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復活したら人食いチート怪物と化していた天外優人、その奇怪で危険で姦しい日常について  作者: まんぼうしおから
第四章・暗黒埋蔵金伝説

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17・ブルドーザー使いの狙い

 楽しい楽しいトレジャーハンティング──のはずが、あれよあれよという間に、身に覚えのない罪を背負わされそうになってるこの俺こと天外優人十六歳。

 予約していた品物を取りにウキウキ気分で電車乗ったら触ってもいないケツを触ったと女性にわめかれて大ピンチみたいな心情である。

 ただでさえ腐敗の呪いが蔓延してる場所でお宝を探してるってのに、移動要塞みたいなブルドーザーがきて、さらにエクソシストの殺害容疑までかけられそうになっているのだ。


 ……そんなことは、無いとは思うが……

 これでもし『十億ありませんでした』とかなったら……もう……ね。

 荒れちゃうね。泣きっ面に蜂だね。

 そしたら八つ当たりとテンパりの末に加狩や風船屋の頭にかじりついてしまうかもしれないな俺。





「──あの金髪兄さんと聖剣については、ひとまず忘れようぜ。どんだけ後悔したって、時ってやつは巻き戻らないんだからさぁ」


「お前に言われなくてもそれくらいわかる。でも、今後のことを思うと……気が滅入るのは止められない」


「……んな情けないことほざいてる場合じゃないぞ、天外ちゃん。さっさと十億見つけねーと。下であんなデカブツが暴れてんだ、いつ建物が傾くか、わかったものじゃないぜ……」


「ああ…………うん、そうだな。切り替えないとな。グジグジしてても好転しないか」


「ヒヒ、今はこっちに集中するのが吉さぁ。ひょっとしたら、バチカンもわかってくれるかもしれないんだしよ」


「そうだ、その通りだ。よし……!」


 カラ元気も元気のうち。

 もう俺がどうにかできる問題じゃないんだ。それはその通りなんだ。

 今やるべきことをやろう。



 療養所、その二階。

 詐欺組織の裏切り者が残した違法な大金を探すべく、俺たちは手分けして部屋という部屋を総当たりすることにした。


 あまり時間はない。


 早くせねば、加狩の言ったように、一階のクレイジードライバーがこの建物を倒壊させかねないのだ。

 そうなればクレイジードライバー本人も愛車もとい式神ごと生き埋めになるしかないのだが、それを本人はわかっているのだろうか。



「俺のほうはないぞ!」


「こっちもないぜ! 加狩の姉ちゃんはどうよ!」


「私も外れだ……チッ!」


 駆け足で二階を走り回る俺たち。


 下から響く駆動音は、いまだ止まらない。


 心なしか、音が俺のほうに近づいてる気もするが、ここは階段から離れている。あの式神ブルドーザーが仮に階段登って二階に来ようとしても、この部屋に直で来れるはずがない。

 気にしすぎだ。

 次の部屋に行こう。


「ここもなかったぞ。そっちは……」


 ベッドやタンカが乱雑に置かれ、あるいはひっくり返ってる広い部屋から飛び出る。

 廊下に出てすぐ、別の部屋の前にいた風船屋に聞こうとしたが……面白くなさそうな、微妙な表情を見てやめた。

 奥の部屋から加狩も出てくる。

 風船屋と同じような顔をしていた。


「あっちは?」


 加狩が出てきた部屋の、さらに奥を指差して、風船屋が言った。

 指の先には『男子トイレ』『女子トイレ』の表札があった。古い建物なのでバリアフリートイレはないらしい。


「見たっていーけどさぁ、可能性は低いぞ? あるとしたら……用具入れの小部屋くらいか」


「頼む。俺と風船屋はそこの部屋見てから三階に──」


 三階に向かうと、言おうとした──その時。



 俺がさっきまでいた部屋の窓が、外側から破壊された。



 部屋の中に散乱する、ガラスや窓枠、壁などの破片。

 それらを遠慮なくキャタピラで踏み潰し、ベッドや車椅子、タンカなどを悠々と押しのけるのは──見るからに堅牢そうな、あの式神ブルドーザーだった。

 ここに登る前に、かなりの数の蠅戦士を潰してきたのだろう。

 ボディはいたるところが青い体液まみれで、過激な環境保護団体にペンキぶっかけられた芸術品みたいになっている。何の意味あるのかねあの行為。


 窓があったほうの壁は発泡スチロールのごとく蹴散らされ、吹き抜けと化していた。


「嘘だろ、どうやって……!?」


「ああ、どうやったんだろうな。俺にもさっぱりわからん」


「あー、そろそろだと思ったが……鉢合わせしちまうとはなぁ。別んトコから登ってくりゃよかったのに、ここかよ……ツイてねーわ」


 俺も加狩も驚きを隠せないが、風船屋はそんな様子はまるでなく、困ったような顔で頭をかいている。


「説明お願いしていいか?」


「ンなへりくだらなくてもいーよ大将。難しい話でもねぇ。単にあのクソデカブルはどこでも走れるってことさ。壁でも天井でも水上でもよ。先に言っときゃよかったな」


「なるほど、厄介な能力だ。追いかけっこに向いてる」


 二階に飛び込んできたってことは、一階はあらかた綺麗にしたってことなんだろう。

 俺たちの相手をしたのはあの蠅どもの一部で、大半はこいつをブッ壊そうと躍起になったんじゃないのか? だとしたら無駄な努力だったな。



『…………あーあー、もしもし聞こえますかぁー?』



 ノイズ混じりの声が、自走する鉄塊から発せられた。

 どこかにスピーカーが付いてるんだろうが、見た感じではまるでわからない。それとも、式神だからスピーカーなんかなくても使い手の声を大きくできるのか。


 意外なことに、声のトーンは女性のものだった。

 それも若い。

 俺や加狩と同じか、ちょっと上くらいか。大人の女性の声ではなく、女子高生か女子大生といった感じだ。

 腹が出てヒゲもじゃの偏屈な中年男みたいなのが中の人なんだろうなーって勝手に思ってただけに、これは意表を突かれたぜ。


「聞こえてるっつーの」


『おや、その声は、我が組織の誇る始末屋にして問題児、風船屋ちゃんじゃあないですかぁ! こいつはびっくり!』


「白々しい奴だな、全くよぉ。はじめからわかってんだろうに」


『あらあら、そんなことでいちいち気を悪くしないで下さいよ、もぉ』


「……で、どうしたいんだ?」


『ん? どうしたいとは、どういう事ですかねぇ?』


「この件に一枚噛みたいのか、それとも嫌がらせに来たのかって、そう聞いてんのさ」


『それは、ぶっちゃけどっちでもないですねぇ。僕の目的は……そこの化け物くんなんですよぉ!』


え。


『うちの組織から離反した人達が、誰一人として倒せなかった、元人間の人外──僕的に興味アリアリなんですよねー』


 ブルドーザーが、ゾウがぐねりと巨体をよじるかのごとく、俺のほうに方向転換した。

 普通のブルドーザーでは到底不可能な動き方だ。式神だからこそのなめらかさなのか。


 前方左右にある、二対のライトが、獲物を見つけた肉食獣のように、きらりと光る。


 興味があるとは、まさか。


「……ヒヒ、だったらねぇ」


「居座るのは、野暮ってもんか」


 何故だろう。

 風船屋と加狩が、俺から距離を取ろうとしている。

 これはどうしたことなのか。


「なんのつもりかな」


「あいつはあんたをご指名だとよ、大将」


「……宝探しは、こっちでやっとくからさ」


「見捨てる気か。冷たいもんだな」


 やっぱ女運ないな。味方だと思ってたらこれだ。


「いや、むしろ足手まといになりそうだからよ」


「タイマンの邪魔をするのもな……」


「そうそう」


「ま、力比べに勤しんでくれ。健闘を祈るぜ」


 風船屋と加狩は、それぞれ、奥の部屋とトイレに消えていった。

 そして、二人の姿が消えたのを見計らったかのように、ブルドーザー型の式神が、やる気満々とでもいうようにマフラーから激しく黒煙を噴きだした。


『ではでは、やりましょうか! 期待してますんでぇ……最後まで諦めずに食い下がってくださいねぇ!』


 ノイズ混じりの愉快そうな声。

 ……こっちは、あれこれ悩んでるってのに……なんだその声は。舐めやがって。


「楽しむだけ楽しんだら、刀じゃなくてブレードのサビにでもするってか……くそったれ」


 いいさ、やってやるよ。ムシャクシャしてたんで丁度いい。

 何が食い下がってくださいねだ。どいつもこいつも俺を利用することばかり考えやがって。

 ボッコボコにしてやるぜ。このイラつきを全部ぶつけてやる。


『ゲーム……スタートォ!』


 勝負開始の号令。


 凶悪なエンジン音を鳴らし、ブルドーザー型式神──ノンストップが、俺へと急加速して突撃してきたのだった。

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