5.戦闘開演
土煙が渦巻き、
無数の影がうねるように迫ってくる。
牙を剥く狼型の魔物。
這いずる甲殻の群れ。
巨大な腕を振り上げる亜人種。
スタンピード。
その最前線に、
奇妙な舞台が存在していた。
光に照らされた簡易ステージ。
視線を誘導する布の軌跡。
高台に立つ一人の男。
華岡大地。
その足元で
ラステリが小さく震えている。
――マスター……
いっぱいいます……
「……ああ」
大地は静かに頷く。
「怖いよな」
その言葉に
ラステリの身体が少しだけ強張る。
だが。
「でも」
大地は笑った。
「お前はもう
舞台に立てる団員だ」
ラステリの震えが止まる。
「見せてこい」
その一言が
背中を押した。
次の瞬間。
ラステリは
舞台の中央へと跳ね上がる。
空中へ――
無数の刃が放たれた。
ナイフ。
手斧。
短剣。
投擲用の細剣。
それらはすべて
サーカスの小道具。
そして
ダンジョンの一部。
尽きることのない武器。
ラステリの身体が
リズムを刻む。
投げる。
回る。
受ける。
再び投げる。
ジャグリングの延長線上にある
戦闘。
刃は
まるで意志を持つかのように
魔物の急所へと突き刺さっていく。
一体。
また一体。
狼型が崩れ落ちる。
甲殻が砕ける。
観戦していた冒険者が
思わず声を漏らした。
「……なんだあの戦い方は」
それは戦闘というより
演技だった。
死と隣り合わせの
美しい芸。
だが
ラステリの呼吸は荒い。
恐怖は消えていない。
その時。
夜空へ
澄んだ歌声が広がる。
フランだった。
震える翼を広げ、
必死に声を紡いでいる。
その旋律は
ラステリの身体へと力を流し込む。
動きが軽くなる。
刃の軌道が
さらに正確になる。
同時に。
魔物の足取りが鈍る。
咆哮が乱れる。
フランの歌は
味方を鼓舞し
敵を揺らす。
まさに
舞台の主役を支える伴奏だった。
「……すげぇ」
誰かが呟く。
避難していた住民達が
いつの間にか
戦場の方へ視線を向けている。
絶望のはずの光景が
どこか――
希望に見えた。
ラステリは
舞うように跳ねる。
刃の雨が
光の軌跡を描く。
それはまるで
本物のサーカスだった。
「ソル・フロール……」
大地は小さく呟く。
自分達の団の名。
太陽と花。
笑顔を咲かせる存在。
その名の通り。
戦場に
活気が生まれていく。
冒険者達が
再び武器を握り直す。
「負けてられるかよ!」
怒号が上がる。
住民の表情にも
わずかな光が戻る。
だが。
魔物の群れは
まだ尽きない。
地平線の向こうから
新たな影が押し寄せる。
地面が大きく揺れた。
ラステリが
息を呑む。
フランの歌も
一瞬だけ震える。
大地は
静かに前へ出た。
「……ここからが本番だな」
【個体名.ラステリが進化可能です】
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