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48/48

48:月からのお迎え

 自分の土地に原油が沸いているか、金のなる木が生えている人と言うのは、現実にいるようだ。

 その人の母親が、息子の商談について日本に来ていたらしい。好きなだけ買い物をして、夜は美味しい和食を食べ、満足してホテルに戻り、何気なくテレビをつけ、チャンネルを回す。

 日本のテレビを見るには初めてで、言葉は分からないが、面白かったようだ。

 その内、ショッピング・シャワー・チャンネルに辿りつく。

 

「そこで紹介された黄金で作られ、七色の実がなる枝が、たまらなく欲しくなったそうだ」


 息子が別件を済ませ、部屋に戻ってくると、母親は日本のテレビで見た、その素晴らしい金枝について語った。

 あれが家にあったら、素敵ね。

 自然にその思考に至るところ……とんでもない豪邸に住んで居るに違いない。

 親孝行の息子は、母親が魅了されたという金枝を探すべく、ホテルのコンシェルジュを呼んだ。

 腕利きのコンシェルジュはすぐに、それが今夜のショッピング・シャワー・チャンネルで紹介された商品だということを突き止め、公式サイトにアクセスした。

 しかし、それはすでに売れ切れだった。

 同じものが売っているかもしれないと、さらに検索すると、今度は香穂さんのネット動画に繋がる。

 それを見た息子は、『母さん、本当にこれが欲しいのですか?』と聞き、ご婦人も『そうね……そんなものでもないかも』となり、話はそこで終わったという。

 だが、ご婦人の脳裏には、『あの素敵な金枝』でいっぱいだ。寝ながら考えた。そう言えば、売っていた女の子の顔が、違う気がする――。

 日本人女性は、外国の人には同じように見えるのか、それとも、私と香穂さんが似ているか……多分、その両方だ。

 私と香穂さんは、明るめの茶髪を巻いているし、メイクも同じ系統だった。アイラインを跳ねあげる感じ。服も、金色が映えるように、どちらも深い紺色だった。

 そうなると、見慣れぬ人は、混同するかもしれない。日本人だって、「若いは同じ顔に見えるわぁ」なんて、アイドルグループを見ては、言う人がいる。

 朝になって、ご婦人はもう一度、言う。『やっぱりあの金枝が忘れられない』

 昨夜のコンシェルジュを呼び直す。昨日見たのと、同じ番組が見たいのだ。

 コンシェルジュの人には申し訳ない。ショッピング・シャワー・チャンネルの放送分動画は、翌日になって上がるのだ。裏を返せば、その頃には、もう、私が金枝を売る動画が見られる形になっていたということだ。


『やっぱりこれが欲しい!』


『分かりました。手配しましょう』


 実業家の息子は、ショッピング・シャワー・チャンネル・アメリカの社長と懇意だった。そこに問い合わせる。すると、しばらくしてから、『あれは日本の独自商品らしい、知り合いの、ミスター・タケトリの連絡先を教えよう』ときた。

 その電話が、地球を一周して、ようやくたどり着いたのだ。

 孝行息子は幾らでも払うから、同じものを用意してくれと言う。

 それに応えようとしたもう一人の孝行息子は困った。彼の母親、竹取松子が自分の分を手放すのを嫌がったのだ。


「これは私の金枝よ。

輝夜ちゃんが売っているのを見たら、どうしても欲しくて買ったの。ポケットマネーで買ったんだから、私の物よ」


「母さん……」


 竹取社長は母親に頭が上がらない。当然、孫もだ。


「在庫はないんですか?」


「特注品だ。新しく作るのには、時間がかかる。それを説明して待ってもらおうか」


 いいや、今すぐ母に贈りたい。母の誕生日に間に合わせたい。なんとかしてくれ。

 かなり名のある実業家らしい。今後の取引もある。竹取家が持っているのならば、その金枝を差し出すのが、最速で最善の解決策に見えた。

 そこに二三人氏が手をあげた。


「私のキャンセル分があるではないか。売っている人間は違ったが、物は一緒だろう?」


 念の為、松子さんの分を実業家に渡すことになった。手作りなので、全く同じでは無いからだ。


「ええ〜、嫌よ。輝夜ちゃんの金枝!」


「私が松子さまのために、もう一度、これを売りますから!」


「対面で?」


「――お、お望みなら」


 熱烈に希望された。これで決まった。

 二三人氏は、「さぁ、いくぞ、香穂。課題は全て終わった。最後まで残ったのはお前ではない」と、孫を立ち上がらせた。

 香穂さんは悔しそうだったが、”負けた”ことは理解したようだ。

 二人がいなくなると、竹取社長が私を褒めてくれた。


「やぁ、うちの社員は優秀だ。たった一晩で金枝を二つも売ったぞ。

完売も完売じゃないか!」


 そういうことになるのだろう。

 関係企業の重役から、拍手を浴びた。特に新人時代からお世話になったアテンド統括部長は、立ち上がって拍手してくれた。それに、カスタマー担当部長と、ネット事業部長が続く。あんなに迷惑を掛けたのに、ありがたい。頭を下げる。

 松子さまが言った。


「やった! いつお嫁さんに来る? 明日? 明後日?」


「さすがにそんな早くは……ねぇ、征吾さん?」


 助けを求めた相手に裏切られた。


「今日中でも構いませんよ」


「こ、心の発送準備が出来ていません」


 いくらなんでも即日発送なんて無理だ。女にはいろいろと準備というものがある。

 まず、部屋の賃貸契約を解除する。同居人の更紗ちゃんのことはどうするのか?

 引っ越しの準備をする。ああ、私の部屋、物が多すぎ! 荷造りのことを考えるだけで、眩暈がしてくる。

 苗字はどうするの? 仕事する時は旧姓を使う? そもそも仕事は続けられるの?

 征吾さんがどこに住んでいるのかも知らないわ! 実家? 同居? 祖母と父親には会ったことあるけど、母親ってどんな人なの!? 二人目の元カノ登場とかないわよね!?

 それからうちの両親にも報告に行ってくれるかしら?

 私たち、結婚すること意外、何にも決まってないわ!! 


「もしもし、もう一年ほど待っているんですが、まさかもう発送されない、なんてことないですよね?」


 私がプチパニックに陥っているというのに、性急な征吾さんはエア問い合わせ電話をかけてくる。


「申し訳ありません。お客さま。在庫はあるようですが、梱包に時間がかかっているようです。

何しろ繊細で壊れやすいものですから――」


 征吾さんが神妙な顔になった。「私の大切な人の気持ちです。丁寧に扱わせて頂きます」



***



 私の部屋には花嫁が二人いる。更紗ちゃんと私だ。

 更紗ちゃんは一度、実家に帰ることになった。私はこのまま竹取家に行く。

 物をそれぞれの場所に送り、掃除をすると、部屋は広々として、すでに他人のような顔をしている。

 業務用冷凍庫はシェル・フェスティバルで知り合った業者さんに引き取ってもらった。松子さま曰く「うちにもあるから! 二台も!」だそうだ。

 それにあれは――ああ、もうあの男のことを考えるのはやめよう。

 強いて言う事があれば、あの男は、香穂さんに引きずられて、アメリカに行ったらしい。

 二三人氏が征吾さんからの報告を受け、車持家内で香穂さんの処遇を決めたのだ。香穂さんが立ち上げたネット動画ショッピング会社は竹取物産が買収し、ショッピング・シャワー・チャンネルに組み込まれることになった。破格の値段だったらしいと聞くと、竹取家側となんらかの取り引きがあったようだ。

 私と征吾さんも、二人でじっくり話し合って、契約を交わすこととなった。そういう所が、征吾さんっぽい。


「どうしても行っちゃうんですか?」


「何を今更?」


 征吾さんが迎えにくるという夜に、更紗ちゃんが名残惜しそうに言った。


「いや、月からお迎えが来るなら、”輝夜さん”を引き留めるべきかな? と」


 だから、引っ越しパーティーといって、部屋に管理人さん夫婦をはじめ、大伴兄弟、小野さん、椿さんに沙紀さん、真理子さんに石橋姉妹夫婦、文屋さんと橘さんを呼んだのか。

 チャイムが鳴ったけど、扉も開けさせてくれない。

 モニターの向こうで、征吾さんが困っている。


「輝夜さーん!」


 どんどん、叩き出した。


「ご近所の迷惑になりますよ!」


 抗議すれば、ご近所には了承済ですと管理人さんが言う。いいのか!?


「私、行きます!」


 バッグを楯に、人を押しのける。

 誰からともなく、「お幸せに」とか「征吾のことよろしくな」とか声が掛けられる。

 扉が開いて、征吾さんが飛び込んできて、私を人垣から出してくれた。


「迎えに来ましたよ。輝夜さん――」


「はい」


 外に出ると、月は見事な満月だった。


「寒くないですか?」


 征吾さんは、人に揉まれてずれてしまった私のストールを掛け直してくれた。

 ”かぐや姫”は天の羽衣を羽織ると、人間の心を失ったというが、私の心が変る筈はなかった。


「私、征吾さんのこと、好きですよ。

この気持ち、受け取ってくれますか?」


「はい。届くのを、ずっと心待ちにしていました」


 受領印とばかりに、征吾さんは私の額にキスをした。




【おわり】

【参考文献】

『なぜ、テレビショッピングで買ってしまうのか?』/芳子 ビューエル/(株)中経出版/2007

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