Box.27 Singularity
放課後、平日17時から1時間がタローさんとの特訓の時間だ。1時間で終わるのは、1時間以上耐えれたことがないからだ。1年前の初日は三分で終わった。
『で、ヒカル、正気なのか?私に2時間空けておけ、というのは?』
「はい。正気です。少しは強くなったと思うんですよ?」
『否定はせんが…まだまだ気の所為だ』
特訓の内容は、体力の続く限りの単純な殴り合いだ。理由はよくわからないけど、タローさんは普通に僕を殴れるので、特訓は殴り合いになってしまう。そうなるのは、多分タローさんの能力に関係があるけど、能力は教えてくれていない。
僕の体に衝撃を与えられるのは、タローさんを除けばルカぐらいだ。だけどルカのゼロ距離からの衝撃とは違う。純粋に殴ってくる。なぜかバリアが効いていない、っていうのが感覚に近い。なので基本的にボコボコにされている。この1年、何千回と地面に転がされてきた。
本日三回目の地面転がしの後に言われた。
『お前がSingularityになりたいと言ってきて、1年余り』
『大分サマになっては来たが、これでは総合的にリブに大きく劣る』
…この煽りが特に効くのをよくご存知だ。
「劣ってられないんですよ!」
『…そこでおまえがより一層訓練に励めるように、一案を講じる。特別サービスだ』『私に一発入れれたら、一個質問に答えてやろう』
「タローさん当たっても効かないじゃないですか?」
そう。向こうの攻撃は通って、こっちの攻撃は通らない。…ルカの上位互換か?って言ったらあいつ怒りそうだなぁ。でもそうとしか思えない。アイツは超絶反射で消える前に避けているだけだから、押し付けてしまえば効くはずなんだ。体に大穴開きそうだから、やらないけど。
バリアを拳に纏って巨大化する。こうすれば向こうは防御も攻撃もより早く対応し始めないといけない。
「おぉりゃぁぁ!」
『…攻略としては、まずまず正解だな』
って言っておきながら、右ストレートを内側から横にいなされ、カウンターが腹に入る。「!!?」
「げぇっほ、げほげほ!ハァーっ、ハァーつ」
なんでバリア発動した腕ごといなされるんだ?息が詰まって、膝をつく。…四回目。
『ヒカル、まだ15分だよ』『バトンタッチする?』
リブが上からのぞき込んできた。情けないなぁ。
「…ちょっと、お願いします」
『はーい了解』
『ってことでタロー、行くよ』
『…来い』
リブの課題は主に燃費と、持続性だ。広域に手数を増やすのは有効なんだけど、エネルギー消費が大きい。そこでリブなりに考えたのが、パーツを切り離すことだった。10数本の持ち手のない自家製ナイフを作り、自分の体から切り離す。それらを自身の体から形成した剣と合わせて全方位攻撃を行う。要は昔のアニメでロボットの周りでヒュンヒュン飛んでたようなやつだ。取り扱う質量を減らせばエネルギー消費も少なくなるらしい。
タローさんは俯瞰で状況を見ているかのように、この攻撃を避け続ける。正直、この攻撃を何分もしのげる奴なんていないだろう…なんて思うのが間違っている。目の前にそれをしている人がいるのだから。
タローさんは手加減しているからそうなっていないだけで、その気になれば僕を殴り殺せるだろう。でもリブの場合、多少殴ったところで、自己再生能力でたちどころに治ってしまうから、リブの体力が続く限り、タローさんは勝てない。ただ逆に、タローさんが体力でごり押しできるから、結局リブは勝てない。つくづく能力は相性だし、体力は重要だ。
僕の能力でリブに勝てるのか、とか考えながらふと思った。…今のリブも『死にたい』とか、『殺してほしい』とか考えているのかな。あの子が言っていた恐怖は大別すると、自身の『忘却』と『不死』だった。でも記憶を失ってしまうことについては、梓たちの協力もあって、ある程度解決に目星がついたんじゃないかと思う。元々死にたい、なんて言うのはまともな精神じゃない。「君を守りたい」には「君の<心を>守りたい」も含まれる。…僕のようにはならないでほしい。
タローさんがバックステップで避けた先、あ、そっちは悪手だ。逃げ場がない。逃さずリブの全方位攻撃が炸裂する。濛々とした戦塵が晴れ、現れたタローさんの左腕にわずかに切り傷。…やっぱりこの人ヤバい、ダメージ最小になる場所に動いたな?
『ここまでやって…傷一つ』
リブが悔しそうに言う。
にっと笑うタローさん。笑うんだこの人。
『だが一撃は一撃だ』『質問していいぞ』
こっちを向いて言う。
「えっと、僕?」
『リブはそっちの方がやる気が出るようだからな』
『リブ、悪くなかったぞ』
『うん、まぁ、ね』
僕の聞きたいこと…僕のポイントってわけではないし、何かリブも関係することがいいよな。
「…僕はSingularityの何番になるんですか?」
『…フ、気が早い、が、まぁ約束だ。答えようか』
『今の空き番だと、お前はNo.9になる』
『リブはNo.7の先約になっている』
『ついでに言うと、メンバーが亡くなっても欠番になるだけで、繰上りはない』
『つまりこの数十年で<7人しかいない>それがSingularityのハードルだ』
「7?一人多くないですか?」
『No.00がいた。亡くなったが、な』
『私はNo.1だが、決してメンバーの中で強い方ではない。亡くなったNo.00の方が、よほど強かった』
タローさんはそこまで言うとゆっくり構える。空気が張り詰めるのを感じる。
『…さぁ、二人ともここまで来たまえ』
前に突き出した手で手招きをされる。
「……はい」とは言え、一人ではどうしようもないのも事実。
『ヒカル、一緒にやるよ』『ちょっとムカついた』
「…いいね」
『半人前、二人か。いや一人は4分の一人前だな』
『いいぞ。来い』
『ヒカル、バリアは張りっぱなしね。少しぐらい私を削ってもいいから』
『私もヒカルを気にしない』
『隙をみて突っ込んで』
珍しく、有無を言わせない声だった。
言うやいなや、全速で突っ込むリブ。さっきと同じ光景だ。あの斬撃の雨の中に突っ込むのか…。本能が恐怖を訴えてくるけど、抑え込むしかない。僕も追いかけるように突っ込んでいく。
僕の手数はリブの半分もない。少しでも相手の動きを削ぐことに集中!リブの一撃を入れる隙を作るんだ。
タローさんも分かってる。2人の動きに対処しながらも、こっちのタイミングのズレを狙ってきている。
5分、10分、殴り合い、捌き合いが続く。まずい。そろそろリブが限界になる、
『良いぞ、良いぞ。楽しくなってくるなぁ!』
こっちは楽しくない!なんなんだこの人は!
最後の瞬間は間もなくきた。
タローさんの右の打ち下ろしが来る、辛うじて左手でガード出来たが防ぎきれない。血しぶきが飛び体勢が崩れる。けど右側がガラ空きになった。その隙を突いて斬り込むリブ!その時一瞬消えたように見えたタローさんの捻った体から、強烈な蹴りがとんできてリブを吹っ飛ばす。すかさず追撃の構えをとる。
「まずい、各個撃破される!」そうはさせない。時間を稼ぐ!
「―Trash Box―」両手を束ね、巨大なバリアの壁を作る。この壁の突破はいくらなんでも一瞬では無理だ!
その時、視線の隅に跳んでくる白い塊を見る。リブが突っ込んで来てる!バリアが見えてないのか?
『ヒカル!合わせて!!』…分かった。
リブがバリアに突っ込む刹那、僕はバリアを解除する。空いた所へリブの斬撃が叩き込まれる。
『やるな』後ろに下がったタローさんの手が血まみれになっている。
『ふむ。悪いが今日はここまでだな。…明日からは素手で相手をするのはやめよう』
『…二人ともよくやった。今日は私の負けでいいぞ』
「はぁ。やった」僕は地面にへたり込んだ。
『うへ〜顔に血がついてる。これどっちの血?』顔に返り血がついている。
「バリアの後ろ側で付いたんなら、僕のじゃない?」鼻血も出てるし、擦り傷だらけだ。
『それならいいけど。おじさんの血はなんかヤダ』
って言いながら、手に付いた拭った血を舐めている。
「リブ…汚いよ、それ」
『あ、つい舐めちゃった…これヒカルの血か』
昔、よく食堂で手についたソースだがルーだかを子猫みたいに舐めてたな、と思い出した。
ふふ、ははは。どちらともなく2人で笑った。 「ありがとう、リブ」
『こちらこそ。タイミングばっちりだったよ』
『…二人とも傷はよく洗っておけ』
『さて、約束の2発目だ。何か聞きたいことはあるか?』
字数の関係で更新前倒ししました。二人の服装なんかゴテゴテしてますが、特に指示をしないとこうなりました。




