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古き戦いの始まり

重苦しい静寂が広間を支配した。


二人は、一歩たりとも動かない。


〈影のギルド〉の団員たちの死体が至るところに散らばり、床は黒ずんだ血で覆われていた。


その中央で、モーガンは深紅の髪を持つ女――スカーレットと向かい合っていた。


スカーレットは薄く微笑むと、ゆっくりと右手を持ち上げた。


「ねえ、モーガン……」


静かな声で口を開く。


「私は、この再会を何千回も思い描いてきたわ。」


少しだけ首を傾ける。


「でも、こんな冴えない顔で始まるなんて思わなかった。」


モーガンは長く息を吐き、黒い外套を脱いで脇へ放り投げた。


「俺も、この日が来ないことを願っていた。」


真っ直ぐ彼女を見据える。


「だが……運命というやつは、本当に皮肉が好きらしい。」


スカーレットの笑みが消えた。


「運命?」


短く笑う。


「運命のせいにしないで。」


紅い瞳が妖しく燃え上がる。


「自分自身を責めなさい。」


――次の瞬間。


彼女の姿が消えた。


モーガンの目が見開かれる。


「速い……!」


一瞬で彼の背後へ現れる。


だが――


「ガァァァン!!」


モーガンは寸前で腕を掲げた。


黒い魔力が前腕を包み込み、その拳を受け止める。


衝撃で空気が爆ぜた。


床は大きくひび割れ、石柱が衝撃波によって崩れ落ちる。


スカーレットは微笑んだ。


「反応は昔のままね。」


しかしモーガンは答えない。


そのまま彼女の腕を掴み、


全身をひねる。


「はあああっ!!」


「ドォォォン!!」


凄まじい勢いで壁へ投げ飛ばした。


石壁が粉々に砕け散る。


だが――


そこに彼女はいなかった。


衝突する直前に姿を消していた。


頭上から声が降ってくる。


「遅い。」


モーガンは咄嗟に見上げた。


スカーレットは深紅の炎をまとった蹴りを放ちながら落下してくる。


「ひざまずきなさい。」


「ドゴォォォォン!!!」


蹴りが地面を叩きつけた。


洞窟全体が激しく揺れる。


紅蓮の炎が爆発し、数十メートル先まで一瞬で飲み込んだ。


炎と土煙が一帯を覆い尽くす。


静寂。


そして――


煙の中からモーガンが姿を現した。


黒い外套の半分は焼け焦げ、


額からは血が流れている。


それでも彼は皮肉げに笑った。


「相変わらず手荒いな。」


スカーレットは目を細める。


「あなたも……」


「相変わらず死なないわね。」


……


モーガンはゆっくりと手を掲げた。


黒い魔力が指先へと集まっていく。


そして――


拳を握り締める。


その瞬間、


死体の下に落ちていた影が蠢き始めた。


震え、


まるで生き物のように立ち上がる。


数十本もの黒い腕が地面から伸び、


あらゆる方向からスカーレットへ襲いかかった。


だが彼女は驚きもしない。


ただ、小さくため息をついた。


「まだそんな小細工を使っているの?」


人差し指を軽く持ち上げる。


そして――


「パチン。」


指を鳴らした。


次の瞬間、


黒い腕すべてが深紅の炎に包まれる。


一瞬で灰となり、彼女に届く前に消え去った。


モーガンの目がわずかに見開く。


「……そうか。」


「影の炎すら通じなくなったか。」


スカーレットは静かに微笑んだ。


「昔、言ったでしょう。」


「怒りは……すべてを焼き尽くす。」


再び彼女の姿が消える。


だが今度は――


一人ではなかった。


広間中に、何十もの残像が現れる。


本物がどれなのか、


まったく判別できない。


モーガンは眉をひそめた。


「速度か……それとも残像か?」


次の瞬間。


すべてのスカーレットが同時に襲いかかった。


「ドン!!」


「バァン!!」


「ゴォォン!!」


爆発が立て続けに広間を揺らす。


視界は炎と土煙に完全に覆われた。


……


洞窟の外では、


山全体が激しく震えていた。


巨大な岩が山頂から崩れ落ち、


大地には無数の亀裂が走る。


遠くの森では、


獣たちが恐怖に駆られて一斉に逃げ出していた。


二人の力は、


地形すら変えてしまうほどだった。


……


煙の中。


モーガンは荒い息をつきながら立っていた。


腕から血が滴り落ちる。


ゆっくりと前を見ると、


スカーレットが無傷のまま静かに立っていた。


冷たい笑みを浮かべる。


「教えて、モーガン。」


「あなたが私を裏切ってまで手に入れた力は……その程度?」


モーガンは拳を握る。


そして――


静かに笑った。


「いや。」


ゆっくりと目を閉じる。


その瞬間、


濃密な黒い魔力が全身から噴き出した。


広間の光は次第に闇へ飲み込まれていく。


スカーレットはわずかに目を見開いた。


この戦いで初めて、


彼女の笑みが消える。


「なるほど……」


「ようやく、本気で戦う気になったのね。」

あとがき

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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