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不幸少女と死神メジロ  作者: 武池 柾斗
第五章 少女たちの決意
34/39

5-8 強化

 奈津は北区で不幸因子を吸引した後、東区へ向かった。


 東区の不幸因子は活発に動いていた。奈津が北区にいたときは何者かに支配されていたようだが、今はその制御から外れている。おそらく、フクロウが奈津の到来に合わせて解除したのだろう。


「ラッキーだね。不幸が起こる前に全部吸い取るよ!」


 奈津は速度を上げ、東区を飛び回った。


 幸いなことに、不幸因子は人々に危害を及ぼしていなかった。自由になってから時間があまり経っていないためだろう。


 これ以上の被害を出さないためには、人の体内に入る前に不幸因子を吸い尽くさなければならない。ましてや、黒塊の発生を許すなど、あってはならない。


 さらに、他の区域でも不幸因子が動き始めている。中央区の戦いに葉月が加わったことで、莉多の注意が逸れたためだろう。だが、戦いが有利になったわけではない。人々を不幸因子から守る面でも、抵抗勢力の限界の面でも、残された時間はわずかしかない。


 奈津は東区での吸引を終え、南区へ向かった。


「今、わたしのエネルギーは五年分。最低でもあと四年分は吸わないと、莉多さんに勝てない。いや、もっと必要かな」


 彼女はそう呟き、南区での不幸因子回収を始める。

 その言葉を聞いたメジロは悲痛な表情を浮かべた。


「奈津。きみは、もしかして……」

「おっと、それ以上は言っちゃダメだよ。まだ決まったわけじゃないから」


「でも、莉多以上の不幸因子を持つ方法なんて一つしか……」

「だから言わないでって。それは最後の手段だから。そう安々と使ったりしないって。だから安心して、メジロ」

「うん……」


 奈津の声は優しかった。

 だが、それがメジロの心を締め付けた。


 奈津の覚悟はすでに決まっている。刺し違えてでも莉多を止めるつもりでいる。人々を不幸因子から守るという信念を、奈津は最後まで突き通すだろう。たとえその最後が今日であったとしても、奈津には一片の悔いもない。


 その証拠に、奈津に恐れる様子はなかった。

 奈津は南区での吸引を終え、西区へ飛んだ。


「これで六年分集めた! あと三年分!」


 彼女は自らを奮い立たせながら、慣れ親しんだ西区での吸引を開始した。


 一年間守り続けた場所だが、不幸因子の大量発生によって悲惨な状況になっている。奈津は悲しまずにはいられなかった。だが、ここで止まってはいられない。


 奈津は莉多の手から離れた不幸因子を吸い取り、自分の力にする。


 体内の不幸因子が増えるごとに、彼女の飛行速度と吸引能力が向上していく。そのおかげで人々に不幸が訪れる前に、不幸因子を吸い取ることができた。


 莉多の支配下に残っている不幸因子もあったが、それは無視するしかなかった。


 奈津は瞬く間に西区での吸引を終え、北区へ急いだ。


「はぁ、はぁ……これで七年分! あと、二年分!」


 奈津の顔に疲労の色が見え始める。


 また、焦りもあった。莉多と同等のエネルギーを集められないかもしれない。エネルギー不足では莉多を止められない。だが、力不足のままでも、莉多に立ち向かわなければならない。


「奈津、大丈夫かい? かなりつらそうだよ」


 メジロは心配して奈津に声をかける。

 それでも、奈津は無理やり笑みを作った。


「だ、大丈夫……急激なパワーアップに、体がびっくりしてるだけだから……でも、もう少し吸えば、莉多さんを止められる。それに、メジロだってつらそうだよ。無理しないで変身したら?」


「いや、そういうわけにはいかないよ。ぼくにだって、不幸因子の誘導という役目があるからね」


 メジロのその言葉に、奈津は少し驚いた。


「なんだ、そんなことしてくれてたんだ。どうりで吸引しやすいと思った」

「そういうこと。だから、最後まで奈津を手伝わせてくれないかな?」


「もちろん! 頼んだよ、メジロ!」


 奈津は活気に満ちた声を上げ、北区での吸引を始めた。


 ここでも不幸因子が動き始めていたが、暴走には至っていなかった。奈津の飛行速度が格段に上がったことで、人々を不幸から未然に防ぐことができた。また、メジロの手助けもあり、あっという間に吸引が完了した。


 だが、奈津の顔には焦りが大きく出ていた。


「これで、八年分……中央区の不幸因子は莉多さんが全部支配してる。これ以上、集められない……」


 彼女は両拳を握り、歯を食いしばった。


 莉多が体内に保有している不幸因子は九年分から十年分ほど。さらに何年分かは不明だが、体外のモノまで含めれば相当な力になる。対して、奈津は体内にある八年分しか持っていない。勝ち目は薄い。


 だが、奈津には味方が三組もいる。


 不幸因子が大量発生する前に彼女たちと協力できればよかったのだが、今となってはどうでもいい。この土壇場で生き残り、莉多に抵抗してくれているだけでも有難かった。


 奈津は意を決し、表情を引き締めた。


「いくよ、メジロ。莉多さんを止めるよ。あの人が、独裁者になる前に」

「ああ、そうだね。それが、ぼくたちのやるべきことだ」


 二人は頷き合う。

 ふと、奈津の表情が柔らかくなった。


「あと、もしものときは、ためらわないでね。莉多さんを止められるのは、わたしだけなんだから」

「うん……わかっているよ……」


 そう応えるメジロの表情は、少し寂しそうだった。

 それを見た奈津は穏やかに笑い、前を向いた。


「さあ、行くよ!」


 奈津は叫んで気合を入れ、中央区に向けて飛び立った。


 中央区での戦いは限界が近い。抵抗勢力の三組も莉多に殺されかけている。結衣と小夜の持つ不幸因子が莉多の手に渡ってしまえば、そこで勝ち目はなくなる。奈津も殺されてしまうだろう。そうなれば、もう誰も莉多とカラスを止められない。


 奈津は速度を上げながら、最後の戦場へと向かっていった。





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