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復活したら人食いチート怪物と化していた天外優人、その奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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49・魔物許すまじ

「あぁ、痛い痛すぎるぅう……!」


「なんてことでしょう……ああ、動かないで。すぐ治しますから落ち着いて……」


 右腕がはじけちゃった槍使いを、聖女が治療するつもりらしい。

 治療といっても医学的なやり方ではないようだ。注射器も包帯も薬も持ってないからな。

 聖女らしく神聖的なやり方なんだろう。


 肩と肘の中間辺りから無くなった右腕。

 床に横たわって血だらけでもがく槍使いのそばに聖女は座り込み、右腕の傷に片手をかざし、何やら小声で祈る。

 すると、血が止まり、腕の断面がみるみるうちに肉でふさがっていく。

 苦痛も引いてきたのか、槍使いの動きが収まり、叫びも止まった。一命を取り留めたな。


「……腕が残っていれば、くっつけられたのですが……私の力では、これが限界です」


 嘆く聖女。

 それでも出血多量でくたばることがなくなったんだから、治す側からしたら不満のある結果でも、治される側としてはそれで良しとすべきじゃないかな。

 騎士としては再起不能だろうが、生き延びることはできそうだし。もう俺にちょっかいかけずにこの広間の隅っこでうずくまっていればだが。


「人助けは済んだ?」


「よくそんなことが言えますね」


 聖女が言う。

 言葉こそ丁寧ではあるが、静かな怒りのようなものが、言葉からもこちらを見上げている視線からもじわりと感じられる。

 怪我人を酷い目に合わせた張本人が言ったら、まあ挑発にしかならないよな。


 でも実力あることバレちゃったしもういいや。キレて全員でかかってくるならかかってこい。受けてたつよ。

 だいたい怒りたいのはこっちなんだ。

 濡れ衣着せられて襲われて、俺が悪いことにしたら丸くおさまるから退治させろとか、ふざけんなって話だよ。このくらい挑発しても許されるだろっつーの。


「むしろ、腕一本で済んで幸運だと思うけどね。俺たちがやってるのは試合じゃなくて殺し合いなんだから。負けの代償としては安いもんだろ」


「この少年は、聖アストルフォ騎士団の期待の星でした。経験を重ね、腕を磨き……いずれはバチカンのみならず欧州を闇から守る剣となり盾となる、そのはずの若者だったのです」


「それは悪いことをしたな。でも予定は未定って言うし、そうなるかどうかはわからなかったんじゃないの」


「少年の未来を残忍に潰しておいて、その物言いですか」


「そりゃこっちのセリフだよ。俺を証拠もなく有罪扱いした挙げ句、ブッ殺すために来た奴が何言ってんだ。鏡見ろ鏡。そいつの未来もいいけど俺の未来だって気にかけてくれよ」


「言ったはずですよ。魔物は存在すら悪であり、法と秩序の敵だと」


「またそれか」


 うんざりしてくるわその基本理念。

 会話が進んだかと思ったらそれ持ち出してこちらの主張をシャットアウトしてきやがる。融通が効かないというか融通が無いよこの仮面お姉さん。


「秩序乱してるのは今のとこお前らだけどな。余所(よそ)様の縄張りで好きなように暴れてんだから」


「我々がしたのは騎士クラウスの任務を引き継いであげたのと、邪魔者の一団を退けただけです。そこに無法などありませんよ」


「呆れた言い訳だな」


「正論です」


「それはまた結構なことだけどね、あんたがどんな屁理屈こねようが、こちらの国の退魔組織はそんなんじゃ納得しないよ」


「むしろ責められるべきはそちらの組織ではありませんか? あなたのような凶悪な魔物を、こんな野放しにしているなんて……」


「そうでもないけどな」


 七星機関に所属してるから、首輪くらいはつけられてるって感じだ。リードや鎖はないようなものだが。



「──もういいだろ聖女さん」



 焦れてきたのか、騎士アンジェリカが口を挟んできた。


「前々から思ってたんだが、あんたの話は毎回長過ぎる。しかも結末はいつも平行線だ。聞いてる側としてはたまらんぜ」


 わかる。


「人が人である以上、力より言葉を優先して用いるのは妥当なことではありませんか?」


「わかったわかった、もういい。わかったからあんたはそっち行っててくれ。……銀鎧のおっさん、そこの半人前を運んでやってくれないか?」


「よかろう」


 あっさり承知した銀色の巨体がこちらに近づく。

 響く、重い足音。

 子猫でも持ち上げるように槍使いの身体を軽々と片手で引き上げ、肩に乗せる。

 話し足りなかったのか聖女は不服そうにしていたが、自分が提案した一対一のルールを破るわけにもいかず、槍使いを運ぶ銀色の巨体と共に離れていった。


 残るは俺と騎士アンジェリカのみだ。


「さあ、第二試合といくか、魔物のボクちゃん。言っとくが油断や出し惜しみするなよ? いいとこ無しで死ぬことになりたくなきゃなぁ。ククッ……」


 くすんだ灰色がところどころにある、黒髪ショートの美人が笑う。

 怖い笑みだ。

 野性味のある鋭く赤い瞳が、ぎろりと、凶悪な視線をぶつけてきている。

 さっきの学生服野郎とはまるで迫力が違う。格の差だな。人間のとは思えないくらいの圧が──


(──ん?)


 違和感。


 なんか……違うぞ。

 この迫力、これは…………この青スーツの姉ちゃんからのものではない。

 後ろだ。


 剣だ。


 背中にあるでかい剣が、持ち主である姉ちゃんのやる気に呼応するかのように、禍々しい威圧感を放ちだしているんだ。

 この姉ちゃん本人も人間にしてはかなりの圧があるけど、背負ってる大剣はその桁が違う。

 ヤバいのは剣のほうか。


「どうしたんだい、黙っちゃって。……もしかして、こいつか? こいつにビビっちまったのか?」


 後ろに手を回し、剣を抜く。

 女性にしては体格がいいが、だとしても使いこなせるとは思えない、大きな剣。

 それをこの女は、苦労することなく楽に引き抜いた。


 ……剣のほうから抜けてくれたような、そんな感じの抜け方だった。やっぱ、まともな剣ではないみたいだな……。


「ビビるってのとはまた違うかな。その剣が厄介な気がするってだけさ。あんたなんかよりもずっとね」


「そうかよ、なら、私も危険だってことを徹底的に教えてやらないとなぁ。細かく刻んでやれば嫌でもわかるだろ」


「言うのは簡単だけどさ、そんなことできるかな、あんたに」


「すぐわかるさ」


 騎士アンジェリカが、肩慣らしのつもりか、大剣を二度ほど軽く振った。

 ぶおん、ぶおんと風を切る音。

 たったそれだけ。それだけの仕草で、こいつは自分がこの邪悪な剣を自在に扱えるのだと雄弁に語っていた。


 もう、言葉は不要だろう。

 やっちまえ。


 と、ついに始まろうかという、ギリギリの直前で、





 壁を突き破り、何かが来た。





「何事だ!」


 銀の全身鎧が吠える。

 もくもくと土煙や埃がまきあがってよくわからないが、シルエットから察するに、どうやら人型の何かがこの空間に乱入したようだ。

 いったい何者なのか。


 正体をソナーで探ろうとしたが……それよりも、煙や埃が晴れるほうが早かった。



「──よってたかってうちの新入りと遊んでいるところ悪いが、失礼するよ! 私も混ぜていただこうか!」



 堂々としたハスキーな声。

 その声にふさわしい凛々しい姿。


 天原さんだった。

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