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第1話 春、君と出会う

この作品はカクヨムにも投稿しています

「よし……」


 玄関で深呼吸を一つ。

 鏡に映る制服姿を見て、少しだけ襟元を整える。

 一人暮らしを始めて一週間。

 今日から高校一年生。

 まだ家具もほとんど揃っていない六畳の部屋は、どこか心細かった。


「行ってきます」


 返事が返ってくるはずもない部屋にそう呟いて、俺――綾部 柊真あやべ しゅうまはドアを閉めた。


 高校までは歩いて十五分。


 桜並木を抜けるたび、新しい生活への期待と不安が入り混じる。


 俺は昔から、自分に自信がなかった。


 勉強も運動も平均くらい。


 目立つことは苦手で、誰かの前に立つより、後ろで笑っている方が気楽だった。


 そんな性格だから、友達もあまり多くはなかった。


 校門に着くと、大勢の新入生で溢れていた。


「おーい! 柊真!」


 聞き慣れた声。

 振り向くと、満面の笑みで手を振る奴がいた。


「蓮!」


 神谷 蓮かみや れん。中学一年からの親友。

 中学の時のサッカー部のエースで、誰とでもすぐ打ち解ける性格。


 俺とは正反対なのに、不思議と一番気が合う。


「まさか同じ高校になれるとはな!」

「お前の第一志望、ここじゃなかっただろ」

「親友と離れる方が嫌だったんだよ」


 蓮は少し照れくさそうに笑った。


「……そうかよ」

「それに、ここのサッカー部は強えしな!」


 そう、俺たちが入学する青葉高校は文武両道で、進学率が高いのはもちろん、スポーツ推薦で大学へ進む生徒も多い。


 そんな話をしながら、俺たちは大きく掲示されたクラス分けの表へ向かった。


「俺は1組か」


 こういう時、名前が上の方にあるせいで探すドキドキが少し減るのが残念だ。


「俺も1組だ! 今年も一緒だな!」


 蓮が肩を組みながら大声で言う。


 ふぅ……安心した。こいつがいなかったらどうなってたことか。少なくとも一年ぼっちは確定だったな。


 そんなことを思いながら、教室へ向かう。

 この学校では入学初日の席はランダムらしい。

 そのおかげで最初の席替えまで前列という苦行を味わわずに済む。

 窓際、後ろから二番目。

 悪くない席だ。


「出席を取るぞ」


 担任の声で教室が静まる。


 その時だった。


 ガラッ。


 教室の扉がゆっくり開く。


「すみません……遅れました」


 息を切らしながら入ってきた一人の女子。

 金髪の外ハネボブが揺れ、制服も少し乱れている。


「朝から電車が止まってしまって……」

「事情は聞いている。席につけ」


 その女子は軽く頭を下げ、こちらへ歩いてくる。


 ――いや、まさか。こんなラブコメみたいな展開あるのか?

 確かに隣、空いてるなとは思ってたけど。


「ごめんね」


 小さな声。


「いや、大丈夫」


 それだけしか言えなかった。

 彼女は静かに俺の隣へ座る。

 窓から吹いた春風が、彼女の髪をふわりと揺らした。


 そして一年に一度必ずある、あの時間。


――自己紹介


 なんで出席順なんだよ、と意味のないことを考えながら、テンプレ通りに自分の番を終わらせる。


 そして全員の自己紹介が終わった時。


『一ノ瀬 夏希いちのせ なつき』


 隣の席の彼女の名前だけが、不思議と頭に残った。


 昼休み。


 蓮はすでにクラスの半分程と打ち解けていた。


「お前も来いよ!」

「俺はいいって」

「またそうやって逃げる」

「逃げてない」

「逃げてる」


 図星だった。


 蓮から離れ、俺はふとある方向を見る。

 そこには、いかにも“陽キャ”といった女子たちが集まっていた。

 その中心にいる一ノ瀬さんに、自然と目がいく。

 陽キャの女子ってだけでも目立つのに、彼女はその中でも一際存在感があった。


 放課後


 俺は蓮と部活動見学に来ていた。

 蓮はサッカー部に入ると決めているはずなのに、なぜか見学に付き合えと言い出した。

 まぁ、俺が何かに興味を持つかもしれないとでも思っているのだろう。


 ほんと、いい奴だ。


 見学の後、蓮はそのままサッカー部の入部手続きへ向かい、あっという間にいなくなった。


「え? こんな時間まで何してたの? えっと、綾部くん?」


 下駄箱で靴を履いていると、後ろから声がした。

 振り向くと、そこには金髪の美少女。

 言うまでもなく、一ノ瀬さんだった。


 俺が固まっていると、


「あ! もしかして綾部くんも入学初日に部活見学した猛者?」


 元気な声でそう聞いてくる。


「あ、うん。友達に誘われてさ。一ノ瀬さんも?」


 少し戸惑いながらも、なんとか返す。


「そうそう。私も友達に誘われてさー。でもあいつ、先輩の彼氏と帰るから部活終わるまで待つとか言って、私だけ先帰らせるんだよ? 有り得なくなーい?」


 愚痴っぽいのに、どこか楽しそうだ。


「はは、それは災難だったね」


 こんな言葉しか返せない自分に、内心ため息をつく。


「綾部くんはなんで一人なの? 友達は?」


「あいつは入部手続き。サッカー部に入るのは決めてたけど、俺が何かにハマらないかって思って、見学に誘ってくれたんだと思う」


「そうなんだ。仲良いんだね!」


 その笑顔を見て、思わず目を逸らしてしまう。


「ほんと、あいつには感謝してるよ」


「そっか」


 ふと見ると、さっきまでの元気な笑顔が、少し柔らかいものに変わっていた。


「駅まで送るよ」


 気まずさをごまかすように、そう口にしていた。


「ほんと? ありがとう」

「あ、そうだ!LINE交換しようよ。せっかく席も隣だし、これも何かの縁ってことで」


 そう言って彼女はQRコードを差し出す。


「あ、うん。いいよ」


 断る理由もなく、読み取って追加する。

 ――俺のLINEに、親と妹以外の女子が追加されとは。

 そんなことを考えているうちに、駅が見えてきた。


「ん、ここでいいよ。送ってくれてありがとね」

「うん。気をつけて」

「バイバイ、綾部くん。また明日!」


 そう言って手を振る一ノ瀬さんの笑顔は、やけに眩しかった。


「ば、バイバイ」


 ぎこちなく手を振り返す。

 彼女の背中が見えなくなるまで見送ってから、大きく息を吐いた。


「はぁ……緊張した」


 隣の席の美少女と下校なんて、まるでラノベみたいだ。

 ――まぁ、俺なんかじゃ釣り合わないだろうけど。

 そんなことを思いながら、アパートへと続く道を一人で歩き出した。


最後まで読んでいただきありがとうございます。よかったらフォローや評価お願い致します。今後の励みになります。カクヨムの方が先に進んでいるのでそちらも是非お願いします。

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