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俺達の戦争2

本作品は俺達の戦争2を書き出す前に書いていた下書きです。

物語とは全く関係ありません。

違うエンディングが待っています。

それでもよいという方は読んでいただけるとうれしいです。


『リアルウォー』それは、十数年前この国で他の国の代理戦争を一般人にさせていた。

プレイヤーと呼ばれた彼等は、家族や身近な人間を人質に取られ、人質を救うために彼等は陰で戦い、陰で死んでいった。

だが、その陰をおもてに出した高校生達がいた。彼等も仲間や身近な人間を殺されながらも、リアルウォーの公表と壊滅を成功させた。

それは、数十年前の出来事だった。多くの若者にとっては、それはただ教科書に載っているだけ、もしくは、関係の無い事だと思っていた。

けど・・・俺は、俺達は、そのリアルウォーに翻弄されていた。








何も遮蔽物の無い所を息を荒げ、後ろから弾が飛んでくる音を耳にしながら走っていた。

黄色がかった砂が宙を舞い、そんな中、粘土づくりの崩れた家を発見し、中に飛び込んだ。

「ハァ・・・ハァ・・・」

自分の吐息と砂が舞う風だけが、耳からは聞こえ、目をカバーするゴーグルからは向かいの建物の二階の窓に潜む敵の姿が映し出されていた。

「翔・・・聞こえるか?」

体内無線で仲間の翔に連絡を入れると、すぐに返事が返ってきた。

『あぁ・・今どこにる』

「狙撃手の真正面・・・ってとこかな」

『行けるか?』

「やるしかないだろ」

俺はマシンガンを崩れた建物から少しだし、敵の頭を狙い始めた。

向こうはまだ俺には気付いていないらしく、頭をきょろきょろとさせていた。

乱れていた息を整え、神経を集中させる。だが、耳から聞こえてくる吐息と風の音に混ざり、何かが動く音が聞こえた。

俺は後先考えずに、後ろを向き、物音の聞こえた方に向かって引き金を引いた。

粘土状の壁に無数の穴が開き、壁の向こう側からはドサリと何か大きなものが倒れる音が聞こえた。

銃を前に構え、恐る恐る壁の向こう側に回り込むと、血の池の中央で銃を持った男が一人倒れていた。

「ハァ・・ハァ・・クソッ・・」

額にかいた脂汗を拭おうとゴーグルを外し、袖で拭おうとした時、後ろで銃声が聞こえ、頭のすぐ横を銃弾が飛んで行った。

「クソがっ!」

閃光弾を放り投げ、俺は建物の中に逃げ込んだ。

耳からは閃光弾の後遺症で何も聞こえず、耳鳴りが鳴り響き、目からは閃光弾で目をやられ、抑えながら苦しむ敵の姿を捕える事が出来、俺は銃口を向け引き金を引いた。



「山城ー!しっかりしろよ!」

建物に立てこもる俺達の頭上では弾が飛び、俺の足元には左の肺を撃ち抜かれた仲間が体を痙攣させ、口から血を噴き出しながら倒れていた。

「矢吹っ、山城はもぅ無理だ!応戦してくれ!」

先ほど無線で連絡を取っていた翔は窓から体を半分出す状態で外にいる敵に向かって威嚇射撃をしていた。

「山城・・・すぐ戻ってくる。それまで堪えてろよ」

矢吹は横に置いていた銃を手に取ると翔の応援に行こうとするが、そんな矢吹の腕を山城が掴んで離さなかった。

「イヤだ・・・死にたくない・・・死にたくない」

「山城、大丈夫だ。すぐに浅野に助けを求めてやるから、そのためにも敵を倒してくる」

後ろでは翔の助けを求める声が聞こえ、死にそうな山城からは行かないでくれと懇願される。

だが、山城の声は次第に弱まり、震えていた体も動かなくなった。

矢吹は手に持っていた銃を構え、突入してこようとする敵の頭を狙い、引き金を引いた。

『試合終了、勝者チームFOOL(愚か者)』

この地域一帯に設置されたスピーカーからはアナウンスが流れ、矢吹はようやく銃を下ろし、翔の所へ向かった。

だが、そこにあったのは頭から血を流す翔の亡骸だった。









『我々同志は、現在もリアルウォーが行われている事を公表するまで戦い続ける』

矢吹は手首に付けられた探査機をいじりながら、テレビのチャンネルを回すが、ほとんどのチャンネルが今は同志一色だった。

最初の発端は、あるテレビ局に今時、ビデオテープが送られてきた事がそうだった。

黒光りするキャスターは「それではノーカットでどうぞ」とVTRの紹介をした。

壁に掛けられたテレビには、かなり荒い状態の映像が流され一人の男が現れた。

彼は同志と名乗り、現在、リアルウォーが行われていると宣言し、それを公表するよう要求し、政府はそれを否定した。

すると同志は、現在は使われていないが、この国の象徴的な物として保管されていた電波塔を破壊するとテロ予告をしてきた。

どうせ、悪戯だろうと思い込んでいた国民と遊び半分で中継していた数々のテレビ局の目の前で、電波塔が音を立てながら崩れた。

兄弟と二人暮らしをしていた矢吹は、その光景を見て驚き硬直していた。

「お兄ちゃん、灰が落ちてるよ」

「んあ?・・・おぅ、悪いな」

我に帰ると手に持っていたタバコの灰が居間のソファーに落ち、妹がそれを指摘していた。

妹のようがいた事に気付き急ぎ煙草の火を消し、換気のために窓を開けた事を覚えている。


だが、今はその永も病院でベットの上だ。猿みたいな顔をした総理大臣はリアルウォーの事をカメラの前で無いと断言していた。

「ふざけるなよ・・・・・無いんだったら、なんで山城と翔は死んだんだよ!」

誰もいない家でテレビに映る猿を貶していると、体内無線で浅野から連絡が入った。

『おぃおぃ、リアルウォーが行われてるって誰かが聞いてたらどうするつもりだよ~』

「黙ってろ、浅野!俺から永を奪っておきながらそんな事を言えた口かよ!」

『だから、俺たちじゃないってば~・・彼女は元々、病弱で昏睡状態になったのは俺達のせいじゃないし、自然の摂理だよ』

「くそ野郎が」

ガンズショップの店員に対し唾を吐き捨てるように言い放ち、テーブルの上に置かれた煙草を口に運び火を付けた。

『あっ、そうだ・・・チャンネルはそのままにしておきな。面白いものが見れるよ』

「あぁ?何の事だ」

同志について過去のVTRを流していた番組が急きょ生中継に切り替わり、総理大臣が記者の前に姿を現した。

総理は大量にフラッシュがたかれる中、集まった記者に対し挨拶云々を繰り返し本題を切りだした。

『同志に対抗すべく、総理大臣直属対テロ組織の特殊部隊を作る事にしました』

憲法9条を廃止した総理はそれだけでは飽き足らず、三権分立のバランスを崩壊させ、国民が気が付けば総理大臣に絶対的な権力を与えるような形を作り出していた。

『その状態になるまで放っておいたのは、あなた達、国民でしょ』

非難されようがなんだろうが、その一点張りで、生活環境に何の変化もない国民にとっては、特に関係もなく無関心であった。

だが、同志の登場によって国民は不安から、総理に絶対的権力を与えたのは正解だと思い込み始めていた。

『それでは、対テロ組織の総指揮官を紹介します』

総理の紹介で、ある人物がテレビに登場した。

「なっ・・・・あいつは・・」

テレビに登場したのは、妹の見舞いに病院へ行った時に一度だけすれ違った事のある男で、一時、時の人としてもてはやされた男だった。

『防衛軍から配属されました。井上康太です』









「それでは、失礼します」

記者からの質問を終え、控室へ戻ると総理がソファーに座っていた。

「御苦労さん。これからよろしく」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

総理は康太の肩を叩きながら控室から出て行き、総理が出て行った事を確認して片っ苦しいネクタイを乱暴に外した。

『リアルウォーは存在しません。存在してた場合、私が許しません』

記者からの質問に対し、そう答えてしまった康太は「言っちまった」とため息交じりに呟いていた。

「ふ~ん、何か記者会見でボロ出したのかな?」

そう言いながら控室に総理と入れ替わりに中村洋子が登場した。

「出たな、ゴシップ記者め」

「コラっ、幼馴染に対してなんてひどい事を」

頬を膨らます洋子に康太は、ヤレヤレと肩を竦ませる。

「お前な・・・お互い30過ぎてんだぞ。幼馴染は無いだろ。それとオバサンが頬を膨らますな」

「うるさいな、いいの!まだ仕事に集中したいの!」

「あぁ~やだね。これだから独身女は」

「そっちこそ、今時、政略結婚とか流行らないから!」

「なっ・・・お前な!」

「まぁ実際~、その若さで総理直属の軍隊の長官だしね~」

「あぁあ!まったく!お前は五十嵐一筋だもんな!あいつのどこが良かったのか、俺にはさっぱりわからん!」

「なっ・・・五十嵐君は関係ないでしょが!」

「顔は悪くないんだからよ、いい加減、五十嵐の事は忘れて、新しい彼氏でも作れ!・・・まぁ性格に問題があるかもしれないけどな」

「はぁ~?少なくとも、あんたの腹黒さよりはマシです~」



「あの~長官・・・そろそろ、よろしいでしょうか?」

控室の外にまで聞こえる二人の言い争いに入ってきたのは康太の部下で長谷川と言う男だった。

「おぉ、悪い。なんだ」

「いえ、そろそろ準備の方をしなければ・・・」

「わかった。すぐに行く」

「では、失礼します」

長谷川は一礼すると控室から姿を消した。

「・・・ねぇ康太」

「なんだ?」

「いい加減、教えて・・・同志の首謀者、わかってるんでしょ」

洋子の真剣な表情に、思わず康太は顔をしかめた。

「駄目だ。・・・記事にされたら困る」

「記事にしない。・・・私だって薄々気づいてんのよ」

「今のお前は、どれだ?・・・幼馴染としてか?それとも政治部の記者としてか?」

「・・・一人の女として」

「・・・・なら言おう。同志の首謀者だと思われる人物は岸部悟の息子、岸部港。俺達の前では五十嵐と名乗っていた人物だ」

「本当に・・五十嵐君なの?」

「あぁ、映像を解析しても合成されているとも思えないし、まず間違いはないだろう」

「そんな・・・でも、五十嵐君は」

「そうだ。あいつは死んだはずだ・・・だが、俺とお前、二人揃ってあの映像を見て五十嵐を見間違えると思うか?」

「・・・百歩譲って、五十嵐君だとして・・・康太はどうする気なの・・」

「捕える。・・抵抗するなら撃つ」

「そんな・・・」

「お前はどうなんだ・・・あいつに・・五十嵐に母親が殺されたのかもしれないんだぞ」

「それは・・・」

電波塔が破壊され、再び同志の恐怖が国民に注がれる中、第二首都として栄えていた仙台で駅が爆破され、実家に帰ると書置きを残し、爆破された仙台駅で仙田の母親の遺留品らしきものが発見されていた。

だが、同志からの犯行声明は出される事はなかった。

「まだ五十嵐君がやったって決まった訳じゃない・・・同志は頭を持たない組織なんでしょ?」

「確かに、前回はそうだった。・・・だが、今回もそうだとは限らない」

「・・・・・・」

反論の出来ない洋子はただ黙りこみ、康太はそんな洋子を励ますように肩を叩きながら部屋を後にした。











「井上康太ぁぁぁ!」

『リアルウォーは存在しません』記者会見でそう言った康太に矢吹は怒り、懐に入れてあった銃と自分の部屋に隠してあったマシンガンを乱暴に取ると、家から飛び出した。

怒りに満ちた矢吹は家から飛び出すと、それを待っていたかのように、一台のワゴン車が矢吹の前に急停車した。

突然の出来事で反応の遅れた矢吹をワゴン車から飛び出した黒い目だし帽をかぶった人達が、矢吹の頭に黒い布をかぶせ、車に押し込んだ。

車は急発進し、訳もわからず暴れる矢吹に薬品を嗅がせ、矢吹は意識を失った。












紺色のスーツに身を包んだ康太は、部下の長谷川に無理を言って時間を作らせ、ある病院の一室にいた。

その病室では、口にマスクをつけられ心音を測る機械がリズムを刻み、ベットの上で横になる人物がいた。

「よぉ、元気にしてたか?勉」

横になったまま動かない人物を勉と呼び、康太は話を続けた。

「俺達の戦いが終わって、普通にサラリーマンやって、普通に暮らそうとか思ってたのにさ・・・フッ、まだ俺の戦いは終わってないみたいだ・・・・しかも、相手誰だがわかるか?もしかしたら五十嵐かもしれないんだよ。冗談だと思うだろ?」

無理して笑いながら康太は何も話さない勉に「何か喋れよ」と呟いてみるが、勉は一向に反応を示さなかった。

「・・・・まぁ、いい。今日は俺の給料持って来ただけだからさ・・・しばらく会えないかもしれないけど、必ず戻ってくるよ」

康太は、分厚い茶封筒を勉の枕元に置き、病室から去ろうとするが、その前に扉が開き年の離れた勉の弟と鉢合わせした。

「よぉ、元気にしてたか?公也きみや

「・・・・この部屋に何の用ですか」

公也は、勉の枕元にある茶封筒に気付き、康太を押し退けて茶封筒を掴むと康太に押し返した。

「何度、言ったらわかるんだ。こんな金、必要無い!」

「悪いな、公也。それは無理だ・・・勉との約束だからな」

「一体、何年前の約束だと思ってる!・・・俺ももう社会人だ。兄貴の治療費ぐらい稼げる!」

「使い道が無いんだよ。持っててくれ」

「冗談じゃない!こんな薄汚い金、どぶに捨てた方がマシだ」

「なら、そうしろ。それでいい」

康太は病室から去り始め、そんな康太に公也は声を荒げた。

「兄貴はな!いつも食卓であんたの話をしてた!あいつがどうだの、あいつの様子がおかしいだの!・・・だけど、あんたは一体何だ!金だけ置いていきやがって!兄貴がこんなんになったのも全部、あんたのせいだ!俺は絶対に許さねぇ!」



「相変わらず、酷い嫌われようだな。康太」

松葉づえをつきながら、やってきた人物を康太は「親父」と呼んだ。

「病院の理事長が、病院の中、うろついてんじゃねぇよ」

「俺の生き方をとやかく言われるつもりはない。たしかに、もぅ隠居の身だけどな、暇なんだよ」

「あぁ、そうかい・・悪いな、勝手にヘリポート使わせてもらって」

「いいさ。今や時の人となったお前が堂々とこの病院に入る事は、出来ないだろうからな」

「・・・しばらく、会えないかもしれない。勉の事、頼むぞ」

「そうか・・・行くのか」

「あぁ、西日本に行ってくる・・・多分、あいつはあそこにいる」

「死ぬなよ」

親父の言葉に「五十嵐と俺、どっちに言ってるんだ?」と笑いながら聞いた。

「俺の息子・・・・と言いたいが、正直、どっちもだ」

肩を竦ませながら答える親父に「クソ親父」と言いながら、康太は親父から離れて行った。












「一体、ここはどこだ?・・・・・俺をどうするつもりだ!」

薄暗い部屋の中央で椅子に座らされた矢吹は、拘束もされていないが周りに銃を持った人達に声を荒げるが、彼等は全く反応を示さなかった。

「だぁぁっ!クソ野郎共が!・・・・こんな所で何時間も居坐らせやがって!訳わかんねぇよ!俺は井上康太を殺しに行くんだ!邪魔すんじゃねぇよ」

「なら、俺達の利害は一致する」

そう言いながら部屋に入ってきた人物に矢吹は目を疑った。

「お前は・・・」

やってきた長身の人物は、同時の首謀者と名乗り、電波塔を破壊した男だった。

「すまない。・・・・こんな形で救出するつもりじゃなかったが、これしか方法がなかった。もっと早く、お前達を救いたかった」

「・・・・・五十嵐」

紹介者である浅野が、同志の首謀者が五十嵐で間違いないと言っていたが、本人を目の前にするまでそれが信じられなかった。

「なんだ・・・俺の事を知っているのか」

「馬鹿な・・・・お前は死んだはずだ」

「フッ・・・死ねたら良かったのにな」

この国を震撼させた出来事は何度もスペシャル番組などでドラマ化され、その中でも際立って目立つ存在が井上康太と五十嵐だった。

五十嵐の父、岸部悟と井上康太の父は、大御所俳優が演じ、井上や五十嵐は波に乗る俳優が花を飾ってた。

敵の組織から逃れるため、五十嵐は仲間を救うため敵を巻き込み自爆。『チーム1』で現在生き残っているのは井上と勉。

そんな勉もまだ意識が戻っていないと言われている。

「ドラマと現実は違う。・・・そう言う物だ。それに俺はドラマの奴ほど、イケメンじゃないしな」

「で?・・・そんなお前が俺に何の用だ」

「利害が一致すると言ったはずだ。俺達はこの国を一度は救ったつもりでいた。だが、救っただけじゃ駄目だと言う事がわかった。だから全てゼロにする」

「・・・マジで言ってんのか?」

「そうだ。そのために必要なら・・・俺は康太を殺す。どうだ?利害が一致するだろ」

五十嵐の言葉に体全体に鳥肌が立つのを感じた。

「・・・・いいねぇ、それ」

矢吹の答えを聞いた後に、五十嵐は「自分の腕を見てみろ」と指示した。

自分の腕を見てみるとそこには、ある筈の座標特定機が手首についていなかった。

「お前はもぅ、自由の身だ。それでも俺達についてくるか?」

「くどいぜ。・・・付いて来るなって言っても付いて行くからな」

「そうか・・・」


五十嵐は、矢吹の答えを聞くと部屋の周りに立つ人達の方を向いた。

「諸君!新たな仲間に祝杯を!・・・我等同志は何ぞ!」

「「我等同士は、この国を討ち滅ぼさんとする者也」」

「我等同士の手には、持つ物は何ぞ!」

「「我等同士の手には、この国を滅ぼす武器也!」」

「我等同士の腰に差す物は何ぞ!」

「「我等同士の腰に差す物はこの国の首を取るための武器也!」」

「ならば問おう!我等の志は一体何ぞや!」

「「例え、一人になろうと敵の喉元に喰らい付く心也!」」

「総員、武器を持ち撃鉄を起こせ!」

「「戦争じゃぁぁ!」」

「なまら楽しむべや!」

「「ヨッシャァァァァァ!」」

五十嵐の言葉に全員が雄たけびを上げ、空砲が部屋中に響き渡った。



「ハハッ・・・スゲーや」

雄たけびが響き渡るこの部屋で一人だけ椅子に座り傍観者を気取る矢吹に、五十嵐が近づいてきた。

「さっそくなんだが、やって欲しい事があるんだがいいか?」

「んあ?・・・新入りの俺が出来る事なんかあるのか?」

「新入りだからこそ出来る事もある」

そういうと五十嵐は「ここでは少しな」と顔をしかめ、雄たけびを上げる部屋から矢吹を連れだした。














「・・・かん・・ょうかん・・・・長官!井上長官」

腕を組み目を閉じている間にどうやら眠りについていたようだ。

ヘリの窓から外を見渡せば、辺り一面に黄色い砂漠が広がっていた。

「・・・まさか、ここに戻ってくるとは・・・思いもしなかった」

康太は、このヘリの下で行われた惨劇を思い出し、横に座る長谷川も康太の言葉にうなずいていた。

「あそこで俺の親父が戦っていたなんて、正直、信じられません」

「長谷川の親父さんが?初耳だ」

「え?・・えぇ、家庭崩壊にまで追い込んだ駄目親父で、なんだか、口に出したくなかったんですよ。・・・でも、俺達のために戦っていたと思うと・・ちょっと」

申し訳なさそうに口籠る長谷川に、井上は砂漠の戦場で知り合ったハセさんを思い出し、どことなく面影があるように感じた。

「・・ハセさんの息子と一緒に戦う事になるとはな・・・」

「えっ?なんですって?」

「いや、なんでもない」

そうしているうちに、ヘリは砂漠のヘリポートに着陸し、康太と長谷川は砂漠の上に降り立った。

目の前には簡易型のテントがいくつも張られ、作業をする兵士たちの姿があった。

ヘリから降りた井上に数人の兵士が出迎え、そのうちの一人が片手を上げながら康太に近づいてきた。

「よぉ!まさか、お前とまた戦う事になるとは、思いもしなかったぞ」

「お久しぶりです。てっきり捕えられて、殺されてるかと思いましたよ」

「あぁ、お前達が活躍してくれたお陰で、銃殺される寸前、助かったんだよ」

「今までどこに・・・」

「銃殺は免れたものの、政府は瑕疵を認めようとしなかった点があってな、捕えられた俺達は傭兵部隊として戦場に送られてたんだ。・・・お陰で何人か仲間を失った」

暗い話題になり、表情を曇らせる康太に気付き「自己紹介が遅れた」と言い、一歩下がってから敬礼し、口を開いた。

「現場指揮をとらせていただきます。指揮監督の島大助です。階級は・・」

島は自分と横に立つ他の指揮監督も康太に紹介し「全員、元プレイヤーだ」と付けくわえた。

「だから、お前達は俺等にとって救世主だ。お前の命令なら、炎の雨が降ろうがそこに行ってやるぜ」

「心強いお言葉をどうも」

島さんと砂漠での戦いに付いて語り合っていると知らない間に全部隊のメンバーが康太の周りに整列していた。

全員が揃った事を確認すると康太はマイクの置かれた場所に立った。

「さて・・・喝の入るような演説なんて柄じゃないんだが、とりあえず言っておきたい事だけ伝えておく。ここにいるのは、元プレイヤーやそうじゃない人もいるだろ。同志の惨劇を体験した人間。惨劇を知らない年代の奴等もいるだろう。

・・・だが、ここにいる全員が、またあの惨劇を繰り返してはならないと意気込んでいる奴だと俺は思っている。そして、あの惨劇を繰り返そうとする奴等がいる!それを阻止するために俺達は集められた!

俺はこんな安全地帯でお前等に指揮して、無駄死にさせるつもりも、政府の信頼を保つためのお飾り指揮官になるつもりはない。お前達と共に現場に出て、共に闘おう!だから無駄に命を落とそうとするな!そんな命知らずは、俺だけで十分だ。

こんな戦いをさっさと終わらせて、みんなでいい酒を飲もう。そん時は俺が奢ってやる!・・・以上だ」

康太は全体を見渡し、敬礼すると全隊員がそれに応えた。

「あぁ、一つ言い忘れた。報告や上司にすれ違う時に無駄に敬礼とかするなよ。時間の無駄だ」

壇上から康太が降りると隊員達は速やかに持ち場に戻っていった。



「現在、無人探査機を全部出して、奴等のアジトを捜索中だ。おそらく、それほど時間もかからないだろう。それと」

テントの中で、康太に状況報告をする島が数枚の衛星写真を机の上に並べた。

「この数日間、防衛軍の衛星写真で撮られた西日本の現状だ。全体的に言えば、ほど砂漠平野だが、所々風化した街が並んでいる。戦闘の際は、おそらく街一つが戦場になるだろう。それと、海外から多数の船が西日本に入り込んでいる」

「同志に雇われた傭兵と言った所か・・・」

「あぁ・・・俺達が他の国のために戦っていたように、今度は他の国の奴等が俺達の戦いに参加してるって訳だ」

「皮肉な話だ・・・」

「そうでもないさ、頭を潰せば残りは雇われ兵って事だ」

「奴等に頭があればいいけどな・・・」

顔をしかめる康太に、島は再び一枚の写真を出した。

そこには、人ごみに紛れサングラスをかけた男が写っていた。

「電波塔破壊後、野次馬の中に紛れていた男だ。・・・なぁ、ハッキリさせておこう。お前はこいつを撃てるのか?」

サングラス越しでもわかる。周りの人より頭が飛び出し、写真からも伝わってくる威圧感。間違いなく、五十嵐だった。

「・・・・撃てるさ。それが俺の役目だ」



会議終了後、代表格の人間が、ぞろぞろとテントから立ち去る中、康太は島を呼び止めた。

「島さん」

「なんだ?」

「俺の会見、見てましたか?」

「あ?あぁ、そりゃ国民の三人に一人が見ていた会見だ。見逃す訳ないだろ」

『リアルウォーは存在しません』康太の会見をマネして見せ、冗談交じりに笑って見せる島。

「ここだけの話。俺は・・・リアルウォーが存在してたと思います」

笑って見せていた島の顔から笑みが消えた。

「もしかしたら、今も続いてるかもしれない」

「・・・・冗談だろ?」

「奴等・・・同志は、被害者である事をいつも訴えていた。それだけは、今も昔も変わらない。そして、同志たちはどうやって集まった?どうして破壊工作を行えるくらい数が整っている?同志になろうなんて考える奴がどうして存在する・・・それだけでも充分だろ」

「確かにな・・・」

「おそらく、手引きしてる奴がいる。・・・・むこうの首謀者は五十嵐、そして、それに対する奴が俺だ。出来すぎたシナリオじゃないか」

「つまり、お前の考えは、そんなシナリオを書ける程の権力者がいるって事か?」

「・・・だから、正直、堂々とこんな話出来ないよな~」

「出来ないも何もしてるじゃねぇかよ・・・俺まで巻き込みやがって」

「俺のために命を投げ出してくれるんだろ?」

そう言って笑って見せる康太。そして、そんな約束するんじゃなかったと島はため息を漏らした。

「長谷川・・・今の会話。絶対に誰かに洩らしたりするなよ」

「洩らしたら、俺だって危ないじゃないですか・・・」

康太の横に立っていた長谷川も、側近になるんじゃなかったと激しく後悔していた。











砂漠の荒野を人を載せた数台のトラックが、道なき道を走り荷台に乗る兵士たちは、自分の持つ装備の最終確認をする者、何かに生き残れるように願う者が入り混じっていた。

だが、数名は今、自分の隣、もしくは向かいに座る人物に目を疑い、首をかしげていた。

凸凹道に揺れる荷台の中に康太の姿があったのだ。

「なぁ井上・・・お前、マジで来るのか?」

向かいに座っていた島が、本当にトラックに乗ってきた康太に対し、話しかけた。

「マジも何も、今か引き返し貰うのは悪いからな。それに、総合指揮なんて俺には無理だ」

「お互い歳なんだからよ・・・俺に至っちゃ隠居しても問題無いくらいだし、お前は現場を引いてもいいくらだ」

「ハハッ・・・確かに」

「現場指揮は俺がやるって言うのによ・・・」

「期待してますよ。俺が分隊の指揮をとります」

「お前の無茶を尻拭いするのが俺って事か・・・昔と変わらないな」

島はそう言うと、無線を取り全隊員に繋げた。

「今回の任務は言うまでもない、敵拠点の制圧及び、掃討作戦だ。敵の潜む集落に侵攻、両翼に展開し、敵を一掃する。ゲリラ戦になる可能性もある。白兵戦にも対応できるようんしておけ」

円形にかたどられた集落の周りには土嚢が積まれ、建物からの射撃にも何とか耐えられるように設置されている。

中に侵入しだい、敵勢力の無力化などの事細かな作戦について最終確認がされた後、島は「隣に座る奴を見ろ」と無線で伝えた。

『この任務が終わった時、もしかしたら隣の奴は帰る時に姿が無いかもしれない。俺の使命は、その被害を最小限に食い止める事だ。戦場に入れば隙を見せた奴がいの一番に弾丸を浴びる事になる。そんな事にしないためにも、全員の力が必要だ。俺に命を預けてくれ、俺は全力でお前達の命を守ろう。

・・・いいか?俺達でこの戦いを終わらせるんだ!こんな戦い、次の世代に継がせようなんてするな!俺達の代で終結させるんだ!』

島の演説が終わりに差し掛かった時、集落からの攻撃が行われ始めた。

赤い光がトラックに向け放たれ、その光がトラックの傍を通過すると空気を切り裂くような音が彼等の耳に届き、彼らは思わず頭をかがめた。

次々と放たれる弾丸は、トラックの傍に着弾に、砂が何度も飛び跳ねた。

「煙幕弾を張れ!」

島の指示に、トラックからは己の行く先に向けて何発もの煙幕弾が放たれ、周囲は一気に煙で充満し、トラックはその煙幕の中に突っ込んで行った。

『いいか!トラックが止まり次第、トラックを放棄、全員トラックから降り、近場にある遮蔽物に逃げ込め!・・・武運を祈る!』

井上と島の乗るトラックの横で、どうやらトラックの一台が被弾し爆発したらしく、煙の中で炎上するトラックが一瞬見え、衝撃波がトラックを横に揺らした。

「これ以上近づくのは危険だ!全員トラックから降りろ!」

康太の指示に隊員達は、スピードを緩めるトラックから次々と飛び降りた。

全員が飛び降りたのを確認し、康太と島もトラックから飛び降りた。

走るトラックからとい降りた康太は、砂に足を取られ何度も転がり、上も下もわからない状況の中、ようやく止まった。

よたよたと走るトラックは、どうやら運転手がいなくなったからか、もしくは運転手が死んだかわからないが、まっすぐ走る事もなくその場に横転した。

未だに煙幕が張られている所にいる康太達の頭上を弾丸が音を立てて通り過ぎて行く。

「頭を低く!匍匐ほふく状態で右前方に見える遮蔽物に進め!」

康太は、近くにうっすらと見える土嚢を確認し後ろにいる隊員達に伝えた。

銃を持った状態で砂の上を這い、弾丸が上を通るたびに頭を屈めながら、康太や隊員達は土嚢と砂の下に開いた道に飛び込んだ。

ようやく弾丸をしのげる場所に到達し、一息つく康太。

「まるでノルマンディだ・・・」

「まぁ実際に体験した事が無いから、わからないけど・・・トーチカが無い分マシだろうよ」

康太の横に着いた兵士が今の現状を第二次大戦で行われた戦いに言い表すが康太はそれを否定した。

「井上!俺達が先行する!お前達は目の前にある建物に制圧射撃をしてくれ!」

遠くの穴場に潜む島が康太に言い、康太は「了解」と答えた。

康太が土嚢から頭を出し、銃を建物に向け引き金を引くのを合図に康太の周りにいた隊員達も続いて銃を構えた。

土で出来た建物には、銃弾の跡と土煙が充満し始めた。

「行くぞ!俺に続け」

島の言葉を合図に隊員達は、土嚢から飛び出し次の穴場まで走った。

砂の地面には多量の弾が着弾し、砂が飛び跳ねる。

隊員達は、なるべく同じ方向には進まないようにジグザグに走り、土嚢や穴場へと飛び込んだ。

飛び込むと同時に、中に敵がいないかクリアリングを行い、島は木の板を挟んで聞き覚えのない言葉を耳にし、壁に向かって銃弾を撃ち込んだ。

壁の向こうからは、人の悲鳴が上がり、壁を蹴り破り後に続いた隊員達が下に倒れる敵に止めを刺した。

「くそっ・・・やはり、傭兵か・・・」

島達が攻め込んだ場所は、どうやら第一線の作戦本部だったらしく、かなり開けた場所だった。

隊員達は、他に敵がいないか辺りをクリアリングし「クリア」という言葉を何度か耳にした。

「よし、一つ目の作戦室制圧完了。向こうで制圧射撃をしてくれた戦場の神様をこっちに引き入れるぞ!・・・・ここに特殊部隊班はいるか」

島の問いかけに、隊員達の中から三人が「ここに!」と手を上げ、島に近づいた。

「いいか、俺達がここから建物の高台に向けて威嚇射撃を行う。その間に建物内に侵入、奴等を無力化しろ。銃はなるべく使うな、ナイフで対処しろ」

「了解」

三人は島にそう言うと、その場から立ち去った。

「井上、俺達が威嚇射撃を行う。その隙にこっちまで走れ!」

『わかった。・・・総員、俺に続け!』

島達の威嚇射撃を合図に、特殊部隊と康太達が動き出した。



康太が島と合流し、特殊部隊が目の前にそびえ立つ建物にいた敵を無力化してからしばらく経つと戦況が段々とわかり始めた。

全部隊が、ほぼ集落を包囲、島の一声で一気に集落に侵入できるようになっていた。

「よし、両翼から部隊を前進させ、一気に終わらせるぞ」

敵の作戦部屋に自分達の作戦本部を構えた島が、周りに待機する隊員達に無線でそう伝えた。

「俺も行く」

「わ~かってるよ。俺達のいる場所を正面とし、三方向から攻め込み、逃げ道を一つに絞る。逃げてきた奴等を捕える」

「・・・島」

「なんだ」

「ここに来るまでに、日本語を話す奴はいたか?」

「・・・いや、いない。他に奴にも聞いてみたが、やはり誰もいないみたいだ。全員が口を合わせてこう言ってくるんだ。『まるで他の国に攻め込んでいるみたいだ』ってな」

「まぁ予想はしたけどな・・・正直俺もそう思った」

「だが、ここまで日本人がいないとな・・・・お前の考えが当たってるかもしれないな」

「あぁ・・・もしかしたら、俺達はまた踊らされてるのかもしれない」

「・・・代理戦争か」

康太と島の頭の中では、あの忌々しい記憶が蘇ってくる。

「まぁいい。その話は後だ・・・被害状況は?」

かんばしくないな。被害は最小限に抑えるつもりだったんだが・・・音信が途絶えた奴等もいる」

「・・・そうか、日が暮れる前に、さっさと終わらせるぞ」

「そうだな。お前の言う通りだ・・・」

島はそう言うと無線を取り、侵攻開始の合図を出した。

『これより、本格的に掃討作戦を開始する。現場指揮は島大助が取る!随時、報告を怠るな。戦況に合わせて、対応するんだ』

隊員達は、集落に侵攻を始め、その中に混じり康太も集落へと進行していった。





「島!対空砲の無力化に成功した!・・・航空支援を要請する」

『わかった。だが、航空支援までは時間がかかる。それまで持ちこたえてくれ』

「了解」

康太の横には、対空砲が設置された建物があるが、康太の率いる部隊にはこれを破壊できる装備が無かった。

「いいか!おそらく敵は、ここを取り戻そうと全力で向かってくる。航空支援が来るまで持ちこたえるんだ。前線を張り、そこで持ちこたえるぞ!」

「おぅ!」

隊員達は、各々の持ち場に着き、日が傾き始め建物がオレンジ色に輝くのを目にしていた。

「狙撃兵!観測兵!」

「ここに!」

康太の声に二人が康太の元に駆け寄ってきた。

「あそこに見える高台がわかるか?」

康太は前線の後ろにある背の高い建物を指差し「はい」と二人は答えた。

「あそこにから敵の位置を把握し、俺達に伝えろ。俺達を狙っているスナイパーがいたら、そいつ等を撃て。いいか、場所を悟られないように、突撃兵や複数で行動している奴等は撃つな。俺達で対処する」

「了解」

二人は、そのまま康太達から離れ、離れた場所にある高台へと入って行った。




『12時の方角、敵影確認。数はおよそ20。2時の方角、敵影確認。数はおよそ10』

観測兵からの無線を聞き、隊員達は手に持つ銃を握り直した。

「おそらく正面からの威嚇射撃に乗じて、側面から襲いかかって来るつもりだろう。側面にクレイモア地雷を設置しておけ」

康太の言葉に全員が思わず絶句した。

「・・・どうした」

「井上さん、日本では対人地雷の使用が禁じられています」

「それを守って、自分の命を守れるのか、他人の命を守れるのか」

「それは・・・」

「いいか・・・ここはもぅ日本じゃない。ただの砂漠だ」

康太の指示に一応は装備の一つとして持たされていた地雷を手に取るが、設置に戸惑う兵士達。

観測兵からは、側面に侵攻する敵との距離を伝える声が聞こえてくる。

「憲法9条が無くなった今!そんな条約が効くとでも思っているのか!」

「・・・くそっ」

戸惑いを見せていた兵士たちは、上からの指示に従い対人地雷を設置し、元の持ち場へとついた。

「よし、いいか!奴等に地雷を踏ませるな!その前に倒すんだ。戦闘が終わり次第、対人地雷は爆破処理を行う・・・地雷はあくまでも保険だ。使わせるんじゃねぇぞ!」

正面から近づく敵の姿に「撃てぇ」と康太は指示を出し、部下はそれに従い引き金を引いた。

『狙撃兵!11時の方向、茶色いレンガ状の建物の屋根からスコープの反射光のようなものが見えた。確認してくれ』

康太の声に、狙撃兵は急ぎ言われた方向を確認すると、敵のスナイパーを黙認する事が出来た。

狙撃兵は急ぎ、敵に標準を合わせ、敵の無力化に成功し「狙撃兵、排除完了」と伝えた。

「流石だ」

康太は狙撃兵に短く伝えると無線を切り、現場の指揮に戻った。

「凄い・・・さすがは英雄だ」

本来、観測兵と狙撃兵が行う仕事ですらやってのける康太に観測兵はそう呟き、狙撃兵も「あぁ」と答えた。

その時、後ろで何やら物音が聞こえ、二人はライフルを構え後ろを振り向くが、そこには誰もいなかった。

だが、誰もいなかったがある物が一つ置かれていた。




その後、航空支援を受け、上空を味方のヘリが巡回する頃には、戦況は終盤を迎えていた。

「おぅ、井上。お前のお陰かな・・・かなりのテンポで良い様に転がっている」

本部へと戻ってきた康太に島はそう言うが、康太は首を横に振った。

「いや・・・良い方向ではないな」

「?・・・どうしてだ」

「後でわかると思うが、死体の数が少ない。・・・俺達の防衛ラインで確認された死体の数は10にも満たなかった」

「俺達のヘリの音で、逃げ出したんじゃないのか?」

「それだけじゃない。俺が保険として置いておいた地雷に奴等は一つとして触れなかった・・・何かあるはずだ」

「ふむ・・・俺達をここにおびき出し、何かの目的を果たした。そう言いたいのか?」

「・・・考えすぎかもな」

「わからん。・・・ただ、まだ戦況は終盤だっていうのに、俺が感じた違和感は、銃声が一つも上がっていないんだ・・まるでここにはもぅ敵がいないと言うみたいにな」

「誰もいないってのは、良い事だがそれじゃあまりにも出来過ぎてるって事か?」

「その通り。・・・普通、退くにしても一人や二人、逃げ遅れても良いくらいだと言うのにな」

黙り込む二人の部屋に「入ります!」そう言って二人の兵士が入ってきた。

「狙撃兵の野々村 たかしです」

「同じく、観測兵の橋場はしば衣良いらです。先ほどの敵の捕捉、見事でございました」

背筋から手先までピンと伸ばし、敬礼する二人

「いい、敬礼なんていらない、楽にしろ。・・・で?何の用だ。まさかそんな下らない事を報告しに来たんじゃないだろうな」

「いえ、決してそんな事は・・」

「井上指揮官当ての小包をお届けに参りました」

そう言うと衣良は、後ろに持っていた大きな茶封筒を康太に手渡した。

「なんだこりゃ?」

「お届けに時間がかかってしまったのは、中に危険物が混入していないかを確認していました。申し訳ないです」

隆の言葉に首をかしげる康太

「危険物?・・・政府から送られてきたものじゃ無いのか?」

「いえ、先ほどの戦場で我々が付いていた持ち場に置かれていた物です。中身は無線機のようです」

封筒には『親愛なる戦友とも、井上康太へ』と書かれていた。

そして、封筒の中には何とも懐かしいと思えるような古い無線機が入っていた。

「・・・周波数が合わされていないみたいだな」

「あの、それに関してはこちらの手紙に・・・」

衣良の持っている白い封筒を開くと一枚の手紙が入っていた。

『俺達のチームの共通周波数は?』

手書きで書かれた手紙の筆跡に見覚えのある康太は、その場に同志の首謀者が誰なのか知らない兵士が二人もいると言うのに、そんな事はお構いなしに急ぎ周波数の絞りを調節し始めた。

「おぃ、井上。どうした」

「あの戦場に五十嵐がいた・・・間違いない」

「五十嵐だと・・・」

青ざめる二人を見て、訳がわからんと顔を見合わせ肩を竦ませる二人。

康太が無線を繋ぎ、向こうからの応答を待った。



『・・・よぉ、そこにいるのは俺の古い戦友かな?』

無線からは、懐かしい声が聞こえてきた。

「そうみたいだな」

『さすがは、お前の陣頭指揮だ。予定よりも早く、お前とコンタクトを取る事が出来た』

「つまり、ここまでの流れはお前の読み通りって事か・・・」

『・・・まぁな。だが、防衛作戦も一応は含まれていた。なるべく犠牲を出したくはなかったが、残念だ。お前を敵に回すと辛い物があるな』

「それはお互い様だ。・・・それで、こんな無線機一つを届けるためにあんな戦いをやってのけて、一体何の用だ?」

『まぁそう硬くなるな。俺とお前を結ぶ唯一のホットラインだ。丁重に扱ってくれよ』

「あぁ、そうさせて貰うよ」

そこまでのやり取りで、隆と衣良は大方の予想がつき、そんな中、康太は敵の首謀者の名前を呟いた。


「久しぶりだな・・・・五十嵐」














『それでは、これより、戦果報告と経過報告の記者会見を行います』

大量の記者に囲まれ、フラッシュがたかれる中、スーツに身を包んだ康太は、テーブルの上に置かれた紙に書かれた文章をゆっくりと読み始めた。

そんな康太の姿を、テレビを通し仕事場で洋子は見ていた。

「また進展は無しか・・・」

自分の席で大きく胡坐をかく編集長は、吸いかけの煙草を灰皿にすり潰しながら呟いた。

「でも、井上総指揮が来たって事は何か進展があったって事じゃないですか?」

洋子は、吸い殻でいっぱいになった灰皿を取り、ゴミ袋に灰を捨てながら無精髭を貯えた編集長に尋ねた。

「さぁな・・・もしくは、数ヵ月後の選挙を睨んで政治利用するために呼び出したのかも知れんぞ」

「えっ、でも公務員の政治活動は禁止ですよね?」

「そう思うだろ?ところがどっこい、井上康太は公務員ではない」

「えっ?嘘!」

奴の事なら何でも知っている。そう思っていた洋子にとって、それはかなりショックだった。

「井上は確かに、陸軍に所属していた経歴はあるが、その後は外人部隊の指導員、傭兵派遣会社に勤務していた経歴がある。おそらく、それで食っていたんだろう。そして、今は対テロ組織の総合指揮官だが、奴等は防衛省にも所属しない新たな軍隊だ。総理の管轄という事になってはいるが、俺から言わせりゃ奴等の立ち位置はNGOがいいとこだ」

「つまり、政治利用される可能性もある」

「確実にあるだろ」

「なるほど・・・で?私を呼んだ理由はなんですか?」

「おぉ、忘れてた」

編集長は、書類でいっぱいになった机を漁り、一枚の封筒を洋子に渡した。

「今や時の人から直々のラブレターだよ」









とある小さな空港の小さなヘリポートにいつでも飛び立てるようにエンジンを回し、プロペラを回転させるヘリが一機。

そして、そこへ向かう康太の姿と、ヘリに横に立つ長谷川と洋子の姿があった。

「どうも、井上長官。本日は戦場に初めて入る記者に私を選んでいただき、ありがとうござます」

軽いノリで敬礼をして見せる洋子を無視し、康太はヘリに乗り込み、長谷川もその後に続いた。

「ちょ、ちょっと、無視してんじゃないわよ。康太」

後に続いて洋子もヘリに乗り込んだ。


「で?私を呼んだ理由って何?」

ヘリが飛び始め、街が豆のように小さくなり始めた頃、洋子が口を開いた。

「ん?ちゃんと書いてあっただろ・・・そのままの通りだよ」

「国民からの支持を得るために、戦地で戦う兵士たちに取材をして欲しいって事?」

「おぅ、その通りだ」

「・・・私まで現総理の支持率を保つために、政治利用するって事ね」

「その分、お前のとこの小さな会社には十分すぎるほどの利益が上がるだろうよ」

「まぁね、誰も入れない所に第三者の目が入るって事だからね」

二人の会話に長谷川は口をはさんだ。

「しかし、書かれたはマズイ所もありますので、出版される前に私達の方で一度添削させて貰いますので、そのおつもりで」

「了解です!」

冷静さを保つ長谷川に親指を立ててみせる洋子だが「まぁ表向きはな」と呟く康太に首をかしげた。

「えっ?・・・何?」

「移動中に話す。まだ時間はあるからな」






『良い返事に期待するよ』

五十嵐からの通信は、それ以降繋がる事が無かった。

「野々村と橋場・・・この事は他言無用だ。お前達が敵に背を取られるようなミスをした事も聞かんかった事にする」

島の言葉に二人は今起きた事、今聞いた事を忘れる事に「了解」と答えた。

「記者を一人よこせ・・・か」

ため息交じりに呟く康太だが、そのモノローグは「ちょっと待った!」と言う洋子の声でかき消されることになった。


「ちょっと待った!・・・えっ?何?どういう事?」

「今、言った通りだ。奴等を一網打尽にするチャンスでもある。気にするな、記事は勝手に俺達が書いておく・・・話し戻すぞ」

「いや、無理無理無理無理!」

「それにな。お前とある重役の人間で引き渡し交換をする予定なんだ」

「重役?」







日が完全に落ち、辺りは月と星のみが唯一の明かりとなる時間になった。

砂漠のど真ん中に一つの大きな建物がそびえ立ち、なんだかんだで言いくるめられた洋子と迷彩服に着替えた康太と隊員達がその建物の前に立っていた。

『A班とB班で裏口を固めろ。奴等の逃げ道を塞ぎ、取引の終了次第、一般人の安全確保を最優先とし、敵勢力を制圧する』

無線からは、現場指揮を執る島の声が聞こえ、その指示に従いそれぞれの分隊が移動を開始した。

「はぁ・・・何でこんな目に・・・」

「あっ、ちなみに情報統制を行う予定だから、お前が向こうに囚われたとしても、国民の誰一人として知る事はないから安心しろ」

「安心できな~い!」

目に涙を浮かべる洋子は、立派な門を通り抜け、二つの建物からなる大きな建物を見つめた。

その建物は、二つの建物を渡り廊下で結んでいたのだろうが、老朽化のせいかわからないが、その渡り廊下は、一部崩れていた。

「・・・ねぇもしかして、あの渡り廊下で人質交換とかないわよね?」

「おぅ、向こうの要求通りならその通りだ」

「崩れたりしない?」

「一度崩れた所を、目の当たりにしたからな。正直わからん」

「崩れた所?・・・この建物に一度来た事があるの?」

「・・・俺達が捕えられていた場所だ。そして、五十嵐が死んだはずの場所だ」

「嘘・・・」

康太達の高校時代、仲間に裏切られ戦地へと送られ、そこから逃亡を図ったがとある施設へと収容される事となった。

そこで射殺命令が出されるのを待つのみとなっていた彼等を裏切ったとされる人物が救い出した。

その際、彼等を逃がす手助けをした浅田悠二。そして、元少年兵の五十嵐が敵を喰いとめるために単独行動をとり死亡した。

渡り廊下の一部、崩れている場所で五十嵐が死んだ。

ドキュメンタリーやドラマでは知っていたはずだが、実際に目にするとその現実味が増し、洋子の目からは思わず涙が零れた。

「おぃ・・・大丈夫か?」

「な、何でもない・・・砂に目がやられただけ・・・」

洋子の頬にそって流れる涙を目にしながら、康太は見なかった事にし、ここは戦場だと気持ちを切り替えていた。

「いいか、俺達はあの渡り廊下を挟んで敵と対峙する事となる。だが、俺達の任務はあくまで人質及び、一般人の安全確保だ。極力戦闘は避け、威嚇射撃を続けたまま、開けた場所にまで退避、周りからの支援を受けながら、安全地帯まで移動する。おそらく敵からの集中砲火を浴びるかもしれない。気を引き締めて行け」

「「了解」」

「行くぞ」

康太の合図に、隊員と洋子は歩き出し、右側に立つ建物内に入って行った。


『敵影を確認。数は11、銃を装備した人間は10人。一人は頭から袋を被らされている』

建物内に侵入した康太達の無線に、建物全体を見わたせる場所にいる隆と衣良から連絡が来た。

「おそらく、そいつが目的の品だろうな」

その無線連絡に受け答えをして見せる康太。

その周りでは辺りを警戒する隊員とすでに言葉を発する事が出来ないくらい緊張する洋子がいた。

『奴等全員、B棟に入りました』

『よし、A班B班。奴等の出入り口を塞ぐんだ』

双眼鏡で建物全体を覗く衣良の視線の向こうでは、砂漠に身を潜めていた隊員達が、敵が全員中ん侵入したのを確認し、島の指示に従い出入り口へと移動を開始した。

扉の横にまで辿り着いた分隊は、扉の横にある窓から中の様子を窺い、誰もいない事を確認した。

『敵影なし』

『待った。扉にワイヤー式のトラップを確認。ワイヤーの先にパイナップル』

無線の向こうでやり取りをする会話に「パイナップル?」と首をかしげる洋子。

だが、康太は気が散ると無線を切った。

『康太。人質の安全を確保したら、すぐにその場を離れろよ。間違えても銃声なんて上げてくれるなよ。その場合、奥に控える俺達が出動せにゃならん事になる』

「わかってるよ」

『よし、トラップの無力化は康太の合図を待て、無力化し次第、建物内に侵入。内部にひそむ敵勢力をなぎ払え』

島の無線を聞きながら、他の無線が康太を呼び出した。

『おぃ、井上康太』

無線の向こうからは、若々しい男性の声が聞こえてくる。

『そっちの建物にいる事は確認済みだ。反応しろ』

「おぃおぃ、この無線は俺と五十嵐を結ぶホットラインだろ?・・・何で見ず知らずの男が向こうから出てくるんだ?」

『安心しな。すぐに変わってやるよ・・・だがな、その前にその記者とやらが本当に記者なのか確認する必要がある。渡り廊下に立たせろ』

「・・・わかった」

康太は、一度無線を切ると洋子に行けと顎で促した。

洋子は康太の指示に従い、恐る恐る渡り廊下の前に立ち、向こう先に見える敵の姿をぼんやりではあるが見る事が出来た。

『・・・・お前は阿保か』

しばらく無線が切れていたが、次に声が聞こえたのは懐かしい声だった。

「阿保で結構だ」

『何でよりによって、記者がそいつなんだよ・・・』

「本物の記者かどうか、調べる方法なんて無いだろ?・・・だから知り合いを連れてきた」

『記者になったのか』

「あぁ、ゴシップ記事を作る会社に就職してる」

康太の言葉に「ちょっと」と指摘しようと横を向くが、横にいる康太は洋子に無線を渡してきた。

手に取った洋子は、渡り廊下の向こう側にいる人を見ながら、恐る恐る無線を口に近づけた。

「い、五十嵐・・・君?」

『・・・・あぁ、久しぶりだな』

懐かしい声は、短い言葉ではあるが、無線の向こうから洋子の緊張をほぐしてくれる。

薄暗くてよく見えないが、無線を持つ人がこっちに手を振って見せていた。

「ほ、本当に五十嵐君なの?」

『・・その話は後だ。康太に代わってくれ』


「もぅいいのか?・・・時間制限はないんだぞ」

『別にいいさ。このまま順調に行けば、記者はこっちに来る訳だからな。そっちのほうが時間制限はない』

「じゃ、早速始めようか」

『そうだな』

渡り廊下の向こう側に、頭から袋をかぶせられた男が立たされ、一人の銃を持った男がその男から袋をはぎ取った。

双眼鏡で康太は男の顔を確認し「間違いない、本人だ」と呟いた。

『交換する者同士、渡り廊下を一人で歩かせる。それでいいな?』

「いいや、駄目だ。一人つかせる。互いにだ」

『・・・いいだろう。ただし、俺とお前は駄目だ』

「わかった」

洋子の横に銃を持った隊員の一人が立ち、向こう側も二人が崩れた所に木の板を置き、歩き始めた。

「大丈夫です。・・・私が走ってと言ったら、こちらへ走ってきてください」

横を歩く隊員が渡り廊下を歩きながら、洋子に話しかけてきた。

下を向く洋子は「はい・・」と小さく返事をし、康太の横では隊員の一人が島に無線で、状況説明をしていた。

「現在、渡り廊下を移動中。目標物および、一般人との距離およそ30メートル、接触まで20・・・15・・10」

その時、向こうから「止まれ」という指示が出て、洋子と隊員はそれに従い歩みを止めた。

「止まれ。・・・ここからは二人を歩かせる。妙な動きをしてみろ」

眼帯をつけた男はそう言うと銃を取りだした。

「その場合、人質もその記者も、俺が撃つ」

隊員も後れを取りながら銃を取り出し、男に構えた。

「そんな事してみろ。お前の頭をブチ抜いてやる」

『二人が銃を取った!・・・島さん、どうしますか!こちらからなら、敵を狙撃できます』

『待て、下手に刺激をするな。お前達は今は索敵に専念するんだ』

隆と島のやり取りが康太の無線にも届いて来る。

渡り廊下では、男が横に立つ人質に「行け」と指示を出し、人質が歩き出した。

それに続き、洋子も隊員の横を離れ、歩き出した。

渡り廊下の窓を挟んで中を窺う隆と衣良の目には、二人が歩き出すのを確認し島に連絡を取っていた。

一方、洋子は向こう側から歩いて来る人質に何やら見覚えがあり、思わず足を止め口を開いた。

「嘘・・・・官房長官?」

「・・・どうやら、その様子だと、本当に私が拉致られていた事を報じられて、いないみたいだな」

髪を黒く染め、若々しさをアピールしていた官房長官は今や、白髪交じりのただのオッサンと化し、若々しさどころか、生気すら感じ取れなかった。

官房長官は、洋子の反応を見てそう呟きながら、再び歩み始めた。

「・・・すまないな」

官房長官とすれ違う時に、官房長官がそう言い「えっ?」と声を発しようとするが、その前に廊下中に白い閃光が飛び出した。

強烈な光と音が洋子の耳を貫き、思わずその場にしゃがみ込むが、横の窓ガラスが割れ、誰かに肩を抱かれ「こっちだ」との声に従い、廊下を走った。

後ろの方では銃声が鳴り、何かが耳元をかすめる感じがし、思わず足を止めそうになるが両肩をしっかりと抱かれ、引っ張られているため歩みを止める事はなかった。

「隊長!橋が落ちた!」

そんな誰かの声が聞こえたかと思うと「飛ぶぞ!」そんな声が横で聞こえた。

肩を抱いていた手は洋子を抱きながら思いっきり横っ跳びをかまし、しばらく宙を舞ったかと思うと、コンクリートの地面に倒れ込んだ。

目を閉じていた洋子は、抱かれたまま地面に倒れ込み、すばやく横へと移動された。


目を開くとそこは、先ほど康太達と一緒にいた場所ではなく反対方向の場所だった。

周りには迷彩服に身を包んだ隊員達ではなく、砂や泥で汚れた布切れを何重にも着重ねた人達が銃を持ち、渡り廊下に向け銃を向けていた。

廊下から頭を出し、向こう側を見ると向こう側には官房長官が渡り廊下を走り切る姿があった。

「頭を出すな!」

廊下の横にいた人が、向こうの様子を窺う洋子を女性の声を響かせながら、蹴り飛ばした。

洋子は思わず後ろにバランスを崩し、先ほど自分を抱え廊下を走った男が後ろで息を切らせ、座っていた足につまずき、見事に転んで見せた。

「いてっ」

胡坐を掻いて座っていた男の上に尻もちをつき、思わず声を洩らす洋子。

「よぉ・・・・本当に久しぶりだな」

息を切らせた男は洋子にそう言ってきた。

その声に反応し、顔を向けるとそこには顔中泥だらけになった五十嵐の姿があった。

「嘘・・・」

「残念ながら本当だ・・・それで、ちょっと、どいて欲しいんだが」

五十嵐は、洋子を横に退けると重たそうに腰を持ち上げ、渡り廊下の方へ向いた。

『・・・やられたよ。官房長官に閃光弾と発煙弾を持たせていたのか』

「あぁ・・・お前達が西の方角から狙撃兵と観測兵を置いてる事には気付いていたからな。発煙弾も持たせた・・・俺達の出口を塞いでいる奴等を退避させろ。20秒後に爆発する」


康太の指示を聞いた隊員達は、ワイヤーを切らないように慎重に扉を開け、手鏡を滑り込ませるとワイヤーの先に着いた手榴弾の奥にタイマー式の爆弾が置かれている事に気付いた。

「退避ーーーっ!」

隊長格の隊員が大声で叫び、全員が建物から離れた。

全員が離れるのを建物の上から確認した矢吹は、手動でスイッチを押し出入り口に設置した爆弾を爆発させた。

洋子の足元が豪快に揺れ動き、五十嵐は無線で「また会おう」と康太に告げ、周りにいる部下たちに「引くぞ」と伝えた。








「やられたよ・・・地下に伸びる廊下があった。俺達が昔、この収容所に連れてこられた時に使った時の廊下だ・・・まだ使えてたとは・・・」

『追跡は』

「無駄だ。崩されてる」

『五十嵐の方が一枚・・いやそれ以上に上手だったって事か』

ため息を漏らす島の声に、悔しさをにじみ出す康太。

『観測兵からの映像解析をしてみた所、あの野郎凄いぞ。暗視ゴーグル、赤外線ゴーグルからも逃れるために、野郎は渡り廊下の外を歩いていやがった』

「あぁ、こっちも渡り廊下を通過した時に、確認した。壁が一枚剥がされていて、廊下の外に足場まで作られていた」

『そして、廊下を歩く奴に歩調を合わせ、閃光弾を合図に中に侵入。記者を奪い去りやがった』

「・・・くそっ」

『落ち着け。官房長官救出という本来の目的は果たせたんだ・・・上から言わせりゃ、それだけで十分だ。それに野郎だって鬼じゃない・・お前の友人を酷く扱うようなマネはしないさ』

「洋子に付けておいた発信機は?」

『無駄だ。全部水に濡らされた』

「・・・お手上げか」

『こりゃ虱潰しらみつぶしに敵拠点の制圧をしにゃならんな』

「それは無理だ・・・置き手紙があった。『しばらく身を潜める』だってよ」

『・・・だとしても、現在確認されている敵拠点は未だ健在だ。戦果を出さなきゃ国民は納得しないぞ』

「・・・・そうだな」

建物内を捜索する隊員達に引き上げの合図を出し、康太達は建物から去って行った。














「さてと・・・現在の状況は?」

「ん~芳しくないね。うち等の拠点で音信の途絶えた場所は、未だ返事が来る場所よりも多いよ」

「そうか・・・そろそろ国に帰るように通告するか」

「無駄だね。・・・彼等には帰る国なんて存在しない・・好き勝手に戦争をやって楽しんでんだ。帰りたい時に勝手に帰って、死にたい時に勝手に死ぬさ」

「そうかもしれないが、一応通告ぐらい出しておけ」

「了~解」

光が一切届かない場所で唯一の豆電球が光を放ち、その中で五十嵐とこの前、洋子を蹴飛ばした女性がそんな会話をしていた。

「・・・あぁ、駄目だ。私、向こうの言葉喋れないから」

女性はそう言って五十嵐に無線を手渡し、五十嵐はどこかの言葉で、無線の向こうにいる人と会話をし、無線を切った。

とりあえず着いて来い。五十嵐にそう言われ、辿り着いたこの部屋で中央に置かれた椅子に座る洋子。

そして、無線を切った五十嵐がテーブルを挟んで、向かいに座ってきた。

「悪いな。こんな所に来させちまって・・・」

五十嵐の言葉に、顔を横に振る事しか出来ない洋子。

「・・・さて、何から話せばいいかな」

悩む五十嵐に洋子は、口を開こうとするが、木製の扉が豪快に開き、一人の男がやってきた。

「隊長!・・・俺、もぅ変態小早川の隣の部屋なんてイヤだ!・・毎晩毎晩、変な声に魘される俺の気持ちわかってくれよ!」

入って来て早々に愚痴を垂らす男に横にいた女性が「誰が変態だ!」と反論し、男は「変態だろうが!」と女性を指差し、暴言を吐いていた。

「おぃ、お前等・・・客人の前で何言ってんだ。・・ん~紹介するわ。男の方は矢吹、そして、そっちの女は小早川だ」

男の方に目を向けると男は「どもっ」と頭を下げ、女性の方は「妹がお世話になりました」と言ってきた。

お世話をした覚えのない洋子は首をかしげるが、再び扉が豪快に開き、矢吹を突き飛ばした。

「誰が変態だぁぁぁ!・・・そりゃ私の事だぁぁ!」

部屋に入って来て早々、自分を変態呼ばわりする女性。

その女性は、小早川そっくりの女性だった。

「・・・見ての通り、双子だ」

「ん?ぬお!出たなゴシップ記者!・・・・あぁ~ていうか、ごめんね~。戦場に立つと私、性格変わるから」

どうやら洋子を蹴った方は、妹さんの方だったらしい。

「性格が変わるって・・・いつもがこの調子じゃ、戦場の性格の方がマシだね」

小さく愚痴をこぼす矢吹に対し「んだと、このシスコン野郎!」と二人が襲いかかり、二人係で矢吹を苛めていた。


うるさい三人を部屋から追い出し、扉を豪快に閉める五十嵐。

「・・・まぁいつもこんな感じだ。あまり気にしないでくれ」

頭を掻く五十嵐は「全く若い奴は」と呟く中、ようやく洋子が口を開いた。

「・・・どうして」

「・・・ん?」

「どうして、生きてるの」

未だに信じられぬと言った感じで洋子は尋ねた。

「・・・そうだな。まずはそこから話すか?」

そう尋ねる五十嵐に洋子はまず一番に聞きたかった事思い出し首を横に振った。

「電波塔を破壊したのは・・五十嵐君なの?」

「・・・そうだ」

「じゃぁ仙台駅も」

「それは違う・・・おそらく政府だ」

洋子の問いかけにすぐに否定する五十嵐。

「政府が?・・・嘘よ、だって中枢があそこにあるのに、破壊するはずがない」

「・・・その後の対応が早くなかったか?交通の便もすぐに山形に出来、今や首都は全てそっちに移動いてる」

「それは、首都が移動するっていう話が昔から出ていて」

「だから、仙台駅を破壊しようが奴等は痛手を負う事なく、俺達を敵に仕立てる事が出来た」

「・・・そんな・・・そんな事でお母さんが・・」

「そうか・・・洋子の母親がか・・・」

「どれもこれもみんな・・・五十嵐君のせいよ・・・」

「・・・そうだな」

「・・・・否定しないの」

「しない・・・ただ、やるべき事があるんだ。そのために俺はまだ生きている」

五十嵐は、扉の方へ目をやりながら口を開いた。

「さっきの奴等・・・やけに若くなかったか?」

「・・・・」

「あいつ等はな・・・第二のプレイヤーだ」

「・・・・」

「それを政府が隠している」

「そんなの・・・」

「ん?」

「そんなの!当人が何とかするべき事柄なんじゃないの!?そんな事のために、五十嵐君は私のお母さんを奪って、康太をまたここに呼び戻して、康太と戦うって言うの!・・・そんなのっておかしいわよ」

「表に出してしまったのは、俺達だ。そして、再び闇に消えようとしている。それを表に出せるのは俺達だけかもしれないんだ」

「俺達って何?康太の事を言ってるの?」

「そうだ」

「無理に決まってるじゃない!康太にはもぅ立場ってものがある。しかも監査役の人が常に横についているのよ」

「立場があるからこそ、発言力がある」

扉を挟んで聞く耳を立てる三人。そして、騒ぎを聞き付けたある男が、三人を差し置いてその扉を開いた。

「さっきから何を言い争ってるんだい?せっかく、久しぶりの対面なんだから昔話に花を咲かせようとはしないのか?」

松葉杖をつきながら現れた人物に洋子は目を疑い、思わず固まってしまった。

「しかも、一時期は精神が安定しないで、五十嵐君の事をお父さんと呼んでいたと言うのに・・・それとも父に向かって反抗期と言ったところかな?」

自分の消し去りたい過去を喋られ硬直したまま、思わず顔を火照らす洋子。

「しかし・・・三十路を越えてからの反抗期とは・・今まで類が無いな」

「だから何で俺が父親なんですか・・・」

入ってきた人物に口を尖らす五十嵐。

「いやはや・・・洋子君に会うのは久しぶりだな。康太と一緒に上京してからだから、十年と言った所か」

何度指摘しても『君』付けを止めない人物は、なんと康太の父親だった。

「えっ・・・・」

洋子は空気が抜けるような声をようやく発した。

「五十嵐君。君も意地悪だな・・・ハッキリと言ったらどうなんだい?洋子君をここに呼んだ訳を」

「・・・呼んだ?」

「いや・・・隠してるつもりじゃないんですけど、言うタイミングが・・・いまいち掴めなくて」

「ならば私から言ってあげようか」

「いえ、俺から言います」

そう言うと、五十嵐は一度咳払いをし、口を開いた。

「悪いな・・・実は・・・康太と敵対してる訳じゃないんだ。洋子を呼んだのも、身の安全確保のためなんだ」

「・・・・・?」

「つまりだな・・・この戦場は俺達が作り上げたんだ。所謂、創られた戦争だ。・・・・だが、実際にそこで人は死ぬ。あれほど憎んでいた戦争を俺がやってるんだ」

「何のために・・・」

「・・・声明で出したはずだ。この国の腐った部分を滅ぼす。ただ、取り除くなら徹底にだ。根を全て排除しなければならない」

「違う。そうじゃなくて、この戦争と、この国を滅ぼす部分との関連性が見当たらないんだけど」

「・・・俺達も望んでこの戦争をしかけている訳じゃない。ただな・・・俺達は今、国に飼われてるんだ。今の現状では、奴等のご機嫌取りをしなければならない」

「国に・・・飼われている?」

「気付かないか?・・・この出来過ぎたストーリー。チーム1の元メンバーが命の奪い合いをしている・・誰かが仕向けなきゃこんな事にならない」

「でも・・・国に飼われて、何でこんな事をしなければならないの」

「この経済を継続させるためだ。俺達が表に出した事によって、リアルウォーからの収益は完全に途絶えた。依存症の高かったこの国の経済は一気に下落していった。

そして、経済を立て直すので効率のいい方法が・・・戦争だ。戦争を起こす事によって、物資や鉄の値段が高騰するが、それもほんの一瞬の出来事だ。他国から鉄を買い集め、それを効率よく消費する。

需要が高まり、人も動く。金の流れもスムーズになる。

長期に渡れば、金も人も底をつくかもしれないが、短期決戦の場合はそんな事には到底ならない。・・・戦争を好き好んで起こす唯一の理由さ」

「でも・・・戦争でしょ」

「あぁ、国際批判の的にもなりかねない。だからこそ、戦争なんて俺達は呼んでるが周りから見たらただの紛争に見えるようにしている。・・それに経済だけじゃない」

「・・・内閣支持率」

「そうだ。目に見える悪が存在する。そう言った時は誰もが正義に頼り切る。・・お陰様で、今でも八割の人間が今の政府を支持している。

・・・経済と政治を保つために、正義は悪と手を組んだんだ。昔は政治と金なんて事で話題になっていたが、今や、政治と戦争だよ」

「・・・私の身の安全って言うのはどういう事?」

「どうもこうも、洋子・・・お前は高校の時からずっと俺達の人質だった。下手な動きを取れば人質を見せしめとして殺す。

・・・祐大の住んでいた孤児院みたくな」

「えっ・・・・だって私は、康太とも血縁関係はないわよ」

「交友関係があった。・・・それだけで十分だ。今だから言えるが、当時の康太はお前さえ生きてりゃ万事OKなんて考えだったぞ思うぞ」

「・・・五十嵐君は?誰かを人質に取られてたの?」

「いや・・・」

首を横に振る五十嵐に井上はわざとらしくため息を漏らし、それに気付いた五十嵐は咳払いを一つついた。

「とにかく!俺と康太は今、国に飼われているが、陰で奴等を捕まえるために動いている。その為に、俺は井上康太の父、井上猛と中村洋子の二人を拉致監禁する事となったわけだ」

咳払いをし話を収束させる五十嵐に再び井上は大きなため息を漏らし、思わず五十嵐は井上を下手に刺激するなとキッとにらみ付け、そんな二人のやり取りに洋子は首をかしげた。









「おっちゃん、こっちにいいポイントがあるから付いて来て、あとこの時間帯は道が込む」

「ん?なんだやけに詳しいな」

「元々、ここに住んでたから・・・」

表情を変える様子は無いが、おっちゃんは彼女のことを思い「そっか」と短く答えた。

人でごった返していた場所だったはずが、彼女のあとを追いしばらく歩くと人影すらなくなり建物だけが密集する場所を二人は歩いていた。

「・・・ここよ。この建物なら辺りを一望できる」

「・・・了~解」

「それじゃ、ここでお別れね」

「あぁ・・・」

「しっかり援護してよ?」

「・・・・」

「ちょっと、返事ぐらいしてよ」

表情をひとつも変えない彼女におっちゃんはため息をひとつついた。

「なぁ・・・お前は逃げろ」

「はぁ?何言ってんの?」

「・・・俺にも娘が一人いたんだよ。奴等に全て奪われちまったが、お前と娘がかぶっちまうんだ。娘を戦いに行かせるだなんて・・・俺には辛抱ならん」

「・・・・」

「五十嵐さんだって、きっとそれを望んでる。確かにお前さんは俺なんかよりもずっと腕は立つ・・・だがまだ高校生だろ」

「元よ。元高校生・・・今は違う。私も同志よ」

「・・・・」

「心配してくれてありがとう。でも、おっちゃん一人じゃ心配だもん」

「こんな作戦、俺一人でも十分だ」

「でも、私も戦いたいの。娘の意思を尊重できないの?」

「お前、死ぬ気だろ」

「・・・・ばれてた?」

「当たり前だ。親父を馬鹿にするな」

おっちゃんの真剣な表情に彼女はため息を漏らした。

「私ね・・・全て奪われたの。家族も友達もみんな!!お母さんやお父さんにあんたは表情豊かねって褒められてたけど、今じゃ笑うことすら出来ない。居場所だけじゃない、表情すら奴等は奪った。

だから、私も奴等を全部壊すの。壊して壊して壊して壊しまくって・・・その為に私の体が壊れようが関係ないのよ」

「・・・お前の意思は変わらないのか?」

「女って結構意志強いのよ」

「わかった・・・もぅ何も言わん。ただし、絶対に死ぬな危なくなったらすぐに逃げろ。いいな?」

「はいはい、わかりましたよ」

ぶっきらぼうに答える彼女をおっちゃんは強く抱きしめ、思わぬ攻撃に彼女は思わず頬を赤く染め、振りほどこうとした。

「ちょっと!突然セクハラ?」

「頼む、目の前で娘を二度も失いたくない、死なないでくれ」

「わ、わかったわよ!死なない、死ななきゃいいんでしょ!・・・いいから離れろ、コノヤロー!」

彼女は、おっちゃんを突き放し乱れる息を整えた。

「あぁもぅ・・・死ぬつもりだったんだけど、やっぱりやめた。私が死んだらおっちゃん自殺しそうな勢いなんだもん」

「ハハッ・・・確かに自殺するかもしれないな」

「どうしてくれんのよ・・・」

「ん?何がだ?」

「・・・表情が一つ戻った」

不貞腐れる彼女に対し、おっさんは思わず笑い出した。

「確かに、そんな顔は始めて見た。いいものが見れたよ」

「私も死なないんだから、おっちゃんも死んだら駄目なんだからね。わかった?」

「あぁ、わかった。死ぬつもりは毛頭ない」

「・・・じゃぁね」

「あぁ、また会おうな」

少し小走りに彼女は去っていき、おっさんは南京錠で固定された扉を壊し、中へと入っていった。








「あの~すみません」

警察官に一人の女子高生が声をかけた。

「はいはい、なんですか?」

「道を尋ねたいんですけど、議員宿舎ってどこにあるんですか?」

「議員宿舎は、この道をまっすぐ進んで、次の信号を左に曲がったらあるよ」

「本当?ありがとうございます。助かりましたー」

笑顔を見せる女子高生に思わず微笑み返す警察官だが、そんな警察官に返ってきたのは、一本のナイフだった。

サクッという音と共に、自分の胸に一本のナイフが刺さったことに信じられぬといった感じにその女子高生を見た。

笑顔の可愛らしい女子高生といった印象だった女子高生の表情は薄暗く冷たい視線が彼の最後の視界に入った。




異変に気がついた他の警察官が、大声を上げ動かなくなった仲間とその側に立つ表情の無い女子高生を見て腰に差してあった拳銃を抜いた。

「貴様!同志か!」

警察官の問いかけに彼女は答えることなく、そっぽを向く素振りを見せ警察官の怒りがこみ上げ拳銃にかかる指に力が入った。

パァン・・・

乾いた銃声と共に警察官の頭が赤い色を撒き散らしながら無くなった。

「狙撃!」

警察官は遮蔽物に身を隠し、壁から狙撃手を探そうとするが狙撃手から繰り出される弾は壁もろとも警察官を倒していた。

「遮蔽物は意味が無い!応援要請だ!」

「南西の建物屋上!狙撃兵!」

続々と建物の正面に集まる警察官だが、正面に待ち構える女子高生に苦戦していた。

「くそっ!どうなってやがる!全然当たらねぇ!」

女子高生は腰に差してある投げナイフを手に取り、銃を構える警察官を確実に仕留めていた。

警察官は女子高生に向け銃を放つが、まるでダンスを踊るかのようにして、女子高生は弾の一つ一つを避けていた。

ナイフを全て投げ終えると今度は脇差を両手に持ち、警察官に向かって猛突進していった。

その動きは人並み外れた速さで、銃弾は彼女の足元で跳ね、脇差を一振りすると警察官の首から鮮血が吹き出た。

「くそっ!化け物め!」

一人の警官がそう叫びながら彼女に向けて引き金を引いた。

だが、女子高生は飛んできた弾を脇差で切り落とした。

地面に落ちた弾丸を目にし、あまりの驚きに動くことを止めた警官は、狙撃兵の弾を食らい右肩から先を失った。

「クソッ!陣形を立て直せ!小隊を作り、正面の敵と狙撃兵を両方叩くぞ!」

「前線にいる仲間を引き戻す!正面敵に向かって威嚇射撃!」

建物内にいた警官が正門で暴れる女子高生に向け、大量の銃弾を放ち、女子高生は飛んでくる弾丸を防ぎながら正門の外へと追いやられた。

「今だ!一度引け!11時の方向、狙撃兵のいる建物に制圧射撃!」

狙撃兵のいる建物に向かって弾を放つが屋上に構える狙撃兵は一切怯むことなく、建物内に逃げ込もうとする警官を撃ち殺した。

「だぁぁぁぁぁ!畜生、なんだってんだよ!・・・おぃ!ライフルをよこせ!」

建物内に何とか逃げ込んだ警官の一人が横にいた仲間から狙撃銃を奪い取った。

「よくも、俺の仲間を・・・」

窓から建物の屋上にいる狙撃兵に狙いを定め、憎しみを込めた弾丸を放った。

放たれた弾丸は狙撃兵の頭を打ち抜き、狙撃兵は天を仰ぎながら仰向けに倒れるのをスコープで確認した。

「狙撃兵排除!ざまぁみろって・・・なんだ?」

撃ち殺したはずの狙撃兵は、再び立ち上がりスコープで覗き込む自分に狙いを定めてきた。

そして、スコープ上に映る狙撃兵の姿は、顔の皮膚がめくれ皮膚の下に銀色に輝く骨格が見えた。

「なんだよ、ありゃ・・・まるでターミネーターじゃねぇか・・・」

スコープに映るターミネーターは、ボンッという銃声と共に煙を巻き上げながら大型の弾をこちらに向けて放った。

建物内に入った弾丸は、その場で爆発し建物内にいた警官を巻き込んだ。

建物の外壁が崩れ、建物の下に逃げ込んだ警察官に瓦礫が襲い掛かった。

「建物の奥に退避だ!正門は明け渡す!・・・奴等、グレネードランチャーまで装備してやがる!」

「明け渡す?・・・ふざけるな!相手はたったの二人だぞ!機関銃もってこい!」

「機関銃だと?馬鹿!一般人にも当たるだろ!」

「構うか!この騒ぎを見ようと近寄ってきた野次馬なんて死んだって自己責任だ!それに、記者に紛れた同志がいるかもしれない」

再び正門に進行してきた女子高生に二階から機関銃を構えた警官が彼女に向かって引き金を引いた。

地面を飛び跳ねる弾丸は、飛び跳ね物陰に潜んでいた記者にも被害が出た。

「おぃ、止めろ!こっちには一般人もいるんだぞ!」

記者の数人が官邸から放たれる銃弾に向かって非難をあげるが、銃声でその声はかき消された。

「駄目だ・・・奴等、見境がなくなってる。みんな官邸から離れるんだ!」





官邸から背を向けて走る記者団に対し、弾丸を放つ警察官はどれが同志なのか見境がつかなくなっていた。

女子高生は記者団と共に官邸から離れながら、飛んでくる弾丸を脇差で切り落としていた。

だが、何発も弾丸を食らった刀は次第に刃こぼれが起き、飛んできた弾を切り落とすと同時に限界を超えた刀が砕け散った。

「くそっ・・・ここまでのようね・・・」

女子高生は全ての武器を使いきり、この場から逃げる算段を考えていた。

記者団の中に紛れて逃げるのが一番最良だと考え、建物から飛び出し道路を走る記者団の中に紛れ込んだ。

見覚えのある町並み。昔の自分なら頭上を弾丸が飛び交うだなんて決して想像しなかった。

だが、弾丸が飛び交うことが日常茶飯事になってしまった彼女にとって、この大惨事は日常と変わらないと感じ取るようになってしまっていた。

同じ方向へ進む人の集団。官邸から放たれる弾丸を食らい次々と人が倒れていく。

次は自分なのではないか・・・恐怖のあまり大声で泣きながら走る人の姿もあった。

「うわぁぁぁぁぁぁ!嫌だ!嫌だ!死にたくない!」

自分だけが生き残りたい。そう思うと人は人を裏切る。隣を走る人を押し退け、倒れた人に弾丸が集中する。

集団真理から逸脱し、利己主義へと変わると感情や理性、道徳は失われ防衛本能だけが開花される。

同じ状況にあるのに自分が生き残りたいが為に人は人を殺しあう。

「ホント・・・下らない生き物ね。人間って・・・」

女子高生は周りの人間を見ながら小さくそう呟いた。

「うわっ!」

また一人、誰かに突き飛ばされ倒れた人間が出た。

次の犠牲者は彼か・・・・

そう思い横目で倒れる彼を見ると、見覚えのある姿に彼女の背筋に鳥肌が一気にたった。

「嘘っ・・・」

思わず足を止め、官邸から放たれる弾丸に目をやる。

弾丸は彼に向けて放たれ、地面を機関銃の弾が彼めがけて一直線上に走っていた。

「駄目!やめて!」

彼女は思わず、倒れる彼に向かってダイブし抱きかかえるようにして飛んでくる弾丸から彼を救い出した。

恐怖のあまり体が動かない彼の襟を両手で掴み、弾丸の飛んでこない路地裏まで彼を運び出した。

乱れた息を整えながら両膝に手を置く彼女と、彼女に救われた男性。

そして、腰を落とす男の前に彼女は前のめりに倒れこんだ。

「お、おぃ!」

彼女に異変に気づき、ようやく声を出せるようになった男は彼女の背中からにじみ出る大量の血を目にした。

「何で・・・なんで俺なんかの為に・・・」

もはや声を出すことも出来ず、彼女は最後の力を振り絞りうつ伏せの状態から仰向けに体をひねらせた。

そして、薄らぐ意識の中、彼のひざの上に頭を乗せ彼の顔に目をやった。

男は死に行く女性の顔に死んだと彼女の友達から告げられた彼女の顔が重なった。

「嘘だろ・・・アケミ?」

全てを失ったはずだった。家も居場所も家族も友人も・・・そして、彼女は自分の名前すら失っていた。

失っていたことに気付いていなかった。

だが、彼氏の言葉に彼女は失ったものの全てが戻ってくるように感じた。



そうだ・・・。私の名前は・・・





彼女の顔から生気が失われるのをスコープ上で目の当たりにし、おっちゃんは守りきれなかったという悔しさのあまり、その場で大声で叫んだ。

涙も流したかったがプレイヤーとして戦って仲間と自分の体の半分以上を失い機械を埋め込まれてしまったおっちゃんには涙を流すことすら許されなかった。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!畜生!畜生・・・ちくしょう・・・」

目の前の脅威を排除したにもかかわらずところ構わず銃を乱射し続ける官邸に向かい、おっちゃんは再び銃を向けた。

「例え一人になろうと最後まで戦う。・・・志はそうだが、実際は失ったな仲間への俺たちなりの鎮魂歌だ」

おっちゃんは、自分の体ほどある大型のライフルを官邸に向かって撃ちまくり、弾丸は壁も人も構わず打ち砕いた。

再び狙撃が始まり、官邸からこちらに向けて大量の弾丸が飛んできた。

先ほども制圧射撃で飛んできた弾丸はおっちゃんの衣服を破き、体に当たっていた。

だが、体に当たった弾丸は金属音と共におッちゃんの足元に落ちていた。

今回も大量の弾丸はおッちゃんを襲うが、おッちゃんの体からは金属音しか鳴らず、怯むことなく銃を乱射し続けた。

弾丸を全て撃ちつくしたおっちゃんは今度は違う銃を取り出した。

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

憎しみを込めた弾丸は、官邸に着弾すると同時に爆発し、その爆風でありとあらゆるものを吹き飛ばした。

「全部だ!全部なくなってしまえ!」

大声で叫びながら銃弾を撃ちまくるおっちゃん

だが、そんなおっちゃんの左腕を一発の銃弾が引きちぎった。

左肩からオイルが漏れ、飛んできた弾丸の方向に目をやった。

プロペラ音を響かせながら、こちらに向かって走ってくるヘリが一機、そしてその脇にこちらに銃を向ける敵が一人いた。

狙撃兵から放たれた弾丸はおっちゃんの胸を貫き、背中から黒い血を噴き出した。

「くそったれがぁぁ!」

おっちゃんはライフルを再び手に持ち、ヘリに向かって乱射した。

標準もあわせずに放った弾丸は、狙撃兵の左肩を打ち抜きバランスを崩した狙撃兵はヘリから悲鳴を上げながら落ちていった。

ヘリはその場に留まり、搭載された機関銃でおっちゃんに襲い掛かった。

おっちゃんのいる屋上は、銃弾と土ぼこりが舞い、視界は一気に見えなくなった。

「やったか」

パイロットはおっちゃんの生存を確認しようとするが、土ぼこりを引き裂きながら飛んできた弾丸がパイロットの額を打ち抜いた。

制御の利かなくなったヘリは辺りのビルにぶつかりながら地面に墜落し燃料に引火し大爆発を起こした。

土ぼこりが晴れ始め、屋上には四肢を壊されうつ伏せに倒れるおっちゃんの姿があった。

「ざまぁみろってんだ・・・くそったれ・・・」

肘から下を失った手を動かしながらおっちゃんは出口へと向かい動き出した。

「俺は死なねぇ・・・絶対に生き残って・・・生き抜いてやる」

額の皮膚はほとんどなくなり、銀色の額で悔しさを滲み出していた。

埋め込んでいた義眼が取れ、赤い光を帯びた機械の目が徐々に薄れ始めた。

「俺は・・・オレハ・・・ゼッタイニ・・・」

動きが鈍り始め、おっちゃんの視界も砂嵐が画面を揺らし始めた。

「ワ・・・ワタ・・・ワタシ ハ・・・」



機械なんかじゃねぇんだ・・・・
















「音を立てるなよ」

「わかってる。もうすぐだ」

橋場と野々村は、配管を伝い地下のポンプ室へと侵入しようとしていた。

周囲に誰もいないことを確認し二人は通気口の蓋を外した。

橋場が先にポンプ室に出て、警戒しながら後ろにいた野々村に対し手で合図した。

非常灯のランプが足元を照らすだけで周囲は薄暗く静まり返っていた。

野々村も通気口からようやく這い出し、銃を手に持った。

「・・・妙だな」

野々村の言葉に橋場も「あぁ」と短く答えた。

カチャ

金属音に対し、二人はすぐさまその場から離れ飛んできた弾丸を避けた。

「へぇ~、ちょっとは成長したんだな。砂漠では俺に後ろ取られてたのにまったく気付かなかったってのによ」

暗闇の中に木霊する声に二人は「誰だ」と声を出した。

「誰も何もねぇよ。俺は同志だ。そして、お前達は敵だ。それで十分だろ」

「俺達がここに来ることを先読みしてたのか・・・」

「正面で入り口は、俺達の切り札が陣取ってる。奴と正面から当たっても早々落とせないだろうよ。ならば、お前等みたいな工作員に側面をたたいてもらう。そういった感じだろ」

物陰から飛び出した敵は、壁に潜む橋場と野々村に向かって両手に持った銃を撃ちまくった。

壁に体を張り付け弾丸から身を守る二人は、弾が尽きるのを待ち反撃しようとするが、敵は片方の銃が弾を尽きると片手で装填し弾が尽きることは無かった。

「野々村、俺がカバーする。その間に走れ」

「了解」

橋場は腕だけを前に出し、敵に向けて弾丸を放った。

一瞬、敵からの攻撃が弱まった隙に、野々村は広場に躍り出て中央で仁王立ちする敵に向けて弾丸を放った。

敵は野々村の攻撃に気付き、急ぎその場を離れ闇に隠れた。


「橋場!無事か」

敵の気配が消えたのを感じ取り、野々村は橋場の方へと声をかけた。

「あぁ、問題ない」

そういう橋場だが、ダラリと下がった右腕を抑える左手からは抑え切れなかった血がポタポタと落ちていた。

「野々村、俺が奴の気を引く。その間に奴を見つけ出してくれ」

「・・・あぁ、わかった」

動かない腕を見て、不安そうな声を出す野々村に橋場は脂汗を滲ませながら笑って見せた。

「大丈夫だ。俺にはお前がいる」

そういって、橋場は野々村の胸を強く押し、野々村に行くように顎で促した。

橋場に押された野々村は後ろによろめきながらも橋場の表情を見て、一度頷くと闇へと姿を消した。

橋場は、止まらない出血を抑えながら、闇に向かって声を張り上げた。

「なぁ、お前矢吹だろ!」

「・・・何故知ってる」

「やっぱりな・・この陰湿さと陰に潜むような輩はお前しか考えられん」

「何故、俺の名前を」

「こっちの頭がお前さんにかなりご執心でね。お前のことは色々と調べさせてもらったよ」

「あいつが・・・」

矢吹の言葉に思わず小声で言葉を漏らしてしまい、その瞬間、橋場は矢吹の声のするほうへ銃弾を放った。

思わず矢吹はその場を離れようとするが、目の前に野々村が現れ、振り下ろされるナイフに思わずその場に尻餅をつき、体を転がし野々村と一定の距離をとった。

野々村は手に持っていたナイフで再び矢吹に襲い掛かろうとするが、その前に矢吹はその場に閃光段を投げ、光る前に二人はその場から逃げた。

「矢吹よぉ、お前は随分と悲惨な道を辿ったな」

「俺の辿った道が悲惨だと?・・・ふざけるな、俺の道筋なんか他の同志に比べりゃ屁でもねぇよ」

「いいや、全ての同志を調べきったわけじゃないが、これは断言できる。お前が一番悲惨だ」

「はぁ?なにを根拠に・・・」

「戦い方だよ」

「あぁ?」

「お前はあることをきっかけに戦い方が大きく変化した。矢吹、お前はリアルウォーで大きな存在感を放っていた。自分の姿を晒すことで敵の視野を狭めていた。だがな、あることをきっかけにお前は戦場から姿を消した」

「・・・偶然だよ。俺は同志になって日陰者になったんだ」

「同志がきっかけじゃない。矢吹・・・お前は友達を失ったんだよ」

「!!・・・黙れ!」

矢吹は物陰から飛び出し、橋場に向かって銃弾を放つが橋場はすかさず応戦し物陰に隠れた。

息を荒げる矢吹の方へ駆け寄る野々村の足音に矢吹は再び闇へと姿をくらませた。


「友達だと?ハッ、何を寝ぼけたことを言ってやがる。俺にはそんな奴はいねぇよ・・・てめぇに何がわかるッてんだ!!」

「わかるさ。俺も昔はそうだった」

「・・・・」

「確かに、他の同志の生き様を見てどれほど悲惨だったか、俺は理解しているつもりだ。だが、彼等は仲間を失っても戦い方を大きく変える人間はいなかった。彼等は生き残った亡霊として同志として自分の生き様を貫いた。だがな、矢吹。お前は違う。違うんだよ、矢吹」

「くそっ、知ったようなことをベラベラと・・・」

「お前は亡霊なんかじゃない。お前はここで生きようとしている。いや、生きた証を作ろうとしてるんだ」

「・・・・」

「過去の自分を清算してな」

橋場は、返事の無くなった矢吹を探し、柱の向こうに矢吹の腕らしきものを捕らえた。

闇に潜む野々村に合図を送り、野々村もその柱の方へ目をやった。

「矢吹、お前は前向きな男だ。過去に生きようとする他の同志達は自らの死に場所を求めていた。だが、お前はこの場で生きようとしている。だから、これまで生き残ってきた」

矢吹からの返事は無く、橋場は柱に隠れている人らしき姿に違和感を覚えた。

「だが、その戦いも今日で終わりだ。俺達がお前達をこの悪夢から救ってやる!」

橋場は、柱に隠れている人陰に銃弾を打ち込もうと銃を強く握り締めた・

その瞬間、後ろで物音が聞こえ何かが飛び出す気配を感じた。

「これで終わりだ!矢吹!」

罠だと感じ取っていた橋場は、後ろにすばやく振り返り銃弾を放った。

だが、後ろから飛び出したのはただの板で、柱に隠れていた人らしきものが勢いよく飛び出すのを感じた。

「こっちが正解だよ。馬ー鹿」

後ろの声に振り返ると銃を構える矢吹の姿があった。

「お前は俺のことを調べすぎた。それが敗因だ」

矢吹は呆然と佇む橋場に向けて銃弾を放った。




薄暗いポンプ室に一発の銃声が鳴り響き、一人の男が倒れた。

本来撃たれるはずだった男を庇い、正面に両手を広げ立ちふさがった男が、銃弾を受けてもなおしばらく立ち続け、最後に力なく倒れた。

「野々村!」

撃たれるはずだった男は倒れた男の名前を叫ぶが、絶命した男に彼の叫び声は届くはずも無かった。

「・・・・なんだよ、それ」

俺は信じられなかった。

自分の命を捨て、他人を守る。

そんな行動、ありえない。ありえるわけが無い。

『理屈じゃないんだよ・・・そういうのは』

井上の言っていたあの言葉が鮮明に蘇ってくる。

「なんだよ・・・ふざけるなよ・・・ふざけんじゃねぇぞ!」



矢吹は、目の前で起きた出来事が信じられず怒り狂った。

相方を失った橋場は倒れる野々村の横で両膝をつきうな垂れる中、矢吹は手に持った銃を投げ捨て野々村に駆け寄った。

「おぃ、目を開けろ!なんでそんな行動をとった!明らかに不合理だ!五体満足であるお前が何故死ぬ必要があった!」

生気を失った野々村の肩を必死に揺らし矢吹は野々村からの返事を待った。

だが、野々村が答えを言うわけもなく、矢吹は訳がわからないと両手で頭を抑えた。

「なんだよ。。。なんだんだよ、畜生・・・」

「・・・よくも」

憎しみのこもった声が聞こえ、そちらに目をやると視界に映ったのは両膝を突いたまま銃を構える橋場の姿だった。

銃声が鳴り響き、一発の銃弾が矢吹の左目を貫いた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

悲鳴を上げ、その場でのた打ち回る矢吹に、橋場は更に銃弾を浴びせようとその場に立ち上がり銃を構えた。

それに気付いた矢吹はとっさに地面に散らばる粉塵を橋場に投げつけ橋場は思わず顔を覆った。

矢吹は、急ぎ立ち上がり橋場の銃を取り上げ遠くへ放り投げた。

そんな矢吹を捕まえ、地面に叩き付けた。

仰向けに倒れる矢吹に跨り腰に差してあったナイフを抜き取ると矢吹の心臓めがけ一気に振り下ろした。

矢吹は橋場のナイフを両手で捕まえ、心臓すれすれのところで止めた。

「ふざけるなよ・・・なんなんだよ、さっきの死に方は・・・」

矢吹はナイフを止めながらさっきの野々村の死に方にまだ納得がいっていなかった。

そんな矢吹の態度を見て、橋場は更に怒りが増した。

「こんな餓鬼に野々村は・・・殺されたって言うのかよ」

橋場は、撃たれた右腕で矢吹を殴り、ナイフを再び振り上げた。

「こんな奴にぃぃぃぃぃぃぃ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

矢吹は死に物狂いで腰に差してあったナイフを抜き、橋場が振り下ろす前にナイフを突き上げ橋場の首を切り裂いた。

橋場の首からは鮮血が吹き上げ、橋場は勢いよく噴出す血を抑えながらおもむろに立ち上がった。

薄れ行く意識の中、声も出ない口を必死に動かし「野々村」と呟きながら倒れた野々村の側までやってきて重なり合うように橋場は倒れこんだ。



「なんだよ・・・なんなんだよ・・・こいつ等・・・ありえねーだろ・・・」

今まで散々仲間を裏切り、仲間に犠牲を強いてきた矢吹にとって彼ら二人の行動はとても不合理であり、そしてなにより


恐ろしかった・・・


恐怖を感じる矢吹は亡骸となってしまった二人から離れようとするが片目を失い平行感覚を失った今の状態では体をろくに動かせなかった。

「なんだよ・・・・ありえねぇ・・・こんなの絶対にありえない・・・」

恐怖のあまり口から出る声は裏返り、ボロ雑巾と化した体で地面を這いずりながら離れようとするが体は思うように動かすことが出来ない。

そこでようやく気が付いた。

「あぁ・・・俺、もうすぐ死ぬ・・・」

先ほどの戦闘で傷付いた体からは大量の血が流れ、思うように動かない体がそれを物語っていた。

こんな暗がりの中で俺は死ぬのか・・・そんなの嫌だ。

一人は嫌だ・・・

死にたくない・・・

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!嫌だ、嫌だ嫌だ!死にたくない!」

まだ何もやってない

何もしてない

何をしてない?

何をしたら満足?

「ハァハァ・・・・何したいかな?この戦いが終わったら何したいかな?」

わからない。

何をすればいい?


「矢吹君!!」


体が痙攣し、過呼吸を起こす矢吹の体を誰かが抱き上げた。

矢吹の体を抱き上げたのは洋子だった。

「な、なんで・・・あんたがここにいるんだよ・・・」

「そ、そんなことよりどうしよ・・・・このままじゃ」

「無理・・・だよ。もぅ手の施しようがねぇよ・・・」

「そんな・・・そんなこと無い!」

「なぁ・・・そんなことより・・・俺は何をしたら良いかな・・・」

「何?何がしたいの?」

「俺は・・・人を庇って死んだ奴をはじめて見た・・・俺は、命を捨ててまで助けた人間を殺した・・・俺はそんな奴を殺してまで生きる価値なんて無い。

・・・だから、俺はこのまま死ぬんだ・・・恐怖に駆られ、後悔の塊に押しつぶされて苦しみながら死ぬんだ・・・そんなの嫌だ・・・」

「じゃ、じゃぁ何をしたいの?矢吹君はそんな彼らに何をしてあげたいの?」

「・・・あ、・・・謝りたい・・・他にもいっぱい・・・たくさんの人に謝りたい・・・」

「私が聞いてあげる。私が全部、伝える。だから、言って!」

「俺は・・・みんなに謝りたい・・・ごめんなさい」

矢吹は何度も、何度も「ごめんなさい」その言葉を何度も呟いた。

リアルウォーで自分だけが生き残ってしまった。

同志の中に紛れた裏切り者を探すのに幾人もの仲間を裏切ってしまった。

裏切り者を見せしめとして戦場にも送り込んだ。

そして、今二人の人間を殺してしまった。

その後悔の念を吐き出そうと何度も何度も呟いた。

そして、その言葉の力は次第に小さくなっていった。

「もぅ・・・もぅいい。矢吹君!もう言わなくていい!あなたは立派な兵士だ!でも、あなたは一人の人間なの!人間になりなさい!」

洋子は何度も謝り続ける矢吹を強く抱きしめた。

「に、人・・・間・・」

「そう!あなたは大学生。妹思いで周りにはたくさんの友人がいた。そんなあなたをこの国は一人の兵士にしてしまった。あなたは何も悪くない。あなたは最後までみんなが嫌がる役目を買って出た。

あなたは立派な人間なの。みんなの命を守るためにあなたは自分の心を鬼にした。自分の心を犠牲にしてみんなを守ってたのよ!」

「おれは・・・そんなことを・・・してたのか・・・なんで・・・わかんねぇよ・・・」

「理屈じゃないのよ・・・そういうのは」

「りくつじゃ・・・ないのか・・・そっか・・おれも・・・りかいできねぇことをやってたのか・・・」

「矢吹君・・・」

「あんたはいつもそうだ・・・どんなにつきはなそうとしてもちかづいてきやがる・・・自己犠牲野郎」

「それが私の取柄なの」

「ひ、人の・・・心を・・・少しわかった気がする・・・俺も人間なんだ・・・」


よかった・・・



矢吹は最後にその言葉を残し、力を失った。















すでにしたのフロアは対テロ組織に包囲され、残すは最上階のみそして、五十嵐と洋子のみとなってしまった。

最上階の中央にある部屋の床に五十嵐の帰りを待つ洋子は座っていた。

そんな洋子の前で扉が勢いよく開き、五十嵐は倒れこむように部屋に入った。

「五十嵐君!!」

すでに傷だらけの体が一人で守り続けた戦場の悲惨さを物語っていた。

「五十嵐君!!」

「洋子・・・矢吹と・・・小早川は・・・」

「ちゃ、ちゃんと見届けたよ。三人とも、満足した表情で逝ったよ」

「そうか・・・悪かったな・・・こんな役目背負ってもらって・・」

言葉が見当たらず五十嵐の言葉に洋子は首を必死に振って見せた。

「洋子・・・悪いが、俺を椅子に・・・座らせてくれるか?」

洋子は五十嵐の肩を担ぎ、部屋の中央にある椅子に座らせた。

五十嵐は背もたれに体を預け、震える手で懐から一枚の写真を取り出した。

その写真には「チーム1」と書かれた古びた写真だった。

「洋子・・・俺は目が見えん・・・けど、この写真だけは見えるんだ」

その写真は戦闘の影響でボロボロになっていた。

だが、そんな写真を五十嵐は大事そうに指でなぞった。

「まず、真ん中で中腰で映ってる二人は康太と勉だ。康太の笑顔はぎこちないけどな、勉は満面の笑みだ。康太たちの右側にいるのが祐大と大冶だ。祐大は目が半開きで大冶はこっちを睨み付けてる。

左にいるのが龍之介と俺だ。こいつは写真に写りだがらなかったから俺が逃げようとする龍之介の首根っこを押さえつけてる。

・・・あぁ、このころは楽しかった」

「うん。そうだね・・・みんなともっと一緒にすごしたかった」

「そうだな・・・もし・・・もし生まれ変われるとしても俺はもう一度この人生を選ぶ。みんなともっと・・・楽しい時間を・・・」

五十嵐は写真を指で抑えたままぐったりとうな垂れ、洋子はそんな五十嵐の姿を見て泣き崩れた。



そんな二人の時間は長くは続かず、戦闘服に身を包んだ康太たちが部屋になだれ込んできた。

「五十嵐ぃ!!もぅ暴走をやめるんだ!!これで終わりだ!」

銃を構える康太はうな垂れたまま動かない五十嵐の異変に思わず銃を下ろした。

「五十嵐・・・」


「もぅ・・・やめて・・・」


「洋子・・・」

「もぅやめて!!」

洋子は机に置かれていたハンドガンを手に取り康太に向けた。

「もぅいや!こんなのもう見たくない!なんで、なんで二人が争わなくちゃダメなの?もぅ国はリアルウォーの存在を認めたのよ!なのに、二人はなんで戦ったの!!

同志が悪だから?悪に仕立て上げたのはこの国でしょ!その国を康太は守るって言うの!?」

「洋子、銃を下ろせ」

「この国は私のお母さんまで奪った。小早川姉妹や矢吹君の命まで奪った。五十嵐君の命まで奪った。・・・二人は・・・康太はまたこの戦いを繰り返すつもり?

そんなの私が許さない!!」

「洋子!この戦いを繰り返させないためにも俺達二人はこの国を一度葬った。そして、同志という悪を革命的英雄にさせないためには根絶やしにする必要があった」

「違う!そんなの間違ってる・・・康太は納得してるの?五十嵐君が死ぬことに・・・納得してこの戦いに挑んだの!?」

「・・・・・」

「これだから軍人は嫌い・・・自分の命を合理的に考えて差し出すなんて間違えてる・・・」

洋子は康太に向けている銃を両手で持ち直し、撃鉄を起こした。

洋子の動作に康太の部下は洋子に銃を向けた。

康太は部下に対し、銃を下ろすように指示するが洋子の錯乱状態に部下達は康太の命令に従わなかった。

「なんで?なんで撃たせないの?私も同志なのよ?」

「違う。洋子、お前はただの被害者だ」

「違う!私はストックホルム症候群になんかなってない!私は私の判断で同志になった!」

「洋子・・・」

「康太、康太が撃てなくても私は撃つよ。そうじゃないと終わらない・・・」

洋子は震える手で康太の方へ狙いを定めた。

だが、それでも康太は洋子に銃を向けることは無かった。


「・・・お前が銃を持つな」

指が引き金にかかる手前で洋子の銃をうな垂れたまま動かなかった五十嵐が奪い取った。

「い、五十嵐君・・・」



お前は生きろ・・・・



五十嵐は最後の力を振り絞り椅子から立ち上がり手に握った銃を康太に向けた。

だが、銃を構えていた康太の部下が五十嵐に向け銃弾を放った。

五十嵐の巨体は何発もの銃弾を体に浴びながら、後ろに後ずさりしながら壁に当たり、ズルズルと後ろに倒れこんだ。







最後まで読んでいただきありがとうございます。

あちゃー最後まで読んじゃった?マジか・・・

これで本当に終わりです。

出来れば俺達の戦争3も書きたいですが、それはまた先になるかもですね。

いや、題材も舞台も出来上がってるんですけど

まぁ、前回も2書くかもでーすとか言って四年経過してるからね?

オリンピックかよ!!



最後にご愛読していただいた方は本当にありがとうございました。

こんなしょーもない物語を見て何か感動したーとかなんか胸が熱くなったーとか感じてもらえるとうれしいです。


まぁあり得ないけどね!!

メッセージ性とかないからね!!ただの中二病だからね!!

これ書いてるのただの妄想癖野郎だからね!!




では、また違う物語で会えたら会いましょう。


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