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脇役話 だれかの視点 150PT御礼

 




「文化祭の模型図面どうしよう。私こういうの全然ダメで…」

「俺もこういうの無理だわ…。前年のやつの真似でよくね?」

「えー。でもそれじゃぁ先生に言われない?」

「でもなぁ」


 じゃんけんで負けて不人気の文化祭模型チームになったが、こういったものに得意なものが居らず早速行き詰っている。細い竹と紙を張って毎年模型を作るのだが、地元でも名物の文化祭出し物となっている為、逃げようにも逃げられない。


 地味顔のままに運の無い模型チームの面々が教室の床で車座になって悩んでいると、ひょいっと上から人影が差した。

 僕が驚いて身を避けると、少し跳ねた黒髪の毛先が踊る。


「すごい唸り声が轟いてるけど、どんな感じ?」

「利根田さん。もうさっぱりダメダメ。やっぱ恐竜とか無理だから、諦めて去年の図面借りたらどうかって」

「あー、恐竜は難しいよねぇ」


 チームの女子が首を振ると、少し垂れた目と眉を下げながら利根田さんが苦笑して相槌を打つ。

 話しやすい人柄に促される様に、衣装チームの利根田さんも会話へとすんなり溶け込んでいた。


 利根田さんは目立つ容姿ではないが、その愛嬌や落ち着いた雰囲気からか誰かに頼られていることが多い。僕達みたいな地味な人にも、ヤンキーみたいな人にも交友関係があるのは相手に合わせてるからだろうか。

 僕は大人びた人という印象だが、友達は賑やかな人じゃなかったっけ?と言っていて驚いたことがある。


 決して目立つ人という訳ではないのに、何か物事の起点に関わっている印象で…。あの周囲の輝かしい面々の傍に居たら僕なんて妬んだり劣等感を抱いたりするし、存在感が霞むだろうけど、利根田さんは溶け込む様に自然に傍に居るからそれが何処か逆に人目を惹く。


 誰にでも気さくで人当たりがいいのに、明け透けな様でいて掴みどころがない。利根田さん自身の印象はどこか漠然としていて、それよりもあの大神さんの彼女というネームバリューの方が強く思える。


 僕は2年生から一組になったので、その時には既に物珍しさで有名だった。何であの子が…と初対面の時に驚いた記憶がある。


 僕が様子を伺っていると、うーんと悩んでいた利根田さんは近くで指示を出していた人を呼び止めた。

 

 僕達地味ーズもとい模型チームは畏れ多くて利根田さんの暴挙に慌てふためいてしまう。


「聖也くんちょっといい? 模型チームで恐竜の図面出来る人が居なくてさ。誰か回せないかな」

「そうなんだ」


 確認する様に柔らかい美声が届くのだが、絶世の美貌を持つ貴公子を前に情けない状態を晒してしまい、非常に居た堪れない気持ちになる。


 出来る上司に失態を見せて失望されたくない気持ちと言ったら分かるだろうか。

 学年で一、二を争う優等生を前に、僕だけがこんな気持ちなのかと後ろを見たらみんな同じ顔をしていた。


 固まる面々を代表して僕がロボットの様に一つ頷いていると、教室のドアが開いた。


 ざわざわと買い出し組が戻って来た声がする。

 その中の数人を見て、利根田さんが「おおー、ちょうどいい所に」と声を上げた。


 視線の先を見て、僕は思わずひっくり返りそうになる。


「聖也くん、大神借りていい?」

「いいよ」

「俺に断りなく貸し借りするな」


 呆れた様な吐息が近くから聞こえた。僕の気付かぬ内に傍に立っている。透き通った赤い目が僕を見た瞬間、喉が引き攣った様に鳴って肩がびくりと跳ねてしまった。


 パキポキと首を鳴らした大神さんは、誰よりも多く物を持っていたのにいつの間に置いて来たのだろう。


 普段同じクラスでも全然関わらないので、近くに居るだけで俯いてしまいそうになる声音や存在感に身体が固まる。体格が良くて怖いのもあるが、大神さんはまた違うタイプの触れられない人物なのだ。何と言うか、圧倒的過ぎて一緒のクラスでいることが畏れ多いくらい。

 みんなは……と後ろに目をやったら、これまた僕以上に固まっていた。

 

 僕から視線を逸らした大神さんは、床にしゃがんでいた利根田さんへと視線を向ける。

 途端に目元が少し柔らかくなるが、それでもまだ恐い。

 

 でも利根田さんは一向に気にしないのか、呑気に紙とペンを模型チームの女子から借りていた。女子はカクカクと強張りながら筆箱からペンを取り出している。利根田さんはよく平気だなぁと無駄に尊敬の念を抱く。


「買い出しお疲れさん。疲れてる所悪いんだけどさ、今年の模型の出し物が恐竜になったじゃん?」

「そうだったな」

「実はチームに図面組める人が居ないみたいでさ。いける? 無理なら他の人を探すけど…。聖也くんが」

「そこでぶん投げないでくれるかな」


 若干黒い微笑みなのだが、利根田さんは「リーダーの仕事~」と意に介さない。益々僕の中で利根田さんの印象がメンタル図太い人に偏っていく。


 大神さんは考える様に少し目を伏せた後、僕を真っ直ぐ見た。思わず背筋がピンと伸びてしまう。


「何の恐竜だ」

「てぃっ、ティラノでっす!」

「ティラノサウルスか…」

「むっ、難しければ別のでも!」


 思わず下でに出てしまう。そんなの無理だと怒られるかと思うと心臓が破裂しそうだし、大神さんの手を煩わせてるかと思うと畏れ多くて胃が痛い。後ろを振り向―――かなくても模型チームの面々と心は一つな気がする。


「高さと幅は決まってるか?」

「たっ、高さは3mで幅はまだ……」

「学校の規定が3m×3mだからその中でよろしくね。奥行も同じ」

「意外と小さいな。なら尻尾は横に巻くか。重さの規定は?」

「制限ゆるいし竹と紙だからそんなに気にしなくていいよ」


 明晰な頭脳同士でやり取りする合間も、白紙の紙面へ迷いなくさらさらと形が作られる。

 

 竹の本数と各紙サイズの枚数までざっと書いてくれた辺りで、大神さんがペラリと僕に紙を渡した。


「ティラノサウルスのイメージがこれだが、形は大丈夫か?」

「ひぇっ」


 わたわたと模型チームの面々で紙を見れば、ほぼ完璧な図面が出来ていた。全体図だけでなく足と胴体と頭部が綺麗に図解分けされている。

 僕達だけであればどれだけ時間が掛かっても絶対に出来なかったであろう。

 改めて大神さんの規格外ぶりを全員が感じる。

 

 僕達が首振り人形の様に頷こうとした所で、横から何故か僕を見ていた利根田さんが僕に水を向けた。


「佐藤くんはどう思う? 変だなーって感じある?」

「えっ。いや、そんな」

「直すのは簡単だから好きに言え」


 静かな声音だが、怒るでもなく何故か大神さんまでそう言うので余計に僕は慌ててしまう。


 でも、模型チームの面々まで僕を興味深そうに見るので、僕は俯きながら小さな声音で呟いた。怖い。恥ずかしい。


「あの……。ティラノの頭をもう少し大きくしたいなぁって……。ご、ごめんなさい!」


 呟いてから、本当なら自分達の仕事なのに図面を書いて貰っといて図々しいと、穴に入りたくなる。 

 大神さんが気分を害したらどうしようと顔が青くなった所で、隣からケラケラと声がした。

 見れば利根田さんが図面を指でなぞって笑っている。


「あはは! 佐藤くんナイス! 確かに、何だかコジラっぽいよ大神。完全にこの前の金曜ロードショーに影響されてんじゃん」

「うるせぇ。イメージだっつったろ」


 口調はぶっきらぼうながらも、気を悪くするでもなくさらさらと手直ししてくれる。

 再度渡された図面は完全に理想通りの形であった。


 お礼を言うがあっさりと躱される。クール過ぎて恰好いい。男でも惚れるのが分かる。


 利根田さんにもお礼を言おうとしたら、今度は衣装チームのマネキン役として既に引っ張られていた。

 

「あの…」

「何だ」

「ありがとう」


 僕がもう一度言うと、大神さんは一つ瞬きした後「気にするな」と微かに口角を上げた。僕の後ろで二名程模型チームの一員が倒れた気がする。模型製作前に人員が壊滅しそうだ。


 いつもよりも恐さが減った雰囲気に僕までドギマギしつつ、大神さんの視線の先を追った。


 見れば、利根田さんがエリスさんに絡んでべたべたしてる。エリスさんはフランス人形の様な顔を真っ赤に染めて憤慨しながら、利根田さんを剥がそうと格闘していた。


 二人とも衣装は似合っているが、マネキン役なのにそんなに暴れていいのだろうかと思いきや、外野は親指を立てて利根田さんを応援している。あの眼鏡の女子、親指を立てながら鼻を押さえてるんだけど……。


 エリスさんはあの見掛けとキツそうな性格から付き合いづらそうだと最初思っていたけれど、今では素直な性格の面白い子なんだなぁという印象だ。キッカケは何だったっけとぼんやり眺める内に、ふと思い至ることがあった。


 それは自らアルファと豪語しつつも、簡単に引き剥がせる利根田さんを何だかんだ無理矢理どかさないあたりだったり、利根田さんとの頓珍漢なやり取りからだっただろうか。


 思考が何かに辿り着きそうになっていると、突然先程まで少し柔らかかった雰囲気の大神さんがグルと喉から唸り声を出した。その威嚇音にぞわぞわと腕に鳥肌が立つ。

 思わずびくりと飛び上がりそうになり、恐る恐る横目で伺う。

 

 すると、何故か眉間に皺を寄せて険しい顔で利根田さん達を見ている。


 僕の後ろでまた二人程模型チームの面々が倒れた音がした。もうチームはほぼ全滅である。

 漂う威圧感に慄いて、場を和ました方がいいのかと何も考えずに取り敢えず口を開いた。


「お、おおお、大神さんっ」

「何だ」

「ひえっ。え、えーっと……。あ、さっきは何で僕が迷ってるって分かったのかなぁーって……。ご、ごめんなさい!!」


 すっと見られた眼差しに、瞬時に畏れ多くも質問してしまったことを後悔する。

 気になったとはいえ何で何も考えず聞いたんだ自分!と、冷や汗だらだらになっていると、大神さんが呆れた様に少し眼を細めた。

 

「そんなに怯えるな。あれは俺じゃなくてあいつが先に気付いただろ」

「そういえば……」

「あいつが態々口を挟んだんだから、言うのを呑み込んだ顔でもしてたんだろ。俺は変更しようがどっちでも良かったしな」


 ポケットに手を入れてぶっきらぼうに告げる大神さん。その科白セリフには利根田さんへの阿吽の呼吸とでも言える信頼が滲んでいる。


 利根田さんが水を向けたから手伝ったまでだと暗に言ったとはいえ、それでもそれを包み隠さず僕に言う辺り誠実だと思う。というか、手伝ってくれた時点で優しい。


 今も、僕がビビりまくっていることに気を悪くするでもなく、続く言葉を待ってくれているのだ。


 失礼な話だが、孤高で近寄り難いというか、僕達一般人とは全く別世界の住人だと思っていたので、今この時もこうやって普通に会話出来ることに驚いてしまう。


 今まで想像すらしたことが無かったこの珍しい時間に驚いたことで、ふと気付くことがあった。


 視線の先では利根田さんがエリスさんに怒られている。


 大神さんもエリスさんも、近寄り難かった印象が薄れたのは―――――


「おい」

「ひゃっ、は、はいっ!」


 呼ばれて慌てて大神さんを見れば、何故か眉間に皺を寄せて此方を見ている。

 睨まれているという状況に、模型チーム最後の僕も気絶するしかないと一瞬覚悟を決めたところで、大神さんがぶっきらぼうに言った。


「気付いても手加減はしねぇぞ」

「も、勿論です! 滅相もありません!」

「そうか」


 横恋慕する気も、大神さんの相手に手を出して喧嘩を売る気も勿論毛頭ない。素直に、利根田さん凄いなとまた一つ思っただけだ。

 

 むしろ……と、また一つ目から鱗の様な心地で大神さんを見た。


 惚れるなとか手を出すなと言わなかった辺りが男らしくて恰好いいとはいえ、大神さんも他の男子みたいに牽制するんだと驚いてしまう。


「その目はやめろ」

「すっ、すみません!」


 僕の目がよっぽど煩かったのか、大神さんは呆れ気味だ。でも、以前なら大神さんの溜め息一つに怖がっていたのに、疲れた様に壁に凭れる姿にさえ何処か前よりも親しみやすさを感じていた。


「エリスちゃん、かわいい、かわいいよ……」

「近寄るんじゃないわお猿!!!」

「利根田さん、そろそろ作業に戻ってくれる? それとその衣装、後で花の分も用意してね」

「二人ともかわいい~」


 声が聞こえたので自然とそちらに視線が向けば、朗らかな空間が出来ている。あそこの居心地は確かに陽だまりの下の様に良さそうで、大神さんが丸くなるのも分かる気もする。


 あ、利根田さんのスカートの裾が捲れて……


 ふと見たら際どい部分まで捲れ上がっているけど、当の本人はエリスさんを追い詰めるのに必死で気付いてない。それもそれでどうかと思うが、僕が気付いてどうしようかと動くよりも早く視界が真っ暗になった。


 大きな掌に覆われる。


「わ、わっ」

「見んな」


 隣から聞こえた低い声音めいれいに咄嗟に目を瞑って開いた頃には、大神さんに首根っこを掴まれて叱られる利根田さんが居た。


 不機嫌そうな顔付きで、さりげなく裾も直している。

 残念ながら、気付いてない利根田さんはエリスさんから離されて嘆いてるけど。あ、エリスさんの目がハートだ。


 後ろからようやくゴソゴソと起き上がって来た模型チームの面々が、寝惚けまなこの眼をこする。


「佐藤、俺ら何かすごいのを見なかったか……?」

「いや……、何もなかったよ」


 問い掛けられてまるで夢から覚めた様な心地になった後――――僕は愉快なクラスメイトの一面を垣間見たことに、思わず笑ってしまったのだった。




 

 








 






〇佐藤くん


 一言で言い表すなら”傍観者”や”脇役”の才能有

 お花ちゃんの様な超直感とは違う、あくまで平凡な視点や主観に基づきつつも、冷静にそしてある程度正確に場や相手を見れる目を持つ子。委員長タイプにもなれるし図書委員タイプにもなれるかも(伝わるのか←ぇ 語り部として一番最適かな~*

 お顔は確かに地味め(おい。でも隣居たら落ち着くというか、一緒に居たらありそうで難しい普通のしあわせを享受できる人間味がある子だと思う。

 

 大神さんが牽制してましたが、あの時点での恋愛感情はないです~*でも、例えばそれ以降意識して見るようになって……とかの未来も勿論ありました~。 正直、相性的には悪くないです~*


 こう、人物の関わりや状況によって枝葉とかルートがその時々ごとに分かれるんですよねぇ。例えば大神さんの転校がもう少し後の学年からだったらとか、聖也くんやお花ちゃん達と友達になってなかったらとか、聖也くんのお兄さんを出してたらとか、健太が転校しなかったらとか。色んな数ある分岐が作者の眼には見えてて、でもそれ以上に見えてなかったり選ばなかった分岐もありまして。

 今こうして見えている物語はそういった中の一つの道でしかないのですが、逆に言えばこの道でなかった可能性もある奇跡的な道でもあります~*


 おっと、長くなりましたが人生ってそんなもんだよな~と何処か重ね合わせながら作者は書いてるのですが、物語としてはふんわり楽しんで頂ければ幸いです☆


 ではではメリクリでしたー☆

 トネリコ

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