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人類が地球を飛び出して10世紀が過ぎた。
宇宙には地球上の国々とコロニー国家、月面上の都市国家との間で宇宙の覇権を争って何年にも渡る戦争が勃発したが、それはもう昔の話だ。現在は銀河国家同盟が結成され、地球の人間だけでなく、宇宙に住む人々にとっても平和な日々を過ごしている。
銀河国家同盟が結ばれてからは移動が自由になった。コロニー間の移動も、コロニーと月の間も、宇宙と地球の間も。かつて戦争が行われていたとは思えないくらい平和だ。
私、姫路アリスが住んでいるスペースコロニー、ニュージャパンも今日は平和だ。このコロニーの名前は正式な名前ではない。正式な名前はL3-4コロニーと呼ぶ。これはラグランジュポイント3の4つめのコロニーという意味だ。
なぜニュージャパンと呼ばれるようになったかというと、このコロニーには地球上に存在する国家、日本からの移民が多く、町並みも日本そのものだからだ。
そして今日も平和な一日が始まる。
「あーん!遅刻しちゃうよ~!何で起こしてくれなかったの!」
「起こしたわよ。二度寝するあなたが悪いんじゃない。」
と私のお母さん。
「そんなの起こした内に入らないわよ!」
「ほら、忘れ物よ。お弁当。」
「・・・行ってきます!」
私は食パンを咥え、お母さんから奪い取るようにお弁当を握りしめると玄関のドアを勢いよく開けて飛び出した。
「行ってらっしゃい!車には気をつけるのよ!」
私はこのコロニーの第4区画にある高校にごく普通の女子高生だ。
ちょっと違うと言えば、家が少し貧乏というくらい。それはどこに差が出てくるのかというと、他の家には家事手伝い用のアンドロイドが住んでいるが、私の家にはそれがいない。中古でも良いから買おうよ、と私は両親に訴えかけているが、高いからという理由でいつも突っぱね返されている。
それでも今の生活には満足している。普通に学校に通っているし、それなりに友達もいるし、成績も平均的だ。なによりも普通に食事を取って生活できている。少々小遣いが少ないのが唯一の不満だけど。まぁ、それ以外に唯一自慢できるものを一つ持っているのだけどね。
活きよい良く家を出ると、私は近所のバス停まで走る。
このまま走り続ければバスに間に合うはずだ。逆にこのバスに乗り遅れれば遅刻確定だ。
私がバス停に近づくとそこにはすでに目的となるバスが止まっていた。同じ高校に通うクラスメイト達が次々と乗り込んでいる。
「待って-!そこのバス-!」
「あっ、マリアが来るわよ!」
「早く早く!バスが出ちゃうわよ!」
「間に合えーっ!」
そう叫んで私はバスに向かって猛ダッシュした。
乗客はすでに全員乗り込んでいる。もう少ししたらバスのドアが閉まって発車してしまうだろう。
「うおおおぉぉぉぉりやあああぁぁぁぁっっっっ!」