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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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経験に学び、そして記憶に辿る

「オルテナ……クエリ……」


口にして繰り返したその言葉、その名前は俺の知るそれと全く同じだった。


「向こうで戦ってる人達も君の仲間だよね。一人知ってるよ。ブリア君とは何回か顔を合わせた事があるから。」


「……らしいな。何となくそう聞いてる。」


久しぶりに会って、何と言葉を交わしたものかと思っていたが、実際には何とも味気ない言葉だった。取り繕うでも狼狽えるでも無く、そんな言葉。


「人間……奇襲に奇襲を重ねる意趣返しのつもりか?だが、この戦力差の前では大した差にはならんぞ。」


「……だろうな。結果は変わらねえさ。ハナから。」


……オルテナが来ようがそうでなかろうが……


「勝つのはこっちだ。分かり切った事じゃねえか。」


「人間と言えども、全てが聡いわけでは無いのは知っている。お前のようにな!!」


対面の間も僅か、再び怪力でぶん殴りかかってくる。一発直撃しただけで骨が折れちまいそうな奴を。


「……調子乗ってんなよ。」


「……ぬん……ッ?」


だが、幾度も実践して来て身に染みている。当たらない攻撃など無意味。むしろパワーを込めた分損だと言う事を。


「テメエの防御力は厄介だが、その攻撃をかわす事は大して難しくねえんだ。」


本来なら回避の後カウンターに移行するが、そこは純粋に距離を取る。ならばと敵が続けて攻撃に移るところだが……


「ほあちゃー!!!」


「……ぐおぉあッ……!!!」


今の俺にはお節介にも協力者が居る。そいつの攻撃で野郎の巨体はたじろぎ、みっともなくも吹っ飛び尻もちをつく。でかい図体が裏目に出たとはこの事。


「協力するよ。この大きい魔物を倒す協力を。」


「手を出すも見てるも好きにすると良いさ。どっちでもお前の自由だ。」


「……自由……」


その言葉を聞いて、何故かオルテナはキョトンとしていた。


「まどろっこしい人間共が……この程度の攻撃で俺はピクリともしねえ……!」


すぐさまデカい体が起き上がって来る。


「俺よりあいつらの助けに行った方が良いんじゃねえのか?」


「最初はそう思ったけど、あの娘が加わったら大丈夫だったみたい。見ての通り。」


「……だな。」


ケイとガキの救援に向かったエル、一人加わった所で容易く状況が一変するかと思われたが……どうやらまさかのまさかだった。


……


「これなら楽でしょ!」


「うん!超ビーム!!」


「カ……カッ……」


瞬く間にガルヴァス達は倒れていく。ケイのビームが次々魔物達を打ち倒していくのだ。その光景にさしもの魔物であっても恐れおののくばかり。


「そっちに気を取られてばっかで俺を忘れるなっての!!」


「……!!」


戦意を喪失した者はもはや魔物というよりは獲物。ブリアの放ったブーメランによって切断されるのを待つだけの棒立ち人形と変わらなかった。


「(エル姉ちゃんが来てくれたのもあるけど……まさか、こんなやり方するなんて……!)」


ただ戦力として加わるだけではこうも一方的な展開にならなかっただろう。今目の前の光景にブリアは感嘆する。その発想力の自由と、それを可能にする力技に。


「エル、私重くないかなぁ。最近ちょっと体重増えちゃったんだ……」


「成長成長!私も超成長中だし!だから全然余裕!そんなの気にしないでケイはただ真っ直ぐに強いビームを撃つだけで良いって!」


「分かった!ようし、バンバン撃つぞー!!」


この切り替わりの早さがケイの良い所か、妹に肩車されながら縦横無尽に戦場を飛び交う。固定砲台が移動式砲台に切り替わった如く。


動いている相手にビームを当てるのは難しく、狙いを定めようとしているだけでも疲労は生じ、それだけ敵の接近を許す時間が生まれてしまう。気が付けば周囲を取り囲まれて身動きが取れない状況に陥っていた先程だったが、妹であるエルが狙いをつける役目を担えばその欠点は全て解消される。


「(私はケイを担いだまま敵の前まで行けば良い。)」


「(私は狙いを気にしないで強いビームを真っ直ぐ撃てば良い。)」


ただ力任せにビームを撃つ方が圧倒的に楽であり、威力、貫通力のあるビームを放てる。敵を確実に倒せる事で精神的にも昂揚し、言わばイケイケ状態になっていくのだ。


「あんな凄いの見せられちゃ、俺の出る幕殆ど無いぜ、ちぇっ。」


けれどその活躍を見て、嬉しそうにしているのも間違いなかった。


「……ま、いっか。それに……オルテナ姉ちゃんとも合流出来たし。」


語らうのはこの後としても、彼女が現れた意味は極めて大きかった。一人加わっただけで、文字通り戦況は覆った。


……


「あっちょー!!!」


「さっきは不意を突かれただけだ……威力が分かってればもうあんな無様な格好は晒さねえ!」


「わたたたッ……!危ない危ない……」


すんでの所で攻撃を解除して奴の攻撃を回避するオルテナ。少しヒヤリとはする。接近戦を行わざるを得ない以上、敵に攻撃を与える事も容易ければ、受ける事もまた容易い。ましてや素手で戦う人間ならば一番その脅威にさらされるのだ。


「やり合うのは俺に任せてお前はちょこちょこ入ってくれば十分だ!そらぁあッ!!!」


そうさせない為に、俺がこいつを引き付けるべきだろう。俺の剣ならば奴の攻撃を少しぐらいなら受けても受け流す事が出来る。


「いい加減悟れ!!いくら攻撃しようとも俺に届く攻撃なんてねえと!!」


「さぁて……そいつはどうだかな。」


少なくとも俺には見えていた。さっきよりも確実に奴に効果的な一撃を生み出せる一手が生まれたと。


「(確かに一刀両断するにはちょいと足りはしなかった。だが、それでも僅かであっても傷をつける事が出来た。)」


全く刃が通らないのと少し斬り裂く事が出来るのは雲泥の差だった。刃が途中で止まると言う事は……言い換えればそれを越えるだけの勢いがあれば更なる斬撃を加える事に繋がる事になる。


「(それは俺の力だけで出せる部分では無く、外的な力。例えば超高い所から飛んで振り下ろす事でかかる重力のようなもの……)」


力にプラスαを加える事が出来れば、十分にこいつを斬り裂くだけの威力は叩き出せる。さっきまでどうやってその力を用意したものかと考えていたのだが、偶然にもそのピースは現れてくれた。


「あっちょー!!!」


「ぬぐ……んっ……!!!小癪……なッ……!!?」


頼んでも居ないのに実にいいタイミングでオルテナは奴の側頭部を蹴り飛ばして見せた。どうやら魔物にも考える脳というものは備わっているのか、それが逆に足を引っ張っているのか、人間でいう所の脳震盪に近い状態になっているのか頭をグラグラとさせている。足も千鳥足になっておぼつかない様子で。


「何とかなりそうだけど、トドメを刺すってなると大変そうだね。」


「そうかもな。だが、今なら出来る。俺が居て、お前が居るなら。」


「……」


「?どうした、さっきからたまに変な顔しやがって。」


「……ううん、何でも無いよ。ちょっとだけ昔の事を、思い出しただけだから。」


……気が付いているのか、そうでないのか……それとも俺と同じように、面影を見ているのだろうか。かつて共に戦っていた時の事を、今の俺のように、思い出しているのか。


「……分かった、倒そう。じゃないと後でこの周りの人達に危害を加えるかもしれないからね。」


「もしそうじゃないって言っても、俺の前に現れた魔物は全てぶち殺す。ましてや偉そうに力を振り回してくる奴なんて特にな。」


敵が体勢を整えようと息巻いている、今がまさしく好機。


「オルテナ、悪いが頼みがある。お前の超強力な一撃を奴にぶちかましてくれ。俺の居る……方向に向けて。」


「分かったよ。任せて!」


多くを伝える事も無く、アイコンタクトだけで俺達は互いの意図を汲み、自らのやるべき事を理解する。昔からこいつは相手の気持ちを察するのが上手いというか、物分かりの良い奴であった。


「……ッ……テメエ……ぶっ殺して……潰してやらあああッ……!!!」


オルテナは敢えて危険を顧みず、敵の眼前に立ってくれていた。奴にとっては獲物が目の前にぶら下がってくれたも同然。だから考える間もなく拳を振り上げる。


「う……ぐ……ぉ……あ……!?」


だが、振り下ろすまで至らない。何故か、いいや俺の目からは当然のように途中でよろめいてしまう。


「多分そう簡単に復帰出来る程そのダメージは小さくないよ。君は今までそれだけ大きな衝撃を頭に受けた事が無かったんだろうから分からないだろうけど。」


確かにこの魔物は強かった。強かったが故に、ダメージを受けた事も少なく、その影響がどのようなものなのか経験が無い。あれ程の頭部への衝撃を受けて怒りとはいっても意識を保っているだけやはり頑丈なのだろう。けれどその意識に体はどうしてもついて行かない。


「さぁ、これで終わりだよ。」


そんないっそ無防備な相手に向けて、オルテナは構える。十分に力を込めて。


「……う……ぉお……ッ……そんな小せえ体で……この俺を倒せると……ッ……」


2倍や3倍では済まない程の体の大きさ。常識で考えたらオルテナの攻撃で奴がびくともするはずも無いが、しかし俺は知っている。ガキの頃からよく見て来た。


「倒す事は出来なくても、吹き飛ばすのは出来るよ。」


そう、昔からあいつは……


「もっと大きな魔物と、戦った事もあるからね!」


自分よりデカい敵との戦いを、幾度も経験していたのだから。


「……ほあっちょーーーッ!!!」


「……!!」


強烈なまでの勢いを纏う回し蹴り!!そしてそのコントロールの精度も見事に野郎のデカい図体は空中を舞いながら俺の方へと吹き飛んでくる。


「ナイスだオルテナ。トドメは……俺が貰うッ!!」


足りなかったのは加速、つまりは威力を増す為の勢い。一度速度が付いたならばそれは重量を伴っている程に加速する。あたかも俺が空中から落下しながら攻撃するのとさも似たり。


「終わりだぁああッ!!!!」


ただ力を込めて攻撃するだけで……


「……ごぁああああッ……!?!」


あんなにも強靭を誇った奴の肉体を、一刀両断するに至る!


「……しぇあああッ!!!」


奴の肉体を斬り裂き切った事を確信した俺は勝利の叫びを放つ。


「……こ、こんな……軟弱な……人間共……ニ……俺の……体……ガ……」


久々に良い手応えの一撃をかます事が出来た。思う存分に、そして思いのままに相手を斬り裂いた。


「昨日ぶっ殺したテメエの弟とやらと同じってわけだ。向こうで心行くまで敗因でも語り合ってろよ。」


「俺が……死……ヌ……?これが……この感……覚が……死……」


体を半分に斬り裂かれた者にやがて訪れるは絶命。たとえ人であろうと魔物であろうと。


これでもう、マクスドラウは現れまい。本当の意味で、依頼を達成したと誇ろう。


「これで、最後だ!!最後ビーム!!!」


感慨に浸りながら、その言葉を耳にして理解する。向こうの戦いも決着したと。


「やったぁ!!勝った!!勝ったよエル!」


「当然じゃん!私達姉妹が揃ってるなら敵は無いって!」


……姉妹コンビネーションと言うべきか。それが結果に繋がったのだからその絆も本物だろう。良くやってくれたものだと内心褒めてやりたい。


「なんとか終わったね。中々手強い魔物だったけど……君、とっても強かった。」


「お前のアシストがあったからじゃねえか。」


「そんな事無いよ。私は本当に手助けしただけ。トドメを刺せたのは君自身が強かったからだよ。本当に強くて……なんだか、昔一緒だった男の子の事を思い出してた。君に喋り方も少し似てて、ちょっと乱暴だったけど……でも、本当は優しくて強い男の子の事を……」


「……」


「あ!ごめんね……別に君が乱暴って言ってるわけじゃないよ?君は本当に……」


「……ありがとな。」


「え……」


「俺一人でもどうにかするつもりだったが、お前が居たから楽に奴を倒せたんだ。だから礼を言っとく。」


「……」


「……キョトンとすんなっての。」


「……なんでか分からないけど……でも、何だろう……とっても不思議な感じがする。」


……何を言ってんだか。


「おーい!オルテナ姉ちゃん!!」


「……あ、ブリア君達も来たよ。」


戦いを終えて手を振って来るガキとケイ達を迎える。


「また助けてもらっちゃったね。」


「君とはよく会うね。これで3回目かな?ふふ、お役に立てて嬉しいよ。」


柔和な微笑み、こうして近くでまじまじ見ると確かに言われなければ整った顔立ちの男と見る事も出来るかもしれない。だが今の俺にはまごう事無く女のそれにしか見えない。


「この人が……オルテナさん……なの?ブリア?」


「ああ、そうだよ。」


「わゎ……本当に王子様みたいにカッコいい人だ……!」


「初めまして、私はオルテナ・クエリ。恐らくは皆さんと同じ、冒険者だよ。」


見ていて絵になる様で、落ち着き払った自己紹介をして見せる。そういう面で言えば、あの子供の頃の様な感じは無いな。体も心も十分に成長して大人のそれとなっている。ガキのままなのは俺ぐらいなものか。


「私はエル。こっちはお姉ちゃんのケイ。助けてくれてありがとうね!」


「た、助けてくれてありがとう!あ、後昨日も!」


「ふふ、どういたしまして。と言っても、そっちは手助けしてないけどね。」


「あの勇ましい登場からの一撃があったから魔物達も怯えてこっちも体勢を整え直せたんだし、十分手助けだったよ。」


「そっか。それで、君の名前は?」


「……」


……女相手に自らの名を名乗るのを、こんなに躊躇する事があろうとは。


「あれ、もしかしてあんまり名乗りたくない感じだった……?だとしたら聞いちゃってごめんね……?」


「何だよ黙っちゃって。シド兄ちゃんがオルテナ姉ちゃんを探すって言ってここまで来たのにさ。」


「……シド……?」


……空気を読まないガキだが、でも結果的に伝わったのなら……まぁ、これで良しとしてやるか……


「……え……まさか……シドって……」


俺の名を聞いた事で、目の前の人間と過去のそいつを重ね合わせているのか、さっきまでのどこか他人行儀な目では無く、もっと身近だった誰かに対するような目つきに変わっていくのが見て取れた。


「シド……?本当に……本当にあの……シドなの……?」


戦いを通じて、再会するなんて、戦いの中で過ごして来た俺達らしいとも言える。


「……気が付くのが、遅えっての。」


こんなに気恥ずかしいの、果たしていつぶりなのだろう。赤面すら辞さない程のこっ恥ずかしさ。


「「……」」


そうして見合った結果、結局俺達のどちらからとも、言葉も出なかった。

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