戦争
国王がジロリと囚人服のエルフを見た。
囚人服と言っても、薄汚れた質素な麻の薄い一枚。
手枷に腰紐で自由も無い。
その腰紐の先は後ろに立つ監視役の兵士が握っている。
この兵士は槍では無く剣を腰に下げていた。
槍は、入り口の扉の両脇に立つ二人の衛兵。
後は、王の両脇に大臣が居るだけ。
睨まれたエルフ、臆する事無くその場に堂々と立つ。
「この国では、国賓もこの扱いか?」
手枷を前に突き出し。
「囚人である者には必要な事だ」考えあぐねた返答だ。
「何の罪だ?」フンと鼻を鳴らし。
「エルフという罪か?」
王が右隣の大臣に聞く、ゾンビでは無い生きている方だ。
「政治犯と聞く、エルフ族の王を語ったと……」
「事実を言ったまでだ」
「私は、複数の王のうちの一人だ」
「複数?」考え込む「それがわからん、王は常に一人だろう」
「それは、エルフ族以外の話だ」
「それに、私は複数だが一人でもある」
首を振りながら「わけがわからん」
「理解出来んのなら、隣の大臣に聞け」
「大臣はしっかり見てきた、理解もしたろう」
大臣を見た王。
見られた大臣が頷き。
「エルフ族の特性です、全てのエルフの意識が繋がっていて、それが年と共に色濃くなり、最後は1つに成ります」
「詰まりは、その状態がエルフ族の王です」
額に手をやり、指でコツコツと叩き出す王。
「わかった、詰まりはこの者が王なのだな?」
「そうです、この者も王です」大臣が頷く。
「わかって頂けて何よりです」
「では、手枷を……」
と、エルフに近付こうとした大臣を王が止めた。
「王で有ろうと犯罪者なのだから……そのままだ」
「いえ、その犯罪の罪が王を語ったと言うもの」
「本物の王であれば、罪では無いのでは?」
「うむ……」顔をしかめた王。
「しかし、エルフであるしな……」
「どうも……エルフは信用出来ん」
「それはなぜだ?」
その王を、手枷ごと両手を持ち上げて指差したエルフの王。
「貴様にもエルフの血が混じっておるのに」
その言葉に即座に顔色を変えて反応し、玉座を蹴りあげる様にして立ち上がった王。
「なにを戯けた事を!」
エルフの王に吐き捨てる様にして。
「その何もかもを見透かした様な目で、平気で嘘を並べる」
「その場に居もしないのに、さも見ていたと、言うように話す」
「エルフ同士が集まれば、意味のわからない、会話に成って居ない話でお互いを理解する」
最後は叫びに近い。
「それが、エルフ族を信用出来ん理由だ!」
「それがエルフ同士の繋がる、と言う事だ」頷くエルフ王。
「それを否定されても困る」
一呼吸おき。
「それに嘘はついてはいない」
「エルフ族にはエルフ族の血がわかる」淡々と。
「例えそれが、何代も掛けて薄まったとしてもだ」
「意識が繋がろうとする、その欠片を感じる事が出来る」
「実際に繋がらなくてもだ」
薄らく笑い。
「王よ、しっかりとエルフの血が見えるぞ」
「この者もを殺してしまえ!」激昂した王。
感情が理性を凌駕した。
「イヤ、だめです」ゾンビ大臣が慌てて止めた。
「そんな事をすれば、戦争に成ります!」
「今ここで殺して」
「ヴェネトには事故だと言っておけ!」
「どうせ、ここに居る者にしか真相などはわからん」
「黙っておれば良いだけだ!」
と、謁見の間をぐるりと一睨み。
そこに居た大臣二人と、エルフの監視役の兵士一人と、入り口に立つ衛兵二人が震え上がった。
なんならここに居る者全員を口封じだ、とでも言い出す勢いにだ。
その勢いに、ゾンビ大臣が言葉を無くす。
自身の理解するモノを、自国の王に伝えきれていない事を悟った。
だが、それを後悔する間もなく。
「それは……」エルフ王が静かに王を睨み。
「宣戦布告と受けてって良いのだな?」
「何が宣戦布告だ!」
「貴様に何が出来る!」
「この城から、誰にも逢わずに消えるのだ」震える指でエルフ王を指差した。
頷いた、エルフ王。
背後の兵士の剣を素早く奪い。
自身の首に当てて、躊躇わずに引いた。
鮮血が謁見の間の床を染め初めて……その真ん中に倒れ込むエルフの王。
一人、ゾンビ大臣だけが、事の重大さに気付いていたが……時既に遅しと、天を仰いだ。
そして、ロンバルディアとヴェネトの会談は終わりを告げた。
会談にも成りはしなかったが。
しかし、戦争の始まりは確実だ。
その事実に気付いていない王。
自身が一番恐れた戦争の引き金を最初に引いた王。
そして、その事に気が付くのに15日掛かった。
開戦の一報を伝えた早馬が城に飛び込んだその日にだ。
俺は自分の屋敷の何時もの場所で煙草を吸いながら、新聞を見ていた。
号外だ。
一面全てがヴェネト軍が国境を越えた……その事だ。
俺達はその事をもう既に知っていたのだが。
それが、今初めて国王に国中に知れ渡った。
あの日、エルフの王が死んで、その数時間後にはヴェネト軍が国境を越えていた。
だがプレーシャの陥落は未だだ。
ヴェネト軍は散発的な軍事作戦を仕掛けているだけで、本格的な軍事行動はまだだ。
圧倒的な軍事力が有るはずなのにだ。
遊んでいるのか。
ロンバルディア軍を待って居るのか。
他に意図が有るのか。
考え込んでいるまに、指先に引っ掛けられた煙草が燃え尽きた。
もう一本を口に咥えて火を着けようとした、その時。
ゾンビ大臣と頭目が、ノックも無しに扉を開けて入ってきた。
チラリとそちらを見る。
仕事の様だ……。
「プレーシャに行くのか?」兵士としての仕事だろう。
傭兵の募集は直ぐにでも始まる筈だ。
冒険者ギルドがまた騒がしくなる。
一攫千金を狙った、俺ツエ~の連中が続々と集まるだろう。
だがそれも、最初だけだろうが……この戦争は長引きそうだ。
あのドラゴンの住みかとか言う山脈が邪魔に成るだろう。
道も一本道、明らかに森の戦いに慣れたエルフ族の方が有利だ。
隠れる場所の多い森の中、高性能な無線を天然で装備しているヴェネト軍……どう見繕っても勝てる見込みなど微塵も無いな。
憂鬱な仕事に成りそうだ……断ろう。
しかし、その返答は違った。
「いや、ロマーニャだ」頭目が答える。
「この度に始まった戦争の報告だ」大臣。
先に仕掛けて来たのはヴェネトだとでも言いに行くのか?
そのついでに、あわよくば援軍をか……。
それも駄目なら、見ない振りをしてくれ、か。
都合の良い事だ。
「プレーシャは良いのか?」
「そちらは……もう一人の大臣が事にあたる」苦虫を噛み潰した顔だ。
詰まりは、王の信用がそちらの大臣に移ったと言う事か。
そしてロマーニャ行きは明らかな閑職だ。
ただの一兵の兵士軍の指揮どころか、後方支援でもない。
戦争とは関係の無い所でのメッセンジャーだ。
一応は、チャンスは有るのだろうが……。
何の見返りも無い援軍なんて……望めないだろう。
まあ、これ以上の出世は無いところまで登り詰めて居るのだ。
その一度で……諦めろ。
前線に出たところで勝てる見込みも無さそうだしな。
俺も含めて、戦後の身の振り方を考えようか……。
ロマーニャ迄の旅、時間はそれなりに有りそうだ。




