5-7 殺意
莉多と反抗勢力の戦いは続いていた。
結衣、タカ、小夜、フクロウは果敢に攻撃を仕掛ける。小夜が不幸因子の動きを感知して味方に伝え、結衣が敵の隙を突く。タカとフクロウは不幸因子を操り、結衣の援護を行う。四人の連携によって、強大な力を持つ相手と太刀打ち出来ていた。
だが、徐々に莉多とカラスが優位になっていく。
全力で戦っている四人に対し、莉多とカラスはある程度の余裕を残していた。戦闘が長引けば長引くほど、四人の疲労は蓄積する。通用していた攻撃が効かなくなり、莉多の反撃を受ける回数が増えていく。
結衣と小夜が倒されるのも時間の問題だった。
「ふふ、そろそろ諦めたらどうかしら?」
莉多は抵抗する二組から距離をとり、彼女たちに微笑みかけた。
それに対し、結衣と小夜は激しく呼吸をしながらも応える。
「うるせえ! 誰が、諦めるかよ!」
「殺人者に……不幸因子は、渡さない……」
そして、タカとフクロウもカラスを睨み付けた。
「オレは、死神としてお前らを許せねえ……」
「ワシもじゃ……そして、お主らは間違っておる」
二人の遣いと二人の死神は、最後まで抵抗する意思を見せる。
カラスは彼女たちの言葉を聞き、小さく笑った。
「俺が間違っているだと? 確かに間違っているな。だが、間違っているのは使役の死神も同じことではないのか?」
結衣と小夜を一瞥し、カラスは二人の死神に再度目を向ける。
タカとフクロウはカラスの意図を察し、歯を食いしばった。
遣いにするために未来ある少女を殺したのは、タカもフクロウも例外ではなかった。彼女たちはその事実を隠したまま、何世代にも渡って不幸因子を吸引させた。偽りの幸福を与えられ、満足そうにあの世へ行った少年少女を、二人は何度も見てきた。
それが自分たちの役目だと割り切っていた。
だが、カラスに言われ、それが罪深い行為だと感じてしまった。
「おい、莉多。死神が間違ってるって、どういうことだ?」
結衣はタカの様子を不審に思い、莉多に問いかけた。
「別に、あなたたちは知らなくていいことよ。いや、知らないほうがいいのかもしれないわね」
「なんだよそれ。てめぇ、バカにしてんのか」
「いいえ、バカになどしていないわ。知る必要はないとういことだけ。でも、ただ一つ確かなのは、間違っていない者など、どこにもいないということよ」
小夜は莉多の言葉に眉をひそめる。
「それは……莉多も、間違ってる……ということ?」
「そうよ。私は不幸因子で罪なき人々を死なせてしまった。でも、その間違いの先にあるものは、正しい世界よ」
莉多はそう言った後、結衣と小夜に向けて殺気を放った。
二人はとっさに身構えるが、そのときには莉多が目の前に迫っていた。
莉多の右回し蹴りが小夜の頬を捉える。小夜は為す術もなく結衣の方向に蹴り飛ばされる。結衣が彼女の体を受け止め、体勢を立て直そうとした。
だがそこに、莉多が回転力を利用して左の蹴りを繰り出してきた。それは小夜の腹部に直撃し、後ろの結衣にも衝撃が与えられる。
小夜と結衣は大きく蹴り飛ばされるが、莉多にも隙が出来る。
結衣はそれを見逃さなかった。
彼女は小夜から離れ、全速力で莉多に突撃した。
不安定な姿勢の莉多に、結衣が迫る。莉多は回避しようとするが、結衣の体当たりのほうが早かった。体と体が激突し、莉多は後ろに吹き飛ばされる。
結衣は追撃を仕掛けず、小夜のもとに戻った。
このまま攻撃を続けたところで、反撃を受ける可能性が高い。結衣であっても莉多を倒すほどの力はない。たった一つの可能性に賭け、時間を稼ぐしかなかった。
「小夜、大丈夫か?」
「う、うん……なんとか、ね」
結衣の手を借りながら、小夜は体勢を整える。
莉多は空中で受け身をとり、後転して体を起こした。
「まだ抵抗する力が残っているのね。結衣の戦闘能力といい、小夜の感知能力といい、敵に回すと厄介ね。葉月より先にあの二人のどちらかを潰しておくべきだったわ」
彼女は手順を誤ったと思い、顔を歪めた。
「やっぱり、殺す方が簡単ね。生かそうとするから難しいのよ。遣いは、新しい人を用意すればいいわ。エネルギーさえ手に入れば問題ない」
莉多は方針を変え、体内の不幸因子を活性化させた。
全力で殺しにかかれば、エネルギーを奪うことなど造作もない。第一の目的は、自分が理想とする社会を作り上げること。それを達成することがすべて。つまらないことに執着してはいけない。情を捨て去ってでも、成し遂げなければならない。
「結衣! 小夜! 本当に残念だけれど、あなたたちを殺すことにしたわ! あなたたちは本当に大切な仲間だったわ!」
莉多は声を張り上げて宣言する。
彼女はそれを言葉にして初めて確信した。結衣も、小夜も、葉月も、奈津も、そして役目を終えてあの世へ行った過去の遣いたちも、莉多は大切に思っていた。裏の支配者になってからも彼女たちを利用したかったのは、単純に殺したくなかったからだ。
だが、修羅になる覚悟はできた。
目的達成のために、抵抗する者は殺す。
「本当に、残念だわ……」
莉多は目を伏せて呟いた。
その直後、彼女は目を見開いた。その目にはあらゆる覚悟が宿り、自らの理想を実現させるという意思が燃え上がっていた。
莉多は動き出し、二人を殺しにかかった。
彼女の速度は先ほどとは比べものにならないほどに上がっていた。あまりの速さに結衣ですら反応できず、結衣と小夜は同時に殴り飛ばされてしまった。
たった一撃で、抵抗が出来なくなった。
莉多はまず、小夜に追撃を仕掛けた。
彼女はすべての感覚を殺意に集中させ、標的に接近する。結衣はそれを見ていたが、動いたところで救援は間に合わない。だが、彼女はあることに気がついた。不幸因子を保有した二つの何かが、物凄いスピードでこちらに迫ってきている。
そして、莉多はそれに気づけなかった。
莉多の体に黒い霧が巻き付き、動きが鈍くなる。莉多がそれを認識したのと同時に、超高速の物体が彼女に激突した。
莉多の体が大きく吹き飛ばされ、小夜は危機から脱した。
結衣と小夜は突然の救援者を見て、口元を上げた。
「遅くなってごめんなさーい! 葉月も協力するよ! なっちゃんが来るまで、みんなで耐えようね!」
翔けつけた葉月が明るく声を上げる。
それは結衣と小夜だけでなく、タカとフクロウの戦意を取り戻させた。
「奈津が来れば、なんとかなるかもしれねえな!」
「それまで……ワタシたちは、頑張る」
反抗勢力に葉月とスズメが加わり、彼女たちは奮い立った。
莉多は体勢を立て直し、不敵な笑みを浮かべる。
「そう。奈津が動き始めたのね。足掻けるだけ足掻きなさい。そして、私を止めてみせなさい。私と奈津、どちらの意思が強いか、試しましょう」
彼女の胸が期待で膨らんでいく。
「でもその前に、不幸因子の回収と邪魔者の始末は終わらせておかないと」
莉多は表情を引き締め、抵抗する三組に向かっていった。




