表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シドとシノの大冒険  作者: レイン
1085/1745

戦いの前哨

「暑けりゃ服を脱ぐし寒けりゃ服を着こむ……それが人間ってもんだが、環境に合わせて強くなる道ってのもあったわけだ。まぁそれが短時間で出来る程器用に体が出来てねえのは分かるわ。俺だってまだ半分程度は人間なんだしな。」


得意な力を手にいれてからか、はたまた元来からの癖なのか、男は下をチラチラとちらつかせながらそう語る。


「だからと言ってこんな僻地に来ようなんての気も進まないし、こんな場所に好き好んで住む奴の気なんてしれやしねえ。適応能力はいざって時に発揮出来ればいいだけ。それが賢い生き方って奴よな。」


強者になったが故に、一言申すような考え方も身に着いた様子が見受けられた。自信を持つと人はこれまでとは打って変わって考え方も変わるもの。


「それでもわざわざここまで足を運ぶのは……誰も来ないであろう場所ならばこそ、手柄を独占しやすいからって事に他ならない。誰もしたがらないような場所にこそ俺みたいな奴にとってのチャンスが転がってるもんだからな。付き合わされるお前達はたまったもんじゃないかもしれないが。」


そう言われても、付き添う部下達は特に顔をしかめるでもなく、気にしていないとの意思を示す。彼らも彼らとて程度はあれど人の身を外れた者達。男の言う適応能力に順応しつつある為今更熱いや寒いだのの事でとやかく言うものでも無い。もっと言えば彼らとてチャンスは欲しい。同じような立場の中にあっても他よりも抜きん出たいと考えるのは割と普通の思考である。


「俺もまだまだ新参だからよ。先頭に立って華やかに目立ちたいなんて事考えたら流石に周りからの反感も買って旗色も悪くなっちまうわけで、今はコツコツ積み上げて信頼ってのを勝ち取る時期なんだよ。分かってくれ。新人にデカい顔されるのが気に食わないのはどこでも一緒だろ?実際の力関係は……ともかくな。」


……内心では、己の力こそ最も強いと考えているが故の、余裕であり自信、輝かしい未来への確信であり……傲慢であった。


「とりあえず俺についてくりゃあ安泰さぁよ。んなわけでさっさとこの殺風景な地を後にしようぜなぁ。」


……男達の進軍は、密かに続く。


……


「……その得体の知れぬ連中が、雪美を襲いに来るかもしれないと……」


「そ、そんな……」


急にやって来てこんな事言われても戸惑うに決まっている。これを話している俺達とて未だ真偽不明な気持ちはある。


「可能性の話だ。ただ……どちらかと言えば信頼性は高い方だと思うけどな……」


あんにゃろうが今際の際で伝えた伝言……それだけの価値はあると考えても良いのかもしれない。言っておくがあいつ個人を信頼しているわけじゃないからな。


「他の世界から来た人が狙われるって言うなら……シノさんも……」


「私は大丈夫です。シド様が居ますから。」


そういう信頼の仕方は良しだ。あんま真面目に言われると少し気恥ずかしい気もあるが。


「……そういうのなら、雪美には俺が居る。どこのどいつか知らんが……雪美に手を出そうものなら俺が始末するまでだ。」


「クロックさん……」


こいつ、結構マジだな……戦ってるところを見たわけじゃないが……案外やりそうな感じもする。


「じゃあ今のところは怪しい奴とかの気配は無い感じなんだね?」


「無い……ですよね、クロックさん。」


「そんな話は聞かんな。この村で見慣れない人間が居たなどの話があればすぐに村中に回るはずだ。」


「ははぁ、凄いネットワークですね。」


「取り急ぎ来てはみたが、ひとまず無事だったのは良かったじゃねえか。その分野郎共の手がかりもつかめるかどうか分からねえが……」


「まだ分からないわジェイ。せめてもう数日でも様子をみないと……今たまたま来てないだけかもしれないんだから。」


「確かにそいつは言えてるな……わぁった。じゃあ一旦この村で待機してみようじゃねえか。そんでそいつらが来るようなら俺達全員でボコってナナの居場所を吐き出させる。それでいいよな?」


「勝手にテメエ主導であれこれ決めやがってからに……」


「でも、それが良いと思います。ジェイさんの言う通り……この村で待って、敵が来たら迎撃しましょう。そして……雪美さんを守りましょう。」


「お前も守られる対象だって事忘れんなよ?」


「私の事はシド様が守ってくれます。私シド様から離れませんから。ぎゅう。」


「「……」」


「……雪国だというのに、随分暑いものを見せてくれる。」


……一時、解散となった。


一応雪美はあのデカブツの野郎からなるべく離れないようにとの事となり、同時に俺達の中の何人かも何かあったらすぐ動けるようにと待機する事となった。もしも襲撃があって騒ぎになったとしてもその守りなら駆けつける事は可能だろう。


……


「シド様と一緒にお外を歩けるなんて私は果報者です……はう……」


「……人前で引っ付くのは少し自重しろ。」


「今後改善の兆しを見せます。」


……浸っている場合でも無かった。ちょっと私の中の違和感を片付けたいんだった。


……今までの冒険や戦いは、以前起こった事の繰り返しだった。呪術の徒との戦いやらモルフィンさん達の出会いやらサヴァンさん達との出会い……順序はあれこれ変わったものの、同じ事。予測可能だった出来事なのだ。


ところが今回起こっているこの事態……私は何一つ分からない。レイナードさんを襲ったその謎の何者かの正体について全く見当がつかない。もっと言ってしまうならナナちゃんとの出会い……それ自体が前回私が体験していないイレギュラーなのだ。そこからジェイさん達との出会いもまた……イレギュラー。


出会った事が悪い意味でのイレギュラーだなんて思わないけれど……これはひょっとすると、短期間で色々な事態を引き起こしてしまったが故に起こってしまった弊害のようなものでは無いかと考えてしまう。


……世界は私だけで動かしているわけじゃない。色んな人との関わりなどが密接に絡んで構成されている世界……そんな世界に大きな影響を及ぼす出来事があったら私の知る未来と大きく異なる事態が起こるなんてある意味当たり前の事……


……何にせよ、不安の色は隠せない。


今までの出来事は既に経験していたが為に事前にどうすればいいのか解決策がある程度見えていた。決して……それら全てを上手く成功させられたかというと全くそうでは無いのだが……


それが今回に限ってはどう動いて誰をどうすればいいのか……今この段階ではさっぱりなのだ……


慎重に……行かなくてはいけないのだろうと思いつつ……ナナちゃんの身を案じるとジッとしても居られない焦燥感に囚われる……


「よし、とりあえず飯を食おうぜ。」


「あふ。」


そんな私の深くて重い考え事は、一旦食事後へ持ち越しとなった。食べ終わった後に私がまだそれを覚えていたらの話だけど……←


……


「んで?少しは気が晴れたか?」


ひとしきり食事も終わって来た所でシド様は私にそう尋ねる。どうやら相変わらず考え事をしているところを見せてしまい気を使わせてしまったようだ。


「……今回はちょっと不安です。ちゃんと……良い結果を出せる自信があんまりありません……」


正直に、ただ思った事を口にする。不安なのだと。


「多かれ少なかれ、誰だって一緒だ。」


「……分かってるんです。毎回100点満点の結果なんて出せないし……私にそんな力も無いって。それなのに望んでしまうから……自分で勝手に傷ついちゃうんですよね……不器用で仕方ない私です……」


私だって……ちょっとは学習する。みんなに教えてもらった私の悪い所……力が足りてないのに実力以上の裁量の結果を求めてしまう所。


「自覚してるなら立派なもんだ。後はそれを抱え込まないようにしろよ。今みたいに不安だって誰かに言うだけでもちょっとは違わないか?」


「……違います。」


……一人でどうにかしなくちゃいけないなんて気持ちが、自分を追い詰める。けど私には誰よりも頼りになる人が居てくれる。その人と一緒なだけで……うん、救われる。


「シドも居るし、私も居るよ。シノはいつでも一人じゃない。どんな事でも一緒に背負っていける。ね?」


「……タンザナイトちゃん。」


その笑顔は、ときめく眩しさだった。


この世界を一度やり直した事で得られたもっとも大きなものって……もしかしたらこの子の存在かもしれない。


どうしてここまで献身的になってくれるのか……そこまで信頼してくれるのか……実の所私には分からないけど……この子がシド様と一緒に私を支えてくれる……だから何度挫けそうになっても折れずに立ち上がれる……


「……シド様私、頑張ります。そして一人で抱え込まないようにします。」


「おう。」


「その為にもう少しお腹にエネルギーを蓄えます。」


「おう?」


「すみません店員さん。」


「はいはい。」


「このデザートとこれとこれとこれと……いえ、ここに載ってるデザート全部持ってきてください。」


「……全部ですか……!?」


懐かしの(?)シノちゃん食いである!


「わぁシノったらパワフルだ。えー、いいないいな。私にも少しずつちょうだいね?」


「いいですよ。一緒にシェアしましょう。」


ついでに言うなら独り占めするより誰かと分け合った方がより美味しいもんね。


「で、ではこちらのデザートを全てお一つずつと……」


「おいおい、ちょっと待て。」


「おや、シド様どうかしましたか?」


「どうかしたかじゃねえだろうが。」


もしかして……流石に食べ過ぎは良くないとストップをかけようとしている……?これ以上お腹がぷにったら冒険どころの話じゃないからと……


「お前一人で食おうとしてんじゃねえ。俺も同じの食うぞ。」


「……!お、同じのと言いますと……」


「ここに載ってるのぜーんぶだ。合わせて俺の分と合わせて全部二人分持って来い。」


「……か、かしこまりました。」


店員さん、少々言葉を失ってから厨房の方へと戻っていく。


「シド様……流石ですね。」


「入った時からどれにするかずーっと迷ってはいた。けどどれも捨てがたかったから全部だ。」


「私もまったく同じ事を考えていました。」


「えへへ、二人は以心伝心だね。」


以心伝心か……正直お互いあんまり似てないけれど、人よりお腹いっぱいたくさん食べられるところは確かにそっくりなんだよね。そんな繋がりが私は結構嬉しかったりする。


「お、お待たせいたしました。」


「お、来たな。」


あっと言う間にテーブルいっぱいにデザートが並ぶ。実に壮観。


「んじゃあ食うとするか。」


「食べるのがもったいないぐらい可愛いお料理達ですが……泣く泣く食べてしまいます。あむあむ……」


……口いっぱいに広がるクリームの甘さ……


「とろける~……」


「これは皮が柔らかくて触感が良いな。中々食わせる出来だ。」


自然が生んだフルーツも人の手によって作られた素材もどれもこれも美味しくてたまらない。


「これはいくらでも食べられてしまいます。あむあむ。」


あんなにあった料理もパパっとお腹の中に吸い込まれていく。これぞ秘技シノちゃん食い!←


「美味しいですねシド様。」


「ああそうだな。」


……美味しいって感情をこんな風に一緒に感じられるだけで、どうして嬉しいんだろうね。


私かシド様かどっちかがもうお腹いっぱいだったらきっともう、同じ風な気持ちにはなれない。


同じだけ楽しい想いをして、同じぐらい楽しみを分かち合えるって……こんなに嬉しいんだね。


……そしてそれはきっと、一緒に食べてる相手が他でもないシド様だから……だよね。


「……てれ。」


今一番楽しい事をしているんだから、それを全力で楽しもう。


……そして、この蓄えたパワーで絶対……ナナちゃんを助け出そう。私が……ううん、私達が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ