嵐の前夜
その後は、特に何もなく探索は進んだ。エルマのスキルが発現しない事だけが気がかりだが、まぁ時間の問題だろうと結論付け、一度帰路についた。
「鑑定結果が出ましたよ。
あなたの新しいスキルは【神威】、性質は異能系ですね。簡単に言えば掠っただけでダメージを与える剣術…と言うところでしょうか。切先に限らず、棒などでも使えるとは思います。」
鑑定とやらはギルドに道具作成のスキル持ち冒険者がいるらしく、その冒険者の作った道具に手を翳したら終わった。その結果をエルダに告げられて、頷いてから仲間の揃う席に戻り、委細を軽く報告した
「なるほど、触れただけでダメージが入るのは有効な異能だな。剣術に長けたお前が使うなら尚更脅威になりうる。名前負けしない異能だ。」
とはバンデムの弁で、なるほどと納得しながら酒を呷った。
横でエルマが机に突っ伏した
「今日私もいっぱい魔法使ったのにーー!!なんでスキル出ないのー!!」
机をバンバンと叩いて抗議するエルマをケイシーが宥める。
「まぁまぁ。私もスキルの発現にはしばらくかかりましたから…」
その言葉に、エルマはようやく落ち着いたようで顔を上げた
「そういえば、ケイシーさんのスキルは防具の巨大化とか?今日の戦闘では盾が巨大化してましたけど」
「私のは武器と盾の巨大化ですね。それと身体能力の底上げです。消耗が激しいので今日は使ってませんが、ハンマーも大きくできますよ」
その言葉に内心背筋を震わせる。今日の戦闘でわかったことは、ケイシーは小柄な体格に似合わず超怪力、ということである。そんな彼女が巨大化したハンマーを振るったら…考えるだに恐ろしい。
ダンジョン帰りの道中で聞くところによると、迷宮で活動すればするほど、スキルのみならず身体や精神も魔力を帯びて進化するのだとか。ケイシーは特に筋力の補正がかかっているらしく、片手で持てるようなハンマーを振り回すだけで硬い甲殻を持つ魔物が倒されていく様は壮観だった。
「エルマにも早く宿るといいな」
と頷いて見せると、向こうもコクリ、と頷き返して酒を飲み始めた。
…そんなに飲んで、大丈夫なのだろうか
訝しみながらも、自分は酒をちびちび飲み始めた
「ダァーーーら、!!よっへない!!」
「酔ったな」
「酔いましたね…」
「…」
三人で酔い潰れたエルマを見ながら呆れたように声を漏らす
「ひとまず…今日は私の宿に泊まってもらいますね」
「任せた。流石にこの状況で同室はやばい」
ケイシーにそう伝えて帰路に着く。バンデムと二人きり、どちらからでもなく、雑談が始まった
ギガトロールについて、ダンジョンについて、目標について…ぶっきらぼうながらも、丁寧に返答を返してくれるのは嬉しいことである
「…迷宮の植生は食えるものが多い。特に29層は絶品ケンタウロスステーキがあるって聞いたことがある」
「なるほど、興味深いな。早くギガトロールを倒して向かおう」
そんなたわいのない話をして、俺たちは帰路に着いた。
「それじゃあ、お疲れ様でした、バンデムさん」
「あぁ、明日はエルマの調子を見てから決めよう」
「ですね…二日酔いでダウンしなけりゃいいんですけども…」
なんて話をして解散し、久々の一人部屋に帰る。
椅子に腰掛けて刀の手入れをしながら、広くなってしまったように感じる部屋に一抹の寂しさを感じるのであった




