知りたくなかった関係
「そういえば、結局シホさんの弟子になったんですね!」
といらないことを思い出したルシルと、数時間に及ぶケンカをして、昼になった。
まあ、ケンカと言ってもルシルの説教を聞き流す作業だが。
今更慌てて学校に向かったルシルだが、既に諦めきっているぼくに向かって……。
「今更学校に行きなさいとは言いませんが、せめてシホさんのことを学院長に報告にいってくださいね」
と言い残していった。
ぼくは知らなかったのだが、師匠を増やすことは膨大な手続きと手間がかかるらしい。
実際の関係はともかく、魔法社会的な手順としては一人につき、山のような書類と一月の時間がかかるのだと。
本当に社会というのは面倒だ。
だが、今までの二人は、理事長が力づくで一瞬のうちに成立させていたのだと。
圧倒的な力と、政府へのコネが秘訣なのだろう。
とにかく、今回も学院長になんとかしてもらうために報告に行けと言うことだ。
もう面倒にも程があるので、フルーツにおぶってもらうことにしたのだが、地面に足を擦るので首根っこをつかんで運んでもらうことにした。
適当に目をつぶっていると、ガラスが割れるようなパリーン、という音がしてとても驚いた。
外を歩いている途中から空を浮かんでいる気がしたのだが、どうやら学院長室前の廊下のガラスを蹴破ったらしい。
「ああ、ビックリした。どうしたの?」
「驚きましたか?」
「とても驚いたよ、お前はそんな奴だったっけ?」
主席くんとの戦いで暴力に目覚めたのだろうか?
「このほうがマスターの目が覚めると思いまして」
フルーツは悪気無くそう言った。
過激にも程がある、誰に似たのだろうか、おそらくはルシルだろうな。
「まあいいや」
どうでも。幸い誰にも気づかれていないので知らないふりをしよう。
ぼくは目の前の学院長室の扉を開けた。
☆
「あれ、来客中か?」
ノックもせずに入ったことに、ほんの一欠片の驚きすらない人物が二人いた。
一人は当然ながら学院長、もう一人は一見するとフルーツよりも年下に見える少年。
よく見ると、あのクイーンと同じような雰囲気を感じるので、おそらくは化け物だな。
「ほう、驚いた。君は名無しだね、初めて見たよ」
何を言っているんだろう。
「いや、ぼくは神崎無限だけど」
「ほう、そう名乗っているんだね」
なんだこいつは、ルシルと同じようにぶん殴られたいのか?
「へえ、その方が初めて見たなんて凄いじゃないか」
学院長が何かに驚いているのだが、一体どういうことだ?
「ああ、紹介が遅れたね。その方は神様だよ」
「成程、神様ねえ。よろしく」
初めて見た。
「クック。ああ、よろしくね。僕は名前の神様だよ、その通り名前はネームだ」
これまたストレートな名前だ。
「誤解しないでくれよ、僕の名前が先なんだ。ぼくを知った人間がネームという言葉を作ったんだ」
「どうでもいい」
そんなことに興味がない、神にも名前にも。
「胡散臭い男ですね、学院長にお似合いです」
またストレートな言葉をフルーツが発する。
人形だから仕方がないのか、それとも反抗期なのか。
「「それは光栄だね」」
二人が揃ってフルーツの言葉に答えた。
どうやら気が合うらしい。
「いやいや、神とお似合いなんて光栄だよ」
「神を何柱も殺してきた男には負けるよ」
なんか話を聞いていると、学院長のほうが神より上の存在に聞こえるので、嫌になる。
「あんたらなんてどうでもいい。それよりも学院長、また師匠が増えたのでよろしく」
「知ってるよ、親戚の子たちなんだよね。そのうち私の家族にもなるんだ、挨拶しようかなあ」
「勝手にすればいいさ。それと、ぼくはあの家に預けられただけで、戸籍とかはみんな本家の方に属しているって聞いたことがある。だから、親戚ではあっても家族じゃないよ」
「そっか、でも無限君はルーシー先生と家族になるんだ。もう少しだけ優しくしてあげてね」
ピクリ、とぼくの体が反応する。
「どういうこと?」
「あれ、知らなかった? ルーシー先生は私の子孫だよ。正確には私の兄のね。いくつ前かはちょっとわからないなあ。ルーシー先生に聞くといい」
「……じゃあルシルが、学院長の座を目指しているのは?」
「もちろん私の後を継ごうとしているのさ。偉大な先祖を持つと苦労するんだろうね」
自分で言うな。
つまり、この男は何歳だ?
……このことはきっちり忘れることにしよう。
「じゃあ、帰るよ」
「ちょっと待ちなよ」
直ぐにルシルの家に帰って、全てを忘れて寝たいのに、ネームに捕まった。
「君は自分の名前に、違和感がないかい?」
「はあ?」
「神埼無限、と言ったね。その名前がしっくりこないんじゃないか? まるで他人の名前、あるいはあだ名のような気持ちを感じないか?」
「別に」
思うところなどない、というか名前なんて自分からなくなっても困らない。
おい、とかおまえ、とか呼んだり呼ばれるだけで十分だ。
誰かが自分に話しかけていることさえ理解できるなら、それ以上の意味は求めない。
「ハハハ! どうやら、随分と面白い子のようだ」
「そうでしょう? 私の子だからね」
「まだなってない。それに義理だ」
こいつの実の子になるのは絶対に嫌だ、義理だから許せる。
いやまあ、それでも本当の両親よりはマシなのだろうが。




