上、この流れで俺をスルーするわけにもいかないのか……実にたどたどしく俺に尋ねる。


「……茶でいい。」


「……そ、そっか。じゃ、じゃあ私も……それにしようかな。」


「かしこまりやした。少々お待ちくだせえ。」


……よりにもよって、俺に合わせるなんて勘弁して欲しい。どうして俺に対しての付き合い方だけこんなにもよそよそしいのか。例えるなら……酷い別れ方をした女と久方ぶりに出会った時の距離感に似ている。いわゆる嫌われているにもかかわらず、気を遣われているという一番居心地の悪い奴だ。


「オルテナはシドと知り合いなんだよね?どこで知り合ったの?」


「ええと、子供の頃に一緒に、旅してたんだ……よね……シド?」


「……その認識で間違ってねえよ。まぁ、ちょっとだけな。」


「うん。そう、ちょっとだけ……」


「旅って、二人で?」


「う、ううん。他にも一緒に旅してた子も居たよ。後、私達の親代わりみたいな人が一人……ね?」


「いちいち俺に同意を求めなくても良いっての……」


「そ、そうだよね……ご、ごめん。」


「……」


あぁ、キツい。もう少し普通に話せるかと思ってたのに、どうしてこうなっちまうのかね。俺のせいか。言うまでも無い。


「じゃあ幼馴染って事?」


「そこまではいかねえよ。本当にたまたま一緒だっただけだ。それに一緒に旅してたって言っても、別に仲良しこよしって話でもねえ。冒険をして金を稼がなくちゃその時は生きていかれなかったってだけの話だ。もっとも俺は無理矢理連れ回されてただけだがな……」


「無理矢理?シドが?へぇー、誰に?」


「……変な女にだよ。」


余計な事を言ってしまった。あんな奴の事を口に出す事も思い出す事も出来ればしたくも無いのに。


「私達はみんなライラックって人に声をかけられて一緒に旅してたんだ。」


「それが今言ってた親代わりみたいな人って事なの?」


「うん。私にとっては、そんな感じだった。もう……居なくなっちゃったけど……」


「……そう、なんだね……」


死んだ後まで空気を悪くするあの野郎の影響力ったら恐ろしい限りだ。だから思い出したくないのに。


「ねえねえもしかして、そのライラックって人が死んじゃったのが原因でシドの兄ちゃんとオルテナ姉ちゃんちょっとギクシャクしてるの?(小声)」


「……ガキが余計な事考えんな。」


それは原因でもなんでもない。俺が自由になる為のきっかけではあったかもしれないが、結局のところ俺が勝手に出てって空中分解しただけに過ぎない。


それに、俺が居なくなっただけだったら厄介な奴が居なくなってせいせいしたと言ったところで終わってたろうが……俺が見るからに、そこからもおそらく何かがあったのだろうと推測する。何故なら、その傍らに居なくてはならない人物が、居ないからだ。


「(かと言って……話すのも困難なこの状況で、フォニカの事を聞く気にもなれねえしな……)」


俺から話すような事でも無い……ような気がする。話す必要があるならオルテナから話してくるだろうに。


「(……思えば、随分自分勝手な事してるな俺は……)」


少しついて来いと言っておきながら……こんな悪い態度を取るのは流石に身勝手が過ぎるか……かと言って、話す事はいくらでもあるのに、どうしても何か一言が出て来ない……


素直になど、なれないし、それが俺自身だと納得している。だけど、こいつの前では流石にそんな自分にちょっと顔を背けたくならないでも無かった。


「……なぁ、シノって奴知ってるか?」


「……?シノ……?」


「知らねえか……」


「……ううん、ごめん。ちょっと、誰だか分からない……」


「……じゃあ、いい。」


……とっておきの話題を振ったのに、この程度しか会話が繋がらなかった。つーか、ガキも同じ事聞いたが同じ返答だったと言ってはいた。この感じだと、どうやら本当に面識も何もないらしい……


「……」


「……」


しかしこの沈黙加減、いくら何でもガキの頃はこうじゃなかったはずだった。


「(でも……考えてみれば、俺がオルテナと話す時は、大体他の誰かが居たような気がする。フォニカやジハードやら……)」


複数人で会話していたから感じなかっただけで、元々二人きりで話したりしたらこんな風にぎこちない会話しか出来なかったのかもしれない。なんだか段々とそんな気もして来た。


「(自分で言った通り、特別仲が良かったわけでもねえんだもんな……)」


「お待たせしてもうしわけありやせんでした。お飲み物と……お菓子のサービスをお持ち致しやした。」


ん……?このデザート、見た事……ねえな。


「フルフルしてるけど、これ何?」


「ルーチェさんは水餅って言っておられやした。この黒蜜を付けてお召し上がりくださいとの言伝を預かっておりやす。」


「へぇー、プルプルで美味しそうだね。見た目も涼しそうだし……頂きまーす!」


弾む言葉も出て来ない口へ、その水餅とやらを放り込んでみる。


「……おぉ、くにゅくにゅしてる!」


「しかもヒンヤリしてて美味しい!」


「それに体の奥まで涼しい風が通って行くような感じの喉越しだね。」


ルーチェが出してくるものが美味くないはずも無かったのだが、触感といい味といい、確かに唸る程の出来栄えだ。ゼリーのそれとも違うし、かと言って名前の通りの餅とも違う。水の自然な涼やかさが閉じ込められている凄いデザートだ。流石デザートに一言あるルーチェの料理と言ったところか……ちょっとだけ、気持ちが上向きになるのを感じる。


「……とっても、美味しいね。」


「……甘いもの、今でも好きなのか?」


「……うん。今も、好きだよ。変わらない。」


旅先で、初めて出会った料理……主にお菓子をフォニカと二人で食べるのを旅の楽しみにしていたように俺には見えていた。ついでだからと俺とジハードも付き合わされていたのを、ようやくこのデザートを食べた事で思い出せた。


「……ったく、大人になっても、子供っぽい所はそのまま据え置きだな。」


「……む……だって、美味しいんだもん……」


「美味しいから際限なく食べるのが子供だって言ってんだよ。お前らに付き合わされてどんだけ大量の菓子を食べ歩いた事か……後々腹が甘ったるくて仕方が無かったんだぞ。」


「そんな事言って、シドだって悪く無いとか言って食べてたじゃない。」


「……憶えてない。」


「憶えてる!私は憶えてるよ!それに気に入ったお菓子は後で私達の居ない所でこっそり買って自分だけで食べてたよ!」


「……忘れた。」


……そんな事もあっただろう。しかも、気が付かれていたとは……


「オルテナの事子供っぽいって言ってシドが一番子供っぽいじゃん。ま、それは今でもそうだもんね。ある意味見たままか。ブリアの方がよっぽど大人だもん。」


「んなわけあるか!」


「まぁ俺もまだまだ子供だからあれだけど、シドの兄ちゃんはもう少し大人になった方が良いと思うよ?」


「こんな風に諭されるところが……まさに、ってところでしょ?」


「うんぬ……!」


こんな風におちょくられるようなのは俺のキャラでは無いのに……情けない限りの醜態を晒す。


「ふふ……」


けれど、そんな恥ずかしい所を見せても、それでも良かったと思えるなら、これでも悪く無いと思えるのかもしれない。


「シド……変わってない……全然、変わってないよ。私の知ってる頃のシドのままだ。」


「……そう簡単に、変わるかよ。」


ぎこちなかった彼女がようやく俺の知るような昔の屈託の無い笑顔を見せてくれたのなら、こんなとりとめの無い会話だって、決して悪いものじゃなかった。


「……あの頃のままのシドで……良かった。」


あんなにも長い年月で凝り固まってしまっていた関係も、こんな些細な事で溶けてゆくのだと、今身を以て知った。


もしかしたら俺もオルテナも、同じように不安を感じていたのだろうか。


あの頃のように接していいのかどうか。


……悪いわけ、無い……


きっと俺もオルテナも根っこの部分はあの頃と何も、変わっちゃいなかったのだから。


だからあの頃の続きを始めるかのように、何も深く考えることは無かった。


遠慮も気遣いもいらない。何も考えずただ一緒に旅をしていた頃の、俺達のように。

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