67・汚れつちまつた、悲しみと怒り
神さまに攻撃したら神さまが増えた。
いや、増えたというよりも。
正しくは、上下に断ち切ってやったら、そのまま別個に動き出したというべきか。蝿じゃなくてプラナリアの神なの?
ともあれ一体から二体になったのは事実。
あちらさんはアクションゲームのボス敵みたいなギミックを繰り出してきたが、こちらのやることは変わらない。
増えようが分かれようが、
神だろうが、
力でねじ伏せるのみだ。
そして幸いなことに俺にはその力がある。
──しかし、困ったことに。
我が相棒ディバインは、そこのところに不安がある。
破壊力に難がある。
「ディバインは俺が置いてきた。ついていけそうにない」ってなるほど戦力外ではないが、さっき見た通り、神さまの攻撃を打ち破るにはいささか力不足なんだよね。
あんなアホみたいにどこまでも斬る光線でも及第点いかないんだから、神の脅威、推して知るべし。
「無理はやめろよ、頼むから」
蝿のほうをなる早で退治するから、それまで鎌持ち親父とは小競り合いくらいにしておけよディバイン。
うっかりポカからの大ピンチとか勘弁だぞ?
「何を言う。ここで無理せずして、いつ無理をするのだ」
「ああ言い方悪かった。無謀なことすんなってことだよいいなこれならわかるだろ無理と無謀は違うからなわかったな?」
「お、おう」
わかってくれたらしい。
よし。
このやり方が効果あるようだな。
今後こいつにまた何かを理解させたくなったら、今みたく、反論の隙を与えず一気にまくしたててやるとしよう。
『グボボ…………』
ディバインがわかってくれた直後。
蝿の体から新たに生えてきた蛇の頭が、呻きだした。
えずくような、もう喉のところまで胃の中身が込み上げてるような……。
……まさか。
「ディバイン、気をつけろ!」
蛇の頭、その長く伸びた首の根元辺りが、胴体からせり上がってきた何かによって膨らみ、
その膨らみはすぐさま上昇して、
頭部まで、届いた瞬間──
『グッバァアアアア!!』
白く濁ったどろっどろを吐き出した!
俺のほうに!
しかも、
『……砕けよ、人の皮を被りし悪鬼……!』
ムキムキヒゲ親父のほうもこっちに雷を撃とうとしてやがる!
どっちも俺狙いかって、まあそうだよな! たった一撃で分割しちゃったもんな! ヤバイと思うよな!
「とりあえず相殺!」
焦ってばかりもいられない。
冷静に、蝿の胃液みたいなのを左手からの光で迎撃する。
いつもの詳細不明砲だ。
雷のほうは、避けれそうなら避けるが駄目なら相棒になんとかしてもらう。
それも駄目だったら耐える。それしかない。
白濁と不可視が激突する。
どうだ!?
「……五分か!」
押されることも押すこともなく、どちらの攻撃も互いに消し飛んだ。
嬉しい誤算、予想外だった。
正直、さっきの雷と光線のぶつかりを見た限り、珠ならともかく砲撃程度では駄目だろうなと思っていたのだけど……。
(分割されたせいで出力が落ちたのか?)
さっきまでは百アポミュイオスが一体だとしたら、今は五十アポミュイオスが二体ってことでいいのだろうか。
いや、そんなきれいに半々になるか?
できることなら、俺が相手をしてるこいつのほうの割合が多いほうがディバインも助かる……
……とか考えてたら雷の斬撃が飛んできた。
もう避けれそうになかったので、開き直って敵の戦力バランスについて思案してたのだ。
「させんっ!!」
俺への直撃をさせまいと、ディバインが動いた。
やはり動いてくれたか。
動かなかったら我慢タイムだったところだ。
銀の剣から放たれた光が、雷にぶつかっていく。
さっきも見た光景だ。
衝突。
さて、今回はどうなる……?
「……おお、押されなかった! 押されなかったぞディバイン!」
結果は──引き分けだった。
打ち破れはしなかったが、打ち破られも、またしなかった。
「ふむ、どういう事かはわからんが、威力が低下したみたいだな。まさかここにきて手心を加えたわけでもあるまい。それとも、さっきの威力はたまたまだったのか……」
箱を被った小首をかしげ、ディバインが不思議がる。
「はあ?」
いやわかるだろ。
半分になったんだから威力も半減して当たり前だろ。こんなの単純な割り算だぞ。さんすうが苦手か?
それとも、もしかしてあれか?
これまで同種とばかり戦ってきたから、その考えに至らないのか?
首とか手足とかもげても普段と変わらぬ攻撃してくる奴らばかりだったから、上下に分かれたくらいで威力落ちるとか想像もつかないのか?
「まあ細かいことはいい。ここで今重要なのは、私の必殺技が力負けしなくなったという事実だ」
それはそう。
そうなんだけど……もっとこう、剣だけでなく頭も活用しような。
「……そうだな、そういうことにしとこうか。確かにそれは重要だ。間違ってない」
左手に力を込める。
光の力を集約させていく。
どうも斬るのはよろしくないようだ。
分離させて弱らせるのもありだが、敵の手数が増えるのは困る。一撃一撃が弱まっていても、まとめて食らえば、俺はともかく防御の薄いディバインがやられかねない。
だから、斬らずに吹き飛ばす。
断ではなく穿なら大丈夫そうな気もしないでもないが、ちぎれた破片が動き出して蝿の群れになられても、それはそれで困るしな……どこまで細かくしたら動かなくなるのか……。
『オブォ、ヴォエッ』
また蛇の頭がえずく。
二発目か。
「ゲロもろともやっちまうのが最善なんだが……」
そのまま押し切れるとは思う。
しかし、大ダメージとなるかと言われたら、そこは怪しい。
良くてせいぜい、かなりの痛手ってとこじゃないのか。致命傷とまではいかないだろ。
蛇の頭が、大口を開く。
またも同じようにゲロが来たが……
「避けりゃいいだけだわな、こんなの」
砂利道から勢いよく飛び退く。
少し離れた場所の木にそのまま飛び移り、触手でしがみつく。
後はこの体勢のまま、光の珠を食らわせてやれば──
「うぇ!?」
誰もいなくなった地面に虚しくぶつかるだけだと、そう思っていたのに、
白濁したどろっどろが生き物のように方向転換して──いや、まさか、おい、
「嘘だろっまたかよぉおおおお!?」
馬鹿な。
なんで曲がる。
なんでこっち来るの。
せっかくシャワー浴びてボディシャンプー使って洗い流したのに、またしてもそんな──
「ちくしょおおおおおお!」
やけっぱちのお返しで、蝿ミュイオスのほうに光の珠を放つ俺。
すれ違うゲロと珠。
汚物の波を全身で受けとめ、身体が溶けてきたので背中の輪っかを光らせて無効にするも、臭いとヌメリは消せず嫌な気分を最高に満喫する俺。
光の珠がまともにぶつかり、大爆発に耐えきれず、恨み言を残す暇すらなく消し飛んだ蝿ミュイオス。
爆風で飛ばされそうになるが、宙でこらえた人ミュイオス。
冷気の壁みたいなもので防いだグリムヒルデ。
こらえられなかったディバイン。
というわけで。
俺はまたしても敵のきったねえゲロをその身に浴びたのだった──じゃねえよクソがっ!




