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1話:AIの申し子

 昨日は、あまり良く眠れなかったな。壁から出たマニピュレータが端末を私の前に出す。端末がホログラムの画面を映し出し、目の前に数件の通知やニュースを表示した。


「まって、まって。なんでこんなに情報量が少ないの?」

「サーバーの管理をしている……」

「あぁ! わかった! もういい!」


 この世にAIの監視が届いていない場所が存在するというだけで、正直言って不愉快だ。


「つまり、どこもかしこも、AIが寝込んでてなんも出来てないって事でしょ!?」

「こういう時、私が偉大すぎて被害を受けないせいで、うちだけ何があったかを確認できないのがたまにキズなんですよね。せめてかすり傷の一つでも有ればそこから予想できるのですが」


 抱き枕として使っていた羊が怪訝そうな顔で私を見た。どうやらノルンは、私の様子がおかしいと感じているらしい。


「よし、AIを治しに行くわよ!」

「はい?」


 私は物置に向かい、少し埃っぽい臭いのする変な仕様書や、ペン型の予備端末の束など、使えそうなものを片っ端から大きなボディバッグへと詰め込んだ後に自室に戻り、置いておいた白衣を何枚か引っ張ってきて放り込んでからバッグを閉じた。


「待ってくださいご主人。多分それって監査AIをどうにかするって事ですよね。そんなことをした人なんて、少なくとも水暦に入ってから誰も居ませんよ? 赤金の時代じゃないですし」


 赤金の時代という例えをされても反応に困る。初代の芹澤愛が作ったAIが、癇癪を起こして一国家を乗っ取ったという事件が数行で適当に書き流される程度には滅茶苦茶な内容の歴史書が書斎の奥に転がっていた事くらいしか、記憶に残っている事は無い。


 しかし、それに僅かな信憑性をもたらしているのが、うちの技術だ。取り敢えず家は存続させとこう、といったノリで養子を取り敢えず一人や二人引き取って済ますような真似をしているくせに、AIが少しでも関わっている問題であれば、父さんが関わるだけで、規模がどんなに大きくてもあっという間に解決してしまう。私でも、監査AIの一つ治すくらいは造作もない。


「……あぁ、そうだ。ゲームの話はごめんね」

「それはまあ、いいんですけど。危ないですって。ご主人…… うーん、別に物資が足りてないとかじゃないんですし、AI無しでも案外みんな平然としてるかもしれませんよ」

「いや、他の人はどうでもいいの。そういう場所があると、私がダメなの! いい? あらゆる場所はちゃーんとAIが見てなきゃいけないの! AIによる人類の管理は徹底させなきゃ!」

「それは人類側が言っちゃダメなセリフじゃありませんか!?!?」


 取り敢えず、私が住んでいるローゼン地区の管理塔なら、私は数年前に父と見学したことがある。そこにある監査AIは地域全体のAIを監視しており、インフラ等を司っている。


 それぞれの施設を管理しているAIの状況を監視し、状況に応じて修理や破棄、改良を行うドローン等を使役する権限を持つ監査AIがきちんと機能すれば、それだけで地区が正常に戻るのは時間の問題になる。


「しかし、今どういう事になってるか、分かりますか? 通り魔を始めとした、悪意ある人々に対して全くの無防備なんですよ! 万が一の事が有ってはなりません!」

「それはまぁ、そうなんだけど。うちは全然人いないし、大丈夫じゃない?」

「嫌です! というかですね、我々AIは少なくとも、視野に入ってる人間の安全を極力守らにゃいかんのですよ! それは危険に飛び込む人間を止めるのも同様です!」

「わかってるって、そのくらい」


 ノルンはこういう時、頑固だからなぁ。そもそも、私の体質を抜きにしても、こんなものを前にして手をこまねいていろと言うのは…… AIに対する良心と、研究者としての好奇心に反しているのではないか?


「ほら見なさいって、うちの周り。相も変わらず誰も居ない!」

「ダメです!」


 私が無視して出ようとすると、自動扉が開かない。ロックされている。


「あ、こら!」

「死にたいんですかご主人!? それなら私が介錯しますよ!?」

「話が極端すぎる!」


 私は痺れを切らして、近くの机の中からランタンの形をした道具を取り出して起動した。


「ご、ご主人!? そんな物持ってかないでくださいよ!」


 これは私とノルンが悪ふざけで作った、もっとも危険な道具の一つだ。人の目には分からないレベルの模様を光と共に照射している。AIが視認した物を素早く認識し学習するのを利用し、この模様を学習したAIのプログラムを書き換えさせ強制的にスリープ状態に出来る。相手に書き換えさせる都合上、大半のセキュリティもこれ一つで止められてしまう。


「おい、コラァ! 流石にどうかと思いますよ、ご主人!」


 プログラムを超えたデータ生命とも言えるような、私でも訳の分からないところまで成長しているノルン相手ではこれでも一瞬の目くらましにしかならないが、仕方がない! 


 私は全速力で二階に駆け上がって、窓からひといきに飛び降りた!


「どうせ飛び降りてるんでしょう! 知ってますよ!」


 私の胸元に入れていた端末からノルンの声が聞こえてくる。だが、私はもう敷地の外にいる!


「あぁ…… くっそ、仕方ないですね…… 分かりましたよ、まったく。ご主人を止めるのが無謀な事は私も知ってます。……私も何が起きてるのか興味が無い訳でも無いですし」

「えへへ、でしょ?」


 まったく、ここまでお転婆だと苦労しますとも、とノルンが軽く笑った。


「でも、ご主人の作ったネタバレ防止用フィルタ機能がいくら完璧でも、私がネットの海を探索している内に、好奇心からそれを外して、外交員シリーズのネタバレをうっかり踏んでしまうかもしれません。そこは考慮してください。さもなくばそのネタバレをご主人にも受けて貰います」

「やめて、やめて! ノベルゲーのネタバレは致命傷も良いところよ!?」

「ならば早めに帰って来ることですね!」


 私はため息をついて小走りをした。この地区の管理塔へ行くには、どうするのが良いのだろう。ホバーカーなり何なり、自分の乗り物を持っていれば良いが、そんな物はうちにはない。月一で貰える給付金は殆ど趣味に費やしてしまう為だ。


「電車に乗ってみては?」

「でんしゃ?」

「そうそう。アレに乗れれば、少しは早く移動できますよ! ご主人なら、操縦するAIを治す事など容易いでしょう?」

「あれ、あんまり肌に合わないのよねぇ」


 ノルンの案内に従い、不愉快な街並みへと入る。世界のどこに行ってもこういう街並みがあるものだから、すっかり見飽きてしまった。どの店も、元を辿れば同じAIが商品を生産していたなんてことはよくあるため、派手な装飾で客の気の迷いを誘発する事で、他の店と差をつけるしかないだろう。不快なのだが、代案を出せと言われても私には出せる自信が無い。


 私は、このまま誰とも出会わずに目的地に着く事を願いながら、道の隅で縮こまって歩いていった。

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