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月の旧河道/Fly me from the moon river⑥
やってしまった。
旅に出る前にいたあの箱庭のなかだったら気に求めていなかった風邪をひいてしまった。
ホズは凛々しかった顔を崩して不安な顔で看病を続けている。
趣味野郎のことなんて置いていけば良いのに。僕の風邪がうつったら大変なことになるのに。
思わず、口が滑った。
これは、こんな僕でも言ってはいけなかった。
「いいの、私ロボットだから。ヒトじゃないから」
僕に苦笑いを向けた。
それが初めて僕に見せた彼女なりの弱さだった。
衝撃が走った。そんなに人間らしいロボットは見たことがない。
だが、激情が一瞬にして余計な物を吹き飛ばした。
だからって、そんなこと、言うなよ
風邪で寒いはずの身体が芯から爆発を起こした。
何者だって関係ない。自分を大切できないやつはダメだ。
ホズは僕の怒りを見て終始戸惑っていたけど、散々キレた後、眠りにつく僕を見て、「ありがとう」と呟いた気がした。
風邪が治って僕はホズに、宣言した。
痛々しいかもしれないが、それはケジメをつける儀式だ。
「趣味なんかじゃなくて、僕は本気で世界を救うよ」と。