1
なんでこんな物を書こうだなんて思ったんだろう。あたしにもわからないよ。でもね、自分の頭を整理したいからかもしれないね。普段なんてこうやって日記なんて書いたことなかったのに……ね。明日は雨が降るかもしれないね。ふふふ。
さてと。前置きはこの位にしておこうか。あの子たちがあの塔から帰ってきて、心底安心したよ。もしかしたら帰ってこないんじゃないかってほんの少し思ってしまったけど……そんな考えを吹き飛ばすくらい、あの子たちは強くなった。最初に来た時よりも……ね。そんで、今あの子たちは困ってる人たちを助けるためにあっち行ったりこっち行ったりと大奮闘さ。まるで、昔のあたしを見ているみたいに。
昔っていったってそんな前の話じゃないさ。あたしがここ─冒険者ギルドにお世話になる前のことさ。あたしがなんで生き残ったのかも、今思い返してもわからないよ。まぁ大半はあの人がいてくれたからだとは思うけど、それでもあの中を生きてこれたのは奇跡に等しいね。こんな世間知らずな娘が生き残って他の人は……なんて世の中は不公平なんだって叫んじまった。
あたしは辺鄙な村に生まれて、父さんと母さんの三人暮らし。優しい父に厳しい母という少し珍しいと周りからよく言われていたっけな。近所のおじさんやおばさんもよく声をかけてくれたし、元気よく返事ができたらお菓子もくれたっけ。特に隣のおばちゃんが焼いてくれたビスケットが大好きで何度も返事していたな。もらえたときはそのビスケット大事に大事にかじって褒めてもらった余韻に浸っていたよ。お礼を言わなかったときの母さんはとても怖くて、半ば脅されるように返事をしていたときもあったけど、おばさんはにこにこしながらお菓子をくれて受け取ったときにはびくびくした顔はどこかにいっていたのを今でも覚えているよ。
そんな母さんに対して、父さんは物静かでいつも微笑んでいるような人だった。滅多なことでは褒めてくれない母さんに対して、どんなに些細なことでも褒めてくれる父さんが好きだった。そんな父さんに懐いているあたしが気に食わないのか、たまに母さんはこっちをぎろりと睨むときがある。あたしは怖くて父さんの背中に隠れてると、父さんは穏やかな声で怖い母さんをなだめていた。
とある日。あたしはいつもお菓子をくれるおばちゃんにお遣いを頼まれた。渡されたメモにはどれも知っているものばかりだったから難なくできると思い、あたしは引き受けた。おばちゃんから買い物に必要なお金を受け取り、あたしはうきうきした足取りで町へと向かった。町まではそんなに時間がかからない距離だけど、往復となればそれなりに時間はかかってしまうことはわかっていた。だから、遅くならないようになるべく急いで町へ向かった。遅くなったらきっと母さんは目くじらを立てて怒るだろうし……そもそもおばちゃんにお遣いを頼まれたことも言わずに出ているのだから……。ふと母さんが怒っている顔が頭をよぎったあたしの背中に悪寒が走った。
町に着いたあたしはすぐに目的の物が売っている場所を探した。わからなかいときはメモを見せてどこに売っているかを聞いて、なるべく寄り道をしないようしないよう考えながら行動をしてたね。なんせ怒られたくなかったからね。無事にメモに書かれた品物を全部購入することができたあたしはすぐに村へ戻ろうと駆け足したね。村を出たときはまだ陽は高かったのに、いつしか傾いていて薄い闇が辺りを覆っているのに加え、森の中を通らないといけないときたもんだ。怖いけど……あたしは意を決して森の中を走ったよ。
ここを抜ければ……ここを抜ければって何度も頭の中で言いながら森を抜けると、そこには怒った顔をした母さんが立ってた。もう何も言わなくてもわかるようなはっきりとした怒りを表した母さんの顔が……。
「あんた。こんな遅くまで何をしていたんだい」
あたしは怖くて声が出せなくてね。ただひたすら震えていたよ。がくがくする足でなんとか立って、何か言おう何か言おうと口を動かして、目で必死に訴えていたけど母さんはそれで通じる人じゃなかった。
「聞こえてるんだろ。なんでこんな時間までほっつき歩いていたか聞いてるんだよ」
森から村までは離れているのに、それでも聞こえる母さんの声に驚いた村の人が何事かと様子を見に来てくれた。その中におばちゃんの姿もあって、あたしはおばちゃんと目があると急に足の力が抜けてその場にすとんと落ちちゃった。おばちゃんはあたしを優しく抱きしめ「ごめんね。おばちゃんのせいで怖い思いしちゃったね」と言った。あたしは首を横に振っておばちゃんが悪いことを否定した。その様子を見て母さんは察したのか、今度はおばちゃんに敵意を向けた。
「あなたがうちの娘に何をさせたかわかってるのですか」
「……わかっています。ごめんなさい……」
「……もううちの娘には関わらないでください。ほら、行くわよ」
強烈な言葉を吐き捨てるように言った母さんは、最後までおばちゃんを睨みながらあたしの手を強引に引っ張った。腕が取れそうな衝撃にあたしの顔が少しだけ歪むと、それを見たおばちゃんはずっと頭を下げていた。




