帰国
翌日の事。
長老王との二度目の接見となった大臣。
「この度は、そちらの国民に対して迷惑を掛けた」
「先ずは詫びておこう」
そう言いながら、大臣に鋭い眼光を飛ばした長老王。
ジュリアの事だろうが、どうも含みが有りそうだ。
下を向いた大臣。
大臣にはその含みが理解出来た様だ。
「そちらの国では、我々エルフ族の事を良く理解出来ていないのであろう」
「……」一睨み。
「今回、この国に来て、我等を見て……」
「どうじゃ?」
「ルイ王朝時代から今の王家に代わってからは……国としての国交は途切れておりました」言い淀む大臣。
「民間レベルでは、行き来は有りましたが……」
「そうじゃな」
「だから、わからなく成ったのであろう?」
「我等の……繋がる……と言う事を」
「……」口ごもる大臣。
「貴様に言っても始まらんか?」
「所詮は役人……命令に従った迄か……」
「……」
「昨日、攻める気は無いと言ったが」
「それは、今ならまだ許そう……と言う事じゃ」
「無論、代償は求めるがな……」
許す?
話ぶりから察するに、大臣のその上……王がエルフ族に対して、何かをしたのか?
攻める気は……とは、詰まりはそれなりの事を。
「まあ良い」
「そちらの王と直接、話そう」
「それは、我が王にここに来いと……」
先遣隊と名乗って居たのだから、その積もりだったのだろう、が。
どうも雲行きが怪しい。
「その必要は無い」
「では……お越しに為ると……」
「それも無い」
フンと鼻を鳴らし。
「理解しとらんのか?」
「そちらの地下牢にエルフ族が居るであろう?」
「その中の一番年寄りを王に会わせよ」
「その者は、もう既にヴェネトの王じゃ」
「あ!」大臣が叫んだ。
「その者は一番若い王だがの」
その牢のエルフは最近に王に成ったのだろう、それに合わせての今回の呼び出しだ。
ロンバルディア国王は一体なにをしたのだ?
こんな回りくどい事までして、戦争をチラつかせての直接対峙を仕組む。
しかも、その若いエルフの王は使い捨てでも構わないと迄の勢い。
その場合は即時開戦だが。
「さっさと支度をして出ていけ」
「自国の王に伝えよ!」
深く頷いた大臣。
そのまま足取り重く、踵を返した。
俺達は大急ぎで帰り支度をして、ヴェネトを飛び出した。
馬車はトラックに括り付けたのだが、大臣はトラックの方に乗った。
急いで走って7日程か?
思い詰めた顔の大臣。
そんな大臣に聞いた「王はなにをした?」
「国内のエルフの弾圧だ」
「適当な罪状をつけてのエルフ狩もだ」
「そんな話は在ったのか?」横に居た頭目に聞く。
「うっすらと……そんな話は聞いたが」首を捻り「噂話程度だ」
「それはそうだろう、大っぴらにはしていない」大臣が呻くように。
「そんな火種に為るような事を表立ってはできん」
「だが……やったんだな」
街でエルフを全くに見掛け無くなる程にだろう。
「多分だが、恐怖がそれをさせたのだろう」
「私は、止めたのだが……」
「王が、聞く耳を持たなかったのか……」
「もう一人の大臣は……そっちは言いなりか」頭目。
それに頷いた大臣。
「しかし、現実味の無い恐怖だけでそんなリスクを……」仮にも国王だぞ。
「エルフ以外もか?」ドワーフはどうなんだ? あの里は、逃げている様にも思えてきたが。
「他の国はどうなんだ、亜人の国は無いのか?」
「エルフにだけだ」首を振りながら。
「戦争の恐怖だけじゃ無い……何かが有るのか?」腑に落ちない何かがある。
「わからん」
と、その時。
トラックが急に止まった。
何事かと外を見れば、そこにタウリエルが居た。
また、涙と鼻水でだ。
「ふう……」と、息を吐き出し。
ムラクモに「乗せてやれ」と、伝える。
ややこしい時に……。
泣きながらに乗り込んで来たタウリエルに。
「俺達は国に帰る」
「途中までで良いか? 寄り道をする余裕は無いんだが」
「メソ・ロンバルディアに行きたいんです」グスグス。
「お婆ちゃんに怒られて」グス「お使いを頼まれたのです」グス。
――ねえ、この娘エルフよね―― マリーの念話だ。
「タウリエルはエルフだよね?」
「俺達が国に帰る理由は……わかるか?」
「わかりません」グス「私はハーフエルフで」グス「人族よりなんです」
「エルフの繋がりって、知っているよな?」
「何となくは聞いていますけど……そんなのがあったら」グスり「迷子に成らない」
自分で言い切った。
見た目はエルフなのだが、中身は人族なのか。
もしかすると森林監視官は、根本的に無理なのでは?
まま良い。
「このまま乗っていけ」頷いてやった。
「ありがとう……です」グスグス……ズビー。
不意の客が増えたので、話の続きは出来なくなった。
――ねえ、ちょうど良いじゃないこの娘を奴隷いにしなさいよ――
そんなマリーに「イヤだ」声を出して答えてやった。
奴隷制度に断固反対する!
俺は、奴隷解放運動の奴等と話が合うかも知れない。
が、見掛けたら有無を言わさずにジュリアの仕返しはするが!
道中、幾度かの魔物との遭遇をタウリエルが瞬殺してくれた。
やはり弓の腕は超一流だ。
おかげで、思って居たのよりも早く帰って来れた。
6日はしっかり掛かったが。
馬車なら1ヶ月とか言っていた気がしたから、この異世界ではこれもチートか。
大臣は大急ぎで城に戻った。
その大臣には、御付きの蜂とネズミとカラスを一匹づつ付けてやった。
有効に役立ててくれれば良いが。
頭は悪く無いようだから、大丈夫だろう。
タウリエルは屋敷に招待してやった。
どうも御使いが人探しの様なので日数が掛かりそうだと、マリーが言い出し。
結局、宿屋に泊まるくらいならと誘ったようだ。
もちろん、俺に相談も無しにだ。
まあ、良いけど……。
招待してやったのだ。
寝る場所の決まったタウリエル。
コツメとジュリアに誘われて、早速に街に繰り出した……観光だ。
サルギン達もその他の者と遊びに出て行った。
盗賊ゾンビ達はネズミのダンジョンの工事の続きだと、途中で別れた。
一瞬の喧騒から静に成った屋敷のロビー。
そこには、俺とマリーと頭目にロイドが居た。
「どうなった?」カラスに尋ねる。
机の上で、小さなレイモンドに化けたカラスが「今、王と話している」
今回はレイモンド、いつもいつもロイドと言うわけでも無いのか。
何か拘りかな?
そんな事はどうでも良いか。
続きだ。
「王が大臣の話を信じられんと聞いている」
「確かに見ると聞くじゃ……エルフ族は難し過ぎるかもしれん」頭目だ。
「それでも、半信半疑は否めないが、大臣の言うとおりにするようだ」
「今、地下牢に使いを出した」レイモンド風カラス。
「一応は大臣、信用されているようですね」ロイドだ。
「大臣が今一度、エルフ族の特性を話している」
「念押しか」
「理解出来れば良いのだが」
「もう一人の大臣は……ただ黙って聞いているだけのようだが」
「お!」
「扉が開いた」
「エルフ族の王がやって来た様だ」
「始まるか」頭目の眉が上がる。
「みすぼらしい老人だ」
「囚人服のままだ、手枷も付けられている」
「おい! 大丈夫なのか?」頭目の声が一段上がった。
俺にもわかる程に、まずい事に成りそうな予感がする。
初めて会った時の、あの王が顔を覗かせなければ良いのだが。