魔法使いの固定観念
あまりよくない予感を感じることで、少しだけ気持ちが盛り下がったが。
まあ、それはそれ。
いつか起こるであろう未来を変える気はないし、自分の命は自分で守らなければならない。
そう、結論として死んでしまうとしてもそれは自分で決めたことなのだから。
「マア、ソウイウコトダナ」
いつか来る未来が少しでも先になることを願って、ぼくはこのまま大空に飛び立って自由になることにした。
いやまあ、それとこれとは何の関係もないのだが何もかも放り出して、どこかに消え去ってもいいかなって気分なのだ。
「そうはいきませんよ」
このままこっそりと逃げようと企んでいると、突然首筋を掴まれてしまう。
この、無機質な声は……。
「ナゼ、ココニイル?」
「直ぐに帰ってくると言っていたのに、ちっとも帰ってこないからです。それに首輪も外しましたね?」
「アンナウットウシイモノ、ツケテイタクハナイ」
当たり前だと思うのだが、本物の動物だって首輪なんて嫌がるだろう。
「あれにはお兄ちゃんの居場所を私に知らせてくれる機能がついていたのですが、まあいいでしょう」
何がいいと言うのか。
「やはり、変化は難しいですね。これでどうですか?」
フルーツが、ぼくののどの辺りに触れる。
「どうとは?」
……成程、驚いたことにカラスの姿でありながら普通の声が出せるようになった。
それでも、元の声よりも大分高い声になってしまっているが。
「これで不自然さは消えましたね?」
「そうか?」
カラスが普通にしゃべるほうが不自然だと思うのだが。
「さあ、帰りますよ。マスターがいない人形にはなりたくありませんからね。逃亡は許しませんよ」
「マスターじゃないって言ってるだろうが」
こんな自己主張の激しい人形なんていらない。
「お姉ちゃんも怒っていましたよ」
「なんで?」
「おそらく、もう夜だからでしょうね」
まあ、とっくの昔に真っ暗だからな。鳥目なはずなのに問題はないようだが。
「それとも、フルーツと二人でどこかへ消えてしまいますか?」
それでもいいが、やっぱりこの人形はいらないな。
今回は大人しく、ルシルの家に戻ることにする。
「はあ、邪魔者が増えた……」
なんか、ルシルとフルーツは似ている気がする。
「そういえば、なんで僕の居場所がわかったんだ?」
首輪はちゃんと外しておいた。
ルシルですら、自分の魔法をぼくに付けておかなければ居場所を割り出せないのに。
「探索魔法を使いました」
「いや、だからさ……」
「わかっています。マスターは魔力反応を察知されないので居場所がわからない。そうですよね」
「ああ」
どうやら、わかっているらしい。
「魔法使いという存在はとにかく魔力を重視します。そして魔力イコール生命力なので、例え一般人だとしても微弱な魔力を持っていますし、一人一人にちゃんと特徴があるのでその考え方でも問題はないのです」
「ふむ」
「ですから、魔力が全く感知できないマスターは魔力が全てだと考える魔法使いの天敵です。探知に限らず多くの魔法が無意味になってしまうでしょう」
だから、それなら何故?
「確かにフルーツも魔法を使いますが、ホムンクルスなので価値観は違います。魔力などは一つの要素に過ぎません。ですから生命力を探知する魔法を使いました」
魔法使いは魔力を探知する魔法を使う。
だがフルーツは生命力を探知する魔法を使ったと言う。
「安心して下さい、魔法使いの凝り固まった思考では決してこの結論に辿り着くことはありません。そして常人どころか魔法使いすら遥かに超越するほどの生命力を持つマスターのことは、簡単に見つけることができました」
また一つ、悩みが増えた。
どうやらぼくには凄い生命力があるらしい。
☆
今日のぼくは、らしくもなくワクワクしている。
カラスとなって大空に飛び立つことを阻止された翌日。
朝から学院に登校すると、今日は丸一日をかけて一つの授業をすると聞かされた。
それは昨日と同じ訓練場で、クラス内バトルロイヤルをするらしいのだ。
この広い森を模した訓練場に適当に散らばり、出会ったら戦う。
それだけの単純なルールだが、なんとなく面白いものが見れそうだ。
ぼくも参加するが、残念ながら魔法を使えないので戦うのはフルーツに任せなければならないが。
それでも色々と楽しみだ。




