終わりは近く
あれから短くも長い時間がたった。
現実では一時間も経たず、ルシルの内面では何年も経った気分だろう。
散っていく神たちは数知れず、無限の魔力は思ったより勢力を減らさない。
今を維持することはもう無理で、最後の賭けに出るしかないのだ。
『一斉に攻撃させる、その穴を突き進め。届けば勝ち、届かねば負け』
「ええ、わかりました。必ず届かせて見せます」
神モドキの確認の言葉に、ルシルは最後の覚悟を決める。
必ず無限の元に辿り着いて見せる、どんな犠牲を払ってでも。
神モドキの合図によって、残った神たちはほんの少しだけ魔力を溜める。
そして、自らが消えるまで。全ての魔力を、振り絞るのだった。
『行け!!』
神たちの一斉攻撃は、無限の魔力に風穴を空ける。
ほんの一部分。ほんの一か所の風穴だが、その先には確かに不自然な黒い穴が。
ルシルの言っていた無限へ続く道だと、その場の全員が理解するのだった。
『われが先陣を切る。みな続け!!』
宙に響けと、黒犬が遠吠えを上げる。
そのまま巨体を壁にするように、誰よりも先に駆け抜けていった。
「行きます!」
それに負けぬとルシルが続く。
黒犬にはかなわぬとも、光に負けないほどの速さで宇宙を貫く。
「私も!!」
そして学院長だ。
神たちが開けた風穴を維持するように、穴を広げるように攻撃しながらルシルの次に。
『神たちよ、感謝する。あとは任せてもらおうか!!』
最後は神モドキだ。名残惜しそうに、残る神たちに視線をやって。
そのまま振り切るように、宙を駆けていく。
別れ気味に、神たちが微笑んだ気がしたのは。感情が生んだ、見間違いだろうか。
先頭を走る黒犬は感じている。
この道を走るだけで、魔力が吸われている気がすると。
周囲に満ちる無限の魔力が、触れてはいなくても魔力を持っていく。
全快に近かった魔力が、どんどんとその量を減らしていくのだ。
『それが、どうした!!』
その現実に、むしろスピードが上がっていく。
もうすぐだ、もうすぐ近くなのだ。
今度こそ友を救う。主の二の舞にはさせない。
これは決して口には出来ないけれど、神たちの行動には敬意を感じてしまった。
自らの命を顧みず、世界を救うために動いてた。
見下している人間に、神を滅ぼした世界そのもののために。死してなお、尽くすことを選んだのだ。
ならば負けてはいられない。いやしくも世界を守る守護者として。
友を救うことで、その証明としよう。
『ガアアアアアアア!!』
前を走る黒犬の姿を見て、ルシルは感嘆を隠せない。
魔力を全開にして走ることで、自分たちの分まで魔力を奪われているのだ。
文字通り壁になっている姿に、感謝が絶えることがない。
あの穴の先にも何が待っているのかわからないのだ。
自分が一番最後まで、魔力を温存しなければならないと。
ルシルは深く、心に誓うのだった。
「まいったね」
黒犬の姿に感心しながらも、学院長は自分の仕事を忘れてはいない。
両横にある無限の魔力が迫ってこないように、魔力を使って道を維持する。
それが自分の仕事だとわきまえていた。
二つに分かれた魔力は一つに戻ろうと、動いている。
莫大な魔力を使ってそれを邪魔するのが、とても辛いのだ。
だからと言ってルシルに任せるわけにはいかない。
美味しいところは譲ると決めているから。
だからと言って神モドキに任せるわけにはいかない。
どうしても、信用したくないからだ。
「……まったく」
この期に及んでも自分は変われない。
協力して、その誠意を見せられても。理事長は神を許せない。神モドキを認められない。
友を無くした時の気持ちを、忘れることが出来ない。
だからこそ、自分が戦うのだ。
『……』
最後尾を行く神モドキは、前を行く三人の気持ちを察していた。
三者三様な在り方に、人間の多様性を実感する。
その感情の複雑さに、その行動の素直さに。人としても神としても感嘆せずにはいられないのだ。
それでも限界は近く、そして目的も近い。
ギリギリ、といったところだ。成功するにも失敗するにも。
神モドキは魔力を温存している。その使い方は、多岐にわたる。
今でもずっと悩んでいた。最後には、この人間たちを裏切るべきなのか。
願わくば信じさせて欲しい、裏切りたいとは思っていないから。




