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神様機構―悠久なる歯車―  作者: 太郎ぽん太
第 4 部 風鈴 編
201/215

第四十四話:護る形





 一世は、城の内側をひと通り見終えたあと、まっすぐに俺の方を見た。


 呼ばれたわけではない。


 ただ、視線が合った。


 それだけで、十分だった。


 俺は、人の流れを邪魔しない位置まで歩いてから立ち止まる。


 近づきすぎない。


 離れすぎない。


 それが、この場所における俺たちの適切な距離だった。


 一世は、先に口を開いた。


「護衛であれば、護れ」


 声は低く、どこまでも淡々としている。


 責める調子でも、試す調子でもなかった。


 事実としての、確認だ。


 俺は、すぐには答えなかった。


 少しだけ、炊事場の方へ視線を向ける。


 鍋が一つ空き、次の鍋が澱みなく前に出る。


 鉢が戻り、また別の、温もりを求める手に渡る。


 その流れは、一度も止まらない。


「護ってる」


 それだけを、短く返した。


 一世は、表情を変えなかった。


「誰をだ」


 俺は、少しだけ考えてから、わずかに首を振る。


「誰か一人、じゃない」


 俺は言い直すように、視界にあるすべてを指した。


「ここの全部だよ」


 一世の視線が、ゆっくりと城の内側をなぞる。


 歩きやすく整えられた通路。


 絶えることのない火床。


 種類ごとに整理された集積所。


 そして、淡々と生きている人々の背中。


 俺は続けた。


「立てる場所を、 先に作っただけだよ」


 弁明も、言い訳もしない。


「鈴を守ったわけでもない」


 一世が、ほんのわずかに目を細める。


「鈴は」


「立てるよ」


 遮るように、短く答えた。


「立てる地面さえあれば、あいつは一人で立てるから」


 一世は、何も言わずに、その言葉を静かに受け取った。


 しばらくの間、二人とも黙る。


 背後を、子どもが笑いながら走り抜ける。


 誰かが重い荷を抱えて通り過ぎる。


 鉢と鉢が、軽く触れ合う乾いた音がする。


 それだけの、短い時間だった。


 一世が、重い口を開く。


「斬らなくて、いいのか」


 俺は、すぐに頷かなかった。


 炊事場の火を見る。


 強くはない。


 だが、消える気配もない火だ。


「斬る場面は、まだこの先にあるかもしれない」


 嘘を吐かずに、正直に言った。


「でも、今日じゃない」


 一世は、それ以上は問い返さなかった。


 代わりに、自分の足元の土に視線を落とす。


 大勢の人間によって踏み固められた、頑丈な地面。


 誰かの新しい足跡の上に、また別の、生きるための足跡が重なっている。


「護衛だ」


 一世が言う。


 それは、冷酷な命令ではなかった。


 この場における、役割の再定義だった。


 俺は、小さく息を吐く。


「護るよ」


 もう一度、繰り返す。


 けれど、その言葉の響きの中に、もう剣の影は浮かばなかった。


 一世は、ゆっくりと顔を上げる。


 城を見る目は、昨日までと同じ冷徹さを湛えている。


 だが、その瞳が見ているものは、もう昨日までとは違っていた。


 それで、十分だった。

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