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暴走

 ――有り体に言ってしまえば、彼女たちはただ数に物を言わせるだけの烏合の集団だった。


 数は力、侮ってはいけないのは当然だが、それでもただ集まれば良いというものでもない。


 せっかく持ってきた数々の得物も、ただ力任せに振り回すだけ。仲間との連携も考慮に入れず、ちょっとこちらが素早く立ち回れば同士討ちの危険を恐れ、返って動きを鈍くさせている始末。


 そして私は、源平が覇を争った古より、政の要人を暗殺者たちの魔手より守護したもうた体術・伊勢流古武術の使い手。徒党を組んで弱きを踏みにじるだけが能の者たちに負ける要素は微塵もない。


「――フッ!」


 上段から木刀を袈裟斬りの形に振り下ろしてきた女生徒の脇に、その一撃をかわしつつ強く呼吸を吐き出して肘を打ち込む。


 私は慎重と蛮勇を使い分け、一人、また一人とその意識を刈り取っていく。


 気がつけば、2桁に届こうという数だった女生徒も、残り3人になっていた。


 ――すでに勝敗は決していた。これ以上は無益だ。


 だが。


「ちっくしょう……!」


「もうゼッテエ許せねえ……死んだぞコラァ!」


「後輩どもにマワさせてやんよ、このズベタがぁ!」


 聞くに耐えない頭の悪い発言と共に、怒りに血走った目で私を睨みつけてきている彼女たちには、降伏を呼びかけたところで無駄であろう。


 よろしい、そういうことであれば、私の方に手を緩める理由はない。


 それに何より、最後の女生徒の台詞。


 他の女子の貞操をも安易に踏みにじるその発言。


 公共を無視し、得物を持って町を練り歩き、あまつさえ駅のホームでケンカを始めるような輩であれば、それが今日たまたま思いついた、単なる虚仮威し――という訳ではない可能性が大きい。


 すなわち、敵対した同姓の人間を本当にそうしたことがあるという可能性。


 同じ、女子でありながら――!


「能書きは結構。まだやるつもりなら、さっさとおいでなさい」


 全身が、怒りの赤に塗り潰されていく。


「もっとも、人を殺す死なせるなどと宣うからには――」


 心から人の暖かみが抜け落ちていき、鬼や悪魔とでもいうべき水準に凍てついていく。


「――自身、命を捨てる覚悟でおいでなさい……!」


「ぅるせぇぇぇっ!」


「死ぬのはテメエだぁぁぁっ!」


「がああああああああっ」


 それぞれ、かけ声をあげて私めがけて突進してくる。


 スローモーションな走り。


 まったくなっていない得物の振り。


 ただただ、過剰な戦意ばかりで挑んでくる無謀さ。


 そんな、あまりに無様な彼女たちを見て。




 ――その程度で、この私に挑ンダノカ――




 私の理性が、怒りによって弾けて消えた。






 ――気がつけば。


 女生徒たちは各自、私にやられた場所を押さえつつある者はうつ伏せに、ある者は仰向けになって全員が駅のホーム上に倒れていた。


 だが。


 私の怒りハ収マラナイ――


 私は先ほど、私を後輩にどうにかさせるとか宣っていた女の元へと足を運ぶ。


「そこの貴女」


「う……ぐあぁ……」


 私が呼びかけたにも関わらず、わき腹を押さえ、その場にうずくまってうめき声をあげるだけの女生徒。


 私の、一切容赦を加えていない蹴りを受けたことで、悪態をつくことはおろか、ロクに返事をすることすらままならない状態になっているのだ。


 ――それにしても。本当にこの程度で……


「先ほど、なにやら面白いことを仰っておられたようですが」


「がぁっ!?」


 返事すらできない状態だ。まして、動いたりすることなどできる筈がない。


 ――だから。そんな相手に、蹴りをもう一度叩き込むことなど造作もないことだった。


「申し訳ありません。よく聞こえなかったので、もう一度仰っていただけますか?」


「あ! あがっ! あぐぁっ!」


 一発、二発、三発。


 かわすことはおろか、最小限のダメージにすべく蹴りを受ける場所を限定させることすらままならない。


 意気込んで襲いかかってきただけの、まるっきりの素人。


「『あが』だの『あぐ』だのではなかったでしょう? さあ、聞いて差し上げると言っているのです。ほら――もう一度!」


「だ、ダズ……け……て……!」


 四発、五発、六発っ。


 亀のように身を縮こまらせて、私の蹴りを黙って受けるしかない女生徒。


 あれだけ粋がって起きながら。最後には、助けを乞うというのか。せめて最後まで、無言で通せば良いものを――


 何という、無様。


「どうしたのですか? 私は、先ほど仰ったことをもう一度、お聞かせくださいとお願いしているのですよ?」


 七発、八発、九発!


 助けを乞うても無駄だと悟ったのか、もう女生徒は無言で私の蹴りを受け続けるだけだった。


 この程度で、私に。伊勢古武術拳士に、挑むとは――!

 私は、脚に最大限力を込めて、女の後頭部に狙いを澄ます。




 ――万死ニ、アタイスル――!




「静佳、ダメ!」


「!?」


 次の瞬間。私は後ろから飛びつかれ、怒りに靄がかかったかのような意識をすぐに覚醒させた。


 かなみが、後方から私に抱きついてきたのだ。


「いくらなんでもマズイよ、静佳!」


「……かなみ」


「こいつらに同情する訳じゃない。でも、こんな場所で大っぴらに傷害罪を犯しちゃダメ!」


「……そう、ですね」


 かなみのその一言で、私は灼熱した感情・理性を冷却することができた。


「ありがとう、かなみ。貴女が止めてくれなければ、私は……」


 ――一歩間違えば、人を殺してしまっていたかも知れない。


 その言葉を、最後まで口にすることはできなかった。


 言葉にしてしまうには、あまりにも恐ろしい事実。怒りに前後の見境を無くし、人の命を損ねてしまうなどと、身体を鍛え上げる武道家としてもっとも気をつけなければならないことだ。


 それだけの心胆がなければ、武道を習うことなど許されない。


 今の私は、武道家として明らかに失格だった。


「それはそれでOK? よし、逃げよう静佳!」


「……はい?」


「いつまでもここにいたら、私たちも警察に捕まっちゃうからね!」


 ……いや、ここまで暴れてしまっては逃げたとしても捕まってしまう。むしろ逃げることで不利になってしまうのではないだろうか。


「あの、かなみ? それは逆にマズイのでは……むしろ、ここはちゃんと警察に説明して、」


「いいから! どうせこの町の警察、まともに不良たちの事情聴取なんかしやしないわよっ! 今回、すぐに警察こなかったことで確信した!」


 ――なんか今、衝撃の事実を聞かされはしなかっただろうか。


 それに、女生徒たちと私が大立ち回りを始めてしばらく立つが、警察がやってくるのが異様に遅いのは確かである。事が完全に終わるまで、不介入でも決め込んでいるのだろうか。


 この町の公僕っていったい……


 そんな疑問を余所に、私は風丘駅のホームから出るべく、かなみに手を引かれて半強制的に走らされることとなった。




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