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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
エピローグ
39/39

夏の終わりに

 日本の中枢都市で起きた一連の不幸因子大量発生事件は、犯人であるカラスと平藤莉多の身柄を確保したことにより沈静化した。


 二人はあの世で審判にかけられた。カラスと莉多は自らの罪を認め、いかなる罰をも受ける覚悟でいた。刑罰は三百年にわたって行うべきだと当初は提案されたが、カラスの貢献度や反乱の動機、莉多の生前を考慮した結果、刑期は大幅に短縮され五十年となった。


 刑期終了後、二人は転生することになっている。


 この出来事には『平藤・カラス事件』という名が付き、死神界における重要な事件として扱われている。


 これを機に、あの世では死神の遣いのシステムについての議論がなされた。それにはメジロも参加していた。遣い一人にエネルギーを集中させるのは危険だと認識しつつも、現状では不幸因子の回収を遣いに頼らねばならないという結論に達した。


 議論の結果、遣いの期間は変わらず、平均五年のままとなった。しかし、長期的には短縮していく方針で決定した。大きく変わったのは、遣いにするために人間を無断で殺すのは禁止されたという点だ。素質のある者を遣いにする場合、出来る限り自然死した者を選ぶようになった。


 だが、それでは遣いの補充が間に合わない場合があるため、本人の了承を得たうえで殺すことは可能となった。


 遣いのシステムを急激に変えることはできなかったが、最終的には当初のように死者を短期間だけ使うシステムに戻していくという目標が立てられた。


 また、不幸因子の回収のために人を殺すという、形骸化していた制度が再び動き出した。対象は人間社会に大きな害を与える者のみであり、その決定は慎重な議論を重ねた上で決定されることとなった。


 死んだ者をあの世へ導く役目については、変更なしであった。


 また、莉多とカラスの凶行を止めた朝ヶ丘奈津には、報奨が与えられることになった。その内容は、あの世で豪勢な生活を送られるというものだった。しかし、奈津はそれを断り、次の生命へ転生することを選んだ。彼女が何に転生したのかは、誰にもわからない。





 平藤・カラス事件から二年半が経った。


 不幸因子の大量発生によって大打撃を受けたこの街は、着実に復興を進めていた。人々は以前とほとんど変わらない生活を送っている。


 あの事件は、人間社会では落雷の異常発生を発端にした複合的な災害であるとみられている。


 そして、メジロはカラスの後を継ぎ、この街のリーダーとなった。

 遣いの死神として、彼女は今も働き続けている。




 中央区の高層ビルの屋上で、メジロは人の姿で街を見下ろしていた。


 夏が終わろうとしているのに、気温はまだまだ高い。死神には季節など関係のない事だったが、この街に生きている人々はこの蒸し暑さに嫌気が差している様子だった。


 災害からかなりの時間が経過したが、不幸因子は相変わらずどこからでも湧いて出てくる。今も街中に黒い霧が広がり始めている。


「今日も夜景がきれいだね、メジロ」


 後ろから少女の声がした。

 メジロは振り返り、その声の主に視線を向ける。


 黒色の革靴に、青を基調としたチェック柄のミニスカートと紺色のブレザー。彼女が来ているのは高校の制服と思われる。その上には黄緑色のマントを装着している。目鼻立ちがよく、快活な表情がよく似合う。髪はゆるくカーブした栗色で、腰のあたりまで伸びていた。


 その少女に向かって、メジロは微笑んだ。


「そうだね、冬実」


 平藤・カラス事件の直後、メジロは運良く素質のある死者を見つけ、遣いにした。それが彼女、冬実という少女だった。当時は人間由来の不幸因子が大量に発生していたため、彼女の参入は五区にとって大きな助けとなっていた。


 冬実は軽く跳んでメジロの隣に着地した。

 二人の身長はほぼ同じだった。


「メジロ、見て。不幸因子がかなり濃くなってる。昨日も吸収したはずなのに。やっぱり、日曜の夜だからかな。明日は学校とか仕事とか考えてたら憂鬱になっちゃうもんね」


「明日の朝に影響が出ないように、不幸因子を吸い尽くさないとね、冬実」

「おっけー」


 冬実と言葉を交わした後、メジロはかすかに笑った。


(そういえば、奈津ともこんなやりとりをしたな)


 結果的に犠牲となってしまったが、最後まで信念を貫いて莉多とカラスを止め、この世界を守った、あの誇り高き少女のことは、一日たりとも忘れたことはない。


 メジロは奈津と過ごした日々を思い出しながら、前を向く。

 隣の冬実は深呼吸をし、両拳を握りしめた。


「みなさん、いいですか?」


 彼女はメジロのテレパシー能力を使って五区の遣いたちに呼びかける。

 返事はすぐに来た。


「北区の葉月、スズメ、いけまーす!」

「東区の結衣、タカ、いけるぜ」

「南区の……小夜、フクロウ……いける」

「西区の香里奈、ツバメ、いけます!」


 頼もしい仲間たちの声を聞き、冬実は口元を上げた。

 そして、冬実は表情を引き締める。


「雪村冬実、これより不幸因子の吸引を開始します!」


 その宣言の後、冬実とメジロはビルの屋上から跳び上がった。メジロは鳥の姿になり、冬実の肩に乗る。

 冬実は前方に一回転半し、頭を下に向けて急降下する。


 メジロの姿をした死神は、新たな遣いとともに、人々を不幸因子から守るため、夜の街へと翔けていった。





 作者の武池 柾斗です。なんとなく気に入っているので空白は半角のままです。


 ここまで読んでくださり、ありがとうございます。『不幸少女と死神メジロ』、いかがでしたでしょうか。


 今作のテーマは「再起」、サブテーマは「システムの犠牲者」です。遣いというシステムの犠牲者である奈津が、真相を知りながらも再起し、最後は街の人々を守る信念を貫くという話でした。裏主人公の莉多に関しても、奈津とは方向性の違う再起をし、自らの理想を実現させようとしました。


 奈津と莉多は結果として善と悪に分かれてしまいましたが、二人とも人間社会のシステムの犠牲者でありながらも、そして遣いのシステムの犠牲者でありながらも、自分のために何度でも立ち上がる点では同じです。そんな彼女たちのように強く生きていけたらなと思います。


 主人公のパートナーがメジロという点については、完全に趣味です。伊藤若冲のメジロの絵を見た時から、いつかメジロをメインキャラにした物語を書きたいと思っていましたが、それがこの小説に反映されました。



 それでは、ここで感謝の言葉を。


 相談に乗ってくれた友人方、ありがとうございました。おかげさまで、こうしてまた一つネット小説を書き切ることが出来ました。


 連載中に評価とお気に入り登録をしてくださった方。私は最初から最後まで台本形式で書いてから文章化するというスタイルで、怠け者の私でもちゃんと形にできるように細切れ連載の方式をとっています。最終段階である文章化のモチベーションが続いたのは、まぎれもなくあなた方の存在のおかげです。ありがとうございました。


 そして、ここまで読んでくださった皆様、アクセスしてくださった皆様。本当にありがとうございます。『不幸少女と死神メジロ』を読んで、面白いと思ったり、何か感じたりすることがあったのであれば、作者としてそれ以上の喜びはありません。


 また、発表の場を設けてくださった『小説家になろう』様。ありがとうございます。



 最後になりますが、私はまだまだネット小説の活動を続けていきます。ただ、しばらくは作風を変えて明るくお気楽な話にしようかと思っています。気分転換ですね。とは言ったものの、たまにこの『不幸少女と死神メジロ』や前作『戦場の黒い花』のような重い話も書くつもりではいます。


 なにはともあれ、まったりとネット小説を書き続けると思いますので、気が向いたらアクセスしてくださると幸いです。


 それでは今回はこのあたりで。またどこかでお会いしましょう。



2017年 8月26日(土) 武池 柾斗




※この物語はフィクションです。実在の人物、事件、団体等とは一切関係ありません。




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