その道の歩きかた 4
ルシルがぼくに銃口を向けたとき、辺りを見渡す暗闇は消え去った。
周囲の光景が良く見えるようになって、その歪さに驚いてしまう。
「ここは、なんだ?」
さびれた街中というか、人が殺し合うためのフィールドというか。
誰もいない場所なのに、ドラム缶やら鉄のコンテナやらが散らばっていて。
身を隠せと言わんばかり、銃で撃ち合えと言わんばかりだった。
いつの間にかルシルの姿も消えていて、おそらくはどれかに隠れているのだ。
気配を察することは難しいので、ぼくもコンテナの一つに身を隠す。
とりあえず手に持っている銃の性能を確認するが、その種類も善し悪しも分からない。
トリガーを引いて弾が出ることを確認すると、使うのに問題がないことだけは分かった。
「なるほど。これがセカイの思惑か」
乗るべきかやめるべきか、頭が冷えてみると戦う意義もない。
とりあえずは声をかけてみるか。
ぼくは息を吸って大声を出してみる。
「争いは何も生まないぞ、話し合おうじゃないか!」
ルシルに向けて不戦の意志を示すと、どこかから銃の発射音が三発ほど続く。
どうやら怒っているらしい。
「いまさらなんですか、私は怒っているんですよ!!」
「……怒られる理由が分からない」
「はあ!?」
「ぼくは死にたくないんだよ、それのなにが悪い」
一緒に死んでやらないから、恨まれて殺される。
意味がわからないにもほどがある、どうしようもないじゃないか。
「死んだ死んだとうるさいけど、今のルシルは生きているじゃないか。それの何が悪いんだ?」
今が良ければそれでよし、どうしてそう思えないのか。
「そういうことじゃないでしょう。私が一緒に死んでほしいと言って、何も考えず嫌だという答える冷たさが気に入らないんです。……少しぐらい考えてくれてもいいじゃないですか」
「嫌に決まっているだろう」
思わず即答してしまった。
なんでそんな負け犬の泣き言に付き合わなければいけないのか。
「ぼくが死んだときだって、一緒に死んでほしいとは言わない。当たり前だろう、人間は一人で生きているんだから」
「そういう話ではないでしょう!!」
どんどんと発射音が近づいてくる。
会話が長いのが良くないのだろう、少しずつぼくの居場所を悟られている。
それはこちらも同じことだが、ぼくはまだ会話を止める気はない。
必然的に、ぼくの方が追い詰められていた。
「私の悩み、……泣き言を聞いて冷たく切り捨てるその態度が許せないんです。なにか、少しぐらい同情してくれてもいいのに!!」
「無理だって」
「どうして、もう長く一緒にいるじゃないですか。どれだけ冷たい人間でも情の一つは湧くでしょう?」
「ちっとも」
バンバン。危ない、本当に近くなってきた。
音を立てないように移動しよう、少しでもここから離れなくては。
「そういうところだって言っているでしょう!!」
ぼくが移動したことはまだ気づかれていないようで、少しずつルシルとの距離は離れていく。
それともう一つ、この銃の弾数は無限らしい。
本当にゲームのような扱いで、便利なことこの上ない。
「ずっと一緒に暮らして、ずっと一緒に旅をして。どうしてムゲンくんは優しくならないんですか!?」
「だって、赤の他人だし」
たとえ身内でも、大して変わらないか。よくわからない。
人は人で、ぼくはぼく。だからルシルの言葉は、いつだってよくわからない。
さっきからわめいている意味も分からない、ぼくが寝ている間に何があったというのか。
「そうだね、無限にわかるわけないさ」
……え?
これは、エキトの声か。
「はい。お兄ちゃんに人の言葉が通じるわけありませんから」
これは、フルーツの声。
「無限くんはそれでいいと思うけどね。それよりも、魔法を使わない銃撃戦なんて久しぶりだ。殺し合いにも華が必要だと思うよ」
そして、学院長か。
どんどんと参戦してくるな、これは想定してしかるべきだった。
この世界のことがよくわからず、どうしてルシルがいるのかもわからない。
何が起きるか分からないのなら、こいつらが現れるのは想定の範囲内だった。
ならば、最優先は。
「お前たちは、どっち側だ?」
大きい声を上げて、全員に語り掛ける。
居場所を知られるリスクをとってでも、これだけは聞かなければならない。
「オレは、敵になるよ。無限の敵になるのは初めてで、ドキドキしている」
一人。
「フルーツもです。いつだってお兄ちゃんの味方でしたから、この機会にボコボコにしたいと思います」
二人。
「私も無限くんの敵になるよ、そっちのほうが楽しそうだしね。今は少しだけ、ルーシー先生の味方をしたい気分なんだ」
全員が敵に回った。
面倒は増えたが、こっちのほうがやりやすい。
これがゲームだとしたら難易度は最大で、絶望的な状況とすら言える。
だからこそ楽しくて、全滅させる楽しみが出来た。
「いいだろう、後悔させてやる」
楽しいゲームの始まりだ。




