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シドとシノの大冒険  作者: レイン
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そのたった一言

「……この広い世界でよりにもよって……最も再会したくない者の一人とこのような場所で出くわすとは……運命は数奇なものだ。」


「……」


どうやら、フウマさんはあまり私の事が好きじゃないようだ……(しゅん)


「……スイゲツさんやライオウさんは……」


「言ったはずだ。関係の無い事だと。答えるつもりは無い……」


「あふ……」


取り付く島もない……


「……ぐすん。」


「……何故に泣く。」


「……嫌われているのは分かっていても、正面からそう言われるとちょっと傷ついてしまう弱い私なだけです……」


「むしろお前は、何故拙者と相対してそのようにしていられるのだ。」


「へぅ……?」


「レグナスの地下牢にて拙者はお前の命を奪おうとしたのだぞ。覚えておらぬとは言わせぬ。」


「……ああ、そんな事もありましたね。あの時は大ピンチでした。」


「……自らを殺そうとした相手を……憎いとは思わないのか。」


「私は……とりあえず今無事なので、あまり気にしていません。」


「……それは何とも、おめでたいものだ。」


「……あふ。」


私のような平凡で平坦な人を見るときっと……フウマさんはイラついてしまうのだろう。こんな平和ぽけぽけした私を見ると……


「……その怪我は……」


「……これ以上問うな。もう……行くがいい。」


「……」


最後にそう言われて、フウマさんは完全に目を閉じて私を話し相手から除外する。もう、触れてくれるなと言わんばかりに……


「……とぼとぼ……」


……私は、シド様達が居る自分の席に戻った。


……


「……こそこそ。」


「バレたくないのかバレたいのかどっちなんだ。」


「半々の揺れ動く微妙な気持ちです。」


席に戻った私は自分の荷物から色々取り出す。


「ねえねえシノ。向こう大丈夫だったの?」


「ええと、まぁ色々と……」


適当に話を濁しながらそそくさと私は……


「どうして救急セットを持って戻ろうとしてるんだ。」


「はう……」


見つかってしまった。シド様ったら目ざといんだから……


「もしかして、怪我したって人の手当て?」


「だったら私達も行く?」


「い、いえ。そんな大勢じゃなくても大丈夫です。向こうの人もあまりたくさんで押しかけるのが好きでは無さそうなので。」


忍者だもん……


「そうか。だったら俺達はここで待ってるぜ。」


「はい。待っててください。」


……よいしょよいしょ。


……


とてとてと去っていく姿を見て思う。


「また余計な事に首突っ込んでるなあいつは……」


「シノらしさ全開中だね。」


「助けたい気持ちは分かるがそのせいで他が疎かになったら後悔するのはあいつ自身なんだが……イマイチその辺がまだちゃんと理解出来てない節がある。」


「その辺はシドがちゃんとカバーしてあげりゃいいじゃん。むしろ今までだってそうしてきたんでしょ?」


「シノさん言ってました。今の自分があるのはシドさんのおかげだと。」


「随分慕われてんじゃねえか。見かけと言動に寄らず、よ。」


「ほっとけ。結果的にそうなってるだけであって別に俺の本意では無い。利害が一致している時はそりゃ協力もするだろうが、万一正反対の方向を向くような事があったらその時は俺は知らん。」


「とか何とか言っても最後にはちゃんとシノの為に頑張ってくれるのがシドだよね。」


「そういうの良いと思います。」


「普段乱暴でもシノには優しいんだなぁ。」


……タンザナイトのせいでまた好意的に誤解されちまった。いいんだか悪いんだか。


「あ、そうだ。ねえねえシド。」


「?何だ?」


「今思い出したから今の内に言っておきたいんだけど、あの時はありがとう。」


「……?」


唐突過ぎて何の事を指しているのか把握出来ない。ケイの奴に礼を言われるような事あっただろうか。


「クロックさんのお家で私の事励ましてくれたから。」


「……ああ、そんな事か。」


大して意識もしていなかったが、そう言えばどことなく落ち込み気味だったのもあってかそんな事も言ったかもしれない。


「やっぱり私が油断しちゃったせいで雪美ちゃんがさらわれたのは本当だし……責任は0じゃないと思う。だからちょっとしょんぼりしちゃったんだけど……でも、シドが言ってくれたから気が付けたんだ。本当に一番悪いのは原因を作った人だから、その人を倒さなくちゃいけないって!」


「……それは、大切な事だ。」


責任感の強い奴ほど、優しい奴ほど……自分の責任だと思ってしまう。


だがそれは極めて間違っている。


誰か一人のせいだなんて事そうそうある事では無い。比率の違いなどあったとしても、確実にその一人だけのせいなんて事まず有り得ない。


たとえあったとしても、肝心なのはケイの言う通り原因を生み出した奴なのだ。雪美を含めた俺達全員あの野郎に巻き込まれた被害者と言っても過言では無い。


突然現れた加害者が引き起こした事にどうしてこっちが申し訳なく思わなければならないのか。


もっと強気でいいんだ。ムカつく事には言い返す。やり返す。それは間違いでは無い。


「シドは滅茶苦茶に見えても意外と本質がちゃんと見えてるよね。普段が普段だから言葉に説得力があるかどうかはちょっと疑問だけど。」


「ですが、優しい言葉をかけてあげられるような人は素晴らしいと思います。」


「だねー。私も少しずつ見直して来てるから安心してよー。」


何の安心?


「おい、シド。」


「あん?」


「言っとくがあんまり勘違いするんじゃねえぞ。」


「……何をだよ。」


「アイ達に良いように思われてるからって軽はずみに手を出したりしようとしたらこの俺が……」


「出さん。確かに容姿は素晴らしいが中身が色々と癖があり過ぎる。今の俺じゃちょっと乗りこなせる自信が無い。」


アイは見た目に反して若干ポンコツだし、ケイも見た目に反して大幅にポンコツだし、エルの奴は狡猾だし……どうも決め手に欠ける所がある。だからあまり口説こうという気持ちにならない。何より今みたいに野郎が食いついて来るのが面倒で仕方がない。


「心配し過ぎよジェイ。」


「そうそう。大丈夫だって兄ちゃん。流石についこの間会ったばかりの相手に操は捧げないってー。」


「……まぁ俺はお前らが心から良いと思った相手なら別に構わねえんだが……とりあえずシドはまだ止めとけ。日が浅すぎる。」


「何を勝手な事言ってやがる。」


「ねえねえエル、操って何?」


「ん~、操って言うのはなんて言うか女の子にとって生涯でたった一度しかあげる事の出来ないものかなぁ。」


「たった一度だけ?そうなんだぁ……」


……無知だな。ちょっと可愛らしいが……どこぞのわけ分からん奴に持ってかれるぐらいならその内俺がすすすっと頂いても……


「邪な目でケイを見てんじゃねえ!!」


「……そういや、俺の方からもテメエに言っておきてえ事があった。」


「?んだよ。」


「俺の名前を呼ぶんじゃねえ。二度とだ。さっきはスルーしたが次はねえ……そん時は普通に殺す。」


「な、何を急に言ってんだよ。」


「シドは男の人が嫌いでそれが極まって名前を呼ばれるだけで不快な気持ちを覚えるんだって。でも間違って呼んじゃっても大体大丈夫だよ。実際に名前を呼ばれたから誰かを斬ったりしたのは見た事無いから。」


「なんだ。それなら安心じゃねえか。ヒヤヒヤさせやがる。」


タンザナイトのせいで俺が全然怖くない奴に思われてしまっている……くそ!シノの奴が早く戻って来ないから俺が会話の中に入らなくちゃいけない感じになっちまうじゃねえか。


ああ、不愉快だ。早くどこぞの村でも町でも着かないだろうか。


……


「すすす……」


物陰から、様子を伺う……


「ちら。」


良かった……フウマさんはまだ居てくれた。


「……」


目を閉じているけれど、寝ている……わけないよね。あんなケガしてるのに……


「あの、フウマさん……」


「……もう近付くな。」


「……手当てをしに来ました。」


「必要無い。」


「そう言われるとは思ってましたけど……でも、やっぱり私が納得出来ないので勝手に手当てしちゃいます……素人ですからあんまり上手には出来ないですけど……」


「……それ以上寄るな。寄れば……斬る。」


「……!」


その痛ましい体で刃物を握り、私に向けて構えるフウマさん。


「……すすす……」


「っ……!」


けれど私はそんな事お構いなしに距離を詰める。そして一振りすれば私の体を簡単に切り裂く事が出来る程の距離まで……接近する。


「……」


けれど、その刃は私を傷つける事は無かった。


「私の事を斬らずにいてくれて……ありがとうございます。」


「……」


この場で私を殺そうという程の敵意が無かっただけで私には十分だった。


「それじゃあ今、手当てしますね……よいしょよいしょ……」


「……」


内心では不快に感じていただろうけれど、とりあえずフウマさんは私に身を委ねてくれた。何も言わず、ただジッと。


「よいしょよいしょ……」


「……」


完全に空気は重かったけど、私もいい感じの話題が思いつかなかったのもあってか手当てに専念していた。


「(……この傷、刃物じゃないような感じがする。)」


パッと見て思ったのはそこ。


見て取れた怪我は……打撲と……火傷……?


「拙者達の企みを阻止した相手の施しを受けるなど……恥にも等しい事だ。」


「恥の上塗りなら私の得意分野です。私より恥ずかしい思いをしてる人きっと中々居ません。」


「……だが、そうされなければ満足に動く事も出来ぬ拙者は既に……忍びの恥晒し者だ。」


「私もよく怪我をしてしまいます。でも元気になれば何事も無かったと一緒です。」


「……このような事をして、拙者に不意を突かれるとは思わんのか。」


「もしそうならさっき私は死んでます。でも……フウマさんを助けたかったから……何より信じたかったから。だからもしどうなっても後悔なんてありませんでした。そんな事で怖気づいてしまって……助けられたはずの人を見捨ててしまう方が嫌だから……」


……って、そんな偉そうな事を言ってしまう。実際万が一フウマさんに斬られてたらきっとわーわー騒いじゃうんだろうな私……


「……スイゲツも言っていた。お前の施しを受けてしまったと。」


「……あふ。」


「……他者の痛みを知り……その為に動こうとする心……少なくとも拙者には無いものだ……ましてや、敵の為などに……な。」


「少なくとも私にとっては敵とかそういう関係じゃありません……私は……自分勝手だけど……いつかまた話したいってあの時思いました。フウマさんやスイゲツさんは……私の顔なんて二度と見たくも無かったと思いますけど……それでも……」


「……過去を、無かった事には出来ん。あの戦いを……忘れる事など出来ん。」


「……」


「……だが、あの戦いの爪痕によって生まれた感情が必ずしも全て憎しみであるかと言うと……そうとも言えぬ部分はある。」


「憎しみじゃない……感情……」


「……口が過ぎたようだ。」


……結局、フウマさんの言葉の真意は、私にはよく理解出来なかった。


「……」


それからはまた、お互いに何も喋らない時間が続く。


「……」


私はただ手を動かして治療を行う。


「……」


きっと稚拙な私の技術では痛むであろう状況でも一切呻き声や苦しい表情を浮かべる事も無かった。ただずっと、目を閉じていた。


「……」


「……感謝する。」


手当てが終わるまでフウマさんが口にした言葉はそれ一つきりだった。


「フウマさん……」


「……」


……それを聞いた私は、自分の行いが間違っていなかったと確信出来たのだった。

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