駅構内にてバイオレンス
風丘駅内にて。
私とかなみさんを取り囲む、私たちと同じ風丘学院の制服を着た女子高生たち。それは以前、私を取り囲んだ者たちの中でギリギリ、病院送りにならなかった者と、きっとその仲間たちなのであろう。
ここで彼女たちがたまたまたむろっていて、偶然帰りがけだった私を発見して取り囲んだ――ということでは、多分ないだろう。
そんな状況だったのなら、彼女たちはわざわざご丁寧に武器など持っていよう筈がない。
今、私とかなみさんを取り囲んだ女生徒たちは、手に手に木刀やチェーン、鉄パイプや角材といった特別な資格がなくても比較的手軽に入手できる武器を持っているのだ。
こんな公共施設の中、わざわざ料金を支払ってまで改札を通り、武器をもって私を取り囲むべく待っていたのかと思うと、頭が悪いにも程がある。
「てか、駅員はなにをしていたのよ!? こんな物騒な連中が駅に入っていくことを、黙って見てたっての!?」
かなみさんが、私の気持ちを代弁してくれた。もしや注意することで逆ギレされ、被害を被ることを恐れたのだろうか。それにしたって、自分たちで注意せずとも警察に通報して良い水準のことだと思うが……
「!」
突如。私はかなみさんから体当たりを食らった。
分かっている。かなみさんは、私を守るためにそうしてくれたのだ。
かなみさんが駅員の怠慢を怒鳴り、私が周囲の女生徒たちに不審な思いを抱いている時、私に向けて先に述べた武器のひとつを投げつけてきた者がいたのだ。
かなみさんは、それに気づき私を突き飛ばすように体当たりしてくれたのだ。
――もっとも、口には出せないことだが、内心だけで真実を述べてしまえば、それは余分な行為だった。
後方にいた女生徒の気配、投げつけてきた武器による風の流れなどで、私は十分単身で避けることができた。かなみさんにわざわざ身を挺してもらわずとも、どうにかできたのだ。だから、
「あ……つぅ……っ」
かなみさんが、女生徒の投げてきた鉄パイプを背中に受けたのは、純戦闘的にはまったく無駄なこと、と言えたかも知れない。
だが。
「大丈夫だった? 静佳……」
――それを“無駄なことだった”と言うような人間にはならないし、言うような人間とは友達にならない。
「かなみさん……」
「呼び捨てで、いいってば」
私の呼びかけに、弱々しく微笑むかなみさ……いや、かなみ。私を庇ってくれたがための痛みをもっとゆっくり労りたかったが、そんな暇は今はなかった。
投げた鉄パイプが私ではなくかなみに当たったと見るや、その投擲してきた女生徒がこちらに向けて走ってきていたからだ。
だが――襲い方が、まるでなっていない。ただ単純に標的に向けて駆け寄ってきて殴ろう、としか考えていない、本能だけの行動。
「フッ!」
実を低くして、気合いのかけ声とともに駆け寄ってきた女生徒の懐に飛び込む。腕での攻撃では位置が低いと考えたのだろう、相手は私の顔面に向けて、サッカーボールをそうするかのような体勢で蹴りを放ってきた。
だが、そんなものは想定の範囲内。
私はその蹴りを寸でのところまで引きつけてからさらに身を低くしてかわす。もう私の眼前に、地面がすれすれとなっていた。
相手はそれで体勢を整えるのに時間を要した。そのままでバランスを崩すということはないが、蹴りを放てばどうしても一瞬、体勢が崩れるのは当然だ。
そして、私にとって女生徒程度の相手を倒すには、その一瞬だけで事足りる。
蹴りを放った事で、私が一旦身を引くと思っていたのだろう。かわしたまま突進を止めなかった私を見て無理な姿勢ながらも受け止めようという体勢を取る女生徒の懐に飛び込むと、私はそのまましゃがんだ姿勢からバネを利かせて飛び起きるように腹部に肘鉄を打ち込んだ。
一切の容赦も加えていない一撃、それを受けた女生徒は軽く吹き飛び、うめき声を上げつつ地に伏した。
まず一人。
私はそれを見届けることもせず、かなみの側に駆け戻って肩を貸し、ホーム内での位置取りを変える。あのままでは、取り囲まれる危険があるからだ。
かなみもそれは分かっていたようで、鉄パイプが当たった痛みにふらつきながらも抵抗せず、私が移動するのに任せて動いてくれた。
そこを襲われていては少しやっかいだったが、幸い私が先に女生徒の一人を一撃で沈めていたのにとまどったのか、遠巻きに距離を縮めるだけで済ませていた。
そうして私は、駅の端、後ろは校外という位置にまで来た。
遠巻きに距離を詰めてきていた女生徒たちで、顔をサングラスやマスクで隠していない者の中には、ニヤついている者がいた。
そのまま押し切って、私たちを転落させてやろう――とでも考えているのだろう。
だが、そんな思惑通りになってやらねばならぬ義理は、こちらにはない。
鉄パイプや角材で殴りつけてくるなんて、もはや一学生のケンカでは済まされない。言うなればそれは、一歩間違えれば死んでしまうような殺し合いを、無自覚に挑んできていることに他ならない。
――そして。そんなことをしてくる輩にかけてやる情けは、私は持ち合わせていなかった。
「相応の覚悟あっての真似ですね? ――いや」
私は彼女たちの覚悟のほどを確かめようと問いかけようとして、やめた。
「覚悟があろうがなかろうが関係はない。相応の報いを、受けていただきます」
この不良たちは、問答無用でかなみさんを殴りつけた。それも鉄材のパイプで、加減などできない投擲によって、だ。
学歴への傷や退学やらなにやら、そんなものは関係ない。
もはや、一切の手加減はしない。それで結果、彼女たちが取り返しのつかない大怪我を負おうとも、それは自業自得というものだ。
私はかなみを後ろに回すと、伊勢流古武術の構えを取って女生徒たちと対峙した。
「後がねえぞ、転入生。あ?」
木刀の背で肩を叩きつつ、先日私を取り囲んだ女生徒の中で、確か見た顔の者がもう勝ったような鼻持ちならない口調で告げる。
「それがなにか?」
「この前はとんでもないことしてくれたよねえ……落ちなっ!」
持っていた木刀を、力任せに横薙してくる。その振り方ひとつで容易に知れる、この女は素人だ。
ならば、もはや一切恐れる必要はない。
当てるつもりはないのか、遠巻きから木刀を右に左に振り回し、ゆっくりと近づいてくる。そうして追いつめて、私を駅の構内から落とす腹づもりなのだろう。
だが、甘い。
私は安直に振り回される木刀の、スイングされて戻る直後に相手に踏み込む。
武芸家の移動は、特殊な歩法で瞬時に行われる。素人の振るう木刀程度のものなら、ただの一歩で攻撃圏外からその懐に飛び込める。
そして素早く腕を突き出し、相手の顎に掌の一撃を食らわせた。
「がっ!?」
私が踏み込んでくることを想定していなかった相手は、慌てて今度はしっかりと当てるように振ろうとしたところを止められた。
当てた箇所は顎、衝撃の突き抜け方は与えた角度を計算して脳を揺さぶるように。威力よりも素早さを優先したため、それで気絶することはないだろうが、別に構わない。
私は相手の顎を打ち抜いた手を引っ込めたりせず、そのまま相手の襟首を握りしめる。
そして――力任せに、引き寄せた。
「なあっ!?」
「そんなに、落ちるところが見たいなら」
そして、勢いを殺さずそのまま――後方に、振り抜く。
「自分が、落ちなさいっ!」
「――ぅわあぁぁぁぁぁっ!?」
女生徒は情けない声を上げつつ、構内から落下していった。
圧倒的に有利だった筈の味方が、一瞬にして逆に構内から投げ飛ばされる様を、周囲の女生徒たちはすぐに理解できなかったようだった。呆然と、自分とかなみを見守っている。
「かなみ」
「……あ、な、なに?」
放心していたのはかなみも同じだったようで、私が呼びかけてからすぐには返事がてきなかったようだった。しかしまあ、無理もないかも知れない。
「そこにある木刀を取って。なるべくフォローしますが、これからしばらくの間、自衛も心がけてください」
「わ、分かった」
「――さて」
かなみが我に返り、木刀を構えるのを見届けた後、私は未だ周囲で呆けている女生徒たちを見回す。
「あまり長引かせては、一般のお客様の迷惑になります。さっさと終わらせましょう」
冷静な私の一言に、女生徒たちは初めて恐れるような表情を顔に閃かせた――




