闇に堕ちた男
あれからシホの奴に……。
「よし、久しぶりに家族がそろった記念だ。焼き肉行くぞ!」
と言われ、また近くの町に、強制的に連行された。
朝っぱらからそんなものを食べたくないと拒絶したのだが、話を聞く人間ではなく、キイチも乗り気なのが問題だった。
イギリスなのに、日本びいきな学院のすぐそばにあるせいか、日本的なものがたくさんあり、日本語で書かれた看板を使っている焼き肉屋に入った。
「よし、食え!」
馬鹿二人は、とても機嫌が良さそうで、ぼくに次々と料理を進めてくる。
一応、ぼくらはアメリカで育ったはずなのに、その血に従って日本的なものを好むのを止めてほしい。
だからと言って、ハンバーガーだステーキだと言われても困るのだが。
シホが殺気を放ってくるので、自棄になって料理を食べ終わると、迎えに来たフルーツに連れられてルシルの家に帰ったのだが。
「気持ち悪い」
その日は、一日寝込み、朝になったのだった。
☆
「そうですかあ、ふ~ん。へ~え」
朝っぱらから、大変鬱陶しい。
ようやく調子が回復し、昨日の話をせがまれたから話してやると、ルシルが本当に鬱陶しくなった。
「たのしそうですね~え、うらやましいですね~え」
なんか、恨みというか呪いというか。
そんなものを感じる気がする。
「わたしたちとは~、上品なレストランに一昨日初めて行ってくれただけなのに~。彼女たちとは~フレンドリーですねえ~」
「フルーツ」
「はい」
ゴンッ、といい音がした。
フルーツが、ルシルの頭に拳を落としたのであった。
「あ、あなたねえ! 私はマスターですよ!」
「元、です。でもそれを差し引いても鬱陶しいです。焼き肉ぐらい、マスターなら一緒に行ってくれると思いますよ?」
フルーツがぼくに視線を向ける。
「別にいいけど」
「本当ですかあ~、ムゲン君って上品っぽいじゃないですか? そういうの嫌いそうなイメージなんですけど?」
「別に、食べ物なんて大差ない」
まあ、血筋と実家は上品なんだろうが。
ぼくはどうでもいい。強いて言えば面倒なので簡単に済ませるのが好みだ。
「……そこまではっきり言われると、複雑なんですけど」
「面倒な女だなあ、不満があるなら出てけよ」
「ここは、私の家なんですけど!」
どうすればいいのか、ぼくが出ていくと言うと泣いて止めるくせに。
「もういいですよ、久しぶりの再会が出来て良かったですね。楽しめましたか?」
「別に」
「……、普通なら照れているとか、強がっているとか思うんですけど、この男は本気で言ってそうで恐ろしいんですよね。向こうはあんなに喜んでいたのに」
だって、本気だし。
「でも、まあ興味深い話は聞けたよ。行った価値はあった」
ぼくの楽しみは、また一つ増えたみたいだ。
「お、やっぱり久しぶりの家族との時間が楽しかったんですか?」
「そう思うのか?」
「……、あの、どんな話を聞けたんですか?」
からかうような口調だったくせに、もう諦めたかのようにルシルはぼくに質問をする。
「あの家の長男が闇に落ちたんだと」
「はあ! 闇ですか!? え、本気で言ってるんですか!?」
「嘘だと思っているのか?」
何を驚いているのだろう。
「いや、だって闇ですよ? ちゃんと意味をわかってます?」
「聞いたよ、少し」
言ってしまえば、魔法使いの犯罪者だ。
「認識が甘いです! 基本的に魔法社会は犯罪行為に甘いんです、それが闇に落ちた魔法使いだと認定されるには、数千~数万人は虐殺するような人間だと言うことですよ」
「ああ、シホが言うには太平洋にある隠された魔法使いの島国を沈めたらしい」
一応は某国に所属する国らしいが、日本の半分ほどの領土があり、数百万人が住んでいたと聞いた。
それが一人の生存者も残さずに、皆殺しにされたのだと。
「いやあ、面白い男だと思っていたけど、凄いことをやったんだなあ」
「あ、あの事件はその人がやったんですか」
「ああ、なんでもぼくを助けるためにやったとか。意味不明だよなあ」
別にぼくは困っていないし、事件が起きたのは今から四年前らしい。
つまり、ぼくが国外追放された事件とは、全くの無関係だ。
あの男とぼくは、十二歳離れていて六年前には家から独立していたから会ってなかった。
当時の印象としては、真っ当な長男という感じだったが、そんな大それたことをする男になっていたんだなあ。
「呪理のやつ、元気にやっているんだなあ」
「だから、なんでそんなに気楽なんですかあ! 身内に歴史的犯罪者がいるんですよう、もっと慌ててくださいよ!」
「そんなこと言われても」
魔法使いなんて存在を知った時点で、ぼくの常識は、また一段と崩壊したのだ。
もう驚くのも面倒になった。
どうやら悪いことをしたらしいが、一応は親戚なので死ぬことなく適当に生きていてくれればよし。
なんとなく、近いうちに会いそうな気もするし。いや、できれば会いたくないのだが。




