忍びが伝え鳴らす警鐘
「あまり上手に出来なくてすみませんでした。」
所詮私のやれる事なんて大した事じゃない。こんな状況はこれからだってたくさんある。出来たらレガリアが欲しい。
「……」
やれる事全てやり切った私の目の前でフウマさんは立ち上がる。そして……
「……ここで降ろしてもらえるだろうか。」
「え?ウィガンドまではまだだいぶ遠いけど……」
「構わん。」
「……ま、まぁ、そう言うなら……けどせめて傷の治療ぐらい済ませてからの方が……」
「もう既に済ませた。」
「……」
運転手さんとの交渉の末……乗り物は停止する。何も無いその往来で。
「……」
「どこに……行っちゃうんですか。」
「……」
何も、言おうとはしてくれなかった。
「……フウマさん、困ってる事があるなら私……」
「……情けは、無用だ。拙者は……お前の力など借りるつもりは無い。」
「……私……知ってる人が困ってたら……見過ごしたくありません。」
「……それはお節介だ。」
「お節介でも……いいんです。私がそうしたいだけだから……」
「……」
それでも、フウマさんはこちらを向いてはくれなかった。
「……手当てをして貰った礼にもならぬが……一つ、忠告をしておく。」
「忠……告……?」
ただ、言葉だけを私へと向けてくれた。
「何者かが……今、この世界にて暗躍している。気づかれぬ程の規模だが……確実に。」
「……」
「……確かお前は、別の世界から来たのだったな……」
「は、はい。」
「……翼を生やした男、いや……あの姿はまさしく鳥人と呼ぶべきかもしれん……名はシエンタ……そしてアメリアという女……もしもこの二人、あるいはいずれかに出くわすような事があったなら……すぐにその場から立ち去るべきだ。無論……それだけの余裕があればの話だが……」
翼を生やした男の人……?そして、アメリアさん……?
「あ、あの……フウマさん……!その人達って……」
「忠告はした……もう、二度と会う事は無いだろう。」
「あっ……!!待っ……」
……気がつけば、まるで一迅の風のように……フウマさんの姿は消えていた。
「……フウマさん……」
……やがて、乗り物は再び走り出す。
「(……一体、何があったんですか……フウマさん……)」
思いがけぬ遭遇。そして……多くの違和感。
行動を共にしているはずのスイゲツさんとライオウさんは傍に居なく、傷だらけのフウマさん。そしてその傷を負ったまま……洞窟へと向かおうとするフウマさん……
明らかに異常な事態だ。
そして……フウマさんの忠告……
「(フウマさんは私が異世界人である事を確認したうえで……忠告をしてくれた。私がそうである事に……意味があるかのように。)」
何だろう。何か……何かが起こっている。
私の知るところ、そして……知らない所で。
私達の追っている集団とフウマさんが関わっているような気がしてならない。
「(シド様達の所に、戻ろう。)」
……不穏な予感を胸に、私は戻る。いや、それしか出来なかったのだ。
目の前で困っていると分かっている人に手を差し伸べる事も出来ず……ただ、見送る事しか出来なかった。
……
「あふぅあふぅ……」
艶めかしい声を発する私。
「凹凸の無い平坦な声で何を言っているんだ。」
「乗り物の揺れに合わせてリズムよく喘いでいます。あふぅあふぅ……」
「アホか。」
ストレートに言われてしまった。
「……あの、シド様……」
「何だよ。」
「あのですねさっき起こった事なんですけど……実は私フウマさんに会って少しお手当てをしたんですって言ったら……怒りますか?」
……少し葛藤した挙句私は、伝える事にした。さっき起こった事。そして感じたただならぬ予感を。
「誰だよそいつ。名前からして男だな?お前もいい加減覚えろ。俺は野郎の名前なんて覚えていない。」
「……ぐふ。」
私ったら……何度同じ過ちを……!
「忍者さんです。ニンニン。」
「忍者って事は……カラマの仲間か?」
「仲間と言うか……なんと言うか……ああもういいです。」
うぅー。いつもは頼りになるシド様だけどこういう時ばかりはもう少し何とかして欲しい。同じ経験をしてきたはずなのにこうやっていちいち説明をしなくちゃならないんだもん……
「フウマってあの人だよ。シドが永夜城で会ったあの男の人。」
「……」
思いだそうとしてくれている。
「頑張って思い出してください……私の心からのお願いです。」
「……居たような、気がする。」
……こりゃ思いだしてないな。
「シド様は時々私以上のお馬鹿さんになってしまいます……よよよ。」
「……そのほっぺた抓ってやろうか。」
「私の体に3つあると言われている内の1つの柔らかくてムニムニなほっぺたに手を出したら全国のシノちゃんファンが黙っていませんよ。」
「急に色々と設定を盛り込んでくるんじゃねえよ。」
「ちなみにもう二つはお腹と二の腕です。プニプニ。」
自分で摘まんでアピールしてみる。
「どうでもいい。」
「……しゅん。」
……はい。冗談です。小芝居はこれくらいにします。本当に。
「ねえシノ。さっきフウマに会ったって……もしかして救急セット持っていった時?」
「……です。最初に見に行った時フウマさん……傷だらけだったんです。」
「だから誰なんだよそいつは……」
「むー、シド様は分かる話が出て来るまで少し静観していてください。」
話が進まないよう……
「けっ、邪魔者扱いしやがって。もう知らん。」
……すねてそっぽ向かれちゃった……可愛いけど、困っちゃう。
「フウマってこの間戦ってた……言ったら敵だった相手だよね……」
「そうなんですけど一応戦いなどにはならなかったです。ちょっと鬱陶しく思われてましたけど……」
「でも手当てしてあげたんだ。シノは優しいね。」
「そんな事はありませんけど……でも結局どうしてそんな傷を負っていたのかは分かりませんでした。見た感じだと結構酷い感じだったのにフウマさん手当てが終わったらすぐに行ってしまって……」
「フウマって言ったら……ライオウって子とかも一緒だったの?」
「それなんですが……フウマさん一人しか居なかったんです。スイゲツさんもライオウさんも居ませんでした。それに……二人がどこに居るのかを尋ねたらフウマさん……とっても厳しい顔をして、何も話してはくれませんでした。あれは絶対……何か良くない事があった時の表情でした。」
会いたくも無いのに私なんかと遭遇したから、なんて言われたら言い返す言葉も無いけれど……
「良くない事……二人に何かあって、それでフウマも怪我を負っちゃったのかな……」
「けどフウマさんもスイゲツさんもとっても強い人のはずです。なのに……あんなケガを負うなんて……」
「強いって言ったって、上が出て来たらそこまでだ。俺みたいにてっぺんならともかくな。ようやく話が飲み込めた。スイゲツやライオウと一緒に居た金魚のフンの話か。」
「……シド様から見て、フウマさん達はどれぐらいの強さでしたか?」
「……まぁ、そこそこではあるな。誰より強いとかは言えないが、そんじょそこらの魔物程度に後れを取る事はあるまい。」
「じゃあ……魔物と戦ったからと言うよりは、誰かと戦ったからって可能性の方が高いって事ですか?」
「……どちらかと言えば、そうじゃねえのか?知らんけど。」
シド様の予想は、きっと正しい。
「……フウマさん、私に忠告してくれたんです。今この世界で何かが起こり始めているって。影で何かが動いているって……」
「何かが起こり始めてる?」
「……どうして憎んでる私にそんな事を言ってくれたのかは分かりませんけど、私が異世界人であるから、そんな風に教えてくれたように思えました。そしてこうも言いました。もしもシエンタと言う男の人、アメリアと言う女の人と出くわしてしまったら……すぐに逃げるべきだと。」
「シエンタ……?」
「アメリア?」
「……私の勝手な考えだけど、フウマさんをあんな目に遭わせた相手って、その二人なんじゃないでしょうか。しかももっと踏み込むと……その二人の人物は、今私達が追っているアープデイと言う男と……関係があるかもしれません。」
「……そこまで飛躍するのか。」
「もしフウマさんの言葉が真実だとするなら、その二人が異世界人を狙っているからこそ私に忠告をしてくれたと考えられます。今この世界中で異世界人を狙っていて尚且つレイナードさんやフウマさんみたいな実力者をも凌ぐかもしれない力を持つ人達……それらが無関係な一団だと言えるでしょうか。自然な流れならば……その両者は同じ目的の元動いている仲間達と言えるはずです。」
「「……」」
私達の目の前で雪美さんをさらったアープデイ。そしてフウマさん達を襲ったと思わしきシエンタとアメリアさん……私はここに、一つの線を結ぶべきと結論付ける。
「もし……もしそうなら、フウマに聞いてそいつらの居場所の手がかりとか……」
「あ、それが……聞く前にフウマさん行ってしまったんです……あふ。」
「……そっか。それじゃあ残念だね……」
もう少しゆっくりして行って欲しかったな……
「その野郎の行く先はともかく、スイゲツとライオウの奴が少し気がかりではあるな……一緒に行動してないって事は別行動しているか……最悪の場合動けないような状態にあるって可能性もある。」
「フウマさん以上に重傷を負ってるかもしれない……」
「もしくは……捕まっちゃったかもしれない……だよね……」
無いとは、言えない。今現在においても必ずしも異世界人ばかり狙っていると断定出来ているわけでは無い。ラミさんの話だと強い力を持った人が狙われているという話もあったんだもん。
「ちょっくらこちらの席失礼しても?」
「え、あ、はい。どうぞ。」
急に横から入って来られたのでつい条件反射的に席を勧めてしまう。
「それはどうも。よっこいせ……」
その男性は空いている私の隣に腰掛けた。
「……って、結構周りの席空いてますよね。」
「ん?おお、確かに。」
どこかワザとらしく辺りを見渡してはそう言ってみせる。目立ったお客さんは私達の席と一つ隣のジェイさん達の席、後はお客さんがちらほらと言った所である。
「おい、野郎がわざわざ視界に入って来てんじゃねえぞ。とっととどけ。」
せめて女性だったなら見逃したかもしれないけれどシド様の目の前では残念ながらそうなるのが目に見えている。
「そうかそうか。そう言われては仕方がない。今お前達が話していた内容に心当たりがあったものだからついつい来てしまったのだが……」
「えっ……?」
「……」
その言葉に、空気が一変する。
突如隣に居るこの人から、異様な雰囲気が漂う。
いや、既に漂っていたのに私が気がつかなかっただけなのかもしれない。
「……帽子のお前さんが、異世界人か。」
「……!」
私は、戦慄する。
「ああ、あまり騒ぎを起こさない方がいい。それこそ取り返しのつかない事になりかねない。この乗り物中大パニック……それどころか大量に死人が出てしまうかもしれん。」
その口ぶりから私は……この人がただの関係者ではとどまらない事を察知する。
この圧倒的な佇まい……そして存在感……これは何か知っている程度では無くむしろ……
「まさか……あなたは……」
「ふむ、大体察している通りと見て相違ないだろう。そしてあわよくば……お前さんをさらっていこうかと思っている。」
「「……」」
……この空間において、極めて切迫した空気に包まれているのを知っているのは、私達だけ。
仲間であるジェイさん達ですら、まだこの事に気がついていない。
それ程までに限定された空間。まるで外界と隔離されたかのように。
そんな中で私はどうにか平静を取り繕うのが精一杯だった。




