残された手がかりから道を決める
「でも、次はどこに行けばいいのかな。」
行き先を、決めなければならない。
「……シノ、お前はどう考える。」
「私ですか……」
「別に自分で考えるのが面倒だからお前に押し付けるようなわけじゃない。純粋にお前が今どう考えているのかを知りたいだけだ。」
「……」
さっきの話のやり取りの中でもシノはしっかり本質を掴めていた。あいつがあの場で感じていた疑問点はまさに俺も同じように考えていた部分。
おそらくこの件に関して誰よりもどうにかしなければならないという使命感を抱いているが故に、深く考える事が出来ているのだろう。時にそれはシノを追い込んでしまう事もあるが、今回はそうでなく良い面に作用している。ならば……頼る価値は極めて高い。
「……私は……私なら……」
「……」
「……もう一回、同じ事をします。」
「同じ事……」
「あの男は明らかに異世界人をターゲットにしていました。私が異世界人である事を知り……もし可能ならば私もさらっていくつもりだったと。だからまた必ず同じ事を繰り返すはずです。」
やはり今回のシノは冴えている。俺が助け舟を出すまでも無いようだ。
「他の、異世界人かぁ……」
「シノさん……雪美さん以外に異世界人の知り合いの方は?」
「……居なくも、ありません。」
「ならまたそいつの所に行って待伏せしようじゃねえか!そんで今度こそしっかり捕まえてやって……」
「でも……先に一つ気になる事があるんです。」
「?気になる事?」
「はい。あ、もちろんその話は移動しながらで全然構いません。そうですね……一旦、エイスの町に戻りませんか……?ラミさんに現状報告をしたり、私達自身の今の情報をまとめておきたいんです。」
「分かった。いいだろう。」
その提案に特に異論を挟む者も無く、少々急ぎ足ではあるが俺達はサッコロの地を後にして一路エイスの町にとんぼ返りする事となる。
……
何故異世界人と分かるのか……
シノのその疑問に俺は、答えを出せずにいた。
「異世界人を狙っている理由はまだよく分かりません。だから私が知りたいのはどうやって異世界人を狙ってさらう事が出来るのかという事です。」
「そりゃあその通りだよな。異世界人ってどれぐらいこの世界に居るんだ?」
「う~ん、ザックリ程度しか分からないけど……千人に一人居るか居ないかぐらいじゃないかな?それか一万人に一人とか……」
「何にしたって適当に探しているだけじゃ効率が悪すぎます。なのにあの男達は何か確信があってアガルタにピンポイントで来たように見受けられました。」
「雪美をターゲットに……」
「百歩譲ってそれだけなら分からなくはありません。ずっとそこに住んでいる人の事なら何かしらの情報で雪美さんが異世界人であると知る事は不可能じゃないかも知れない。でも……あの男は私も異世界人であると当てて見せました。つい数日前にたまたまやって来ただけの私を……」
「そうだよね……だからシノもさらってくような事言ったんだもん。」
「その事に関してなら、一つ思い当たる事がある。雪美をさらってった野郎が味方をぶっ殺した時の事だ。あの時奴はこう言った。そいつのおかげでターゲットを間違えずに済んだってな。」
「ターゲット……それって、雪美の事だよね。」
「つまりそいつが居なくちゃ、ターゲットを間違える可能性がある……」
「でも裏を返せば……そいつが居たからターゲットを確定出来た……つまりそいつが異世界人かどうかを判別していた……?」
ある程度まで情報を与えれば、後はこのようにして結論へと辿り着ける。
「俺はそう判断している。あの野郎の言った内容から分かる事はまあまあある。間違いなく裏には何らかの組織が絡んでる。上に報告だ戦力がどうだとかそんな言葉が聞こえたからな。」
「それに姿を消す何かしらの方法があるって事ですよね。」
もっとも、それが出来たのはあの野郎だけ。もしもそんな事が出来るアイテム及び能力が量産化されているのだとしたら、トドメを刺された他の奴らも同じ方法でどうにか逃げおおせたはずなのだから。
「後、時々聞こえたアープデイって、あいつの名前じゃないかなきっと。」
「あ、私も聞いた!言ってたよそれ!」
……名前は正直どうでもいいんだがな。
……
「お帰りなさい。その様子だとナナちゃんはまだ……」
「良い報せはもう少し待て。」
「……」
急いてしまうのはさしものラミでも同じ事であろう。ましてや俺達と違ってただ結果を待つ事しか出来ないというのは相当に辛いのだろう。だからこんな風に時折戻っては状況報告をして一旦気持ちを弛緩させてやるべきだ。
……と、一応こんな風に気を使ってやったりもしてるんだから、もう少し俺への当たりが優しくなっても良いと思う今日この頃。
「ラミさん……実はかくかくしかじかで……」
以下省略。端的にシノが俺達の周りに起こった事を説明した。
「じゃあ雪美ちゃんもさらわれたのね……クロックさん……気にしていたでしょうね。」
「責任を感じてしまっていました……それに、傷も……」
「……ますます、許せないわね。そいつらは。」
「ラミの方はどう?何か新しい情報とか動きとか……」
「……そこまで明るい話はあげられないけれど、とりあえず異世界人を中心に狙っている組織が動いているという話は既に上層へ行き渡っているわ。」
「その上層とやらの機嫌はどうなんだよ。前向きに検討してみるってか?」
「どうやら思ったより、早く動きそうよ。たとえ異世界人と言ってもこの世界で暮らす同じ人間に何の変りも無い。その人達に不当に危害を加えようとするならば武力行使は辞さないとの見解みたいね。ちょっとだけ見直したわ。」
組織ってのはどこも自分の責任ばかり考えて腰が重いもんだと思っていたが……
「国が動けば流石にどんな組織だろうと迂闊には動けなくなるはず。全世界を敵に回してしまえる程……有り得ないぐらい膨大な組織じゃない限りは……」
流石に、そこまでではあるまい……って、思うがな。
「もしそこまで進んだなら、ひとまずこれ以上の被害は抑えられるって事になるんだね。」
「けどその代わり……奴らの手がかりを掴む機会が少なくなっちまう事になる……」
「……そうね。それに、囚われているナナちゃんや雪美ちゃんはその間も奴らの手の中……一刻も早く救出しなくちゃいけないのを考えると、一概に良い事ばかりとも言えないのかもしれないわね。」
「「……」」
今分かってるのはまず間違いなく組織ぐるみの行動であり、異世界人をターゲットの一つとして付け狙っているという事……そして突き止めなくちゃいけないのは奴らの本拠地……まぁ、そんなものがあるのかどうかすら現状では分かりかねるが。
「……やられ放題だが、今日はここまでだ。シャクではあるが……少しばかり休憩も必要だ。」
俺はそう決断を下す。無論反論があれば考えを改める気持ちはあったが、特に口を挟む奴は居なかった。
……
「シド様、私囮になれるでしょうか。」
「……言いたい事は分かるが、わざわざ矢面に立つのはあまり関心せん。」
「でも、私が万が一捕まってもナナちゃんや雪美さんの傍には居てあげる事が出来ます。」
「その代わりシノがどんな酷い目に遭っちゃうか分からないよ?」
「……二人を危険な目に遭わせると分かっているぐらいなら私が代わりになります。」
「……そういう自分の身を削るようなやり方は……本当にどうしようもなくなってから考えろ。背水の陣のやり方で万が一にでも失敗したら待っているのは死だ。」
「……あふ。」
こいつが命の重さを知らないはずは無い。だから自らに死に行こうとしているわけじゃないのは理解している。むしろ知っているからこそ他者をその危険に遭わせたくないと強く感じている。
自分だって……そこまで強くないくせに。
「(守るこっちの身にもなって欲しいもんだ。)」
……俺が頼まれもしないで勝手にやってる事か。
「……お前が言ってた他の異世界人の知り合いってのはどこに居るんだ。」
「知り合い……という程知り合いでは無かったりもあったり……」
「分かってるよ、遠回しな言い方になっちまうのは。けど場所ぐらいは教えられるんだろ?明日はそこに行く。」
「……ガエインです。」
「ガエインか。」
「ちなみにその森の名前をド忘れしてしまって覚えていない私です。てへ。」
「……(冷たい視線)」
「ローリングのような……確かそんなような名前だった気がしますが……」
「……(冷たい視線)」
「……そんな熱視線を送られると私勘違いしてしまいます……てれ。」
くっ、冷ややかな目線を送ったのにまるで理解していない。ダメだこいつは。
「ええい、もう知らん。明日考えりゃいい話だ。」
「あふぅ。お手数おかけします。」
ほんとだよ全く……
「でもシノ……本当に一人で突っ走り過ぎちゃダメだよ?」
「……分かってます。少なくともまだその時じゃありませんよね……」
「そんな時は来ない。来させないようにするのが一流だ。」
「……肝に銘じます。」
……寝よう。全ては明日始めよう。新たにスタートを切ろう。
……
私自身がそうであるように、この世界には同じ境遇の人達が何人か居た。
雪美さん……ガロミオさん。他にはヴリシェルさんやあの怪盗君、確か名前はジャック君だったな。でもその二人はまだこの世界には来ていないはず。時期が違う。
その流れで思いだしたけれど……かつて、オルテナさんと死闘の末敗れたという……テトラという子も異世界人だったと後で聞いた。ピーラちゃん達の話だと自分達と変わらないぐらい幼い子だったと……けどその子も確かまだこの段階では来てない……はず?聞いた話だとサヴァンさんと合流したのが一番遅かったのがその子だったらしい。私達と戦う2、3年前に出会ったのだとすると……彼女の登場はもう少し後と考えられる……
湯次郎さんは……もう亡くなってるか。
う~ん……何かもう一人ぐらい居たような……?
出会った人の事を忘れてしまうのは失礼と思いつつ……私の頭の出来の悪さからどうしても時折抜け落ちてしまう。
「(……思いだせない事は仕方ありませんね……明日の事もあるし、今日は寝てしまいましょう。)」
シド様の素敵な寝顔を見ながら私はすやすやと眠りに……
「(って、そんな事だから私はダメなんです。すぐ途中で諦めるなんてジャスティナさんに怒られてしまいます!)」
むむむ……思いだせ思いだせ私……
……
「俺はアークヴァル・デストロイ。異世界人だ。」
……
あ、思いだせた。そう言えば居たなそんな人が……
「(……あまり思いださなくても影響は無かったかも知れませんね。)」
一応前回の時も今回の時も出会っている人なんだけど、どうしてか印象が薄い。多分良い人なんだとは思うけど、とにかく印象が薄い。多分今は思いだせたけど明日になったらまた忘れてそうな気がする。
「(あの人、今回はまだ生きてるはず……この町に居るんでしょうか。)」
私は少なくとも見ていない。シド様がそれはそれは恐ろしい姿を見せたから怖くなって他の場所に行ってしまったとしても不思議は無いのか……
「(……あの人なら、何となく大丈夫な気がします。何となく。)」
別に差別したりするわけじゃないけど……何故だろう。あの人に関しては深く関わらずとも特に問題が無いように思えてしまう。
……そうですね。私って結構自分本位で自分勝手な人なんですよね。
「(けど一応名前だけは思いだせたのでスッキリしました。これで心置きなく眠れます。)」
と、言うわけで……
「……おやすみなさいシド様……すぅ。」
……明日が、私を待っている……




