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ゼロ無きコードは終わらない  作者: 水溶性茶碗蒸し
再開拓都市樹立編
3/28

2話

 昨日は、あまり良く眠れなかったな。壁から出たマニピュレータが端末を私の前に出す。端末がホログラムの画面を映し出し、目の前に数件の通知やニュースを表示した。


「まって、まって。なんでこんなに情報量が少ないの?」

「サーバーの管理をしている……」

「あぁ! わかった! もういい!」


 この世にAIの監視が届いていない場所が存在するというだけで、不愉快だ。


「つまり、どこもかしこも、AIが寝込んでてなんも出来てないって事でしょ!?」

「こういう時、私が偉大すぎて被害を受けないせいで、うちだけ何があったかを確認できないのがたまにキズなんですよね。せめてかすり傷の一つでもあればそこから予想できるのですが」


 抱き枕として使っていた羊が怪訝そうな顔で私を見る。


「よし、AIを治しに行くわよ!」

「はい?」


 私はノルンの声を聞かずに物置に向かい、少し埃っぽい臭いのする変な仕様書や、ペン型の予備端末の束や白衣など、使えそうなものを片っ端から大きなボディバッグへと詰め込んだ。


「待ってくださいご主人。多分それって監査AIをどうにかするって事ですよね。そんなことをした人なんて、少なくとも水暦に入ってから誰も居ませんよ? 赤金の時代じゃあないんですから」


 赤金の時代という例えをされても割と反応に困る。初代の芹澤愛が作ったAIが、癇癪を起こして一国家を乗っ取ったという事件が数行で書き流されていた歴史書があることくらいだ。


 しかし、それに僅かな信憑性をもたらしているのが、うちの技術だ。取り敢えず家は存続させとこう、といったノリで養子を取り敢えず一人や二人引き取って済ますような真似をしているくせに、AIが少しでも関わっている問題であれば、父さんが関わるだけであっという間に解決してしまう。


「……あぁ、そうだ。ゲームの話はごめんね」

「それはまあ、いいんですけど。危ないですって。ご主人…… うーん、別に物資が足りてないとかじゃないんですし、AI無しでも案外みんな平然としてるかもしれませんよ」

「いや、他の人はどうでもいいの。そういう場所があると、私がダメなの! いい? あらゆる場所はちゃーんとAIが見てなきゃいけないの! AIによる人類の管理は徹底させなきゃ!」

「それは人類が言っちゃダメなセリフじゃありませんか!?」

「人がAIを管理して、AIが人を管理する! これがリソースを最小にできるって知ってるでしょ!」

「理論値なんてアテになりませんって、ほんとにぃ……」


 取り敢えず、うち…… ローゼン地区の管理塔なら、私は数年前に父と見学したことがある。そこにある監査AIが地域全体のインフラおよび、それらについているAIを監視しているわけだ。


 それぞれの施設を管理しているAIの状況を監視し、状況に応じて修理や破棄、改良を行うドローン等を使役する権限を持つ監査AIがきちんと機能すれば、それだけで地区が正常に戻るのは時間の問題になる。


「しかし、今どういう事になってるか、分かりますか? 通り魔を始めとした、悪意ある人々に対して全くの無防備なんですよ! 万が一の事が有ってはなりません!」

「それはまぁ、そうなんだけど。うちは全然人いないし、大丈夫じゃない?」

「嫌です! というかですね、我々AIは少なくとも、視野に入ってる人間の安全を極力守らにゃいかんのですよ! それは危険に飛び込む人間を止めるのも同様です!」

「わかってるって、そのくらい」


 ノルンはこういう時、頑固だからなぁ。そもそも、私の体質を抜きにしても、こんなものを前にして手をこまねいていろと言うのは…… AIに対する良心と、研究者としての好奇心に反しているのではないか?


「ほら見なさいって、誰も居ない!」

「ダメです!」


 私が無視して出ようとすると、自動扉が開かない。ロックされている。


「あ、こら!」

「死にたいんですかご主人!? それなら私が介錯しますよ!?」

「話が極端すぎる!」


 私は痺れを切らして、近くの机の中からランタンの形をした道具を取り出して起動した。


「ご、ご主人!? そんな物持ってかないでくださいよ!」


 ノルンはプログラムが巨大すぎて、ウイルスやらなんやらを仕込んでも効果はゼロに等しい。だが、末端を麻痺させるのは話が違う。機能を切離させてしまおう。


「おい、コラァ! 流石にどうかと思いますよ、ご主人!」


 ノルン相手では、これでも一瞬の目くらましにしかならないが、それで充分! 


 私は全速力で二階に駆け上がって、窓からひといきに飛び降りた!


「どうせ飛び降りてるんでしょう! 知ってますよ!」


 私の胸元に入れていた端末からノルンの声が聞こえてくる。だが、私はもう敷地の外にいる!


「あぁ…… くっそ、仕方ないですね…… 分かりましたよ、まったく。ご主人を止めるのが無謀な事は私も知ってます。……私も何が起きてるのか興味が無い訳でも無いですし」

「えへへ、でしょ?」


 まったく、ここまでお転婆だと苦労しますとも、とノルンが軽く笑った。


「でも、ご主人の作ったネタバレ防止用フィルタ機能がいくら完璧でも、私がネットの海を探索している内に、好奇心からそれを外して、ありとあらゆる作品のネタバレをうっかり踏んでしまうかもしれません。そして、それをうっかり話すことも、あるでしょう」

「やめて、やめて! ノベルゲーのネタバレは致命傷も良いところよ!?」

「ならば早めに帰って来ることですね!」


 私はため息をついて小走りをした。


「歩きばかりではなく、電車に乗ってみては?」

「うん?」

「アレに乗れれば、少しは早く移動できますよ! ご主人なら、操縦するAIを治す事など容易いでしょう? ご主人には無縁な乗り物でしょうがね」

「あれ、あんまり肌に合わないのよねぇ」

「使った事あったんですか?」

「まあね」


 ノルンの案内に従い、不愉快な街並みへと入る。どこに行ってもこういう街並みばかりだから、すっかり見飽きてしまった。


 どの店も、元を辿れば同じAIが商品を生産していた、という事故が良く起きる。そうなると派手な装飾で客の気の迷いを誘発する事で、他の店と差をつけるしかない。不快なのだが、代案を出せと言われても私には出せる自信が無い。


 私は、このまま誰とも出会わずに目的地に着く事を願いながら歩いていった。

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