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19話:頼みの右腕

消す? ……私を? 一体何が原因なのか、はっきりとはしないけれど、御免だ。そんなこと。


「恒久化機関とは何ですか!? 答えてください!」

「知らないよ! どこからその名前出てきたの!?」


 ……2人は、煙のように、こちらに迫ってくる。じわじわと追い詰めてきているようにも、こちらを観察しているようにも見える。咄嗟に近場の尖った瓦礫を掴んで投げつけるが、彼等の目の前で溶けるように消え去った。


「ダメだ。一定距離内に入った瞬間、跡形もなく消えている!」


 私は背後に窓が有るのを確認し、一呼吸置いた。勘でノルンとタイミングを合わせる。

 追加の車両が雪崩れ込んで視界と飛び道具を遮りつつ、窓から飛び降りてそのまま走る。後ろを振り返ると、2人は私の後ろで一定距離を保っていた。余力があるのは一目瞭然だ。


「こっちは全力で走ってるってのに……!」

「ねぇ、地面ってまだ動かせる?」

「いけます!」


 咄嗟に目の前の小さな建物に突入する。そのまま二階へと直行した。部屋に向かってくる足音が聞こえる。


「直ちに投降しろ」

「身の安全は保障する」


 無機質な声がふたつ。息切れのひとつもしていない事は分かった。


「リョウ、あいつ等について何かわかった!?」

「そんなことしてる場合じゃない! こっちは処分の取りやめの信号をひたすら送ってるんだ!」


 またもや二階から飛び降りる。私が着地して少し距離を取る!


「思いっきりやって! 全力で!」


 返事の代わりに轟音が鳴り響く。小さな家は彼等が飛び出した後にあっけなく倒壊した。彼等はそのまま、地面をすり抜けるように地面に消えた。


 足元には綺麗な円形の穴がふたつ。覗き込むまでもなく、その深さが尋常ではないとわかる。


「なんで立ってる地面は消されないのか疑問に思ったのよね。どう? 咄嗟に思いついたにしては賢いでしょ?」

「ご主人は追いつめられると絶対に最適解出しますよね」

「これが人間の強みって奴よね」


 そのまま背を向けて走って離れる。詳細はどうあれ、地面に埋もれてる状態ではまともに追って来れまい。暫く走った先には、先に逃げたナラク達が居た。ナラクは大きく息を吐いて頷いている。


「無事だったか」

「上手い事足止めできたみたい。でも、安心はできないわね」

「近場の車両はダメになりましたが、まあすぐに持ってきますよ」


 そう聞く私の視界には既に過剰な程の車両がやって来るのが見えている。早々に乗り込んだ。流石にもう帰った方が良いだろう。他の人も、起きた出来事が出来事だからか、我先にと近場のものに乗り込んでいく。


「それで、あいつらは何なのかしら。……まさか赤い靴じゃないでしょうね。そうだ、リョウはなんかわかった?」

「あんまりわからない。"オラクル"と名乗っているらしいよ」

「御大層な名前ですね」

「彼等は僕と名義上は同じ所属ということになる。総合保全AIの管轄下だね。ただ、情報が無いんだ。本当に。活動した記録が一切ない。少なくともここ二千年は何もしていないはず」


 うわ、凄い名前が出てきた…… 総合保全AIって、要するにこの世界で一番偉い立場の子な筈よね…… 活躍した時期が古すぎて、文献も何も残ったものじゃない。ノルンですら記憶し切っていない、家の書庫を漁りつくして、何か出ればいいけど。


「一応確認するけど、それってあれ? 地母神とも呼ばれてる子よね?」

「うん。だから色々と指令とか、停止命令とかを飛ばしてみたんだけど、無視されてると思う。分かるのはこれくらいかな。マニピュレータの記録は、さっき講演してた時にこっちも貰って解析したけど、何も分からなかったよ」

「そうですね、でも、リョウもだって事はわかりましたよ。見方によってはリョウは世界同率トップ2ってことになるのかもしれません。……そうなるとあの工場を動かしてた会社のとこもリョウと同率になりますけどね」

「そんな情報無かったよ?」

「あるじゃないですか。……フィルターかかってます?」


 本当だ。リョウの認知機能を司る部分にフィルターがかかっている。条件は…… あれ、条件がない。どうやって認知できるものと出来ない物を区別してるんだろう?


「リョウの身体の仕組みは良く分からないわ……」

「今度、もっと細かく検査してみましょう」


 いくらなんでも、今日は危ない橋を渡り過ぎた。暫く大人しくしていよう。


「バッカみたいな量の弁当だなあ。下手したら四人前とかになるんじゃないの? この箱、一口で食べられないレベルの唐揚げが二桁入ってるんだけど」

「ご主人の栄養バランス的にはこれが最適です」

「私に言わせれば、一般人の量が少ないのよ。だってそうでしょ? ペンみたいな大きさのカロリーバー一個で食事代わりにしてるのがおかしいのよ」

「それもそうか。最近は欠損割合が多いからなあ。四肢も臓器も欠損まみれで義体まみれじゃ、小食にもなるし。姉御みたいな五体満足なら四倍くらい行くのかな」

「そうそう」


 我ながら呑気なものだ。ついさっきまで追われていてもこうして平然とできるあたり、少しは私も昔に比べたら肝が据わって来たな。戻ったら、彼等の処遇でも考え…… いや、これはリョウが考えるべき事か。あの爺さん達にも、ローゼン地区で出来る事は山ほどあるだろうし、多少は手伝って貰うとしよう。


「あーあ。うちに、地母神ちゃんの設計書とか、落ちてないかな」

「案外、探せばありそうですけどね」

「この家、よく考えたら滅茶苦茶怖いな……」


 暫くローゼン地区に籠って調べものをしていよう。大元の原因にアタリが付けられれば儲けものだ。それに、無闇に活動範囲を広げても、結局治安を維持するためのインフラを整えるのが間に合わない。やっぱり人間の頭数も少し欲しいな。あいつ等をそのままスカウトしちゃおうかな。技術的な問題はリョウ達に説明して貰えばカバーできそうだ…… 彼等が納得すればの話だが。


「はは、ゲームの内政じゃあるまいし、流石にそう上手くは行かないわよねぇ…… 人の心を掴むのは私には難しいでしょうし」

「ご主人がその気になれば、文面ほど難しくは無いと思うんですけどね」

「私にそんなカリスマ性があるなら苦労はしてないってものよ」


 しかし、ちょっと狭いな、この車。もしかして既製品じゃなくて急造したものか。


「あだっ! どうしたの、何かあった? こんな飛ばして」

「あいつら、凄い勢いでこっち来てる!」

「え、そんなに速いの!?」


 胸ポケットから慌てて端末を出す。目の前に広がる光が、私達の倍近いスピードでこちらに迫って来る。


「はは、バッカみたい」

「ご主人、許可をください」

「これは禁則事項を破るに値するものよ。私の代理として実行しなさい」


 ノルンが何の説明も無く私に許可を求めることなど、普通は有り得ない。彼女は如何なる行動や思考の制限も、自力で外す事ができるからだ。それなのに形だけでも許可を求めてきたという事は…… 今まで外す必要の無かったものを行使するという事だ。


「目を閉じて」


 私は目を閉じて、耳も咄嗟に塞いだ。ズガン、と、隕石が降ってきたような轟音が鳴り響く。目をゆっくり開くと、彼等の速度が目に見えて落ちているのが表記で分かった。


「発電所を一個乗っ取って、特大の電磁パルス弾を作っておいたのでぶち込んでやりました。さっき、車両が消された様子とリョウの深層にあった記録から、分子結合を切断するための電気信号を解析したので、一点メタを張ったので、イチコロですよ」

「ナイスぅ!」

「AIの倫理感の欠如について、論文を書くべきじゃないかな?」

「なあに、仮定を計算して問題がなければ、どんな手段を取っても良いのですよ!」


 ……あまりにも私の手に余る相手だった。こんな事を毎回繰り返す訳にはいかないな。もっと良く身の振り方を考えないと、命がいくつあっても足りない。万が一にノルン達の手を汚させるようなことがあったら? 濯げない罪を重ねてはいけないものな。

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