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トラッシュボックス ~消えたいヒカリと消えないアイツ~  作者: たっきーぷらす
高1編

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79/79

Box.79 祈り

『Il y a une autre personne à côté de moi. Enchanté. : 私たちの他にもう一人いるの。よろしくね』

『Oui, Ange. : はい、天使様』

『Euh… Je suis désolée, mais je ne suis pas un ange. : えっと…申し訳ないけど、天使ではないのよ』


 私達はミラを連れて、ミューのいる場所へ戻った。顔を合わせる前にリブがミラにミューの聴覚のことは伝えた。言葉も分からない相手とどうするのかと思ってたら、ミューはミラの頭を撫でてあげて、優しく抱きしめてあげていた。そうか、非言語コミュニケーションはお手の物だよな。


 病院だった場所からほど近い草むらへ、1台の車が止まる。誰だ?私たちは草むらに身を隠した。ミューの能力を展開すれば、ミラが何か言っても音は向こうに一切聞こえない。そのまま様子を伺うと、車から降りてきた2人の中に、先日のリブ救出の際に見た欧州チームのメンバーの顔があった。

 なるほど。思ったより、相手も正確に予想してきている。タッチの差だった。こちらが相手を出し抜けたのは、本当に幸運だったのかも知れない。


 ミューにミラを預ける。私は左をやるから、リブは右を相手して。そうハンドサインを送ると、リブは髪を矢印にして応えてきた。…便利だな、それ。


「Go!」

 叫ぶ声は、Silenceの結界の中ではお互い聞こえない。だけど当然向こうにも聞こえない。見られさえしなければ、音もなく至近距離に近付ける。私達は一瞬で二人を卒倒させ、木の上に括り付けた。そうしておけば、野生の熊に襲われることもないだろう。



「さぁ行こうか。今度は4人いるね?」

<もし置いて行かれたら、泣きますよ?>

「いや、ごめんって。ホント悪かった!」


 ――4人で飛びながら考えていた。ミラは目をつぶってずっとリブに引っ付いている。この子はこれからが大変だ。ミラの存在が向こうにバレると厄介極まりない。今までも情報漏洩はあった。日本に戻ると誰かがリークするだろう。だからマイカ先生は今回実行部隊を学生だけにしたんだ。念のため、アメリカの協力も仰ぎながら、拠点は敵地の最前線に敷いた。情報を私たちの中だけで統制するためだ。



 モン・サン・ミッシェルに戻ると、残っていたメンバーからの歓声が上がったが、元気とヒカル君の姿はなかった。運の悪い2人だけで、何をしているのだろう。

 

『元気さん達は、姉ちゃんとお墓を作りに行きましたよ』と、峠弟の士葉が伝えてきた。

「墓?」

 誰の?と言いかけて気付いた。燐先生の、だな。和葉には、私がいない間は学生を仕切っておいてもらいたかったが…まぁ彼女なりの気持ちの整理は必要だろう。私の方もミラだけ急いで助けてしまったから、あの子の家族も病院ごと埋もれてしまっている。落ち着いたら何とかしてやろう。


 戻って来た元気とヒカル君は、何故か血と汚物にまみれていた。思わず絶句してしまったが、海岸にあった、巨大に膨れ上がった物体を触ったら破裂したらしい。


挿絵(By みてみん)


『それ、きっとクジラの死骸よ』と、梓。

『そこまで汚れたのなら、クジラの腸の中を徹底的に探してきてくれたら良かったのに。お宝があったかも』

「お宝…龍涎香(りゅうえんこう)というやつか?」

 確かクジラの内臓で作られるお香だったかな。

『そんなの今日の運勢だと見付からないですよ。リブ、今日ラッキーなんだから、行ってきたら?』

『…絶対ヤダ』

『大物だと何億円ってするらしいわよ?』

 何人か声をあげたが、残念ながら鯨の腸を洗える能力の者はいなさそうだ。私ならできるかもしれないが、恩寵でそんなことをしたら罰が当たるな。


「…取り敢えず、二人とも近くの海で泳いで、体を洗って来な」

『司、フランスって3月に海水浴できるの?』

「あぁ、出来るんじゃないか?」…気合を入れれば。

 可哀想に、2人は寒い寒い3月のフランスの海で、悲鳴を上げながら泳ぐ羽目になった。その後、誰かが龍涎香を探したのかどうか、果たして見つかったのかどうか、私は知らない。


 

 岸壁から眼下の海で泳いでいる2人を見ている和葉に声をかけた。2人とは一緒にいたはずだが、不思議と汚れはしなかったらしい。

「なぁ和葉、気持ちの整理は…ついたか?」

『司さん…うん。ダメなのは分かってるんですけどね』

 和葉は燐先生を気にかけていた。そう思う。元々誰とも仲良くできるやつだから、という以上に別の感情があったようにも思う。だからこそ、先生が亡くなった後で動揺はしただろうし、何か折り合いを付けたかったことだろう。

『どうにかしてあげたかったんです。あの人の闇みたいなところを、少しでも掬ってあげたかった』

『私じゃ、ダメだったんですよ』

「そんなことはないよ。少し時間が足りなかっただけだ」

 声を殺して泣く和葉の背をそっと撫でてやる。恩寵などではなく、ただ願う。どうか彼女自身が悲しみを乗り越え、また笑顔になりますように。


 展望台の向こうで、マイカ先生が珍しくタバコを吸っている。先生の表情は見えなかったけど、くゆる煙が空に昇っていく何かに見えて、ここは禁煙ですよ、と言うのは止めた。


 西の空に夕日が沈んでいこうとしている。今日もまた多くの人が亡くなっただろう。主よ、願わくば彼らの旅路が安らかでありますよう。


「さぁ、そろそろ二人とも海から上がってきな!」

次回は金曜更新です。


11/4 誤字修正しました。

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